縛り勇者の異世界無双 ~腕一本縛りからはじまる異世界攻略~

延野 正行

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第1章

第5.5話 ハンバーガーとスライム③

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 俺の最初のクエストは、10体のスライム討伐だった。
 魔物の中で、スライムが1番弱いらしい。
 見た目はぶよぶよしていて、気持ち悪いが、核さえ潰せることが出来れば、子どもでも倒せるそうだ。

『リックさんなら大丈夫です! ファイト!』

 最後はエールを送ってくれた。
 俺のことを心配してくれているのだろう。

 ネレムさんの不安をよそに、俺は落ち着いていた。

 魔物という未知の生物に対して怖くないといえば嘘になる。
 それでも、歩みを止めるつもりはなかった。
 宿でルーナが待っている。
 彼女のためにも、そして自分自身が異世界で自立して生きていくためにも、お金はどうしても必要だ。

 そのためにスライムを狩る。
 フリークエストを達成すれば、宿代と今日の夕飯をたらふく食えるぐらいの褒賞金は貰えるらしい。

 しかし、スライムを狩るよりも、スライムを見つける方が大変だった。
 王都周辺に棲息していると聞いたが、どこにもいない。
 俺は目を皿にして、スライムを探した。
 すると――。

「いた!」

 1匹の青いスライムを見つける。
 草場の中を隠れるように進んでいた。
 俺はダッと地を駆ける。
 拳を振り上げ、一気にその核を潰そうとした。

 だが、俺はつと足を止める。

「あれは!?」

 その瞬間だった。

 ぐしゃっ!

 青いスライムが弾ける。
 核が割れ、飛び散った。

「お前……」

 やったのは俺じゃない。
 頬を張らした大柄の男だった。
 覚えている。いや、忘れもしない。
 俺が昨日ギルドでのしたヽヽヽ、元ギルドマスターだ。
 確かヴィンターという名前だったはず。

「よう、小僧……。こんなところで会うとは奇遇だな」

「あんた、何をしてるんだよ。こんなところで」

「見てわからないか? スライム狩りさ?」

 ヴィンターは、懐から丸い玉を取り出した。
 捕獲玉という魔法道具である。
 そこに魔物を閉じ込め、ギルドに提出しなければならない。

 男は捕獲玉を掲げた。
 すると、倒したスライムが、玉の中に吸い込まれていく。

 そして、また男と目が合った。
 へラッと笑みを浮かべる。
 明らかに俺を馬鹿にした笑顔だった。

「どうした、勇者様よ。まさか勇者様とあろうお方が、スライム1匹も倒せないとかいうんじゃないだろうな」

「倒せないんじゃない。見つからないだけだ」

「見つからない? そうか? オレはもう20匹も倒したぜ」

 捕獲玉を掲げる。

「おかしいなあ。スライムなんて簡単に見つけられるのに。それが見つからないなんて……。ぎゃはははは! やっぱりお前、外れ勇者じゃねぇの?」

「どうやら、まだ俺の実力を疑ってるらしいな。そんなに知りたいなら――」

 俺は構える。
 すると、ヴィンターは手を振った。

「おお、怖っ! 血の気の多い勇者様だ。痛い目を見ないうちに、退散するか。けど――」

「けど、なんだ?」

「あんた、そんなんじゃ。一生スライムを見つけられないぜ」

 ぎゃははははは!

 下品な笑みを浮かべて、ヴィンターは去って行った。

 全く……。
 気分の悪いヤツだ。

 あいつの魂胆はわかっている。
 俺を邪魔しにきたのだろう。
 そうでなければ、ヴィンターがスライムという雑魚魔獣を倒すはずがない。

 俺のクエスト達成を阻んでいるのだ。

 ネレムさん曰く、1度受けたクエストが未達成だと、ギルドの貢献度に大きく影響するのだという。
 ギルドがもっとも注視するのは、冒険者の強さではなく、信頼だと断言していた。
 いくら強くても、クエストを途中でほっぽり出すような人間に、仕事は依頼できないというわけだ。

 このままでは、俺の貢献度が下がってしまう。

 なんとかしなければ……。


 ◆◇◆◇◆


 夕方になって、俺はギルドへ帰還した
 スイングドアを開けて、中に入ると、ヴィンターが俺を出迎える。
 口角を上げながら、俺の方に近づいてきた。

「どうだった、勇者様? 成果は? ちゃんとスライム、10匹倒してきたんだろうな」

 俺は無視して、カウンターに進む。
 ネレムさんが待っててくれた。
 険しい俺の顔を見て、何かを察したらしい。
 不安そうな表情を、俺に向けた。

「どうでした、リックさん?」

「すまない、ネレムさん」

「え? もしや――」

 ネレムさんは口元に手を当てる。
 ヴィンターがニヤリと笑った。

 俺は捕獲玉を解放する。


(※ ④に続く)
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