家に異世界人が現れた

鈴花

文字の大きさ
9 / 25

9. 設定を考える

しおりを挟む

 目覚ましの鳴る音が聞こえる。
 客人がいるためいつもより早めの時間にセットしていたのだが、朝の弱いゆかりも今日はすっきりと目覚めることができた。
 寝る直前に聞いたランバートの言葉が効いたのか、慣れない心配ばかりしていたため疲れていたためかは分からないが、横になった瞬間ぐっすりだった。
 一度ベッドの上で伸びをしてから行動を開始する。
 部屋を出てリビングを見てみてもランバートの姿はなかった。もしかしたらまだ寝ているのかもしれない。起こさないように静かに洗面所に向かう。
 ランバートが出てきたのは、朝食を作り終えてからだった。
 慌てたように勢いよくドアを開けたランバート。
 その勢いに呆気にとられるゆかりを見て、何故かランバートまでもきょとんとした表情を浮かべた。間抜け面で見つめ合うこと数秒、気が付けばどちらからともなく噴き出していた。

「ふふっ、おはよ。ご飯出来たから顔洗ったら食べよう」
「ああ」

 目玉焼きにご飯、コンソメスープといった軽い朝食をテーブルの上に並べていると、ランバートが顔を顰めて戻って来た。それを見てゆかりは含み笑いを浮かべる。

「……やはりあの歯磨き粉とやらは辛くてしょうがない」
「すっきりするでしょ」
「まあそうだが……まだ舌がびりびりする」

 ランバートのいた世界には歯磨き粉というものがなかったらしく、その辛さにすっかり苦手意識を抱いてしまっていた。
 昨夜初めて使ったときなんて大騒動だったのだ。たった一日でこれだけの不満で済んだのだから大した進歩である。
 ランバートが起きてきたため、煩くないようにと配慮していたテレビを付けてテーブルを囲む。
 一週間分の天気予報が終わり、ふと視線を上げるとどことなく落ち着かない様子のランバートと目が合った。
 この侵入者は意外と遠慮がちなきらいがある。昨日からの態度でそう見立てたゆかり。時間のない朝にうだうだと考えるのも好まず、先手必勝とばかりに問いかけた。

「なに? もう少ししたら下に下りなきゃだから、聞きたいことあるなら早く言って」

 少しきつくなってしまった言い方を誤魔化すために、少しだけ首を傾げてみせる。
 それが幸をそうしたのか、ランバートは気にする風もなくゆかりの言葉に頷くと、真剣な面持ちで口を開いた。

「昨夜考えてみたのだが、迎えを待つ間、俺にゆかりの仕事を手伝わせてはくれないだろうか」
「うん? うちでバイトすんの? 別にいいけど、特にすることないよ? いつもヒマだし」
「護衛でも雑用でも俺に出来ることは任せてくれ! タダで寝食を提供してもらうのは心苦しくてな……」
「護衛って……特に危険なことはないと思うけど…………まあいいや」

 一日にほんの数名来店するだけの寂れた喫茶店に護衛を雇うだけの危険があるとは思えないが、今回のこともある。いつなん時思いがけないことが起こるか分からないということを学習したゆかりは、その申し出に了承することにした。
 となると、気になるのは彼のこの世界における認識のズレ。
 魔物なんて蔓延っていないし、魔法だって誰も使えない。出身地だって地球に存在しないのだから、そこのところの擦り合わせをきちんと話し合わなければならない。

 ランバートの出身はヨーロッパにある小国で、遠い親戚に当たるゆかりの元に日本の勉強のために訪れた。
 魔法や魔物は存在しない。分からないことがあったらすぐゆかりに聞くこと。
 朝食をとりながら考えたかなりざっくりとした設定だが、ここは田舎町。
 外国人を見たところでどこの出身かだなんて分かる人もいないし、顔馴染みのゆかりが説明することをわざわざ疑う者もいないだろう。

(ランバート自体、ここで迎えをただ待つだけっていうのも暇だろうし……)

 と考えたところで、大事なことに気付く。
 
「ていうか下にいたら迎えが来たとき分からないんじゃないの?」
「いや、同じ建物の中の様子くらいなら分かる」
「へぇー、凄いね。じゃあ九時――あの時計の針がこの形になったら出るから準備してて」

 ゆかりが親指と人差し指でLの形を作って見せる。
 ランバートから見るとそれは三時を示す形だったが、ランバートにも時計の見方は分かったらしく追及せずに頷いていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫が勇者に選ばれました

プラネットプラント
恋愛
勇者に選ばれた夫は「必ず帰って来る」と言って、戻ってこない。風の噂では、王女様と結婚するらしい。そして、私は殺される。 ※なろうでも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...