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第1章
第8.5話 マシュマロと変態(後編)
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「あ、ああ。そういう……」
ゲルダは無理やり理解した顔で、目を背けた。
「な、なら……。包帯を巻けばいいじゃないですか?」
「あんた、何にもわかってないわね!」
ゲルダは貴族に凄い剣幕で怒鳴られる。
「包帯少女はね。怪我がしてるからいいの! 動けない少女を愛でるからいいのよ! コスプレに興味はないの。アタシはね、本物の包帯少女を見たいのよ!! 苦痛に歪む、可哀想で幼気な少女を見たいのよ!!」
うわぁ……。
真性の変態だぁ……。
「ねぇ。リックお兄ちゃん、包帯少女って……え? なに? なんでもわたしのおめめを隠すの。お兄ちゃん」
ダメです、ルーナ。
見ちゃいけません。
「それを献身的に看病するワタシ! それがワタシが求めてるドラマなの! わかる?」
一生わかりたくないわ!
「それになに? 首輪をつけて! 乱暴よ!」
「いや、これは――」
「可哀想じゃない! 奴隷の扱い方を知らないの? 商品なのよ、その子は?」
お前が言うか……。
「悪いけど、この商談はなかったことにするわ」
「そ、そんな!!」
「なんか文句あるの?」
すると、貴族の後ろから厳つい男たちが現れる。
いずれも屈強な戦士だ。
たちまちゲルダを取り囲む。
鋭い眼光を飛ばし、ゲルダに向かって凄む。
「もう1度聞くわ? 何か文句ある?」
「な、何も文句ありません!!」
「よろしい。さあ、帰るわよ。ああ、ここまでの旅費はあんたに請求するから、そのつもりで」
「な――――!」
そして貴族は男2人を伴い去っていった。
まるで嵐のようだ。
ゲルダは膝を突く。
顔面は蒼白となり、頭を抱えた。
その肩に手が置かれる。
ボーヤーさんがニヤリと笑った。
「お前さんの商談は破談したようだな。優先権はこっちの兄ちゃんに移ったってことでいいよな」
「…………くっそぉ!! 勝手にしろ!!」
ゲルダは握っていた鎖を地面に叩きつける。
大股で天幕を後にした。
どうやら、ティレルのことを諦めたらしい。
ふう……。良かった。
ティレルがあんな変態貴族のところに行かないで。
まあ、大事にはしてくれそうだったけどな。
俺が胸を撫で下ろしていると、ボーヤーさんは言った。
「兄ちゃん……。いや、勇者殿。私からもお礼を言わせてくれ。ティレルを救ってくれてありがとう」
「別にお礼をいわれるようなことはしてません。困っていたから助けただけです」
「実は、外れ勇者という噂は耳にはしていました。ですが、あなたは立派な勇者だ。もしあなたの一助になるというなら、是非ティレルをもらってやって下さいませんか? お代は結構ですから」
「いや、それは悪いですよ」
「最初に話したと思いますが、奴隷に付加価値をつけるのが、奴隷商の仕事です。それが出来なければ、商人失格だと私は思ってる。だから、私には初めからティレルを売り買いできる資格がなかった。けれど、あなた様にはあった。呪いを解いた時点で、ティレルはあなた様のものになったと、私は確信しました」
「でも……」
「はははは! なかなか強情なお客さんだ。商人がタダで譲るといっているのに。
わかりました。こういうのは、どうでしょうか? 私が勇者に恩を売った――そう喧伝してもらいたい。つまりは店の宣伝です。ティレルは、その宣伝料ということで?」
俺を広告塔にしようっていうのか。
なるほど。考えたな。
でも、俺は『外れ勇者』だぞ。
あまり良いイメージキャラとは思えないが……。
まあ、ボーヤーさんがここまで言うんだ。
これ以上、拒否するのも野暮というものだろう。
「わかりました。……でも、ティレルの気持ちはどうでしょうか?」
「私は構いません。どうかお側に仕えさせてください、ご主人様」
ティレルは傅いた。
どうやら商談成立らしい。
予定外の買い物だったけど、ちょうどいいだろう。
明日には家に住むことになるし、家の中のことをやってもらう人間がちょうど必要だったんだ。
ギルドのクエストをこなしている間、ルーナ1人に留守番させるわけにもいかないしな。
「ティレルお姉ちゃんとルーナ、一緒に住むの?」
「ああ。ルーナはどうだ? ティレルにいてほしいか?」
「ティレルお姉ちゃん、家族になる?」
「うん? そういうことになるかな」
「じゃあ、おじさんとバイバイしても寂しくないね」
ああ。そうか。
ルーナは俺に「ティレルを助けて」と懇願したのは、単純にティレルが可哀想と思ったからじゃない。
家族――つまり、ボーヤーさんと引き離されることに同情したんだ。
ルーナは誰よりも家族と離れることの悲しみを知っている。
きっとティレルにも味わってほしくなかったのだろう。
俺は今一度、ティレルに向き直った。
「よろしく頼むよ、ティレル」
「お任せ下さい」
ティレルは大きな胸を張る。
そして、彼女もまたボーヤーの方を向いた。
そっと親同然だった奴隷商を抱きしめる。
「ボーヤーさん、今までありがとうございました」
「なんの……。幸せになるんだよ」
お前には、その価値があるのだから……。
「はい……」
かすれた声で、ティレルは返事する。
水色の瞳には、また涙が浮かんでいた。
ゲルダは無理やり理解した顔で、目を背けた。
「な、なら……。包帯を巻けばいいじゃないですか?」
「あんた、何にもわかってないわね!」
ゲルダは貴族に凄い剣幕で怒鳴られる。
「包帯少女はね。怪我がしてるからいいの! 動けない少女を愛でるからいいのよ! コスプレに興味はないの。アタシはね、本物の包帯少女を見たいのよ!! 苦痛に歪む、可哀想で幼気な少女を見たいのよ!!」
うわぁ……。
真性の変態だぁ……。
「ねぇ。リックお兄ちゃん、包帯少女って……え? なに? なんでもわたしのおめめを隠すの。お兄ちゃん」
ダメです、ルーナ。
見ちゃいけません。
「それを献身的に看病するワタシ! それがワタシが求めてるドラマなの! わかる?」
一生わかりたくないわ!
「それになに? 首輪をつけて! 乱暴よ!」
「いや、これは――」
「可哀想じゃない! 奴隷の扱い方を知らないの? 商品なのよ、その子は?」
お前が言うか……。
「悪いけど、この商談はなかったことにするわ」
「そ、そんな!!」
「なんか文句あるの?」
すると、貴族の後ろから厳つい男たちが現れる。
いずれも屈強な戦士だ。
たちまちゲルダを取り囲む。
鋭い眼光を飛ばし、ゲルダに向かって凄む。
「もう1度聞くわ? 何か文句ある?」
「な、何も文句ありません!!」
「よろしい。さあ、帰るわよ。ああ、ここまでの旅費はあんたに請求するから、そのつもりで」
「な――――!」
そして貴族は男2人を伴い去っていった。
まるで嵐のようだ。
ゲルダは膝を突く。
顔面は蒼白となり、頭を抱えた。
その肩に手が置かれる。
ボーヤーさんがニヤリと笑った。
「お前さんの商談は破談したようだな。優先権はこっちの兄ちゃんに移ったってことでいいよな」
「…………くっそぉ!! 勝手にしろ!!」
ゲルダは握っていた鎖を地面に叩きつける。
大股で天幕を後にした。
どうやら、ティレルのことを諦めたらしい。
ふう……。良かった。
ティレルがあんな変態貴族のところに行かないで。
まあ、大事にはしてくれそうだったけどな。
俺が胸を撫で下ろしていると、ボーヤーさんは言った。
「兄ちゃん……。いや、勇者殿。私からもお礼を言わせてくれ。ティレルを救ってくれてありがとう」
「別にお礼をいわれるようなことはしてません。困っていたから助けただけです」
「実は、外れ勇者という噂は耳にはしていました。ですが、あなたは立派な勇者だ。もしあなたの一助になるというなら、是非ティレルをもらってやって下さいませんか? お代は結構ですから」
「いや、それは悪いですよ」
「最初に話したと思いますが、奴隷に付加価値をつけるのが、奴隷商の仕事です。それが出来なければ、商人失格だと私は思ってる。だから、私には初めからティレルを売り買いできる資格がなかった。けれど、あなた様にはあった。呪いを解いた時点で、ティレルはあなた様のものになったと、私は確信しました」
「でも……」
「はははは! なかなか強情なお客さんだ。商人がタダで譲るといっているのに。
わかりました。こういうのは、どうでしょうか? 私が勇者に恩を売った――そう喧伝してもらいたい。つまりは店の宣伝です。ティレルは、その宣伝料ということで?」
俺を広告塔にしようっていうのか。
なるほど。考えたな。
でも、俺は『外れ勇者』だぞ。
あまり良いイメージキャラとは思えないが……。
まあ、ボーヤーさんがここまで言うんだ。
これ以上、拒否するのも野暮というものだろう。
「わかりました。……でも、ティレルの気持ちはどうでしょうか?」
「私は構いません。どうかお側に仕えさせてください、ご主人様」
ティレルは傅いた。
どうやら商談成立らしい。
予定外の買い物だったけど、ちょうどいいだろう。
明日には家に住むことになるし、家の中のことをやってもらう人間がちょうど必要だったんだ。
ギルドのクエストをこなしている間、ルーナ1人に留守番させるわけにもいかないしな。
「ティレルお姉ちゃんとルーナ、一緒に住むの?」
「ああ。ルーナはどうだ? ティレルにいてほしいか?」
「ティレルお姉ちゃん、家族になる?」
「うん? そういうことになるかな」
「じゃあ、おじさんとバイバイしても寂しくないね」
ああ。そうか。
ルーナは俺に「ティレルを助けて」と懇願したのは、単純にティレルが可哀想と思ったからじゃない。
家族――つまり、ボーヤーさんと引き離されることに同情したんだ。
ルーナは誰よりも家族と離れることの悲しみを知っている。
きっとティレルにも味わってほしくなかったのだろう。
俺は今一度、ティレルに向き直った。
「よろしく頼むよ、ティレル」
「お任せ下さい」
ティレルは大きな胸を張る。
そして、彼女もまたボーヤーの方を向いた。
そっと親同然だった奴隷商を抱きしめる。
「ボーヤーさん、今までありがとうございました」
「なんの……。幸せになるんだよ」
お前には、その価値があるのだから……。
「はい……」
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水色の瞳には、また涙が浮かんでいた。
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