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9. 設定を考える
しおりを挟む目覚ましの鳴る音が聞こえる。
客人がいるためいつもより早めの時間にセットしていたのだが、朝の弱いゆかりも今日はすっきりと目覚めることができた。
寝る直前に聞いたランバートの言葉が効いたのか、慣れない心配ばかりしていたため疲れていたためかは分からないが、横になった瞬間ぐっすりだった。
一度ベッドの上で伸びをしてから行動を開始する。
部屋を出てリビングを見てみてもランバートの姿はなかった。もしかしたらまだ寝ているのかもしれない。起こさないように静かに洗面所に向かう。
ランバートが出てきたのは、朝食を作り終えてからだった。
慌てたように勢いよくドアを開けたランバート。
その勢いに呆気にとられるゆかりを見て、何故かランバートまでもきょとんとした表情を浮かべた。間抜け面で見つめ合うこと数秒、気が付けばどちらからともなく噴き出していた。
「ふふっ、おはよ。ご飯出来たから顔洗ったら食べよう」
「ああ」
目玉焼きにご飯、コンソメスープといった軽い朝食をテーブルの上に並べていると、ランバートが顔を顰めて戻って来た。それを見てゆかりは含み笑いを浮かべる。
「……やはりあの歯磨き粉とやらは辛くてしょうがない」
「すっきりするでしょ」
「まあそうだが……まだ舌がびりびりする」
ランバートのいた世界には歯磨き粉というものがなかったらしく、その辛さにすっかり苦手意識を抱いてしまっていた。
昨夜初めて使ったときなんて大騒動だったのだ。たった一日でこれだけの不満で済んだのだから大した進歩である。
ランバートが起きてきたため、煩くないようにと配慮していたテレビを付けてテーブルを囲む。
一週間分の天気予報が終わり、ふと視線を上げるとどことなく落ち着かない様子のランバートと目が合った。
この侵入者は意外と遠慮がちなきらいがある。昨日からの態度でそう見立てたゆかり。時間のない朝にうだうだと考えるのも好まず、先手必勝とばかりに問いかけた。
「なに? もう少ししたら下に下りなきゃだから、聞きたいことあるなら早く言って」
少しきつくなってしまった言い方を誤魔化すために、少しだけ首を傾げてみせる。
それが幸をそうしたのか、ランバートは気にする風もなくゆかりの言葉に頷くと、真剣な面持ちで口を開いた。
「昨夜考えてみたのだが、迎えを待つ間、俺にゆかりの仕事を手伝わせてはくれないだろうか」
「うん? うちでバイトすんの? 別にいいけど、特にすることないよ? いつもヒマだし」
「護衛でも雑用でも俺に出来ることは任せてくれ! タダで寝食を提供してもらうのは心苦しくてな……」
「護衛って……特に危険なことはないと思うけど…………まあいいや」
一日にほんの数名来店するだけの寂れた喫茶店に護衛を雇うだけの危険があるとは思えないが、今回のこともある。いつなん時思いがけないことが起こるか分からないということを学習したゆかりは、その申し出に了承することにした。
となると、気になるのは彼のこの世界における認識のズレ。
魔物なんて蔓延っていないし、魔法だって誰も使えない。出身地だって地球に存在しないのだから、そこのところの擦り合わせをきちんと話し合わなければならない。
ランバートの出身はヨーロッパにある小国で、遠い親戚に当たるゆかりの元に日本の勉強のために訪れた。
魔法や魔物は存在しない。分からないことがあったらすぐゆかりに聞くこと。
朝食をとりながら考えたかなりざっくりとした設定だが、ここは田舎町。
外国人を見たところでどこの出身かだなんて分かる人もいないし、顔馴染みのゆかりが説明することをわざわざ疑う者もいないだろう。
(ランバート自体、ここで迎えをただ待つだけっていうのも暇だろうし……)
と考えたところで、大事なことに気付く。
「ていうか下にいたら迎えが来たとき分からないんじゃないの?」
「いや、同じ建物の中の様子くらいなら分かる」
「へぇー、凄いね。じゃあ九時――あの時計の針がこの形になったら出るから準備してて」
ゆかりが親指と人差し指でLの形を作って見せる。
ランバートから見るとそれは三時を示す形だったが、ランバートにも時計の見方は分かったらしく追及せずに頷いていた。
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