昭和アウトローガールズ☆

くとぉ

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7章 番外編 コケシ少女の冒険 

⑩初恋と欲望

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「一体…これは…なんなんだ!おいっ!どうした!花柳院さん!さと…悟!」

公園の入り口から大声で叫ぶ大男が、怒気も顕に駆け寄ってくる。

「ぐぅ…クソッ…仲間かよ…」

鮫島がヨロヨロと立ち上がり、フラついた足取りで公園の逆側の入り口に向かってフラフラと走り去る。

「おい!悟!大丈夫か!アイツは誰なんだ!今向こうへ行ったな!」

「ぎぃ…痛てぇ…遅いよ…柴ちゃん…へへ…ダセェな俺…やられちまった…」

「あいつ…ちょっと待ってろ!探し出して引き摺(ず)って来る!」

山川が何か言う前に柴崎は鮫島が去った方向へ走り出す…

「…あ…って…行っちまった…タイマンで負けたっつーのにそんなダセェ真似…それに…探しても柴ちゃん一人じゃスナックなんぞに入れねぇだろうが…糞真面目なんだからサァ……うぅ…痛え…」

柴崎は頭が硬い、見つけたとしても、仲間が一緒にいて勝手に入るなら渋々着いて行くだろうが、十八歳未満禁止の札でも扉に掛かっていれば…

その前を無駄にウロウロするだけで入れはしないだろう、その内不審者扱いされて通報でもされるのが関の山だ。

ふっ…と小さな手で頭を持ち上げられ…後頭部には柔らかな感触…

市子は山川の頭をそっと膝の上に慎重に置いて、茶色に染められている髪を指先で押し分け、ハンカチで山川の顔面の汚れ…鼻血を拭き取る。

「ごめんなさい…ごめんなさい…私の為なんかに…私がここにいるせいで…」

市子の謝罪を受け少々驚く、鮫島の誘いを断って、市子を後で慰める。

…そんな事も出来た筈で…

かつての友人に喧嘩を売ったのは、山川の不良少年の矜持…

自分を自分足らしめる為のエゴでしかない、鮫島の行動や暴言はどうあれ自分の為で有る所が大きい。

「おいおい、別に市子ちゃんが謝る事じゃ、俺のプライドみたいなモンでサァ、ナンパ野郎と言われてもそこは譲れ無いってか…アイツが…遼が悪いんだから、それにこれぐらいは、最近はねぇけど…工藤って奴とやった時は二日も入院させられて…お袋は学校に怒鳴り込むはで、すっげぇ恥ずかしい思いを……でも、俺って弱くなってたんだなぁ、流石にちょっと悔しいよ……ハァ…不良辞めっかなぁ…アハハ……」

そう言って…ボコボコになった顔面で微笑みながら乾いた笑いを零す彼は…何処か寂しそうで儚げに見え…

市子は胸が詰まる感覚と同時に、涙が溢れ…山川の顔の上にも涙が落ちる。

(なんでこんなに、綺麗なお顔がボロボロなのに…キラキラしていて眩しくて、強いのに儚げで…傷付いた子供の様な顔で、それでも笑顔で、寂しそうで…何故こんなに哀しいの?涙が止まらない…)



「市子ちゃん、今日初めて会った俺の為に泣いてくれてるのか?……」

第一高校の馬渕、第二高校の山川などとモテ男の括りで呼ばれる事もあるがその性質は全く違う…

二人とも優しい男ではあるし、それぞれスタイルの違うイケメンでは有る。

馬渕が気の小さい世間体を気に掛け、だが細やかな気遣いをするS気質なのに対して…

山川は大胆不敵で好奇心旺盛、暴力に対してのハードルの低いどちらかと言えばМ気質…

そして何よりいつも本気で、惚れっぽい、普段の軽口は別として口説く時は、実は軟派では無く常に本気ではある。 

まぁ…移気で気が多い男で有るのは間違い無い。

「やっぱり…可愛いよなぁ…肌はきめ細かくて…本当に…高貴って言うのか…それに…俺の為にこんなに泣いて…惚れた…俺の物にしたい」

その山川の言葉に考える暇も無く、頭を引き寄せられ唇と唇が触れ合う。

…触れた部分が熱を帯び…

…力は抜け抵抗も出来ない…

いや、或いは抵抗したく無いのか…?…

キスは初めてでは無い、婚約者の重雄とのキスでこんな感覚は味わった事が無い。

唇の熱は脳の奥にまで達し、白熱する。

舌を差し込まれると脳髄が痺れ、口の中に鉄の様な血の味が広がる。

花柳院家に決められた婚約者との様な不快感は微塵も無い、寧ろ心地良く、身体の力が抜ける。

今迄に感じた事の無い初めての感覚が身体全体に拡散する。

乳首が硬く尖るのを感じた。 

背筋から肛門付近までゾクゾクする様な痺れにも似た快感の波が押し寄せる。

今迄は重雄に舐め回されても、くすぐったさしか感じなかった恥部の粘膜が湿り気を帯びた。

市子の小さな陰核が勃起して、快感の信号を脳に送る。

気付けばいつの間にか地面の上に押し倒され、自然に両足は広がり、山川の腰がその間に入る。

何故?…とは思わなかった。

…本能なのかも知れない…

(あぁ…私はこの方の事を受け入れたいんだ…幼馴染の婚約者とのキスの事を語られていたのは圭子様?それとも佳乃様?…もう…ワ…か…ら…ない…溶ける…)

二人共…夕刻と言えど、まだ明るい夏の公園の中、服を着たまま激しい発汗でシャツが肌に貼り付く、地面の上で抱き合い絡み合う。

いつの間にかシャツの中に手を伸ばされ、ブラジャーをズラされ殆どない乳房…は掴む程無いので乳首を指先で転がされる。

(あっ…ぁぁぁぁ♡私には婚約者が…これ以上先に進んだら家が…お父様が…お母様が…でも…気持ち良い…なんでこんなに重雄さんと違うの?)


 ◆ ◆ ◆


山川の方は、これでもその場でこんな公園で勢いに任せて服を脱がさないだけまだ理性は有る…方なのだ。

一応は…

心の中は理性と欲望が戦い…葛藤かっとうの嵐であった。

(まずいまずいまずいまずい!相手は山女だぞ!こんなお嬢様に、他の女とは違うんだぞ?!学校に、トップシックスに…あぁ…お袋…母ちゃん…ごめん…女手一つで…大学の入学資金まで…俺、終わったかも、惚れちまった。腰の動きが止まらねぇ!息子を擦りつけるのを抑えられねぇ!畜生!なんでこんな場所で始めちまった?!節操の無い俺の下半身が恨めしい…)

二人共に不味い事は理解している筈で…

だが、我慢出来ずに着衣のまま腰を盛りのついた犬の様にヘコヘコ動かし。

勃起し、盛り上がったスボンの股間の部分を市子の性器が、陰核が有るであろう箇所に激しくこすり付ける。



(はぁ…はぁ…山川様の…アレが硬く…こんなに必死で求めてくれるなんて…なんて可愛らしい……切ない…肌を合わせてみたい…どうせ…既に穢れた身体…貞操を守る…何の為に?…誰の為に…彼に…山川様に捧げたい…私に唯一残された…初めてを…)

ジャージを…下着を通して硬たくなった一物が恥部に、陰核に当たるのを感じる。

自然に分泌液がじんわりと染み出し下着が重たく湿り気を帯びる…これも初めての経験。

(何故?!私わたくしの秘所ひしょが…あぁ…何か…これが…濡れると言う事なの?…でも…なんて心地良い…自分から足を広げて…こんな場所で…)

端から見れば滑稽ですらあるが、本人達は至って真剣で、理性と本能の狭間で迷い葛藤した結果がコレである。

だが…それも限界の様で、火が着いた欲望は収まらない。

どちらが申し合せたわけでも無く、唇と唇がちゅぽん!と音を立て離れる。

自然に、ごく自然に、バリアフリーのトイレに目が行く。

二人、目を見合わせ、どちらとも無く…頷き合う。

手を繋ぎ合い、立ち上がり…

そちらに向かい、一歩を踏み出す…

だが…こう言う時に限って邪魔が入るのは何故なのか?

「おお!悟っ!怪我は大丈夫か?!あいつ店に逃げ込んだまま出で来なくてな、そのうち初老の御婦人が来て、彷徨うろついていると通報すると、仕方無いと戻って来てしまった。スマンな、で…なんで花柳院さんと手を繋いでいるんだ?それに…その…土埃だらけで…何でズボンと…その申し訳無い…ジャージが…下の……」

二人共汗でぐっしょりで、股間の部分だけ若干、濡れた様に色が変わっていた。




 ◆ ◆ ◆




もう時間も無いと、土埃で薄汚れた格好のままデパート前の駐車スペースに戻って来た。



そこには、焦れた表情で腕組みをして待っていた厳つい容貌の老いた運転手。

彼は三人を見るなり…

いや市子の土埃で汚れたジャージに目が行き、続いて似たような汚れぶりで顔面に青痣が出来ている山川。

そして筋骨隆々として汚れ等は無い柴崎の…威風堂々いふうどうどうたる姿。

成る程と、脳内でストーリーを組み立て、柴崎に一礼して標的は山川になるのは致し方あるまい。

「!!!お嬢様!その姿は!スマンな青年!礼は後ほど、この小僧っ!!コレでもワシは現役時代は逮捕術で……」

「痛いって!爺さん!止めてくれよ!俺なんにも……いや…でも…」

「いや、でも?!だと?!ほれ!見たことか!老いても元警官の目は誤魔化せんぞ!この悪タレがぁぁ!」

「御老人!ちょっと待ってくれ!本当にそいつは…悟…本当のところはどうなんだ?花柳院さんにナニかしたのか?大体何で花柳院さんまで、そんなに汚れてるんだ?喧嘩じゃ説明が付かん!大人しく吐け!」

「柴崎様!お止めになって!瀬蓮(せばす)さんも!山川様は私が恐喝に…」

「恐喝ですとぉ?!やっぱりか!小僧!覚悟しろ!このまま警察に突き出してくれる!」

「柴ちゃん!酷いよ!市子ちゃんも言葉を切らないでちゃんと説明してぇ!」

少々…時間に遅れてしまったが為に、花柳院家の運転手である瀬蓮老人は怒髪天を突いていた。

警察を定年退職後に十年近く花柳院家の運転手として仕えて来た。

当然市子が幼い頃から知っている。

政治家のドラ息子、石田重雄の話を聞いて自分の孫がされているが如く憤り…

可哀想なお嬢様にせめて、良かれと思って自身の出来る範囲で自由な時間を与えたのだが…

車で山間市を流して血の気が引いた。

普段は篠山峠を降り、そのまま北部地区の国道から東部地区の入り口に有る高速に乗っていた為、民家もまばらな田園風景しか知らず、街中を流す様な事は無かったのだ。

市子と同年代と思われる不良学生の異常な迄の多さに気付き…すぐにデパート迄戻り…

もしかしたらと思いデパートの中を隅々まで探し、そのデパートの中でさえ不良らしき少年少女の多い事。

一刻も早く、お嬢様をこの物騒な都市から連れ出さねばと各所を走り回り、最初の地点まで戻って来た時に三人に出くわした次第である。

市子の必死の説明で老いた運転手もやっと理解はしたが、その鋭い視線は山川から離れない。

「ふぅ~む…そんな事が…いや早トチリしまして申し訳ございません…ですがお嬢様、ワシの感が言うとります、この小僧あの石田のドラ息子…いえ、方向は違いますがどっこいどっこいのロクデナシの匂いがしますぞ?婦女子から見れば魅力的に感じるでしょうがこの手合いには気をつけるに越した事はありませんぞ?」

「酷えな!爺さん!俺になんか恨みあんのかよ!俺…今日結構散々さんざんな目に遭ってるんだけど!」

「知るか!それも貴様のごうだ!受け止めろ!それでは…お嬢様…急ぎませんと…今夜の宿泊所のチェックインもありますから…あまり遅くなるとルームサービスも頼めませんし…そろそろ…」

「はい…瀬蓮さん、後少しだけ…車で待っていてくれませんか?お別れの挨拶だけ…」

運転手は一瞬何か言いたそうにして山川を睨み付けたが、今後の市子の事を思えば…と黙って車の運転席に戻り待機する。

「花柳院さん、行くのか?今日は御馳走様、ありがとう…俺はちょっとそっちに行ってる…」

「とんでも御座いません…柴崎様も…その…食べ過ぎには御注意下さいね?フフフ♪」

周囲を通り過ぎる通行人は土汚れだらけの山川と市子に、奇異な視線を向けながら通り過ぎる。

色々と交わす言葉はあったろうが、お互いに短い一言だけ…

これは先程の身体が熱くなる様な激しい体験もあったが、長い人生の中の刹那の煌めきの様な出会いで良いのかも知れない。

「山川様…さようなら…お元気で…」

「……あぁ…市子ちゃんも…また…いや…元気で…」

またいつか、の言葉は飲み込んだ。

恐らく二度と会う事は無いだろう。

…世界が違い過ぎる…

頭を下げると市子は振り返らずに後部座席に乗り込んだ。

車が走り出す、後部座席に市子のコケシの様な頭が見えたが、一度も振り返る事も無く車はあっという間に遠ざかって行った。

山川はそれを寂しそうな表情で暫くの間見つめていた。

「さて…俺達も帰るか…いつまでもこうしていても仕方無い…明日からは夏休みだ…」

「ん………だな!トップシックスしか接触出来ない山女のお嬢様と短時間でも接触出来たんだ!良い思い出に…なる…な…ハハハ…」

柴崎はその様子に溜息を着く、山川の惚れグセは何時もの事だが、今回は思いを遂げる事が出来なかった。

…こう言う時は特に…

(これは…しばらくは引き摺るかも知れんなぁ…)




 ◆ ◆ ◆




二人で駅前迄来ると見知った顔が駅から飛び出しこちらに駆け寄って来る。

…仲間の一人…顔には…恐らくは殴られた跡が有る。

「柴ちゃん!山川!家に電話したけど誰も出ないし!どうしようかと…光郎と哲也が…どうしよう…」

柴崎が落ち着く様に促す。

「どうした?お前、殴られたのか?良いから最初から話して見ろ…落ち着いてな?」

「中央区のゲーセンで三人で遊んでたんだけど、トン高の奴らが、ここは俺等の縄張りだとかって…んで…俺ビビッちまって、帰ろうとしたら山間第二のモンかって…だからそうだって言ったら…イキナリぶん殴られて、そしたら山川呼んで来いって、柴ちゃんも来るだろうからあんたらやべぇよ…って言ったら柴崎も連れて来い、分からせてやっからって。んで光朗と哲也は人質だって…俺だけ帰されて…」

「分かった。直ぐに行こう…場所は?」

「東高の近くに有る潰れたボーリング場、奴らの溜まり場なんだ。」

「案内は出来るな?人数は?」

「勿論!道は憶えてる!人数は八人いたけど…でも!柴ちゃんがいりゃあ!怖えぇけど俺もやるよ!他の二人だって!」

「そうか、こっちは四人か、なら手加減も出来るか…あ、そうだ、悟は帰ってゲガの手当てしとけ、取りあえずは俺と洋佑…光朗と哲也もいるからな、こっちは何とかなる…」

だが、山川は深呼吸して言い放つ。

「いや…俺も行くぜ!御指名なんだろう?今日はちょっとスッキリしなくてサァ…俺を呼び出した事をトン高の奴等に後悔させてやんよ…まぁ…俺の事呼び出すんなら西中にいた誰かか…女関係か…そんなトコだろ?さぁ!行って暴れようぜ!」

怪我もしてるし、止めるべきなのだろうが、相棒がいつになくやる気になっている。

柴崎はそれに付いては何も言わず…

「応!行くか!」

三人は山間中央駅に向かって走って行く。

この事件は、山間第二高校と尾形市東高校の夏休み中続く抗争の幕開けになるのだが、結果から言えば、尾形市内では最もガラの悪い高校で有る東高トンコーの不良達も、【堕ちたヒーロー】柴崎誠一郎の無双ぶりを喧伝する話のタネにしかならなかった。

その上やる気になった山川もいる。

そしてこの抗争の渦中にあった洋佑達三人もこの夏で大いに喧嘩慣れし、それが後々役に立つ事になる。

だが…それはまだ数ヶ月先の…山間の四つの学校を巻き込む脅威の訪れを待たねばならない。



    
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