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1章
幕間 ルナの目標
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◆◇◆◇◆ ルナ side ◆◇◆◇◆
私は何もできない女の子でした。
間違いありません。
生まれてきた時から、周りからそう言われてきましたから。
非力で、身体も弱い。
農作業もできなかったし、沢に水を汲みに行くことすら一苦労で、村のみんなによく迷惑をかけていました。
そんな時、私はブラムゴン様の生け贄に選ばれました。
私はあっさり受け入れました。
それで村のみんながひどい目に遭わないのであれば、村の役に立つなら、むしろ本望です。
ブラムゴン様の屋敷での生活は、思いの外悪くないものでした。
ご飯が朝と晩にきちんと出て、村の生活よりも健康的に過ごせた程です。
それでも、屋敷で行われている男を喜ばせる訓練は、とても気持ちの悪いものでした。
頭がぼぅとする薬を飲ませたり、太くて硬い木の枝を握らされたり……。
最初、この木の枝がなんなのかわからなかったのですが、後で同じく囚われていた女の人に聞いて、とてもショックだったことを覚えています。
でも、私は続けました。
そうするしか私にはなかったからです。
今振り返ると、訓練よりもそうやって受け入れていく自分が、一番イヤだったように思います。
そうして私は出荷されることになりました。
ブラムゴン様曰く、私はあの大魔王様の奴隷になるそうです。
驚きを隠せませんでした。
ブラムゴン様はとても恐ろしい方だったので、大魔王様はもっと恐ろしい方なのでしょう。
そう思い、大陸の端で私は大魔王様を待っていました。
そしてやってきたのは、私と同じ人族の大魔王様でした。
大魔王様は不思議な方でした。
私が今まで出会った人族とも魔族の方ともどこか違う。
同じ場所に立っているのに、吸っている空気そのものが異なる。
そんな雰囲気を持っていました。
ブラムゴン様は、そんな大魔王様に私を差し出しました。
本当に私でいいのだろうか。
大魔王様が纏う雰囲気に圧せられた私は、それでも屋敷で練習した口上を述べました。
男を喜ばせるという言葉です……。
けれど大魔王様は――――。
『そんなことはしなくていい』
ふっと何か風が吹いたような気がしました。
大魔王様が持つ空気を、その瞬間だけ感じられたように思えました。
不意に涙が出そうになり、その時ようやく気づけたのです。
私自身のこと――――。
ずっとずっと私は誰かに止めてほしかった。
無力だから、何もできないからといって、誰かに言われるまま動く私を。
悲しくても、ひどいと頭でわかっていても、諦める自分を。
止めてほしかったんだと、いけない子だと叱ってほしかったのだと、私はようやく気づけたのです。
奇跡は続きました。
私に名前が与えられました。
そして大魔王様は、私にこう仰りました。
君は絶対に強くなる……。
正直、自分1人では信じられません。
でも、大魔王――ダイチ様はそう信じているようです。
だから、私もダイチ様を信じることにしました。
今私たちは集落へと抜ける森の道を歩いています。
前を歩いているのは、ダイチ様です。
気が付けば、その背中を追いかけているように思います。
いつか私はダイチ様の横に立てるでしょうか。
立って、いつも頭を撫でてくれる柔らかい手を繋ぐことはできるのでしょうか。
とくんとくん……。
……わ、私は何を考えているのでしょうか。
大魔王様と手を繋ぎたいなど。
とても恐れ多い。
でも、そう考えるだけで心臓が強く脈打つのがわかります。
無闇に顔が火照ります。
あの木の棒の正体を知った時と似たような感じです。
でも、それとは違います。
全く違います。
「どうしたの、ルナ?」
先を歩くダイチ様は、私の方に振り返ります。
こうして時々心配して、私の状態を確認してくれるのです。
私は首を振って答えます。
「なんでもありません」
「そう。なら良かった」
ダイチ様は笑って、また歩き出しました。
その大きな背中が再び私の方を向きます。
私は思いました。
強くなりたい……。
ダイチ様が信じる私になりたい。
だから、私は強くなる。
ダイチ様のためにも……。
私は何もできない女の子でした。
間違いありません。
生まれてきた時から、周りからそう言われてきましたから。
非力で、身体も弱い。
農作業もできなかったし、沢に水を汲みに行くことすら一苦労で、村のみんなによく迷惑をかけていました。
そんな時、私はブラムゴン様の生け贄に選ばれました。
私はあっさり受け入れました。
それで村のみんながひどい目に遭わないのであれば、村の役に立つなら、むしろ本望です。
ブラムゴン様の屋敷での生活は、思いの外悪くないものでした。
ご飯が朝と晩にきちんと出て、村の生活よりも健康的に過ごせた程です。
それでも、屋敷で行われている男を喜ばせる訓練は、とても気持ちの悪いものでした。
頭がぼぅとする薬を飲ませたり、太くて硬い木の枝を握らされたり……。
最初、この木の枝がなんなのかわからなかったのですが、後で同じく囚われていた女の人に聞いて、とてもショックだったことを覚えています。
でも、私は続けました。
そうするしか私にはなかったからです。
今振り返ると、訓練よりもそうやって受け入れていく自分が、一番イヤだったように思います。
そうして私は出荷されることになりました。
ブラムゴン様曰く、私はあの大魔王様の奴隷になるそうです。
驚きを隠せませんでした。
ブラムゴン様はとても恐ろしい方だったので、大魔王様はもっと恐ろしい方なのでしょう。
そう思い、大陸の端で私は大魔王様を待っていました。
そしてやってきたのは、私と同じ人族の大魔王様でした。
大魔王様は不思議な方でした。
私が今まで出会った人族とも魔族の方ともどこか違う。
同じ場所に立っているのに、吸っている空気そのものが異なる。
そんな雰囲気を持っていました。
ブラムゴン様は、そんな大魔王様に私を差し出しました。
本当に私でいいのだろうか。
大魔王様が纏う雰囲気に圧せられた私は、それでも屋敷で練習した口上を述べました。
男を喜ばせるという言葉です……。
けれど大魔王様は――――。
『そんなことはしなくていい』
ふっと何か風が吹いたような気がしました。
大魔王様が持つ空気を、その瞬間だけ感じられたように思えました。
不意に涙が出そうになり、その時ようやく気づけたのです。
私自身のこと――――。
ずっとずっと私は誰かに止めてほしかった。
無力だから、何もできないからといって、誰かに言われるまま動く私を。
悲しくても、ひどいと頭でわかっていても、諦める自分を。
止めてほしかったんだと、いけない子だと叱ってほしかったのだと、私はようやく気づけたのです。
奇跡は続きました。
私に名前が与えられました。
そして大魔王様は、私にこう仰りました。
君は絶対に強くなる……。
正直、自分1人では信じられません。
でも、大魔王――ダイチ様はそう信じているようです。
だから、私もダイチ様を信じることにしました。
今私たちは集落へと抜ける森の道を歩いています。
前を歩いているのは、ダイチ様です。
気が付けば、その背中を追いかけているように思います。
いつか私はダイチ様の横に立てるでしょうか。
立って、いつも頭を撫でてくれる柔らかい手を繋ぐことはできるのでしょうか。
とくんとくん……。
……わ、私は何を考えているのでしょうか。
大魔王様と手を繋ぎたいなど。
とても恐れ多い。
でも、そう考えるだけで心臓が強く脈打つのがわかります。
無闇に顔が火照ります。
あの木の棒の正体を知った時と似たような感じです。
でも、それとは違います。
全く違います。
「どうしたの、ルナ?」
先を歩くダイチ様は、私の方に振り返ります。
こうして時々心配して、私の状態を確認してくれるのです。
私は首を振って答えます。
「なんでもありません」
「そう。なら良かった」
ダイチ様は笑って、また歩き出しました。
その大きな背中が再び私の方を向きます。
私は思いました。
強くなりたい……。
ダイチ様が信じる私になりたい。
だから、私は強くなる。
ダイチ様のためにも……。
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