青空のサンセット

第1章 いつもの日常

第03話 夜の儀式(2)

　アッシュに魔法力をチャージし終えたエレノア。
「んじゃ次、ペーターのとこ行ってくるね」
　ペタペタとサンダルを鳴らしながらペーターが係留されているところへ歩いて行くエレノア。

　係留？そう、ペーターは「係留」されているのである。どういうことかというと、ペーターは寝ている間に夢を見るのである。人間と一緒だね。人口生命体といえども、夢を見るのである。ペーターが寝ぼけると羽ばたかずして宙に浮くのである。無意識に反重力魔法を発動させてしまうのである。まるで水面を漂う小舟のように。だから、ロープで地面の杭などに係留しておかないと、ぷかぷかと浮かんで風に流されては何処かへ行ってしまうのである。目が覚めたときには何処かの高い山の頂なんぞに引っかかっていた日には、さすがのペーターも驚くことだろう。
　今はロープで係留されているので安心だ。今夜もテントの裏でぷかぷかと浮いては風に流されて杭の周りをくるくると回ることだろう。

　さて。ぐっすりと眠っているペーターにも魔法力のチャージをしなければ。

　ペーターの元に到着したエレノア。ペーターの首元に寄り添って体を預ける。今はぐっすり眠っているのでペーターの保温機能はオフであり、体の温度は大気温度と一緒。ひんやり。エレノアは、両手をペーターの頭付近に当て、自身の額もなるべくペーターに触れるように近づけて、魔法力のチャージを開始。例の如く周りがほんのりと青白く光り出す。同時に、ペーターの額にある魔法石も輝き出す。

　ちなみにマガモをはじめとする水鳥たちは寝るときにくちばしを羽で覆って寝ることがある。くちばしが冷えるからそれを嫌がるらしい。くちばしには羽毛がないのでよく冷えるのだとか。ペーターさんにとっても夜はくちばしが冷えるらしい。人工生命体であるペーターの生命維持にはそんなことは不要なのだが、生体モデルの遺伝子情報に従っている。本能ってやつだ。

　エレノアの慈悲の光が緩やかにフェードアウト。さて、チャージも終わったことだし、これで今日一日のエレノアの任務が全て終了。

「ふぁ～あ。終わった～。眠い～。歯磨きして寝よ～」
　エレノア、大きなあくびを一つ。寝る前の準備を色々してからエレノアは眠りにつくのである。

　アッシュとマックは交代で夜の見張り。大抵は何事もないのだけれど。そして今夜も何事もなく。

　今日といういう日が終わっていく。明日に続いていくのである。