ボスは1人でいいと、魔王軍の裏ボスなのに暗黒大陸に追放されたので、適当に開拓してたら最強領地と嫁を手に入れた

延野 正行

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8章

第50話 ひのせいれいが ふっかつした

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 ――って、城!?

 ドリーとウィンドに案内されるがままやってきたのは、ドワーフの城だった。
 結局、戻ってきたのだ。
 メーリンと、俺たちの姿を見て、ドワーフたちは城門を開ける。
 わらわらと集まり、俺たちを歓迎した。

「アイヤー! 良かったヨ。みんな、無事で」
「ラリホー! 大魔王殿、それで首尾の方は?」

 チンさんと、ドワーフの族長もまた出迎えてくれた。

「それが、精霊たちが言うには、この城の中に火の精霊がいるらしいんですよ」
「アイヤー! この城に火の精霊?」

 チンさんは驚く。
 首を捻ったのは、族長だ。

「そんなもの城にはいないはずだが」
「パパ……。何か知っているなら白状するネ」
「そうだみゃ! じゃないと、その役立たずな舌を切るアルよ」
「熱々に熱した牛の銅像に貼り付けるといいネ。すぐに口割るよ」
「それなら、爪を1本1本……」

 怖い話をするなよ。
 ステノまで……。

 完全に族長がドン引きして、血の気が引きすぎて、顔が真っ黒になってるぞ。
 なんかドンドン、某有名大作RPGのドワーフに近づきつつあるんだけど。

「ごほん! ともかく城のドワーフ総出で探させよう」

 というわけで、みんなで火の精霊を探すことになった。
 ドワーフの城の隅から隅。
 さらに古い文献なんかも調べてもらったけど、記録らしきものはなかった。

「どこにあるんだろうか?」
『この城のどこかというのはわかるんですが』
『ああ。それだけは間違いない』

 ドリーもウィンドも言うのだけど、さっぱり見つからない。
 途方に暮れる俺に、ルナが水を差し入れてくれた。

「ダイチ様、これを……」
「ありがとう、ルナ」

 俺はぐびぐびと水を飲む。
 美味い!
 そう言えば、封印の洞窟から息も吐かず、火の精霊を探してたんだな。
 ルナもみんなも疲れているだろう。

「ルナ、君たちは1度休んだ方がいい」
「私は大丈夫です。休むならダイチ様の方ですよ」
「うん。でも、水を飲んで、少し疲れが癒えたよ。頭も少しスッキリした」
「それは良かったです」

 1番の癒しはルナの笑顔だな。

『キィッ!』

 チッタもルナの肩に駆け上がる。
 フワフワの尻尾を揺らした。

「お前もな、チッタ」

 チッタのもふもふの毛を撫でた。

 よし。少し元気が出た。
 もうちょっと頑張ろう。
 俺は立ち上がる。
 すると、俺よりも遥かに大きな影がそびえていることに気付いた。
 ドワーフの始祖の像だ。
 探しているうちに、城の真ん中まで来てしまったらしい。

 俺は像をしばし見つめた。

「もしかしたら…………」
「ダイチ様?」
「ルナ、ルーンアクスはあるかい?」
「先ほど、ドワーフの武器庫に保管いたしましたが」
「すぐに持ってきて!」
「は、はい!」

 俺の差し迫った声を聞いて、ルナは走り出した。
 入れ替わるように騒ぎを聞きつけたミャアやメーリン、ステノたちが集まってくる。

「どうしたネ、大魔王様。大きな声、びっくりするアルよ」
「何か見つけたみゃ?」
「今、ルナが走っていきましたが」

 1度、俺は首を振る。

「見つけてはいない……」
「「「え??」」」
「けど、まだ探していないところを見つけた」

 ドワーフの始祖の像を見上げる。

「まさか、ご先祖様の像の中アルか?」
「でも、この像を壊すのは難しいみゃ」
「ミャアの言うとおりですよ、ダイチ様」
「うん。でも、あのルーンアクスなら」
「持ってきました、ダイチ様」

 ちょうどルナが成獣となったチッタに跨って、戻ってくる。
 その胸にルーンアクスを抱えていた。

「よし。ルナ、頼むよ」
「は、はい。お任せ下さい」

 ルナは振りかぶる。
 その魔力に反応したのか。
 ルーンアクスが光り輝き始めた。

 そして封印の洞窟でもそうであったように、渾身の力を込めて振り抜く。

「やああああああああああ!!」

 ルナの裂帛の気合いが、ドワーフの像を貫く。
 その瞬間、キィンと甲高い音を立てて、斬撃の光が横に閃いた。

 ガラリ……。

 最初に崩れたのは、ルーンアクスだった。
 刃がボロボロになると、そのまま砂のように崩れていく。
 ルーンアクスでも、像を壊すことはできなかったのか。
 そう思った直後、像に1本の線が閃いた。
 徐々に像が左にスライドしていく。
 やがて速度は増して、横に倒れた。
 ついに中身が現れる。

「やった!」
「やっっっったみゃああああ!!」
「やりましたね!」
「アイヤー! ご先祖様の像が……。でも、まあ仕方ないネ」

 俺たちは諸手を挙げて喜ぶ。
 そして俺はルナの頭を撫でた。
 横のチッタもペロペロと頬を舐める。
 ダブルで称賛だ。

「よくやったな、ルナ」
「ありがとうございます。それで、中身は……」

 瞬間、像から炎が立ち上る。
 辺りは一瞬にして紅蓮に染まった。
 俺たちはそれを見て、おののくしかない。

 すっかり忘れていた。

 ドリーも、ウィンドも封印されていて、自我を失っていた。
 火の精霊もそうなっていないとは言い切れない。

「みんな、気を付けて!」

 俺は戦闘準備を促す。
 だが――――。

「その必要はあらへんよ」

 どこからともなく関西訛の声が聞こえてきた。

 立ち上った炎の中から、ドラゴンに似た翼を生やした女性が現れる。
 炎でよく見えないけど、ドリーと同じく一糸も纏っていない。
 良かった……。
 ここにソンチョーがいなくて。

「ラリホー! 女子の裸である。皆のもの、胸の大きい女の裸が!!」

 ドワーフの族長、お前もか!
 お願いだから、誰か1人でもいいからまともな族長に会いたい。

 大騒ぎする族長の頭を、メーリンは手刀でかち割り退場させると、俺たちは火の精霊の方に向き直った。

「どういうこと?」
「どういうことも、こういうこともあらへん。うちは正気や。この像の中で眠らされてただけやさかい」
「眠らされてた?」
「せや」

 俺は火の精霊から詳しい話を聞いた。

 大昔――。
 次々と精霊や精霊王たちが封印される中、ドワーフたちは自分たちの技術の粋を集めて作ったこの像に、火の精霊を匿ったのだという。
 いつか火の精霊が出ても問題ない時が来たら、ルーンアクスを使って、ここから出す予定だったのだが……。

「封印の洞窟の仕掛けがあまりに強力すぎて、ドワーフではクリアできなくなったみたいやね。それから、うちの存在は忘れられていったちゅうことやろ」
「そういうことだったのか?」
「でも、助かったわ。いくら精霊やいうても、100年間ここに閉じこめられるんは、退屈やったさかいな。それで、あんた名前は?」
『サラマンダー、あまり慣れ慣れしいのはどうかと思いますよ。この方は、ダイチ様。この暗黒大陸を、元に戻そうとしている方です』

 声を上げたのは、ドリーだった。

「なんやドリアードやないの。この感じ……もしかして、ジンもおるん」
『ふん! 相変わらず緩いヤツだ。火の精霊が聞いて呆れる』
「ええやんか。ゆるふわ系の精霊がいても……」

 どうなんだろうか。
 ゆるふわ系にプラスして、関西弁って……。
 なかなかのキャラの盛り具合だぞ。

「なんか同窓会みたいで面白そうやわぁ。うちも協力させてもらいますよって」

 火の精霊サラマンダーは、屈託のない笑顔を浮かべるのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

火の精霊の能力開示は次回。
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