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2人の想い
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「話がある。…………別れてくれ。」
「…急ね…どうして?」
「好きな人ができた。」
・
・
・
拓海25歳、真紀22歳のときに職場で知り合い、しばらくして交際開始して、3年間交際。休日になればどちらかの家で2人一緒に過ごしていて、周囲からはいつ結婚するんだ?と言われるような状態だった2人。この日も、真紀が拓海の部屋に来ていて、1日をいつものように部屋で過ごし、真紀の作った夕食を食べ終えたところだった。「話がある。」と言われた真紀はいよいよプロポーズかな。と、一瞬思ったところに予想を裏切る言葉をつきつけられた。
「イヤ!別れない。」
「頼む、別れてくれ。」
「そんな嘘を言われても納得できない。」
「嘘って?」
「好きな人ができた。なんて嘘でしょ。女の勘を舐めないで、別の女が居るかどうか、私から心が離れてるかどうかぐらい分かるよ。女の浮気はバレないけど男の浮気はバレる」
「……はぁ…なんでそういうとこ見抜くかなぁ…ここは、素直に別れて、いつの日か、真実を知って感動する話に…っていうのが定番の流れだろ。」
「で、その事実っていうのは?どうして別れるなんて?」
「あと1年だって。……俺の余命。」
「え?…嘘よね…冗談…だよね…」
「こんな悪質な冗談なんて言わないよ。」
「そうよね…嘘ついてまで別れようなんて、もしかしたらとは思ったけど。予感外れてますようにって思ってたのに…それにしたって1年って…治る見込みはないの?」
「やっかいな箇所な上に若いから進行も早いらしくもう転移もしてるらしい。」
「そう…」
「これで分かっただろ。…別れてくれ。」
「イヤ!別れない。死ぬまで一緒に居る!」
「そう言うと思ったから嘘までついたのに。1年無駄にせず、新しい良い人みつけろよ。」
「何が無駄なの?拓海との最後の1年が無駄な訳ないでしょ! 逆の立場だったら。私が余命1年だって言ったら、はい、そうですかって新しい人見つけようと思えるの?」
「そ、それは…」
「私のこと思って、カッコ良いことしてるつもり?ふざけないで!」
「どうして…どうして別れてくれないんだ……俺だって、ずっと一緒に居たい。な、何十年経っても…一緒に居られたらって思っていたよ。…なんで1年しか無いんだって……俺が…死んだ後、…真紀が他の…他の男を好きになるなんてイヤだって…そんなのイヤだって思ったよ。そんな小さい…器の小さい男なんだよ……でも、そんなんじゃダメだって…ずっと悩んで…冷静に…必死に考えて。こんなヤツのことは忘れて新しい人と幸せになって欲しい。…やっとのことでそう思えるようになったのに。…別れてくれって言えたのに…どうして見抜くんだよ…どうして別れてくれないんだよ…頼むよ…真紀には幸せになって欲しいんだよ…」
ここまで、平静を装って、なんとか冷静に言葉を発していた拓海だったが、初めて人前で泣いた。言葉をつまらせながら、涙を溢れさせ、流れる涙を袖で拭いながら、ため込んできた思いをぶつけるように一気に言葉を吐き出した。
途中から真紀も涙を流しながら聞いていた…気持ちを抑えられず拓海のことを抱きしめていた。
「それで良いんだよ。ずっと一緒に居よ…死ぬまで一緒に居よ…ずっと拓海のことだけを思い続けるから。私の幸せを思うなら。別れるなんて言わないで。」
「真紀…それじゃダメなんだよ…」
「よし、決めた!拓海の赤ちゃん産んであげる。ううん、産ませて!」
「は?お前、何言ってるんだ。」
「私、真剣だよ。若くして死んだって、遺伝子残せば勝ちじゃない。拓海が生きた証を後世に残す。生物の最大の目的を果たせるんだから。それに、愛した人との子供を産んで育てる。それ以上の幸せなんて、そうそう無いでしょ?少なくとも私にとっては一番の幸せよ。」
「いやいやいや…仮に子供ができたとしても、その子が産まれる頃には俺は死んでるんだぞ。冷静になれ、一時的な感情に流されちゃダメだ。一緒に生きていける良い相手を見つけろ。な。」
「女の私がここまで決心してるのに、どうしてそんなことしか言えないの?他の男が数十年かけて注ぐ愛を1年で注いでやる。1年で何十年分の幸せを味合わせてやる。ぐらい言えないの?」
「真紀…負けたよ。死ぬまで一緒に居てくれ…結婚しよう…」
「はい。お願いします。」
・
・
・
数年後
・
・
・
「ねぇ、ママ。友達がね。パパが居ないのは変だって。ウチって変なの?」
「う~ん…変ではないけど、珍しいかもね。」
本棚から薄いアルバムを持ってくるとテーブルの上で開く。
「これがパパだよ。」
「知ってるよ。毎日行ってきますって言ってるもん。」
小さな仏壇の横に飾られた写真…それと同じ頃に撮られたデートする2人の幸せそうな笑顔の写真…数ページに渡ってそういった写真が並んでいたが、ページをめくっていくと男の顔は頬がこけ、顔色も悪くなっていく、さらにページが進むと病院のベッドの上で撮られた写真が増えていった。
「パパ、しんどそう…」
「そうだね…パパね…病気で凄くしんどくて痛くて辛くて眠ることすらできないぐらい大変なこともあったの。でもね、そんな時ですらママと、ママのお腹の中に居た君のことばかり心配してたの。そんな優しいパパだったの…パパの分まで幸せにならないとね。」
「ママ…泣いてるの?」
「ううん…大丈夫よ!さ、ご飯食べよ。」
拓海…大変なこともあるけど、幸せだよ。あなたに似て優しい良い子に育ってるよ…これからも見守っていてね…
--- 終 ---
「…急ね…どうして?」
「好きな人ができた。」
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拓海25歳、真紀22歳のときに職場で知り合い、しばらくして交際開始して、3年間交際。休日になればどちらかの家で2人一緒に過ごしていて、周囲からはいつ結婚するんだ?と言われるような状態だった2人。この日も、真紀が拓海の部屋に来ていて、1日をいつものように部屋で過ごし、真紀の作った夕食を食べ終えたところだった。「話がある。」と言われた真紀はいよいよプロポーズかな。と、一瞬思ったところに予想を裏切る言葉をつきつけられた。
「イヤ!別れない。」
「頼む、別れてくれ。」
「そんな嘘を言われても納得できない。」
「嘘って?」
「好きな人ができた。なんて嘘でしょ。女の勘を舐めないで、別の女が居るかどうか、私から心が離れてるかどうかぐらい分かるよ。女の浮気はバレないけど男の浮気はバレる」
「……はぁ…なんでそういうとこ見抜くかなぁ…ここは、素直に別れて、いつの日か、真実を知って感動する話に…っていうのが定番の流れだろ。」
「で、その事実っていうのは?どうして別れるなんて?」
「あと1年だって。……俺の余命。」
「え?…嘘よね…冗談…だよね…」
「こんな悪質な冗談なんて言わないよ。」
「そうよね…嘘ついてまで別れようなんて、もしかしたらとは思ったけど。予感外れてますようにって思ってたのに…それにしたって1年って…治る見込みはないの?」
「やっかいな箇所な上に若いから進行も早いらしくもう転移もしてるらしい。」
「そう…」
「これで分かっただろ。…別れてくれ。」
「イヤ!別れない。死ぬまで一緒に居る!」
「そう言うと思ったから嘘までついたのに。1年無駄にせず、新しい良い人みつけろよ。」
「何が無駄なの?拓海との最後の1年が無駄な訳ないでしょ! 逆の立場だったら。私が余命1年だって言ったら、はい、そうですかって新しい人見つけようと思えるの?」
「そ、それは…」
「私のこと思って、カッコ良いことしてるつもり?ふざけないで!」
「どうして…どうして別れてくれないんだ……俺だって、ずっと一緒に居たい。な、何十年経っても…一緒に居られたらって思っていたよ。…なんで1年しか無いんだって……俺が…死んだ後、…真紀が他の…他の男を好きになるなんてイヤだって…そんなのイヤだって思ったよ。そんな小さい…器の小さい男なんだよ……でも、そんなんじゃダメだって…ずっと悩んで…冷静に…必死に考えて。こんなヤツのことは忘れて新しい人と幸せになって欲しい。…やっとのことでそう思えるようになったのに。…別れてくれって言えたのに…どうして見抜くんだよ…どうして別れてくれないんだよ…頼むよ…真紀には幸せになって欲しいんだよ…」
ここまで、平静を装って、なんとか冷静に言葉を発していた拓海だったが、初めて人前で泣いた。言葉をつまらせながら、涙を溢れさせ、流れる涙を袖で拭いながら、ため込んできた思いをぶつけるように一気に言葉を吐き出した。
途中から真紀も涙を流しながら聞いていた…気持ちを抑えられず拓海のことを抱きしめていた。
「それで良いんだよ。ずっと一緒に居よ…死ぬまで一緒に居よ…ずっと拓海のことだけを思い続けるから。私の幸せを思うなら。別れるなんて言わないで。」
「真紀…それじゃダメなんだよ…」
「よし、決めた!拓海の赤ちゃん産んであげる。ううん、産ませて!」
「は?お前、何言ってるんだ。」
「私、真剣だよ。若くして死んだって、遺伝子残せば勝ちじゃない。拓海が生きた証を後世に残す。生物の最大の目的を果たせるんだから。それに、愛した人との子供を産んで育てる。それ以上の幸せなんて、そうそう無いでしょ?少なくとも私にとっては一番の幸せよ。」
「いやいやいや…仮に子供ができたとしても、その子が産まれる頃には俺は死んでるんだぞ。冷静になれ、一時的な感情に流されちゃダメだ。一緒に生きていける良い相手を見つけろ。な。」
「女の私がここまで決心してるのに、どうしてそんなことしか言えないの?他の男が数十年かけて注ぐ愛を1年で注いでやる。1年で何十年分の幸せを味合わせてやる。ぐらい言えないの?」
「真紀…負けたよ。死ぬまで一緒に居てくれ…結婚しよう…」
「はい。お願いします。」
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数年後
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「ねぇ、ママ。友達がね。パパが居ないのは変だって。ウチって変なの?」
「う~ん…変ではないけど、珍しいかもね。」
本棚から薄いアルバムを持ってくるとテーブルの上で開く。
「これがパパだよ。」
「知ってるよ。毎日行ってきますって言ってるもん。」
小さな仏壇の横に飾られた写真…それと同じ頃に撮られたデートする2人の幸せそうな笑顔の写真…数ページに渡ってそういった写真が並んでいたが、ページをめくっていくと男の顔は頬がこけ、顔色も悪くなっていく、さらにページが進むと病院のベッドの上で撮られた写真が増えていった。
「パパ、しんどそう…」
「そうだね…パパね…病気で凄くしんどくて痛くて辛くて眠ることすらできないぐらい大変なこともあったの。でもね、そんな時ですらママと、ママのお腹の中に居た君のことばかり心配してたの。そんな優しいパパだったの…パパの分まで幸せにならないとね。」
「ママ…泣いてるの?」
「ううん…大丈夫よ!さ、ご飯食べよ。」
拓海…大変なこともあるけど、幸せだよ。あなたに似て優しい良い子に育ってるよ…これからも見守っていてね…
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