ボスは1人でいいと、魔王軍の裏ボスなのに暗黒大陸に追放されたので、適当に開拓してたら最強領地と嫁を手に入れた

延野 正行

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5章

第29.5話 おおがえるが あらわれた(後編)

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 夢でも幻でもありません。
 しかも驚いたことに大魔王様は1人でした。
 あの奴隷女の姿も見当たりません。

「大魔王様、ご機嫌麗しゅう」

 我が輩は頭を垂れました。
 死ぬほど嫌ですが、これはわざとです。
 相手に我が輩の余裕を見せつけるためのね。

「お前も元気そうだ。姿が変わるほどに、な」
「すこぶる元気ですよ。そうです。わかりますか。もう数週間前の我が輩だと思ったら、大間違いです」
「そのようだな。何があったか興味はあるけど、その前にブラムゴン……。お前に忠告しておきたいことがある」
「忠告……?」

 我が輩が眉を顰めると、大魔王様ははっきりと口にしました。

「帰ってくれないか?」

 はあ?
 帰ってくれ?
 何を言っているのですか?
 この後に及んで、命乞い?

 面白いですけど、今この状況で言われても面白くないですね。

 むしろ怒りすら沸いてきますよ。

「何を言っているんですか?」
「お前と、魔蛙族のために行っているんだ」
「巫山戯てんのか、てめぇぇぇぇぇぇえええ!!」

 ふざけている!
 帰れ?
 我が輩のためだぁ?

 大魔王だからって舐め腐りやがって。
 お前はとっくにエヴノス様に見限られているんだよ。
 雑魚がぁ!!

「……おっと失礼。少々取り乱してしまいました。ただあなたが何を言っているのかわかりませんね? 帰れだの。我が輩のためだの。あなたが戦いたくないという方便にしか聞こえない」
「そうだ。俺はお前達とは戦いたくない」
「今さら――。ふっ。わかりました。ならば、降伏なさい。我が輩に頭を垂れ、足の裏でも舐めてくれたら許して差し上げますよ」

 我が輩が言うと、大魔王は軽く首を振りました。

「わかってないようだな、ブラムゴン」
「はあ?」
「これは降伏勧告でも、その宣言でもない。言ったろ? 忠告だって」
「我が輩らに何もせず、後ろの海に飛び込んで逃げ帰れと?」
「そういうことだ。じゃないと、とんでもないことになるぞ」
「げっげっげっげっげっげっげっげっ……」
「?」
「なんですか、あなたは? そこまで煽ってヽヽヽ、我が輩に殺されたいのですか?」
「いや、別に俺は煽ってるつもりはない。お前の命を心配してだな」
「何が心配だ、ゴラァァァァアアアア!!」

 余裕もない。
 魔族としての気品も必要ない。
 今はこの怒りをぶつけたい。

 我が輩は今すぐ、この大魔王をぶっつぶしたい!!

「大魔王ダイチ!! 忠告感謝しましょう! ですが、我が輩の答えは『いいえ』です。永久に、何度問われようと、我が輩の答えは変わりません!!」

 我が輩は低く喉を鳴らした。
 合図を聞いた魔蛙族が、崖の下から這い上がっていく。
 一族郎党すべてここに集結させた。
 その数200。

「早い者勝ちです。誰かあの大魔王をぺちゃんこにして上げなさい!!」

 我が輩は再び低く唸り、戦闘開始を告げる。
 瞬間飛び出した――いや、高く跳躍したのは、ドッドローだ。
 魔蛙族一大きな魔蛙族。
 その力と重量は、我が輩を越える魔蛙族の切り込み隊長です。

 ドッドローが空へと跳躍すると、それはまさに巨大な雲のようでした。
 常に薄暗い暗黒大陸に大きな影が浮かび上がります。
 その中心にいたのは、大魔王でした。

「さあ! 泣き叫べ! 慈悲を乞え! もう遅いですけ――――」

 我が輩は言葉の途中で絶句しました。
 大魔王は微動だにしていなかったからです。
 それどころか泣くことも叫ぶこともなかった。

 ただ肩を竦めて、こう言うだけでした。

「やれやれ……。こうなってしまったか」


 こちらも戦闘開始だ、ルナ、ミャア、ステノ。


 突如、大魔王の背後に現れたのは、3人の娘でした。
 2人は人族でしたが、1人は獣人です。
 小賢しい。獣人との協力を取り付けるとは……。

「それがどうした! 獣人の1人や2人、協力したところで」
「変わるさ。その人間が変わろうという気持ちがあれば」

 瞬間、飛び出したの、獣人の娘だった。
 ドッドローのように大きく跳躍する。

「何をするつもりだ?」
「最後通告だ、ブラムゴン。今ならまだ間に合う」


 帰ってくれ……。


「ふざけるな!! やれ、ドッドロー」
「うごおおおおおおおおお!!!!」

 ドッドローのうなり声が響く。
 暗黒大陸の空気と大地を揺るがした。
 それでも獣人の娘は退かない。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃさつっっっっっっっ!!!!」


 三段突きみゃああああああああああああああああ!!


 それは3発の大きな花火のようだった。
 ぐらっと傾いたのは、ドッドローの大きな巨体だ。
 巨大な竜が同じく巨大な槍に射貫かれたかのように、身体が後ろに反る。
 勢いそのままに我が輩の方へと向かって落ちてきた。

「げぇええぇぇぇええぇえぇええぇえぇえぇえぇえ!!」

 再び大地が揺らぐ。
 数匹の魔蛙族がドッドローの下敷きになっていた。
 その1匹が我が輩だ。

「ぐっ! 重い! 重い重い!! ど、ドッドローどけ!!」

 悲鳴を上げる。
 だが、ドッドローは全く反応しない。
 完全に伸びきっていた。

 我は周辺の魔蛙族の舌に捕まり、なんとかドッドローの下から脱出する。
 くそ! こんな醜態をいきなりさらすことになるなんて。
 いや、そんなことよりもだな。

「何故だ…………。ドッドローが獣人なんかの攻撃で……」
「言わなかったか、ブラムゴン」

 不意に後ろから声をかけられ、我が輩は大魔王に向き直った。

 腕組みし、我が輩を睨む。
 その鋭い眼差しに、我は「げぇ」と1歩たじろいだ。

「この子たちは強くなる。お前よりも、魔族よりもな」

 不敵に微笑むのだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

引き続き更新して参ります。
よろしくお願いします。
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