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第二章
第10話
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『筆記試験』の会場に行くと、空気が随分淀んでいた。
受験生たちの緊張感が伝わってくる。かくいう私も緊張してきた
もう1回お花を摘みに行って来ようかしら、と筆記用具を出していた時、声が聞こえた。
「なんで、あんたがあたしの隣なのよ!」
横を見ると、さっき出会ったヴェルファーナが座っている。
ジッと私の方を睨んで、縄張りを主張する猫みたいに警戒していた。
あー、怒ってても可愛い。ちょっと頬を膨らませているところとか最高かも。
「ちょっと! 聞いてるの、あなた!!」
「ご、ごめんなさい!」
反射的に謝ってしまったが、どうやら私の邪な心が通じたわけではない。
多分聞かれていたとしたら怒るというより、ドン引かれていたことだろう。
「いーい! いくらあたしの答案を見たいからって、カンニングしたら即教官に言うからね」
「それはしないと思うけど、多分ヴェルちゃんが可愛いから見ちゃうかも」
しまった。つい本音が……。
すると、たちまちヴェルちゃんの顔がキュ~~ッと赤くなっていく。
「な、な、な、何を言ってるのよ、へ、変態! 絶対こっちを見ないでよ」
「そこ! うるさいぞ!! 何をやっている!!」
鞭でピシッと床を叩いたような声だった。
前の方を向くと、背の高い男の人が演壇の前に立っていた。
それもただの男の人じゃない。
着ているのは軍の制服だ。二の腕にはロードレシア王国の国章が縫い付けられ、その下には『魔術師』を象徴たるガーネットとともに宮廷が描かれていた。
すると、突然椅子に座っていた受験生たちが立ち上がる。
立っていた受験生も、その場に直立した。みるみる顔が青くなり、額から脂汗が滲み出てくる。
ヴェルちゃんの顔も同様に、軍服の男を見て緊張していた。
王都ではそんなに軍人が珍しいのかしら?
それとも有名な軍人さん?
私は声を潜めて、尋ねた。
「ねぇ、ヴェルちゃん」
「あ、あんたねぇ! 今、よく話しかけられるわね」
「あの人って、有名人なの?」
「はあ?? 何を言ってるのよ! あの方を知らないの?」
「えへへへ……」
私は舌を出して、誤魔化した。
ヴェルちゃんは「はあ」と深いため息を吐く。
「あの方はゼクレア・ル・ルヴァンスキー様。ローデシア王国魔術師第一師団の師団長」
「第一師団って、確か王宮防衛の要って言われてるエリート集団よね」
いくら王宮の知識に疎い私でもこれぐらいのことは知っている。
とはいえ、騎士団に所属するドレーズ兄さんの受け売りだけどね。
「そうよ。そして、今もっとも『勇者』に近いと言われている人よ」
「へぇ……」
「おいそこ! うるさいぞ。お前らも座れ。ここはまだ軍隊ではない。お前らはひよっこですらないんだからな」
ゼクレア師団長はさらに怒鳴り付けると、受験生を睨んだ。
癖ッ毛の強い柔らかな髪に、見ると石になってしまいそうな眼光鋭い三白眼。
細身で高身長だけど、なよなよした感じはしない。
まるで針金を何本も結って締めたような力強さを感じる。
いや、もうそれは針金じゃない。一振りの剣に近い。
ゼクレア教官が入ってきたことによって、空気はがらりと変わる。まるで獅子に頭を押さえ付けられたかのように静かになり、椅子を引く音や鉛筆を出す音だけが響いていた。
試験用紙と答案用紙が配られ、ついに筆記試験が始まる。
『第1問 平日の昼、お父さんが公園のブランコに座っているのを発見しました。あなたならどうしますか?』
……………………えっ? 何これ?
平日の昼、お父さんが……。えっ? ……どういうこと?
いや、お父さんだってブランコで遊びたい時があるわよね。
うちの父なんて、庭にある手作りのブランコを40歳で全力で立ちこぎしてたのを見たことあるけど。
むしろ微笑ましいんじゃないかしら。子どもっぽいとは思うけど……。
というか……。
これが魔術師学校の試験?
何かの間違いでは?
普通試験ってさ。普通は『以下の魔術文字を解読しろ』とか『この魔術文字は、いつの年代の文字?』とか、そういうのじゃないの?
私、だいだい文字が自動的に翻訳されてしまう。だから、文字の年代とかを覚えるのには苦労した。文法や文体の違いでなんとかわかるようになったけどね。
書店の時にすぐにわかったのも、帯に『コーダ記』って書かれていたからだし。
最初の頃、どの魔術文字が上級で初級なのかもわからなかったから、3歳でやらかした後、度々家に穴を開けてたし(その度に親から褒められた)。
まあ、いいか。ひとまず『お父さんと一緒にブランコに乗る』って書いておこう。
受験生たちの緊張感が伝わってくる。かくいう私も緊張してきた
もう1回お花を摘みに行って来ようかしら、と筆記用具を出していた時、声が聞こえた。
「なんで、あんたがあたしの隣なのよ!」
横を見ると、さっき出会ったヴェルファーナが座っている。
ジッと私の方を睨んで、縄張りを主張する猫みたいに警戒していた。
あー、怒ってても可愛い。ちょっと頬を膨らませているところとか最高かも。
「ちょっと! 聞いてるの、あなた!!」
「ご、ごめんなさい!」
反射的に謝ってしまったが、どうやら私の邪な心が通じたわけではない。
多分聞かれていたとしたら怒るというより、ドン引かれていたことだろう。
「いーい! いくらあたしの答案を見たいからって、カンニングしたら即教官に言うからね」
「それはしないと思うけど、多分ヴェルちゃんが可愛いから見ちゃうかも」
しまった。つい本音が……。
すると、たちまちヴェルちゃんの顔がキュ~~ッと赤くなっていく。
「な、な、な、何を言ってるのよ、へ、変態! 絶対こっちを見ないでよ」
「そこ! うるさいぞ!! 何をやっている!!」
鞭でピシッと床を叩いたような声だった。
前の方を向くと、背の高い男の人が演壇の前に立っていた。
それもただの男の人じゃない。
着ているのは軍の制服だ。二の腕にはロードレシア王国の国章が縫い付けられ、その下には『魔術師』を象徴たるガーネットとともに宮廷が描かれていた。
すると、突然椅子に座っていた受験生たちが立ち上がる。
立っていた受験生も、その場に直立した。みるみる顔が青くなり、額から脂汗が滲み出てくる。
ヴェルちゃんの顔も同様に、軍服の男を見て緊張していた。
王都ではそんなに軍人が珍しいのかしら?
それとも有名な軍人さん?
私は声を潜めて、尋ねた。
「ねぇ、ヴェルちゃん」
「あ、あんたねぇ! 今、よく話しかけられるわね」
「あの人って、有名人なの?」
「はあ?? 何を言ってるのよ! あの方を知らないの?」
「えへへへ……」
私は舌を出して、誤魔化した。
ヴェルちゃんは「はあ」と深いため息を吐く。
「あの方はゼクレア・ル・ルヴァンスキー様。ローデシア王国魔術師第一師団の師団長」
「第一師団って、確か王宮防衛の要って言われてるエリート集団よね」
いくら王宮の知識に疎い私でもこれぐらいのことは知っている。
とはいえ、騎士団に所属するドレーズ兄さんの受け売りだけどね。
「そうよ。そして、今もっとも『勇者』に近いと言われている人よ」
「へぇ……」
「おいそこ! うるさいぞ。お前らも座れ。ここはまだ軍隊ではない。お前らはひよっこですらないんだからな」
ゼクレア師団長はさらに怒鳴り付けると、受験生を睨んだ。
癖ッ毛の強い柔らかな髪に、見ると石になってしまいそうな眼光鋭い三白眼。
細身で高身長だけど、なよなよした感じはしない。
まるで針金を何本も結って締めたような力強さを感じる。
いや、もうそれは針金じゃない。一振りの剣に近い。
ゼクレア教官が入ってきたことによって、空気はがらりと変わる。まるで獅子に頭を押さえ付けられたかのように静かになり、椅子を引く音や鉛筆を出す音だけが響いていた。
試験用紙と答案用紙が配られ、ついに筆記試験が始まる。
『第1問 平日の昼、お父さんが公園のブランコに座っているのを発見しました。あなたならどうしますか?』
……………………えっ? 何これ?
平日の昼、お父さんが……。えっ? ……どういうこと?
いや、お父さんだってブランコで遊びたい時があるわよね。
うちの父なんて、庭にある手作りのブランコを40歳で全力で立ちこぎしてたのを見たことあるけど。
むしろ微笑ましいんじゃないかしら。子どもっぽいとは思うけど……。
というか……。
これが魔術師学校の試験?
何かの間違いでは?
普通試験ってさ。普通は『以下の魔術文字を解読しろ』とか『この魔術文字は、いつの年代の文字?』とか、そういうのじゃないの?
私、だいだい文字が自動的に翻訳されてしまう。だから、文字の年代とかを覚えるのには苦労した。文法や文体の違いでなんとかわかるようになったけどね。
書店の時にすぐにわかったのも、帯に『コーダ記』って書かれていたからだし。
最初の頃、どの魔術文字が上級で初級なのかもわからなかったから、3歳でやらかした後、度々家に穴を開けてたし(その度に親から褒められた)。
まあ、いいか。ひとまず『お父さんと一緒にブランコに乗る』って書いておこう。
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