昭和アウトローガールズ☆

くとぉ

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7章 番外編 コケシ少女の冒険 

⑨五人衆の序列

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鮫島は、怒りを押し殺した声で吐き捨てる。

「悟ぅ~テメェ、今の佐藤の事も第一高の事も何も知らねぇだろうが、俺は暇コイてる学生と違って忙しいんだよぉ、店の支度があんだよ…」

挑発にはかろうじて耐えた。

だが、それも時間の問題かも知れない。

山川の挑発は鮫島の消し去りたい過去を刺激した。



 ◆ ◆ ◆



入学当初、同じ三中から山間第一高校に入学した佐藤大志が入学早々に突然…【粘着吉野】に喧嘩を売りに行った。

勿論、秒で敗北はしたが、そのまま吉野の舎弟となり一年の中でも、佐藤の影響力は増し周囲に人が集まる様になった。

吉野に従って工業科や尾形市、その南の鉄船市、あちこちの不良学生や暴走族と抗争を繰り返し、徐々に吉野と共に佐藤の名前は誰でも知るレベルで知られる様になって行く。

二年生に上がる頃には同じ学年で派閥争いをしていた、一中出身の田辺までもが佐藤の下に付いた。

同じ中学で同格とされていた佐藤に差を付けられたと感じていた鮫島は、当然面白く無い。

だが…今更、何をすれば覆せるのか?

やがては…鬱屈した日々をおくる様になり、真面目な生徒をイジメの標的にしてウサ晴らしをする程に落ちぶれた。

そんなある日、隣町の篠川町から通っていると言う、大人しそうなデブを標的にした。

だが、意外な腕力で抵抗され仲間の一人が怪我をさせられた。

それから毎日そのデブ…

金山を付け狙い、フクロにする日々が続いた。 

毎日数人がかりでボコボコにされても金山は抵抗し続ける。

金山は太っている様に見えてもそれは脂肪ではない、闘士体型でずんぐりしていたのでそうは見えたが、幼少期から農作業の手伝いでその身体は作られた物であった。

大人しいが頑固で、太い腕を振るって抵抗はしたが喧嘩慣れしている不良三人相手になすすべ無く…最後は毎日、亀の様に丸くなり必死で耐えていた。

屈しないデブにイライラは募り、更に鮫島は荒んでいった。

いつの間にか佐藤は金山に近付き、仲間に引き入れた。

二中出身の顔面が良いだけの雑魚ザコ、と気にも止めて居なかった馬渕が間を取り持ったらしい。

この時の佐藤の勢力はNo.2の田辺のグループを吸収した結果、後に退学者が出て徐々に減っては行くのだが…当時全盛期のメンバーは二十人近くになっていた。

対して鮫島は腐れ縁の仲間と三人のみ…

金山にはもう手が出せなくなった。

それでもイライラは募り、起死回生を狙って佐藤にタイマンの喧嘩を申し込んだ。

これに勝てていれば、或いは状況は大きく変わったかも知れない。

佐藤の兄貴分の吉野は下の学年の序列争いには介入しない、もし佐藤がタイマンで負けて吉野に泣き付く様な男であれば吉野は最初から舎弟になどしていない。

だから佐藤に勝てれば、それは学校のボス吉野にも認められる存在になれる筈…だった。

だが、ずっと元【五人衆】として、同格だと思っていた佐藤とは相当な実力の差が付いていた。

絶対に引かない強者のオーラと、一発一発のえぐり込む様な容赦無い一撃…それはまるで…

【粘着吉野】の様な…鮫島凌は全く歯が立たなかった。



鮫島には、自分より背が低い身長百七十程度の佐藤が自分よりも実際より大きくすら見えた。

中学とは違い、三大悪と呼ばれる底辺校で有る、その制裁は相手の尊厳を破壊する。

他の仲間二人と一緒に三人で、いじめていた金山の前での屈辱の全裸土下座を強要された。

タイマンに勝てればともかく、負けてしまえば二十人相手に逆らう術など無い。

佐藤も普段ならここまでやらないが、鮫島の行為は金山を始め一般生徒に被害が出すぎた。

ボンタンは目の前で燃やされ、ジャージを着てトボトボ帰る事になった。

制裁の後…佐藤達に今後は標準の制服を着てくる様に言い渡された。

程なくして、鮫島とその仲間は自主退学を選択したのであった。



 ◆ ◆ ◆



山川は更に鮫島を挑発する。

「ほぅほぅ♪そんでおめーは、忙しいって学生相手に尻尾巻いて逃げるのね、あ~社会人の先輩は御立派な事でぇ!いや人間出来てんねぇ!ヒャヒャ♪」

度重なる山川の挑発。

鮫島のやらなければならない事の優先順位が入れ替わる。

店の開店準備は山川をブチのめしてからで良い。

「違げぇわ!仕事あっからよぉ!その前に生意気なセイガクにお仕置きして仕事行くってんだよぉ!…だがよ?悟、真面目君の学校でぬくぬく生活してたテメェが、なんで俺に勝てると思ってんだ?まさかその、こけしみてぇなガキを馬鹿にされて怒ったとか?シャバイ事は言わねぇよなぁ?」

山川は立ち上がり鮫島に拳を突きつけ、喧嘩の口上を述べる。

「シャバかろうが何だろうがサァ!【軟派師】なんて渾名(あだな)付けられちゃいるがよぉ!連れてる女コケにされてトサカに来ねぇ程よぉ!人間出来てねぇんダワ…テメェとちがって…サァ!」



自分の事より山川への申し訳無さで目に涙を溜める市子は、その言葉に息を飲み…山川を見上げる。

「山川様…」

鮫島の額に青筋が浮く。

「あん?そうかよ…じゃあその綺麗な顔面から…ぶっ壊してやん…よっ!」

最初に仕掛けたのは鮫島、山川の膝を狙って鋭い前蹴りが飛ぶ、顔と言ったのは意識を顔面の防御に集中させる為のだまし撃ち。

鮫島の喧嘩は、その身長の高さや長い手足から繰り出される距離を取っての足技と、長身からのリーチの長いパンチがメインになる。

膝を狙ったのは山川の足を止める為、山川の喧嘩も足を使う、但しそれは攻撃の手段では無く移動手段である。

相手の懐に飛び込みジャブなどの早い攻撃を連続で叩き込み手数で押す、蹴りなどはフィニッシュを彩る派手な強者アピールでしか無い。

仲良くなり、二人でナンパに繰り出す様になる前はお互いにぶつかった事も何度か有る。

山川も鮫島の戦法は熟知している。

セコい騙し打ちになど引っ掛からない。

「相変わらずセコいフェイントだな!引っ掛かンねーよっ」

すり足で素早く移動し回避する、小学生の時やっていた剣道の歩法である。

これがクセになっているが故に、動きが止まってしまう蹴りは滅多に使わない、そう云った山川のクセやスタイルは当然…鮫島も知っている。

長い足から繰り出される回し蹴りが、ブンブンと風を切り連続して山川に襲い掛かる。

「おらおらおらぁ!逃げてるだけかよぉ!近付いてみろや!」

前後左右への移動は素早いが、回し蹴りの様な大振りな弧を描く軌道を持つ攻撃には若干後手に回る。

回避は出来るが、捌き切れずガードも使わざるを得ない。

だがガードをしてもダメージを無効に出来るわけでは無い、受けた腕の痛みと夏の暑さで体力は削られる。

(くそっ!昔より早えぇ!背も伸びてるのか?リーチが、痛っぅ!揉め事とか柴ちゃんに全部ぶん投げてたかんなぁ、弱くなった?…いや…俺が成長してねぇんだ…)

二年の時に野球部を追われ、スポーツ特待生の立場から転落し、失意の中…孤立していた柴崎に声を掛けた。

付き纏って強引に仲間に引き込んだ、勿論最初は転落したヒーローを慰めてやるか…と言った情も有れば、関わりの薄い元スポーツ特待生への好奇心もあっての事だった。

だが…

繁華街で皆で遊んでいた時の、他校とのちょっとした揉め事で柴崎の圧倒的な暴威と伝聞でしか聞いていなかった六人返り討ちの伝説を目の当たりにした。

そのすかずかしいばかりの圧倒的な強さに驚き、喜んで不良のリーダーポジションを明け渡し…

いや…祭り上げた。

真面目君と揶揄される進学校の生徒は、他校の生徒に絡まれやすい、それが不良っぽい格好をしていれば更に絡まれる事が増える。

落伍者は成績上位の者からは馬鹿にされ、それでも去勢を張り不良を気取れば、他校の不良から珍獣扱いされ悪目立ちし、的に掛けられる。

些細なトラブルは日常茶飯事だった。

リーダーポジョンともなれば、持ち込まれる仲間や一般生徒からの相談や被害の対処は週に一度は必ず有る。

或いは数回に上る、気の良い山川も頼られれば嬉しいが、正直面倒臭い。

勿論、上級生にも不良はいた。

だが所詮は優等生からの転落組ばかりで、山川の様な中学時代からの有名人などは居らずモノの役には立たない。

誰かにぶん投げたくなるのも仕方無いだろう。



 ◆ ◆ ◆



大ぶりな回し蹴りをくぐり、懐に飛び込み素早いジャブの連打からボディブローを放つ。

鮫島は堪らずに悪態をつく。

「ぐがっ!だっ!クソっ!チョロチョロとっ!このぉ!!!うるぁ!!!」

鮫島の長身を生かした死角、頭上からの肘打ち。

「ぐぁっ!痛!」

山川もクリーンヒットは回避したが、こめかみ付近に赤い打撲の跡が出来る。

必殺の一撃が半端な結果に終わり鮫島が毒づく。

「ゼェ…ゼェ…畜生…出勤前だってのに汗だくだぜ…こんな面じゃ店のモンになんて言われるか…ペッ…」

地面に血液が含まれた唾を吐く。

互いに手数は繰り出すが、決定打に欠ける。

夏の暑さで体力の消耗は激しい、戦闘開始から既に三分が経過している。

喧嘩は五分を超えると少々厳しい。

柴崎や元カノ…伊藤美咲の様なスポーツで鍛えた者は長時間でもそれ程苦にならない。

恵まれた体格を持つ有名な【粘着吉野】や、山の中を一晩歩いてオオクワを探し当てた高木の様な生まれついて身体能力が高い者や、或いは佐藤も体力や根性に関しては他者より長時間戦闘には有利かも知れない。

(クソぉ…ダセェ…サトちゃんはコイツを圧倒出来たってのに俺は……最後に喧嘩したのは…あぁ…柴ちゃんや他の奴と中央区で遊んた時か?それからは全部柴ちゃんに…美咲がブチ切れた時も…逃げるしか…情ねぇ…美咲か…やってみるか…美咲のマネなんかしたかねぇが…失敗したらボコられて終わり…付け焼き刃で行けるか?…)

美咲の喧嘩のスタイルは山川を模倣した手数と回避に特化したものでは有ったが、足運びは全くの別物である。

元カノ、伊藤美咲は中学時代は水泳でスポーツ特待生の枠を目指していたらしい、結局は選考に漏れて諦め切れず、ガリ勉の末に進学校に入試で入った経緯が有る。

結局は落ちこぼれて、早々に不良の仲間入りを果たしてしまったのだが…

だが喧嘩の…打撃系の格闘の才能のみなら山川を凌駕するかも知れない。

水泳で鍛えたバネとボクサーの様な軽快なフットワークで相手を翻弄するスタイル。

最近は尾形市の繁華街や山間の駅前で、他校の不良娘やレディースに喧嘩を売り歩いているとのもっぱらの噂である。

重量が無い為に男と同じ重い攻撃は無理だが、パンチ以外にローキックも多用し体力は左程奪え無いが、相手を打撲だらけにする事は出来る。

女の子達の喧嘩ならば、そちらの方が嫌だろう。

更に隙は大きいが、短時間空中に浮かぶ事で自重を加味して蹴りを落とす様なアクロバティックな威力攻撃も出来る。

…天性の格闘センスと水泳で鍛えた身体能力故の賜物だが…



 ◆ ◆ ◆



ここに来て突如として山川はスタイルを切り替えた。

ステップを踏んで蹴りを躱しつつ、鮫島の軸足じくあしを狙う。

左足をローやミドルで太腿太もも脹脛ふくらはぎを攻撃する。

勿論、美咲の様なスピードでは無いが、体重がある分…威力は勝る。

山川の喧嘩を良く知っているが故に初見の鮫島には効果的だった。

「くぅっ!なんだってんだ!い痛ぅ!クソっ!左足ばっか狙いやがって!ももが痺れ!…ぐぁっ!」

鮫島の蹴りは殆どの場合右足のみ、一部の蹴り技以外は全て軸足…左足を起点にしている。  

数回目の腿に対するムチの様な蹴りで膝が崩れ地面にひざまづく。

「どーよっ!遼!そのままっ!地面の上で潰れてろっ!」

勝利を確信して蹲った鮫島の側頭部を狙って、全力の蹴りを放つ!………だが…


◆ ◆ ◆


ヒットはした、ダメージも相当な物だろう、だが、鮫島にも矜持は有る。

中学時代迄は同格とされていた佐藤に完膚無きまでに敗北し…

虐めていた相手の前でフリチンにされ、屈辱的な制裁を受け、学校を親に黙って中退し、家を追い出された。

今…真面目君と揶揄やゆされる。 

進学校と呼ばれる山間第二高校で、青春を謳歌している山川にまで敗北してしまったら…

山川悟が成績が良いのは中学時代から知っている。

きっと鮫島とは違い、大学にでも進学し、多くの不良少年達が歩む人生とは全く別の人生を生きるのだろう。

そんな奴にまで…

全て過去の事と、仕事に集中しては居ても…鮫島凌にも燻るくすぶる残り火は確かにあったのだ。

(負けられない…こいつには…悟には…)

後先考えない火事場のクソ力。

仕込みを終わらせなければ店のママに説教を食らうだろう、四つ年上の、同じ店で働く彼女にやっぱりガキだと嫌味も言われるかも知れない。

それでも…

今はどうでも良い、自身の側頭部にクリーンヒットした山川の足をガッチリと押さえ込む。

そして…全力で仰け反るのけぞる様にして山川の足を引き摺り込む。

どちらも夏の暑さの中、体力の限界であった。

山川も慣れないフットワークを駆使くしして、足の筋肉は悲鳴を上げていた。

山川は強(したたか)に受け身も取れずに背中と後頭部を地面に打ち付け息が出来ず、記憶が一瞬混濁こんだくする。

「あ…がっ!……うぅっ!まず……」

だが、鮫島に取ってはその一瞬の間だけ有れば充分だった。

汗だくになりながら痛む足でヨロヨロと這い寄り…

側頭部への蹴りはかなりのダメージだった。

朦朧とした頭で鮫島遼は思う。

こんな筈では無かった。

別にチビをバカにするつもりも無かった。

タバコの煙に文句を言われ少しイラついていたからなのか?

少し棘はあったろうが昔の連れに対して自慢では無かったが…俺は高校は中退してしまったが、社会に出て上手くやれていると…

県内有数の進学校で青春を謳歌している山川に少しだけ社会人として、大人のアピールをしてみたかっただけなのに…だから…かつての友を飲みに誘うのに少しだけチビが邪魔だった。

なのに…なのに…それだけだったのに。

(なんで…いつも俺は…でもやんなきゃ…クソッ!惨めだ!…コイツボコしても…なんの意味もねぇのに…だが…)

…後には引けない…

鮫島はもつれる足で歩み寄り…山川に馬乗りになる!

「さ…悟ぅ~ヴァァァァ!!!」

マウントポジションからの無茶苦茶な殴打!

こうなってしまうと、もうどうにもならない、意識は朦朧とし、山川に出来るのはほぼ意味の無い防御をするのみ、鮫島のマウントポジション、その全てのパンチをガードする事など出来ない、跳ね除け起き上がる体力など既に残って居ない。


「…あ…ぎっ!…が…が……が…」

打たれる度に呻く事しか出来ない。

「…山川様が……もう止めて……うっ…うっ…うぅ…」

市子は地面の上に座り込み、静かに嗚咽を漏らす事しか出来ない、これも全て自分がここにいるせいなのだと自身を責める事しか出来ない。

その時…

公園の入り口から柴崎の怒鳴り声が聴こえた。


    












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