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第23話
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十数分前
圭吾はマッドな科学者エトウの後ろで銃を抜いた時、横たわる『蒼真』と目が合ってしまった。
「エトウさん」
『蒼真』はエトウを呼び寄せ
「喉が渇いちゃったよ。何か飲ませてくれない?」
「そうだね、よく寝てたからな。待ってて」
エトウは『蒼真』に笑いかけ、隣の部屋へ入って行った。それを確認して『蒼真』は圭吾へと目を戻す。
「15号…来てるの?…ここに」
一瞬15号…?と悩んだが、さっきエトウが逃げ出した完成体が15号だと言っていた。それが自分の知る蒼真だと理解していたことを思い出した。
「ああ、来てるらしい。まだ会ってないけどな」
「ここで部外者に会うのは初めてだよ。きっとこんな実験をしているから、止めさせようと神様が送ってくれた人なんだね」
私利私欲で突っ走ってきた凡人だよ、と言いたかった。なんて捉え方をするんだろう。自分には想像を絶する生き方だ。
気づくと、『蒼真』の目に涙が溢れている。
「15号は…俺を助けに来てくれたんだろうな…ここを壊して楽にしてくれるんだ」
圭吾から目をはなし天井を見つめながら『蒼真』は続けた。
「頼みがあるんだけど…聞いてもらえるかな」
「なんだ?」
ー言ってみろーと圭吾は静かに言った。
「この部屋のシステム、壊してよ」
「なに?」
「俺の体もうボロボロでさぁ、いくらやったって良いクローン体できないよ。それに、俺から造られた俺が…実験にされたりするの見るの、嫌なんだ…もう」
圭吾は言葉を詰まらせた。『蒼真』はそんなこといいながら笑っているのだ。
「ここのコンソールはレーザーの銃でも壊せるから」
ーそれが俺を助けることだからーと、さっき圭吾が銃を出した所をみていた『蒼真』は、いまだに持ち続けている圭吾の手元を見た。
「やってくれる…?」
楽になりたいんだ…とつけくわえて『蒼真』は目を瞑る。
圭吾は逡巡した。そう言われても、ここを破壊したら『蒼真』が…
「おまたせ~」
飲み物を持って戻ってきたエトウは、『蒼真』にストローでなにかをのませ、また取り憑かれたようにクローンの話を始めた。
人体実験の内容を事細かに離し始めた頃、圭吾は銃を一発コンソールへ打ち込んだ。
「何をするんだ!」
ひっくり返った声でエトウは気が狂ったかのように叫ぶ。そして飛びかかってこようとしたエトウの足を一発撃つと、痛い痛いと叫びながら無抵抗になった。
圭吾は立て続けに数発コンソールへ撃ち込み、緊張で肩で息をしながら漸く止める。
「ありがとう…えと…」
「圭吾だ」
「圭吾」
瞬間胸が痛んだ。蒼真と同じ声で自分を呼ばれる、顔も身体もどこも蒼真と違わないが、全く別人の『蒼真』だ。
「15号を頼むね。15号は可哀想だから…。俺から出来たやつで1番元気で1番賢い奴なくせに、1番可哀想だった。俺はもう、生きたくないけどあいつは生きてほしい。幸せになってもらいたいんだ…。してくれる…でしょ?」
もういいや…と腕のチューブを毟り取って『蒼真』は圭吾の手をにぎった。
「約束する」
「翔は…一緒?」
「ああ。でも翔は幸せにしてくれる奴が別にいるから…大丈夫だ」
ーそう、よかったーと『蒼真』は笑って、そして涙を流した。
「爆発するから…行って。本当にありがとう、圭吾」
バチバチッと機械が鳴る。圭吾は一度『蒼真』の手をぎゅっと握りしめて、そして
「じゃあ…」
と駆け出した。
蒼真の目に涙が溢れる。
「だから、俺はお前を連れて行く。死ぬことが全てじゃない。お前は蒼真なんだから…生きるんだ」
「辛いのは…可哀想だったのはオリジナルの蒼真(あいつ)だったのに…。俺が逃げたから、あんなボロボロだった身体をまた細胞摘出に使われて…可哀想なのはあいつなのに…」
「だから…『蒼真』の分も生きなくちゃだろ…1人じゃないぞ」
蒼真の肩を抱き、引き寄せた。
「何やってんだー!はやくしろよ!」
あっちの方でジョイスが叫んでいる。
「とにかくここから出ることが先決だ」
抱いていた蒼真の肩をうながして、そしてジョイスが叫ぶ方へと一緒に走り出した。
原子炉の爆発に巻き込まれることも、怪しまれることもなく、4人は病院から抜け出すことに成功した。
研究室を出る寸前で蒼真と翔の足が止まった時には圭吾とジョイスも少しハッとしたものだが、通路を振り返っている2人を様子を見ながらもそのままにしておいた。
感慨もあるだろう。嫌っていた場所でも、自分達が文字通り生まれた場所なのだ。
「翔」
「蒼真」
2人は呼び合い、そして頷きあってそこを出た。
本当の意味でMBLからだしてくれた人と共に。
「あっちに車がある。乗り込んじまえばもう、こっちのもんだな」
前方を指差しながらジョイスが笑う。
歩いていると、地面がズズズ…となったかと思うと、一度ドンッと激しく揺れてすぐに収まった。
「爆発したようだな…」
地面を見ながら圭吾が足をトントンと踏み鳴らす。
これで本当に、蒼真達の故郷は無くなったのだ。
「そういや、放射能とかも大丈夫なのか?」
最後に…とジョイスは車に乗り込みながら蒼真を振り返った。
「除去装置くらいMBLにだってあるよ。大丈夫だって」
蒼真は苦笑しながらシートに収まる。
取り敢えずは圭吾の部屋だな…と車は発進していった。
初夏の陽気にしては暑く、車の中は快適だがもう4時だと言うのに太陽はまだ明るい日差しを投げかけていた。
朝早くから走り回り、MBLで暴れ回って結構4人は疲れている。
MBLを出たのが午後1時頃。区内へ入るのにどうしても混む道路がありそこで少し時間を要したが、なんとか区内へ入った時全員がお腹が空いていることに気づいた。
「そういやあ、今朝クロワッサン一個とコーヒー飲んだだけだ…」
とジョイスが言えば、
「そういや俺なんも食ってなかったな…」
と蒼真。
翔に至っては、目が覚めたらガラスケースの中でした…と、今なら少し笑ってブラックジョークになるが、1番可哀想な事態であった。
「どこかで食事でもして行くか」
圭吾の言葉はごく普通のものではあったが、今までこの4人の中ではあまり使わない言葉だった。
夜に飲み屋には行っていたが、昼のさなかに食事はなかったのだ。
「ハンバーガー!」
「ラーメン!」
「ステーキ!」
圭吾の言葉の直後に3人が一度に言った言葉がもう、全然バラバラでそれが一度にカバーできるのはファミリーレストランくらいしかない。
「いいのか…ファミレスで…」
圭吾が確認をとる。
ジョイスは良い大人がか…と少しだけ渋ったが、蒼真と翔は別にいいけど?な感じだったので、仕方なく合わせる形で、それでも少し良いとされるファミリーレストランを選んで寄り込んだ。
「なんか…もう何日もここに来てなかったみたいだな」
圭吾の部屋に入っての蒼真の一言目だった。
実際は昨日の朝までここにいたのだが、この二日間が濃密すぎで当の圭吾自身も1週間は空けた気分だ、と笑っていた。
西日の入る圭吾の部屋は、今ちょうど夏のオレンジ色が絶好調で、蒼真と翔はリビングへ走り、オレンジの部屋のソファでなんだか楽しそうだ。
夕日の顔は毎日変わるし、天気にもよる。蒼真はー結構居たけど初めてだーと部屋の色を面白がっていた。
「ビールもらっていいか」
ジョイスが冷蔵庫の前で聞いてきたので、自分の分と蒼真の分も頼む、といって、グラスを用意し、翔が飲む炭酸水とガムシロも用意した。
リビングで飲み物で一息ついた後、それじゃあ…と圭吾が切り出した。
「今度は、きちんとした事を話をしてくれるな」
グラスのビールを一気に空けた蒼真は
「前にもこんなことあったな」
わらう蒼真に
「そういえば…前の空港帰りだったか」
と、ジョイス
「誤魔化しに乗るんじゃない」
圭吾がジョイスをみる。
「言いたくないことでもちゃんと話してくれ。もうこの4人しか知るものはいないんだ。だからちゃんとしたことが聞きたい」
圭吾の真摯な目に、蒼真は少しの間黙っていたが、ソファの上で両足を抱え込んでポツポツと話し始めた。
ー5年前ー
「ハワードッ」
バタバタと走ってきた蒼真は、ドアがスライドするのももどかしく室内へ駆け込んだ。
「HIVの薬完成したんだって?」
「情報が早いな」
奥のデスクについていたハワードは、飛びついてくる蒼真を椅子の上で受け止める。
13になっても蒼真は、こうやって人に懐くのが好きな子供だった。
体格が同年齢の子に比べたら少々小柄なので、飛びかかられても一般男性なら苦痛に感じるほどでもない。
「さっきカーシーに聞いたんだ。明日マスコミ発表?」
「カーシーにも困ったものだね。口が軽くていかん」
ハワードは困った顔をして蒼真の髪を撫でている。
「俺が無理やり聞いたんだよ。だってこの間もうすぐだって言ってたじゃないか、ハワードが」
3歳から育てたと公表している蒼真が、ハワードはかわいくてしかたないようにみえた。
実際蒼真もハワードに懐いているし、何よりもその頭脳がハワードがそばから離さない要因になっている。
「所で蒼真、翔はどうしてる?」
「元気だよ。さっき元素記号をインプットした。翔が目を覚ましたらテストしてみるんだ。翔はもう色んなこと覚えたよ」
ハワードの膝から降りて、蒼真は傍の椅子へ座り直した。
「そうか、基礎学力を怠ってはいけないよ。計算やアルファベット、ここにいるなら多少の漢字もね」
「わかってるって、そこはもう終わってるからさ」
「そうだったんだな、蒼真は仕事が早いね。そうそう、また後で翔を借りたいんだがいいかい?」
膝の上で指を組んで、ハワードは優しく笑いかける。
「またなんか実験すんの?あまり無茶なことさせないでよ?まだ器官が繊細だからさ」
蒼真の言葉にー蒼真が1から作り上げてるんだから大丈夫だろうーと微笑み続けた。
「明日の夜にパーティーあるけど行くかい?」
「なんのパーティー?ん~いいや、明日はずっと翔と遊ぶ約束してあるから」
「なんだつまらんな」
「俺がいかなくたって、何が変わるもんでもないだろ?」
いつの間にか目の前に立っていたハワードに微笑む。
「そうだけどな…」
ハワードはそう呟いて腰を屈めた。唇が合わされ蒼真の青い目が閉じられる。
「人が来るよ?」
首筋に這う舌の感触に身をすくませながら軽くハワードを押し返した。
「大丈夫、来ないよ」
「なに、そんな自信もって…」
「来ないように言ったからね」
クックッと笑ってシャツのボタンを外してゆくハワードに
「ずるい…」
と呟いて、脱がされるに身を任せた。
きっかけは、ほんの些細なことだった。
その夜蒼真は、ハワードがパーティーに出席している間に地下4階のハワードのコントロールルームへ忍び込んだ。
部屋は出入り自由にしてもらっているけど、地下の研究室は『翔」を開発している部屋にしか入れてもらえず、ましてコントロールルームなどは、入ってみたい部屋ナンバーワンみたいな所だったから、ハワードのいない今夜、忍び込むことを決意していた。
「すげえディスプレイの数…1.2.3…36個かあ」
この部屋で、地下1、2階で行われている手術や検査も見学できるし、医療過誤などの問題もここで調査ができるようになっている。
しかし蒼真は、ここで何が出来るのかまでは理解していなかった。
ただ、大型の機械がゾロリと並んでいて、単純にかっこいいし、工学的なことにも興味があったから、コンソールのパネルをみて胸も高鳴る。
「大抵…これが画面を映すやつ…なんだよな…と」
パネルキーの赤いところを操作するとパッと画面が明るくなる。カメラを指定しないとどうやら映らないらしく、画面は真っ白だ。
「えっと、どれがなんだかわかんないな…exptSH…?なんだこれ」
透けて見えるパネルキーの文字をみて蒼真は何気なくexptSHのキーを押した。
押して、動きが止まってしまった。
36枚もの画面に映ったのは、10数人の『翔』だったから。
その中には、HIV特有の肌の疾患を現しているものや、瀕死にぐったりしている者も見受けられる。
「翔…?」
しかし数分前まで一緒にいた翔は…元気にインプットした元素記号答えてたし、こういった肌疾患もましてグッタリなんて…まさかこれは…翔のクローン体…?
蒼真の脳裏に時々翔を貸してくれというハワードの声が蘇った。
『翔、ハワードに呼ばれていつもなにしてんの?』
一度聞いたことがある。その時翔は、頬を染めて俯くだけだった。だから蒼真は『ああ、そういうことね…』と、ただ納得していただけだった。
蒼真自身ハワードを尊敬していたから、蒼真がつくった翔が何をされていようと腹は立たなかったが…ハワードは翔のDNAを採取していたに過ぎなかったのだ。そしてそれでクローン体を作り、ワクチンや特効薬の人体実験に…。
そう思い立った時、蒼真は嫌な予感がした。
自分もハワードとは何度も寝ている…。
コンソールに目を落とすとoriSOとexptSOが各々3つづつキーが並んでいた。
さっきの exptSHがexperiment SHOH だとしたら…このexptSOは…
蒼真は愕然としてキーを見下ろす。キーを押すことができなかった。
でも確かめたい、確かめないと…
蒼真は恐る恐るexptSO 1 のボタンを押した。押してすぐに目を閉じたが、画面が目の裏で青くなるのが感じられる。ー青?ー
ゆっくりと目を開ける。そこには青白い画面が映っており、その青白い画面の中に映っているものを目の当たりにし、蒼真はその場で凍りついた。
圭吾はマッドな科学者エトウの後ろで銃を抜いた時、横たわる『蒼真』と目が合ってしまった。
「エトウさん」
『蒼真』はエトウを呼び寄せ
「喉が渇いちゃったよ。何か飲ませてくれない?」
「そうだね、よく寝てたからな。待ってて」
エトウは『蒼真』に笑いかけ、隣の部屋へ入って行った。それを確認して『蒼真』は圭吾へと目を戻す。
「15号…来てるの?…ここに」
一瞬15号…?と悩んだが、さっきエトウが逃げ出した完成体が15号だと言っていた。それが自分の知る蒼真だと理解していたことを思い出した。
「ああ、来てるらしい。まだ会ってないけどな」
「ここで部外者に会うのは初めてだよ。きっとこんな実験をしているから、止めさせようと神様が送ってくれた人なんだね」
私利私欲で突っ走ってきた凡人だよ、と言いたかった。なんて捉え方をするんだろう。自分には想像を絶する生き方だ。
気づくと、『蒼真』の目に涙が溢れている。
「15号は…俺を助けに来てくれたんだろうな…ここを壊して楽にしてくれるんだ」
圭吾から目をはなし天井を見つめながら『蒼真』は続けた。
「頼みがあるんだけど…聞いてもらえるかな」
「なんだ?」
ー言ってみろーと圭吾は静かに言った。
「この部屋のシステム、壊してよ」
「なに?」
「俺の体もうボロボロでさぁ、いくらやったって良いクローン体できないよ。それに、俺から造られた俺が…実験にされたりするの見るの、嫌なんだ…もう」
圭吾は言葉を詰まらせた。『蒼真』はそんなこといいながら笑っているのだ。
「ここのコンソールはレーザーの銃でも壊せるから」
ーそれが俺を助けることだからーと、さっき圭吾が銃を出した所をみていた『蒼真』は、いまだに持ち続けている圭吾の手元を見た。
「やってくれる…?」
楽になりたいんだ…とつけくわえて『蒼真』は目を瞑る。
圭吾は逡巡した。そう言われても、ここを破壊したら『蒼真』が…
「おまたせ~」
飲み物を持って戻ってきたエトウは、『蒼真』にストローでなにかをのませ、また取り憑かれたようにクローンの話を始めた。
人体実験の内容を事細かに離し始めた頃、圭吾は銃を一発コンソールへ打ち込んだ。
「何をするんだ!」
ひっくり返った声でエトウは気が狂ったかのように叫ぶ。そして飛びかかってこようとしたエトウの足を一発撃つと、痛い痛いと叫びながら無抵抗になった。
圭吾は立て続けに数発コンソールへ撃ち込み、緊張で肩で息をしながら漸く止める。
「ありがとう…えと…」
「圭吾だ」
「圭吾」
瞬間胸が痛んだ。蒼真と同じ声で自分を呼ばれる、顔も身体もどこも蒼真と違わないが、全く別人の『蒼真』だ。
「15号を頼むね。15号は可哀想だから…。俺から出来たやつで1番元気で1番賢い奴なくせに、1番可哀想だった。俺はもう、生きたくないけどあいつは生きてほしい。幸せになってもらいたいんだ…。してくれる…でしょ?」
もういいや…と腕のチューブを毟り取って『蒼真』は圭吾の手をにぎった。
「約束する」
「翔は…一緒?」
「ああ。でも翔は幸せにしてくれる奴が別にいるから…大丈夫だ」
ーそう、よかったーと『蒼真』は笑って、そして涙を流した。
「爆発するから…行って。本当にありがとう、圭吾」
バチバチッと機械が鳴る。圭吾は一度『蒼真』の手をぎゅっと握りしめて、そして
「じゃあ…」
と駆け出した。
蒼真の目に涙が溢れる。
「だから、俺はお前を連れて行く。死ぬことが全てじゃない。お前は蒼真なんだから…生きるんだ」
「辛いのは…可哀想だったのはオリジナルの蒼真(あいつ)だったのに…。俺が逃げたから、あんなボロボロだった身体をまた細胞摘出に使われて…可哀想なのはあいつなのに…」
「だから…『蒼真』の分も生きなくちゃだろ…1人じゃないぞ」
蒼真の肩を抱き、引き寄せた。
「何やってんだー!はやくしろよ!」
あっちの方でジョイスが叫んでいる。
「とにかくここから出ることが先決だ」
抱いていた蒼真の肩をうながして、そしてジョイスが叫ぶ方へと一緒に走り出した。
原子炉の爆発に巻き込まれることも、怪しまれることもなく、4人は病院から抜け出すことに成功した。
研究室を出る寸前で蒼真と翔の足が止まった時には圭吾とジョイスも少しハッとしたものだが、通路を振り返っている2人を様子を見ながらもそのままにしておいた。
感慨もあるだろう。嫌っていた場所でも、自分達が文字通り生まれた場所なのだ。
「翔」
「蒼真」
2人は呼び合い、そして頷きあってそこを出た。
本当の意味でMBLからだしてくれた人と共に。
「あっちに車がある。乗り込んじまえばもう、こっちのもんだな」
前方を指差しながらジョイスが笑う。
歩いていると、地面がズズズ…となったかと思うと、一度ドンッと激しく揺れてすぐに収まった。
「爆発したようだな…」
地面を見ながら圭吾が足をトントンと踏み鳴らす。
これで本当に、蒼真達の故郷は無くなったのだ。
「そういや、放射能とかも大丈夫なのか?」
最後に…とジョイスは車に乗り込みながら蒼真を振り返った。
「除去装置くらいMBLにだってあるよ。大丈夫だって」
蒼真は苦笑しながらシートに収まる。
取り敢えずは圭吾の部屋だな…と車は発進していった。
初夏の陽気にしては暑く、車の中は快適だがもう4時だと言うのに太陽はまだ明るい日差しを投げかけていた。
朝早くから走り回り、MBLで暴れ回って結構4人は疲れている。
MBLを出たのが午後1時頃。区内へ入るのにどうしても混む道路がありそこで少し時間を要したが、なんとか区内へ入った時全員がお腹が空いていることに気づいた。
「そういやあ、今朝クロワッサン一個とコーヒー飲んだだけだ…」
とジョイスが言えば、
「そういや俺なんも食ってなかったな…」
と蒼真。
翔に至っては、目が覚めたらガラスケースの中でした…と、今なら少し笑ってブラックジョークになるが、1番可哀想な事態であった。
「どこかで食事でもして行くか」
圭吾の言葉はごく普通のものではあったが、今までこの4人の中ではあまり使わない言葉だった。
夜に飲み屋には行っていたが、昼のさなかに食事はなかったのだ。
「ハンバーガー!」
「ラーメン!」
「ステーキ!」
圭吾の言葉の直後に3人が一度に言った言葉がもう、全然バラバラでそれが一度にカバーできるのはファミリーレストランくらいしかない。
「いいのか…ファミレスで…」
圭吾が確認をとる。
ジョイスは良い大人がか…と少しだけ渋ったが、蒼真と翔は別にいいけど?な感じだったので、仕方なく合わせる形で、それでも少し良いとされるファミリーレストランを選んで寄り込んだ。
「なんか…もう何日もここに来てなかったみたいだな」
圭吾の部屋に入っての蒼真の一言目だった。
実際は昨日の朝までここにいたのだが、この二日間が濃密すぎで当の圭吾自身も1週間は空けた気分だ、と笑っていた。
西日の入る圭吾の部屋は、今ちょうど夏のオレンジ色が絶好調で、蒼真と翔はリビングへ走り、オレンジの部屋のソファでなんだか楽しそうだ。
夕日の顔は毎日変わるし、天気にもよる。蒼真はー結構居たけど初めてだーと部屋の色を面白がっていた。
「ビールもらっていいか」
ジョイスが冷蔵庫の前で聞いてきたので、自分の分と蒼真の分も頼む、といって、グラスを用意し、翔が飲む炭酸水とガムシロも用意した。
リビングで飲み物で一息ついた後、それじゃあ…と圭吾が切り出した。
「今度は、きちんとした事を話をしてくれるな」
グラスのビールを一気に空けた蒼真は
「前にもこんなことあったな」
わらう蒼真に
「そういえば…前の空港帰りだったか」
と、ジョイス
「誤魔化しに乗るんじゃない」
圭吾がジョイスをみる。
「言いたくないことでもちゃんと話してくれ。もうこの4人しか知るものはいないんだ。だからちゃんとしたことが聞きたい」
圭吾の真摯な目に、蒼真は少しの間黙っていたが、ソファの上で両足を抱え込んでポツポツと話し始めた。
ー5年前ー
「ハワードッ」
バタバタと走ってきた蒼真は、ドアがスライドするのももどかしく室内へ駆け込んだ。
「HIVの薬完成したんだって?」
「情報が早いな」
奥のデスクについていたハワードは、飛びついてくる蒼真を椅子の上で受け止める。
13になっても蒼真は、こうやって人に懐くのが好きな子供だった。
体格が同年齢の子に比べたら少々小柄なので、飛びかかられても一般男性なら苦痛に感じるほどでもない。
「さっきカーシーに聞いたんだ。明日マスコミ発表?」
「カーシーにも困ったものだね。口が軽くていかん」
ハワードは困った顔をして蒼真の髪を撫でている。
「俺が無理やり聞いたんだよ。だってこの間もうすぐだって言ってたじゃないか、ハワードが」
3歳から育てたと公表している蒼真が、ハワードはかわいくてしかたないようにみえた。
実際蒼真もハワードに懐いているし、何よりもその頭脳がハワードがそばから離さない要因になっている。
「所で蒼真、翔はどうしてる?」
「元気だよ。さっき元素記号をインプットした。翔が目を覚ましたらテストしてみるんだ。翔はもう色んなこと覚えたよ」
ハワードの膝から降りて、蒼真は傍の椅子へ座り直した。
「そうか、基礎学力を怠ってはいけないよ。計算やアルファベット、ここにいるなら多少の漢字もね」
「わかってるって、そこはもう終わってるからさ」
「そうだったんだな、蒼真は仕事が早いね。そうそう、また後で翔を借りたいんだがいいかい?」
膝の上で指を組んで、ハワードは優しく笑いかける。
「またなんか実験すんの?あまり無茶なことさせないでよ?まだ器官が繊細だからさ」
蒼真の言葉にー蒼真が1から作り上げてるんだから大丈夫だろうーと微笑み続けた。
「明日の夜にパーティーあるけど行くかい?」
「なんのパーティー?ん~いいや、明日はずっと翔と遊ぶ約束してあるから」
「なんだつまらんな」
「俺がいかなくたって、何が変わるもんでもないだろ?」
いつの間にか目の前に立っていたハワードに微笑む。
「そうだけどな…」
ハワードはそう呟いて腰を屈めた。唇が合わされ蒼真の青い目が閉じられる。
「人が来るよ?」
首筋に這う舌の感触に身をすくませながら軽くハワードを押し返した。
「大丈夫、来ないよ」
「なに、そんな自信もって…」
「来ないように言ったからね」
クックッと笑ってシャツのボタンを外してゆくハワードに
「ずるい…」
と呟いて、脱がされるに身を任せた。
きっかけは、ほんの些細なことだった。
その夜蒼真は、ハワードがパーティーに出席している間に地下4階のハワードのコントロールルームへ忍び込んだ。
部屋は出入り自由にしてもらっているけど、地下の研究室は『翔」を開発している部屋にしか入れてもらえず、ましてコントロールルームなどは、入ってみたい部屋ナンバーワンみたいな所だったから、ハワードのいない今夜、忍び込むことを決意していた。
「すげえディスプレイの数…1.2.3…36個かあ」
この部屋で、地下1、2階で行われている手術や検査も見学できるし、医療過誤などの問題もここで調査ができるようになっている。
しかし蒼真は、ここで何が出来るのかまでは理解していなかった。
ただ、大型の機械がゾロリと並んでいて、単純にかっこいいし、工学的なことにも興味があったから、コンソールのパネルをみて胸も高鳴る。
「大抵…これが画面を映すやつ…なんだよな…と」
パネルキーの赤いところを操作するとパッと画面が明るくなる。カメラを指定しないとどうやら映らないらしく、画面は真っ白だ。
「えっと、どれがなんだかわかんないな…exptSH…?なんだこれ」
透けて見えるパネルキーの文字をみて蒼真は何気なくexptSHのキーを押した。
押して、動きが止まってしまった。
36枚もの画面に映ったのは、10数人の『翔』だったから。
その中には、HIV特有の肌の疾患を現しているものや、瀕死にぐったりしている者も見受けられる。
「翔…?」
しかし数分前まで一緒にいた翔は…元気にインプットした元素記号答えてたし、こういった肌疾患もましてグッタリなんて…まさかこれは…翔のクローン体…?
蒼真の脳裏に時々翔を貸してくれというハワードの声が蘇った。
『翔、ハワードに呼ばれていつもなにしてんの?』
一度聞いたことがある。その時翔は、頬を染めて俯くだけだった。だから蒼真は『ああ、そういうことね…』と、ただ納得していただけだった。
蒼真自身ハワードを尊敬していたから、蒼真がつくった翔が何をされていようと腹は立たなかったが…ハワードは翔のDNAを採取していたに過ぎなかったのだ。そしてそれでクローン体を作り、ワクチンや特効薬の人体実験に…。
そう思い立った時、蒼真は嫌な予感がした。
自分もハワードとは何度も寝ている…。
コンソールに目を落とすとoriSOとexptSOが各々3つづつキーが並んでいた。
さっきの exptSHがexperiment SHOH だとしたら…このexptSOは…
蒼真は愕然としてキーを見下ろす。キーを押すことができなかった。
でも確かめたい、確かめないと…
蒼真は恐る恐るexptSO 1 のボタンを押した。押してすぐに目を閉じたが、画面が目の裏で青くなるのが感じられる。ー青?ー
ゆっくりと目を開ける。そこには青白い画面が映っており、その青白い画面の中に映っているものを目の当たりにし、蒼真はその場で凍りついた。
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専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
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零
BL
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山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
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