魔術師の少女が仕事にも恋愛にも全力でぶつかっていくお話。

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人を見た目で選んではいけないのです。

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それは、私が10歳になる頃だった。

ここ最近、力をつけて来たというケリス王国の王女様が親睦と言う目的で、このヨシュクラダンカ王国に来たのだ。

本当だったら第1騎士団の者が護衛をするのだが、なぜかその王女は、我が兄であるノア・ルクレツィアを指名したのだ。

初めは拒否していた兄も、国王や第1王子であるニコル王子に諭され、最後にはすることに決めたようだ。


護衛の期間は8日間。

恐怖のカウントダウンの始まりである。


一日目。

「初めまして。私はケリス王国の王女、アンナ・ヘザー・ケリスよ。」

「よろしくお願いします、アンナ王女。私はノア・ルクレツィア。ここに滞在される間、王女の護衛をさせていただきます。」

「知ってるわ。私が指名したのですもの。…ねぇ、ノア。私の事はアンナと呼んで?」

「一国の王女の貴女を呼び捨てにするわけにはいけませんので。」

「あら、お堅いのね。まぁ良いわ。」



二日目。

「ねぇ、私、あそこに行きたいわ。」

「…あの場所は、王室の者以外立ち入りが禁止されております。」

「そうなの?ならますます見たくなるじゃない。許可を取って来てくださらないかしら?」



三日目。

「お兄ちゃん!」

「セシリー!どうしたのぉ?」

「あのね、シャロン様と遊びに来たら、お兄ちゃんがいたから来ちゃった。」

「ふふっ、可愛いねぇ。」

「あら?どなたかしら?」

「私の妹です。」

「…ふーん。私より可愛くないわね。」

「……。」



四日目。

「聞いたわ。貴方、あの子とは血が繋がっていないんですってね。」

「……どこでそれを?」

「この国の公爵様ですわ。」

「なるほど。そうでしたか。」

「えぇ。」

「そのようなことより、ニコル王子からお茶菓子をいただいておりますよ。」

「まぁ!美味しそう!ティータイムにいたしましょう!」



五日目。

「ねぇ、私、貴方の妹のことが知りたいわ。」

「セシリアのことですか?」

「そうよ。」

「…なぜですか?」

「興味があるのよ。」

「…特にお話しするような事はありませんよ。」



六日目。

「ねぇ、昨日妹の事はダメって言ったじゃない?そんなにあの妹が大事なの?」

「そうですね。私の中では昔も今も、勿論これからも一番はセシリアですよ。」

「ふーん…。そう。」



何事もなく…王女の日々は過ぎていく。

残り二日となった七日目。

その日、王女はノアの琴線に触れてしまった。




「あら、貴女は確か、セシリアだったかしら?」

「アンナ王女!…はい、ノア・ルクレツィアの妹、セシリア・リューココリーネ・ルクレツィアです。先日は、挨拶も出来ずに申し訳ございません。」

「本当ね。貴女みたいな平凡な女、私と視線を合わせるだけでも感謝してほしいくらいだわ。」

「…王女様?」

「ねぇ、貴女、私にノアをくれないかしら?」

「え?」

「あら、その小さな頭では意味が分からないのかしら?察しが悪いわね。」

「あ、あの……。」

「私ね、ノアが欲しいの。一国の王女だし、きっとそれは叶うと思うわ。でもね、貴女がいたら邪魔なの。」

「…え?」

「あの方の一番は貴女だっていうじゃない。忌々しい。…ねぇ、貴女、ノアとは血の繋がりはないのでしょう?それに、森に捨てられていたそうじゃない。」

「—ッ!…どこで、それを…。」

「教えるわけないじゃない。ねぇ、あの方は、神に愛されているの。貴女と違って、美しいでしょう?私は、あのかたのとなりに立てる美貌があるわ。権力もある。貴女とは違うのよ。だから、あの方の前からいなくなってくださるかしら?」

「そ、んな……。」

「きっと、ノアもそう思っているはずよ?聞けば貴女、いつもノアにくっついているらしいじゃないの。後、シャロンって少年にもだったかしら?そんなに男が好きなのかしら?」

「…え?」

「ふふっ、ねぇ、貴女が自分からいなくならないなら、私にだって考えがあるわ。」

「どんな考えなのかなぁ?」

「決まっているじゃない!それは…ッ⁉︎ノア…⁉︎」

「ニコル王子に呼ばれている間に王宮を逃げ出したと思ったらぁ……ここで、セシリア僕の妹にぃ、何、しているのぉ?」

「あ、の、…違うの!私は何も…!」

「何も、ねぇ。……ねぇ、セシリー。お兄ちゃんにぃ、話してくれるよねぇ?」

「えっと……、」

「貴女!裏切るつもり⁉︎」

「…裏切るぅ?王女様が何言ってるのか分からないけどぉ、セシリーは君と約束なんてしていないでしょぉ?」

「—ッ!」

「それにさぁ、僕ぅ、ぜーんぶ、聞いてたからぁ。」

「…え?」

「ねぇ、セシリーが平凡?僕のセシリーが?こんなに可愛くて綺麗なのに?…平凡?セシリーが?」

「—ひっ!」

「それに、セシリーの生い立ちまで調べてさ。何したいの?ねぇ、何が、したかったの?」

「—ッ!」

「ふふっ、声も出ない?そうだよね。だって今君の周りに闇魔術をはっているからね。ねぇ、苦しい?苦しいよね?…ハハッ、歪んだ顔も醜いね。」

「お兄ちゃん!」

「何ぃ?セシリー、ちょっとだけ待っててねぇ。……さて、アンナ王女。君に選択肢をあげる。君の命を失くすか、君の国を失くすか。」

「—ッ!」

「ふふっ、…出来ないと思ってる?…出来るよ、俺は。国を一つ滅ぼすくらいわけない。……ねぇ、どうする?」

「ノア団長、そこまでだよ。」

「…あぁ、ニコル王子じゃないですかー!こんなところまでどうしたんですかぁ?」

「王女がいなくなったと聞いてな。一応その者はケリス王国の王女である。魔術を解け。あとはこちらで話をする。」

「話、ですかぁ。」

「そうだ、だから早くしろ。」

「そうですねぇ、それじゃあ仕方ないかぁ。…ほらぁ、解いたよぉ。じゃあ僕はぁ今日はもう帰りまーす。行こうかぁ、セシリー。」

「あ、うん。」



この後、アンナ王女がどうなったのかを私は知らない。

私が知っているのは、ケリス王国と友好的な条約ができたとか、国王が急病で倒れたとか、ニコル王子の機嫌がすこぶる良かったとか、そういうことだけだ。

…え?最後の一日?そんなの私が知るわけないし、知りたくもない。

とりあえず、機嫌の悪い兄と、お出かけしようと思う。
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