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第一章
第2話
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私はアスカルド子爵家に生まれた。
神様にリクエストした通り、平凡な貴族である。
適度な経済状態、政敵は少なく、家族仲までごく平均的……。
父ヤーゴフはどちらかと言えば仕事ができない方の人間だったけど、子煩悩で何より家族を愛していた。
そんな父に伯爵家から嫁いできた母エイリアーナはゾッコンで、仲睦まじく暮らしている。
私は5人兄姉の末っ子として生まれた。
全員エイリアーナのお腹から生まれたというから驚きだ。
1000年前には、なかなかエイリアーナみたいな母親はいなかったはず。
出産技術が向上したのか。それともエイリアーナが安産型なのか。
生まれたばかりの私には、さすがにわからない。
1度目の時は生まれた時から、「すごい魔力だ」と両親から驚かれ、巨大な竜を屠っていたけど、そんなこともない。
ちなみにいきなり竜がエンカウントしてくるイベントも特になく、私は至って健やかに暮らした。
とはいえ、相変わらず竜をはじめ魔物が跋扈してるようである。
そこはさすがに異世界だけあって、普通の暮らしという風にはいかないようだ。
普通に暮らしたいとは言ったけど、モブキャラみたいな終焉は迎えたくはない。
神様からもらったチート能力はないけど、ちょっとでも身体は鍛えておいた方がいいということで、私はまず足腰だけは鍛えておこうと思った。
この世界では今でも徒歩の旅が一般的だったりする。竜から逃げるにしても、健脚でなければならない。
馬車もあるが、維持費がかかる。そして平均的な経済状況のアスカルド子爵家には、そのようなものを管理する余裕がない。
精々タダ同然でもらった老馬の世話をするぐらいが精一杯なのだ。
多少オーバーに鍛えていても、損はないだろう。
やがて3年が経った。
一番上の兄上が出ていった。アスカルド子爵家を継ぐために、経営の学校に通うそうだ。
私はというと、3歳児にして立派な足腰を手に入れていた。
日頃から山に登っていじめ抜き、今では領内一の健脚と言われるほどだ。
勿論、3歳児に限るけど。
体力がついたら、次は知識である。
我が家には結構な蔵書がある。どうやら私のお爺ちゃんが優秀な魔術師で、武功も立てているらしい。
魔術に関する魔術書が、書斎にずらりと並んでいた。
【魔術】というのは、私も初めてだ。
1000年前は【魔法】を使っていた。それだけの長い期間で、技術体系が変わったのだろう。
あと――1000年前と比べて、大気中に含まれる魔素量が少なくなっている。
【魔法】は外気に魔素を集約させる技術に対して、【魔術】は内気――つまり人間の中にある魔力を練り上げ、力に変える技術である。
外に充満する魔素量と、人間の中にある魔力量と比べるまでもなく、前者が圧倒的に多い。
どうやら、そのせいで【魔術】の強さは、【魔法】と比べものにならないほど弱くなっているようだ。
けれど、1000年近く経って、技術が格段に向上し、そして人間の身体にも変化の兆しが現れた。中にはとんでもなく膨大な魔力量を有して現れる子どもがいたり、鍛えることによって魔力量をアップさせるトレーニングも生まれたようである。
「ふう……」
私は読んでいた本から顔を上げる。
周りには魔術書、歴史書、経済史、政治史などが雑然と並んでいた。
勉強は好きではないけど、割と得意だ。
好きじゃないのは、多分の1度目の人生で経験した学校や勉強のイメージが悪いものだったことが影響しているのだろう。
ただし語学は別だ。嫌いでも得意でもない。
初めて聖女になった時、随分苦労した。今思うと、付いた家庭教師のせいなのだけど、半分トラウマになっている。
「おやぁ……。ミレニアちゃん、こんなとこにいたんでちゅか~」
ちょっと変態チックな赤ちゃん言葉で、書斎に入ってきたのは父ヤーゴフだった。
父は末っ子の私にゾッコンだ。
たぶん娘がいつか自分に冷たくなるのを見越して甘えているのだろう。
最近長女のソフィーがヤーゴフをあからさまに毛嫌いするようになった。
いわゆるお年頃というヤツだ。
ソフィーに構ってもらえない分を、ヤーゴフは私で補填しているらしい。
「お父様、お髭がゴリゴリで痛いよ~」
強制的に抱きかかえられた私は、なんとか逃げ出そうとする。
「ごめん。ごめん。……それより何をしていたんだ、ミレニア」
ちなみにミレニアというのは、聖女として活躍し始めてから使っている名前だ。
皆、同じ名前を付けるように神様が両親を選んで転生させているらしい。
ヤーゴフは私から離れると、書斎の状況を見て唇を尖らせた。
「こんなに本を散らかして……。ママに怒られるぞ、ミレニア」
「ちらかしてないよ。ご本をよんでたの」
一瞬ギョッとした後、ヤーゴフはお腹を押さえて笑い始めた。
「あはははは……。読むだなんて。ここにある本はミレニアのお爺ちゃんが集めていた魔術書なんだよ」
何だかよくわからない詩集みたいな本があるなと思ったら、魔術書だったなんて。
「全部魔術文字で書かれていて、とっても勉強しないと読めないんだよ」
「ミレニア、よめるよ」
私はその辺に落ちていた魔術書を拾い上げる。
「ははは……。パパも魔術書にはちょっと詳しいからね。わかるんだ。それはイフリルの魔術書と言ってね。700年前、リムト記において発明された文字で、パパだって少ししか」
「炎冠に座す魔神よ。悪鬼、人ならざるものを討ち払え……」
【魔炎灼弾】!!
瞬間、私の手に紅炎が灯る。
部屋は一瞬にして真っ赤に染まり、私も父も固まった。
「へっ?」
「ミレニア! 手を外に向けて! 早く!!」
私は言われるまま手を外に向けた。
直後、渦を巻いた炎の塊が発射される。
刹那、硝子や土壁が溶解し、さらに屋敷の生け垣が吹き飛んだ。
黒い煙が充満する中、出来上がったのは挟みで切り取ったかのような丸い穴だった。
「あっ、あれ?」
え? 何これ?
……頭が真っ白で、何も考えられない。
全身の力が抜けて……、これってもしかして――――。
私は人形を倒すように横に倒れた。
そうして私は意識の底に沈んでいった。
神様にリクエストした通り、平凡な貴族である。
適度な経済状態、政敵は少なく、家族仲までごく平均的……。
父ヤーゴフはどちらかと言えば仕事ができない方の人間だったけど、子煩悩で何より家族を愛していた。
そんな父に伯爵家から嫁いできた母エイリアーナはゾッコンで、仲睦まじく暮らしている。
私は5人兄姉の末っ子として生まれた。
全員エイリアーナのお腹から生まれたというから驚きだ。
1000年前には、なかなかエイリアーナみたいな母親はいなかったはず。
出産技術が向上したのか。それともエイリアーナが安産型なのか。
生まれたばかりの私には、さすがにわからない。
1度目の時は生まれた時から、「すごい魔力だ」と両親から驚かれ、巨大な竜を屠っていたけど、そんなこともない。
ちなみにいきなり竜がエンカウントしてくるイベントも特になく、私は至って健やかに暮らした。
とはいえ、相変わらず竜をはじめ魔物が跋扈してるようである。
そこはさすがに異世界だけあって、普通の暮らしという風にはいかないようだ。
普通に暮らしたいとは言ったけど、モブキャラみたいな終焉は迎えたくはない。
神様からもらったチート能力はないけど、ちょっとでも身体は鍛えておいた方がいいということで、私はまず足腰だけは鍛えておこうと思った。
この世界では今でも徒歩の旅が一般的だったりする。竜から逃げるにしても、健脚でなければならない。
馬車もあるが、維持費がかかる。そして平均的な経済状況のアスカルド子爵家には、そのようなものを管理する余裕がない。
精々タダ同然でもらった老馬の世話をするぐらいが精一杯なのだ。
多少オーバーに鍛えていても、損はないだろう。
やがて3年が経った。
一番上の兄上が出ていった。アスカルド子爵家を継ぐために、経営の学校に通うそうだ。
私はというと、3歳児にして立派な足腰を手に入れていた。
日頃から山に登っていじめ抜き、今では領内一の健脚と言われるほどだ。
勿論、3歳児に限るけど。
体力がついたら、次は知識である。
我が家には結構な蔵書がある。どうやら私のお爺ちゃんが優秀な魔術師で、武功も立てているらしい。
魔術に関する魔術書が、書斎にずらりと並んでいた。
【魔術】というのは、私も初めてだ。
1000年前は【魔法】を使っていた。それだけの長い期間で、技術体系が変わったのだろう。
あと――1000年前と比べて、大気中に含まれる魔素量が少なくなっている。
【魔法】は外気に魔素を集約させる技術に対して、【魔術】は内気――つまり人間の中にある魔力を練り上げ、力に変える技術である。
外に充満する魔素量と、人間の中にある魔力量と比べるまでもなく、前者が圧倒的に多い。
どうやら、そのせいで【魔術】の強さは、【魔法】と比べものにならないほど弱くなっているようだ。
けれど、1000年近く経って、技術が格段に向上し、そして人間の身体にも変化の兆しが現れた。中にはとんでもなく膨大な魔力量を有して現れる子どもがいたり、鍛えることによって魔力量をアップさせるトレーニングも生まれたようである。
「ふう……」
私は読んでいた本から顔を上げる。
周りには魔術書、歴史書、経済史、政治史などが雑然と並んでいた。
勉強は好きではないけど、割と得意だ。
好きじゃないのは、多分の1度目の人生で経験した学校や勉強のイメージが悪いものだったことが影響しているのだろう。
ただし語学は別だ。嫌いでも得意でもない。
初めて聖女になった時、随分苦労した。今思うと、付いた家庭教師のせいなのだけど、半分トラウマになっている。
「おやぁ……。ミレニアちゃん、こんなとこにいたんでちゅか~」
ちょっと変態チックな赤ちゃん言葉で、書斎に入ってきたのは父ヤーゴフだった。
父は末っ子の私にゾッコンだ。
たぶん娘がいつか自分に冷たくなるのを見越して甘えているのだろう。
最近長女のソフィーがヤーゴフをあからさまに毛嫌いするようになった。
いわゆるお年頃というヤツだ。
ソフィーに構ってもらえない分を、ヤーゴフは私で補填しているらしい。
「お父様、お髭がゴリゴリで痛いよ~」
強制的に抱きかかえられた私は、なんとか逃げ出そうとする。
「ごめん。ごめん。……それより何をしていたんだ、ミレニア」
ちなみにミレニアというのは、聖女として活躍し始めてから使っている名前だ。
皆、同じ名前を付けるように神様が両親を選んで転生させているらしい。
ヤーゴフは私から離れると、書斎の状況を見て唇を尖らせた。
「こんなに本を散らかして……。ママに怒られるぞ、ミレニア」
「ちらかしてないよ。ご本をよんでたの」
一瞬ギョッとした後、ヤーゴフはお腹を押さえて笑い始めた。
「あはははは……。読むだなんて。ここにある本はミレニアのお爺ちゃんが集めていた魔術書なんだよ」
何だかよくわからない詩集みたいな本があるなと思ったら、魔術書だったなんて。
「全部魔術文字で書かれていて、とっても勉強しないと読めないんだよ」
「ミレニア、よめるよ」
私はその辺に落ちていた魔術書を拾い上げる。
「ははは……。パパも魔術書にはちょっと詳しいからね。わかるんだ。それはイフリルの魔術書と言ってね。700年前、リムト記において発明された文字で、パパだって少ししか」
「炎冠に座す魔神よ。悪鬼、人ならざるものを討ち払え……」
【魔炎灼弾】!!
瞬間、私の手に紅炎が灯る。
部屋は一瞬にして真っ赤に染まり、私も父も固まった。
「へっ?」
「ミレニア! 手を外に向けて! 早く!!」
私は言われるまま手を外に向けた。
直後、渦を巻いた炎の塊が発射される。
刹那、硝子や土壁が溶解し、さらに屋敷の生け垣が吹き飛んだ。
黒い煙が充満する中、出来上がったのは挟みで切り取ったかのような丸い穴だった。
「あっ、あれ?」
え? 何これ?
……頭が真っ白で、何も考えられない。
全身の力が抜けて……、これってもしかして――――。
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そうして私は意識の底に沈んでいった。
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