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第三章
第41話
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綺麗……な人だった。
ふわふわとした綿雲のような薄い桃色の髪。
周りが赤い炎の壁に囲まれながら、混ざり合うことを拒否するように輝く水色の瞳。
見上げるほどの長身に1度は驚いたけど、とんでもなく厚底のシークレットブーツを履いていた。
大きな胸を押し込むはずだった団服の前を止めず、袖口の長さが全く合っていない。
完全に採寸が誤っているのだけど、よく見ると男の団服を着ていることがわかった。
アンデッドを一瞬にして屠った魔術。
立ってるだけで、この場の空気を支配する雰囲気。
絶対この人が、副長さんだ。
「あ、あの……。第一師団副長さんですか?」
私が尋ねると、副長さんとおぼしき女性は顔を近づける。
すると、子犬みたいに鼻を利かせながら、私の匂いを嗅ぎ始めた。
え? ちょっと……。何これ? ま、マーキングとか??
あのできればやめてくれないかな。
割と今の私って酔ってるからか、酒の匂いが強いと思うんだけど。
しかも、肌の近くギリギリまで鼻を近づけるものだから、吐息がかかってこそばゆい。
そう言えば、私ってば副長さんの名前とか知らないや。
ヴェルなら諳でもいえそうだけど、私はそこまで師団のことを知らない。
「あなた、ゼクレア様の匂いがしますね」
さっきまで起きたばかりのようにとろーんとしていた瞳が、一気に吊り上がる。
突然、詰問口調になると私を睨んだ。
「え? ええ……。さ、さっきまで一緒にいたので」
「一緒に! どこで! まさかゼクレア様の部屋にいたのではないでしょうね」
「へ、部屋って。執務室のことですか?」
「違います! ゼクレア様の私室に決まってるでしょ! 何言ってるのよ!!」
あんたこそ何言ってるの!
なんか鼻血まで出し始めて、おかしこと喋り始めたのだけど。
本当にこの人が副長さんなのか、自信が無くなってきた、私。
「きぃぃいいいいい! わたくしだって、私室に入る事を許されていないのに。妄想の中では、もう1万回入って、ベッドインのシミュレーションだって、1万通りの緊急事態を想定して、あらゆる事に対処できるよう万全を期しているのに」
たぶん、そんなおかしなことを新人隊員の前で話してるから呼ばれないんだろうな。
「この泥棒猫!!」
えっと……。なんで私、責められているんだろう。
というか、私ってそんなにゼクレア師団長の匂いがする。
この人の嗅覚どうなってるんだろうか。
あ。そうか。
「あの……。これ…………」
私はピンと来て、ゼクレア師団長からもらったカフスを取り出す。
それを見た副長さんは光の速さで私からカフスを奪っていくと、また匂いを嗅ぎ始めた。
「間違いない。ゼクレア師団長のものだわ」
なんでわかるのよ、この人。
まだ私、何も言ってないのだけど。
完全に犬並みの嗅覚をしてるわ、この人。
「実は、ゼク――――」
『待って、ミレニア』
また謎の声が聞こえた。
今度は何よ。私、結構急いでいるんだけど。
早く王宮が狙われていることを知らせて、こういう人でもゼクレア師団長の加勢に行ってもらわないと。
『落ち着いて。こういう手合いは普通に言ってもダメだよ』
(じゃあ、どうするの?)
『僕の言うとおりに喋って』
と言うわけで、謎の声の言う通り喋ることにした。
私の声を借りて、変なことを言わせないでよ。
カーサもいるんだから。
「もし良かったら、それ副長に差し上げます」
「え? いいの??」
ようやく副長は態度を軟化させてくれた。
なるほど。先に恩を売っておくということか。
確かにその方がこの人には有用かもしれないわね。
「ええ。どうぞどうぞ。その代わり、私の話を聞いてくれませんか?」
「なんでひよっこの話を聞かなければならないのよ」
カフスを上げたじゃない。副長にこういうのもなんだけど変な人ね、この人。
「ゼクレア師団長のピンチなんです」
「なんですって!!」
電光石火とはこのことだ。
周りが戦場というのに、機嫌良くカフスを眺めていた副長は私の方に振り返ると、私の肩を掴んだ。
痛い。めちゃくちゃ痛い。この人、本当に女性なのだろうか。
さもなければ、なんかの怨霊でもついてそう。
「ゼクレア様がピンチってどういうこと?」
「ちょっ! 肩を揺らさないで!! 今、事情を話しますから」
ようやく聞く耳を持ってくれた副長は、終始怒り狂った猛牛のように私の話を聞いた後、手を掲げた。
「第一師団師団員全員集合!!」
声を張りあげる。
それは戦場の始まりを告げる喇叭のように響き渡った。
まだあちこちで騎士たちが賊と戦う中、突如魔術があちこちで暴発する。
敵を一気に蹴散らすと、次々と魔術師たちが集まってくる。
ずらりと副長の前に並んだ。
こういうのもなんだけど、全員面構えが違うというか、如何にも軍人という感じだ。
魔術師という割りに身体が大きい。余ほど鍛えているのだろう。
「我らがゼクレア様がピンチよ! 今から第一師団は王宮防衛に当たります。ついでに王宮も王様も救って、給料分働くのよ! いいわね、あんたたち!!」
『ラディーヌ様、了解です!!』
魔術師たちは敬礼する。
「よし。全団転進!! 待っていてくださ~~~~い!! ゼクレアさまぁあぁあああ!」
風の魔術を使って浮くと、まさに風の如く飛んでいてしまった。
残ったのは騎士団だけだ。全然騎士団に連絡も何もなしに飛んでいったけど、良かったのかな。
ラディーヌって言ってたけど、自己紹介も満足にできなかった。
あの人が将来、私の上司になるの?
ゼクレア師団長といい、第一師団ってもしかして変わり者が多かったりする?
そういう規約でもあるのかしら。
……じゃあ、私が第一師団に選ばれた理由ってなんだろ?
ふわふわとした綿雲のような薄い桃色の髪。
周りが赤い炎の壁に囲まれながら、混ざり合うことを拒否するように輝く水色の瞳。
見上げるほどの長身に1度は驚いたけど、とんでもなく厚底のシークレットブーツを履いていた。
大きな胸を押し込むはずだった団服の前を止めず、袖口の長さが全く合っていない。
完全に採寸が誤っているのだけど、よく見ると男の団服を着ていることがわかった。
アンデッドを一瞬にして屠った魔術。
立ってるだけで、この場の空気を支配する雰囲気。
絶対この人が、副長さんだ。
「あ、あの……。第一師団副長さんですか?」
私が尋ねると、副長さんとおぼしき女性は顔を近づける。
すると、子犬みたいに鼻を利かせながら、私の匂いを嗅ぎ始めた。
え? ちょっと……。何これ? ま、マーキングとか??
あのできればやめてくれないかな。
割と今の私って酔ってるからか、酒の匂いが強いと思うんだけど。
しかも、肌の近くギリギリまで鼻を近づけるものだから、吐息がかかってこそばゆい。
そう言えば、私ってば副長さんの名前とか知らないや。
ヴェルなら諳でもいえそうだけど、私はそこまで師団のことを知らない。
「あなた、ゼクレア様の匂いがしますね」
さっきまで起きたばかりのようにとろーんとしていた瞳が、一気に吊り上がる。
突然、詰問口調になると私を睨んだ。
「え? ええ……。さ、さっきまで一緒にいたので」
「一緒に! どこで! まさかゼクレア様の部屋にいたのではないでしょうね」
「へ、部屋って。執務室のことですか?」
「違います! ゼクレア様の私室に決まってるでしょ! 何言ってるのよ!!」
あんたこそ何言ってるの!
なんか鼻血まで出し始めて、おかしこと喋り始めたのだけど。
本当にこの人が副長さんなのか、自信が無くなってきた、私。
「きぃぃいいいいい! わたくしだって、私室に入る事を許されていないのに。妄想の中では、もう1万回入って、ベッドインのシミュレーションだって、1万通りの緊急事態を想定して、あらゆる事に対処できるよう万全を期しているのに」
たぶん、そんなおかしなことを新人隊員の前で話してるから呼ばれないんだろうな。
「この泥棒猫!!」
えっと……。なんで私、責められているんだろう。
というか、私ってそんなにゼクレア師団長の匂いがする。
この人の嗅覚どうなってるんだろうか。
あ。そうか。
「あの……。これ…………」
私はピンと来て、ゼクレア師団長からもらったカフスを取り出す。
それを見た副長さんは光の速さで私からカフスを奪っていくと、また匂いを嗅ぎ始めた。
「間違いない。ゼクレア師団長のものだわ」
なんでわかるのよ、この人。
まだ私、何も言ってないのだけど。
完全に犬並みの嗅覚をしてるわ、この人。
「実は、ゼク――――」
『待って、ミレニア』
また謎の声が聞こえた。
今度は何よ。私、結構急いでいるんだけど。
早く王宮が狙われていることを知らせて、こういう人でもゼクレア師団長の加勢に行ってもらわないと。
『落ち着いて。こういう手合いは普通に言ってもダメだよ』
(じゃあ、どうするの?)
『僕の言うとおりに喋って』
と言うわけで、謎の声の言う通り喋ることにした。
私の声を借りて、変なことを言わせないでよ。
カーサもいるんだから。
「もし良かったら、それ副長に差し上げます」
「え? いいの??」
ようやく副長は態度を軟化させてくれた。
なるほど。先に恩を売っておくということか。
確かにその方がこの人には有用かもしれないわね。
「ええ。どうぞどうぞ。その代わり、私の話を聞いてくれませんか?」
「なんでひよっこの話を聞かなければならないのよ」
カフスを上げたじゃない。副長にこういうのもなんだけど変な人ね、この人。
「ゼクレア師団長のピンチなんです」
「なんですって!!」
電光石火とはこのことだ。
周りが戦場というのに、機嫌良くカフスを眺めていた副長は私の方に振り返ると、私の肩を掴んだ。
痛い。めちゃくちゃ痛い。この人、本当に女性なのだろうか。
さもなければ、なんかの怨霊でもついてそう。
「ゼクレア様がピンチってどういうこと?」
「ちょっ! 肩を揺らさないで!! 今、事情を話しますから」
ようやく聞く耳を持ってくれた副長は、終始怒り狂った猛牛のように私の話を聞いた後、手を掲げた。
「第一師団師団員全員集合!!」
声を張りあげる。
それは戦場の始まりを告げる喇叭のように響き渡った。
まだあちこちで騎士たちが賊と戦う中、突如魔術があちこちで暴発する。
敵を一気に蹴散らすと、次々と魔術師たちが集まってくる。
ずらりと副長の前に並んだ。
こういうのもなんだけど、全員面構えが違うというか、如何にも軍人という感じだ。
魔術師という割りに身体が大きい。余ほど鍛えているのだろう。
「我らがゼクレア様がピンチよ! 今から第一師団は王宮防衛に当たります。ついでに王宮も王様も救って、給料分働くのよ! いいわね、あんたたち!!」
『ラディーヌ様、了解です!!』
魔術師たちは敬礼する。
「よし。全団転進!! 待っていてくださ~~~~い!! ゼクレアさまぁあぁあああ!」
風の魔術を使って浮くと、まさに風の如く飛んでいてしまった。
残ったのは騎士団だけだ。全然騎士団に連絡も何もなしに飛んでいったけど、良かったのかな。
ラディーヌって言ってたけど、自己紹介も満足にできなかった。
あの人が将来、私の上司になるの?
ゼクレア師団長といい、第一師団ってもしかして変わり者が多かったりする?
そういう規約でもあるのかしら。
……じゃあ、私が第一師団に選ばれた理由ってなんだろ?
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