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17. 海水浴
しおりを挟む週に一度の店休日、ゆかりはランバートを連れて朝からショッピングセンターを訪れていた。
ランバートが元の世界に交信して二日。
折り返しの連絡が来ないことにやきもきしていたこともあるが、修司が泳ぎに行こうとしつこく誘ってきたため、三人だけでならという理由で了承したのだ。
季節物として特設された水着売場の狭い通路を歩きながら、ランバート用の水着を選んでいく。
「これなんかは? どう?」
「先程のよりは布面積がマシではあるが、こう、もっと普通の着衣みたいなものはないのか?」
「ないんじゃない? ランバートのサイズはここにある分だから……あとは好みだね。色はどうする?」
膝下丈の水着を指してランバートに問いかける。
ここに来るまでに通ったピッチピチの競泳水着のコーナーで引き攣ってしまっていたランバートの顔は、それを見て幾分か和らいだようだが、まだ少し不満げだ。
ランバートの言う通り足首まですっぽり覆うものもあるにはあるが、それはダイビング用。
海水浴を楽しむには向いてなさそうだ。
「これは? カーキ。それか妥当に黒なんかでもいいと思うけど」
「む……では黒にしよう」
ランバートがダイビング用のウェットスーツを見付ける前に急いで会計を済ませると、二人は一度ゆかりの家へ戻って来た。
昼過ぎに修司が迎えに来る手筈なのだ。
軽めの昼食を食べて荷物を纏めていると、ゆかりのスマホが震えた。
「もうすぐ着くって。外出ようか」
「ああ。了解した」
タオルや着替えの入った鞄を手にし、玄関へと向かう。
「水着の着方は教えたっけ?」
「いや」
「男女で分かれた小屋があるから、そこで全部脱いでこれだけ着る。こんだけ」
靴箱からビーチサンダルを取り出しながら言われた簡潔な言葉に、ランバートは思い切り目を見開いた。
「なぁっ!? 全部って……下着もなのか!?」
「うん。まぁ、詳しくは修司に聞けばいいと思うけど……魔法とか」
「――魔法とか異世界だとか言わない。大丈夫だ」
ランバートは下着をつけないということにまだ動転していたが、ゆかりが言わんとしていることに気付くと真剣な顔で頷いた。
ゆかりは「本当に大丈夫かなぁ」と心配そうな表情を浮かべたが、ポケットの中のスマホが再び震えたことに気付き、急いで家を出ることにした。
◇◇◇
修司と合流し海水浴場に来た三人は、着替えのために一度別れ、すぐ近くのベンチで待ち合わせすることにした。
(……遅いなあ)
水着の上から服を着て来ていたゆかりが一番早く来ることになったのだが、ランバートが手間取っているのかなかなか来る気配がない。
仕方ないため、一人で待つ間ベンチに座り日焼け止めを塗っていたのだが、誰かがベンチに近寄って来る足音に顔を上げた。
そこにいたのは二人の見知らぬ男。
にやにやと口元を緩ませ、ゆかりを舐めるように見つめていた。
(ああもう。面倒くさい)
「なに?」
「おねーさん一人? あっちで一緒に泳ごうぜー? 人が少ない場所知っててさー」
「人待ってるに決まってんじゃん。他当たって」
ゆかりが眉を顰めて「迷惑だ」と言葉だけでなく全身でアピールするが、男たちは引かない。
「日焼け止め、俺が塗ってあげよーか? 背中とか手届かないっしょ?」
「いらん。帰れ」
「つれないなぁ。でもそんなおねーさんが好ーきっ」
「へ、へえ……」
灼熱の陽射しが降り注いでいるというのに、男たちの言葉にドン引きしたゆかりの腕には鳥肌が立っていた。
ぶるりと体を震わせていると、男の向こう側に驚愕に目を見張るランバートの姿が見えた。
「ゆかりっ!」
「あー……大丈夫、大丈夫。落ち着いて」
慌てて駆け寄って来るランバートの目は、男たちを射殺さんばかりに鋭く尖っていて、ゆかりは逆に彼らのフォローに回ることとなった。
「あれ? 慎一? 何してんの、ここで」
「修司先輩!」
ランバートの後ろから何事かとやって来た修司は、遠目から何があったかを悟ったようだったが、その中に自分の後輩の姿を見付け思わず声をかけた。
ランバートの威圧に怯えていた彼らも修司の登場に肩の力を抜いた。
「す、すみません。先輩のお知り合いだったんですね」
「んー? お前ら顔知らなかったっけ? ゆかりだよ、コイツ。立花ゆかり」
「え、ええっ!? あの!? す、すみませんでした! 俺たちはこれでっ!!」
勢い良く頭を下げると、一目散に離れて行った二人。
その勢いにゆかりも怒っていたはずのランバートまでも目が点になっている。
「あのってなによ……」
そんなゆかりの呆然とした声が、波の音に消えていった。
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