68 / 72
第68話 私……ずるいんです
しおりを挟む
俺は走り続けた――が、真宮さんの姿はいまだに確認できていない。
自宅から彼女の住むアパートまでは徒歩だと約三十分。
仲里さんと話をしていたことでスタートは遅れたうえに、途中で信号にも捕まってしまった。
真宮さんは運動神経がよいから走りも得意だし、もうアパートについている可能性だってある。
行き先は分かっているんだ。
こんなに急がなくてもいいのだろうけれど、俺は走りを止める気にはなれない。
一秒でも早く彼女に会いたい。
「あ!」
Y字路を右に進んだところで前方にセミロングの黒髪をした女性が目に入った。
肩に見覚えのある大きめなバッグをかけて歩いている。
あれは部屋を出るとき手にしていたものだ。
追いついてよかった……。
この辺りまできたらアパートは目前だし、走るのをやめたのかもしれない。
「真宮さんっ!」
大きな声で叫ぶと、前を歩く彼女がピタっと足を止め振り返った。
黒縁メガネのその子は間違いなく真宮葵だ。
「どうして……」
走り寄る――と、真宮さんは俺の目をみて呟く。
俺の想いを伝えないと……でも、いざ目の前にすると緊張して考えがまとまらない……え、えーと……。
「は、ハンバーグ! ハンバーグ美味しかったよね!」
「え? は、ハンバーグ……ですか?」
し、しまったぁあああっ! さっきまで三年前の仲里さん……いや、真宮さんとの食事のことを思い出していたのもあって、思わずハンバーグと口走ってしまった。
俺はなにを考えてるんだ……ここは直球で、一緒に戻ろう! と口にすべきだったよな? 真宮さんきょとんとしているじゃないか! も、もう一度……。
つ、伝えるぞ。
「い、いっしょ……」
「……池袋のパルロで食べたハンバーグ……美味しかったですよね」
緊張して言葉に詰まる俺を前に、彼女はやさしく言った。
「お、覚えてたんだ」
「もちろん覚えていますよ? だって早見くんと初めて出会った日のことですもの」
彼女はクスっとして優しい笑みをみせ、続けて口を開いた。
「ふふ。でも、どうして突然ハンバーグなんですか?」
「いや、その……あの日、俺は仲里さんのなかに真宮さんがいることを知らなかった。ずっと仲里さんだとばかり…でも……」
「はい……」
「でも、気がついたんだ。あの日の君を、仲里さんを俺は必要としていたことを……それはつまり……」
「つまり?」
「真宮葵は俺にとって大切な人だってこと、を……」
「……でも、三年前に出会ったあたし……あ……私は、仲里さんだったから……」
「たしかに三年前、仲里エリカだと思って接していた。でも、あの日一緒の時間を過ごしていたのは、今、俺の前にいる君だよ。真宮さんにも色々と複雑な想いがあるんだろうけれど、一人になろうとしないで、一旦みんなのところへ戻らないか」
真宮さんは俺の言葉に俯くと、首を左右に振る。
それは戻れないという意思表示なのだろう。
「どうして?」
「私……ずるいんです」
「ずるい? な、なにが?」
真宮さんは小さく息を吐くと俺から目を逸らしながら口を開いた。
「入れ替わり……あれは、仲里さんのダウジングが原因じゃないんです。私が望んで起きたこと、なの……」
「え!? ど、どういうこと?」
入れ替わりを真宮さんが望んでって、どういう意味なんだ――。
自宅から彼女の住むアパートまでは徒歩だと約三十分。
仲里さんと話をしていたことでスタートは遅れたうえに、途中で信号にも捕まってしまった。
真宮さんは運動神経がよいから走りも得意だし、もうアパートについている可能性だってある。
行き先は分かっているんだ。
こんなに急がなくてもいいのだろうけれど、俺は走りを止める気にはなれない。
一秒でも早く彼女に会いたい。
「あ!」
Y字路を右に進んだところで前方にセミロングの黒髪をした女性が目に入った。
肩に見覚えのある大きめなバッグをかけて歩いている。
あれは部屋を出るとき手にしていたものだ。
追いついてよかった……。
この辺りまできたらアパートは目前だし、走るのをやめたのかもしれない。
「真宮さんっ!」
大きな声で叫ぶと、前を歩く彼女がピタっと足を止め振り返った。
黒縁メガネのその子は間違いなく真宮葵だ。
「どうして……」
走り寄る――と、真宮さんは俺の目をみて呟く。
俺の想いを伝えないと……でも、いざ目の前にすると緊張して考えがまとまらない……え、えーと……。
「は、ハンバーグ! ハンバーグ美味しかったよね!」
「え? は、ハンバーグ……ですか?」
し、しまったぁあああっ! さっきまで三年前の仲里さん……いや、真宮さんとの食事のことを思い出していたのもあって、思わずハンバーグと口走ってしまった。
俺はなにを考えてるんだ……ここは直球で、一緒に戻ろう! と口にすべきだったよな? 真宮さんきょとんとしているじゃないか! も、もう一度……。
つ、伝えるぞ。
「い、いっしょ……」
「……池袋のパルロで食べたハンバーグ……美味しかったですよね」
緊張して言葉に詰まる俺を前に、彼女はやさしく言った。
「お、覚えてたんだ」
「もちろん覚えていますよ? だって早見くんと初めて出会った日のことですもの」
彼女はクスっとして優しい笑みをみせ、続けて口を開いた。
「ふふ。でも、どうして突然ハンバーグなんですか?」
「いや、その……あの日、俺は仲里さんのなかに真宮さんがいることを知らなかった。ずっと仲里さんだとばかり…でも……」
「はい……」
「でも、気がついたんだ。あの日の君を、仲里さんを俺は必要としていたことを……それはつまり……」
「つまり?」
「真宮葵は俺にとって大切な人だってこと、を……」
「……でも、三年前に出会ったあたし……あ……私は、仲里さんだったから……」
「たしかに三年前、仲里エリカだと思って接していた。でも、あの日一緒の時間を過ごしていたのは、今、俺の前にいる君だよ。真宮さんにも色々と複雑な想いがあるんだろうけれど、一人になろうとしないで、一旦みんなのところへ戻らないか」
真宮さんは俺の言葉に俯くと、首を左右に振る。
それは戻れないという意思表示なのだろう。
「どうして?」
「私……ずるいんです」
「ずるい? な、なにが?」
真宮さんは小さく息を吐くと俺から目を逸らしながら口を開いた。
「入れ替わり……あれは、仲里さんのダウジングが原因じゃないんです。私が望んで起きたこと、なの……」
「え!? ど、どういうこと?」
入れ替わりを真宮さんが望んでって、どういう意味なんだ――。
0
あなたにおすすめの小説
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる