家に異世界人が現れた

鈴花

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18. 海水浴(2)

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 走っていく男たちの後ろ姿を呆然と見送ったあと、改めてゆかりを見たランバートは驚愕した。

「は、裸!?」
「失礼な。ちゃんと水着着てるし」

 一瞬呆けたように見つめたかと思うと、すぐに周りから隠すように前へ出る。
 今ゆかりが着ているのは黒色のビキニ。
 フリルなどの装飾は一切ないそれはとてもシンプルで、だからこそ彼女の魅力を余すことなく伝えていた。
 急に挙動不審になったランバートにゆかりは眉を顰めるが、前に足を出していたときに言われたことを思い出してその理由に思い至った。

「ほら、あっち見て。これが普通なの。皆同じ格好してるでしょ? いい加減暑いし、そろそろ泳ぎに行くよ」
「むぁっ!? こ、これは……なんという…………っ」
「お、おいランバート、大丈夫か……?」

 波打ち際でキャッキャと楽しんでいる女の子たちを目にしたランバートが手で顔を押さえて蹲った。
 あまりの狼狽ぶりに心配になったのか、修司は顔を引き攣らせながらも彼の肩に手を添える。

「ランバートは海で泳いだことないんだって。色々教えてあげて」

 ゆかりや修司、この街で暮らして来た者にとって海で泳ぐことなど何てことなどないが、初心者のランバートは分からないことだらけだろう。
 ちゃっかり修司にランバートの世話を押し付けると、ゆかりは彼が用意した浮き輪を手に水中へと繰り出して行った。


   ◇◇◇


 個人行動に走ったゆかりに置いて行かれた男たち。
 男だけになった集まりに修司は微妙な表情を浮かべながらも、ランバートが落ち着くのを待って波打ち際へとやって来た。
 少し先には浮き輪に乗って上手いこと寛いでいるゆかりの姿が確認出来るが、躊躇なく腰辺りまで浸かる修司を参考に恐る恐る足を進めるランバートが近寄るのはまだ難しいだろう。

「……なあ、ランバートってさー」
「む?」
「ホントは何のためにアイツんとこいんの?」

 ランバートが押し寄せる波に悪戦苦闘していると、不意に真剣な色を含んだ声が耳に届いた。
 ハッとして顔を上げたランバートが見たのは、離れた場所にいる彼女を慈しむように見つめる修司の横顔。
 
「……日本について、勉強するためだ」
「ああ、何かそんなん言ってたなぁ。でも親戚ってのは嘘だろー? そしたら別にゆかりの所で暮らさなくてよくない? って思うわけよ、俺は」
「…………」
「二人が何隠してんのか知んねーけど、アイツを危ないことに巻き込まないでくれよ」

 普段のふざけた態度ではなく、心から彼女を心配しているであろう真剣な表情で見つめられたランバートは思わず言葉に詰まった。
 ランバートが第二皇子であるレオナルドに目を付けられている以上、匿っている彼女も安全だとは言えないならだ。
 ――もしもランバートを完全に亡き者とするため、刺客を送って来たならば。
 そんな不安が彼になかったかと言えば嘘になる。
 ランバートとしても、もし恩人であるゆかりが危険な目に合うのなら体を張って助ける覚悟ではあるが、何事も完璧などありえない。どんな手をあちらが使ってくるのか、予測出来たとしても可能性は未知数なのだ。
 ランバートがぐっと唇を噛み締め、不甲斐なさを耐えているとパチャパチャと気の抜ける音をさせて浮き輪に乗ったゆかりが近寄って来た。

「なにしてんのー? 泳ぐのきついなら浮き輪使う?」
「いや……大丈夫だ」
「無理すんなよ。折角だから使ったらいーじゃん。俺もちょっと泳いで来っか」

 先程まで醸し出していた警戒感など微塵も感じられなくなった修司が豪快なクロールで離れていくのを、ランバートは唖然とした表情で見送る。
 
「はい、乗って乗って。あたしが押してってあげる」

 急かされ、ゆかりのように浮き輪に乗ろうとするが、筋肉で重たいランバートの体を浮き輪が支えられる訳もなく沈んでしまった。
 仕方なく浮き輪に掴まった状態で進んで行ったのだが、足がつかない恐怖からかかなり肩に力が入ってしまっている。

「力抜いて。らくーにしてたら勝手に浮くから」
「そ、そうは言ってもだな」
「海水が目に入ったら痛いから、そこだけ注意ね」

 軽くバタ足しながら浮き輪を押していく。
 視界の隅で動く白く細い足に、ランバートは極力見ないように視線を逸らしながら波に身を任せることにした。

「ねえ、修司に何か言われた?」
「なっ!?」

 しばらく波に揺られ、頭上に広がる青空を眺める余裕さえ出てきたランバートの体にまたも緊張が走る。
 まさか聞かれていたのだろうかと、強ばるランバートの様子に、ゆかりはハッとした顔になった。

「いやなんかすっごい真剣な顔して話してたからさ。……まさか魔法とか――」
「言ってない」
「そう? ならいっか」

 それ以外について話したのなら干渉すまいと、早々に納得したゆかりは遠くで二人の様子を見つめる修司に気付いていなかった。

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