献血に行った話

みやび

文字の大きさ
6 / 7

しおりを挟む

 その後俺は、彼女にリードされるまま再び果てて。

「うーゎ、すっご……たぷたぷじゃん……」口を縛ったそれを見て、美月さんは軽く引いた表情をしていた。「そ、そんなに気持ちよかった……?」

 無用に下半身を晒すのも彼女に失礼な気がしていそいそと服を着ると、衣服を乱したままの彼女がぽつりと口を開く。

「――キミでよかった。初めてのひとが」
「えっ……⁉︎」
「……へっ、あ、ゃ、違うよ! 初めての特命の相手がキミでよかったって意味」
「で、ですよねぇ~……」
 さすがに処女なわけないか(失礼)。
 ……でも、ちょっと複雑だな。これからもこの特命の仕事、続けるのかな……。

「あ、職場からメールだ。ニュース記事へのリンク? ――ふぇっ? ……『K大学病院がXX病の新薬にひつよぉなせーえき由来の成分の人工的なサクシュツに成功。今後安定的に……』」
 読み上げて、ぺたん、とフローリングにへたり込む。
「……なんか、やらなくてよくなっちゃった」
「そうみたい、っすね」
 ま、まぁなんだ。とりあえずめでたしめでたし、かな?
「――つか特命ってマジだったんすね?」
「そうだよぉ。でなきゃこれただのサボりじゃん」
「確かに」
 業務抜け出して年下食ってるだけになるもんね。


 新しいナース服に着替え直して、脱いだやつを片付けながら。
「……ホントはさ、マジの初めてなんだから、ね……?」
 ぽつりと告げる美月さん。
 さっき聞いたような気がするけど。でもなんだろう、やけに神妙だな。

「特命が、でしょ?」もうやらんでよくなってよかったじゃん。
「……あは、ごめん。わたしも素直じゃないや」
「?」
「――さっきのがわたしの。ロストバージン、だよ?」
「――っ!」
 茶目っ気たっぷりにそう告げると、えへ、と可愛らしく微笑んだ。

「……責任、ちゃんととってよね?」



――――――――
――……
……


「ではでは……以上で、処置は終わりです。ご協力ありがとうございました」
 彼女が深々と頭を下げる。

 淡々とシャーレを片付ける美月さん。

「こちらこそ、ありがとうございました」
「いえいえ」
 お別れだと思うと……ちょっとだけ寂しい。


 けれど彼女は。
 そんな俺の心を、見透かしたかのように。

「――明日、バイトは?」
「明日は……休みです」
 俺が答えると、美月さんは「そ、」と薄く唇を動かし――静かに微笑む。

「夕方六時にプチ公前に来てよ。成田くんとデートしたい」
「ッ、」
「好きって言ったこと、ウソじゃないよ。……だから寂しい顔しないで」
「……っ」
 なんだろう、泣きそうなんですけど。
 冗談じゃなく、生きててよかった。

「――あっ、そろそろ戻らなくちゃ! じゃーまたね、成田くん! 部屋のカギそこだから、出たら郵便受けに入れといて、ヨロシク!」
「え、あ、ハイ⁉︎」
 感慨に浸っていたのもつかの間、美月さんは慌ただしくお仕事に戻っていった。
 壁際の棚の上には銀色のカギ。
 つか、やっぱ美月さんの部屋だったんだな……そんな気はしてたけどね。


「またね、か」
 鍵を手にし、美月さんの言葉を噛み締める。

 明日の六時にプチ公前。
 再び、彼女と会うこと。それが答え合わせだ。


 が、世の中とかく、好事魔多し。
「電話番号書き出しとくか……」
 不測の事態があっても連絡さえ取れればどうにかなるだろう。俺はスマホのメモ機能を立ち上げる。

「えーとゼロ、ハチ、ゼロ、ご、あれロクだったっけ? ……」
 打っては消し、打っては消し。

 ……ま、まぁアレだ。ようは遅れなければいいんだよね?
 そう胸に念じて俺は部屋を出ると、きちんと施錠をし、部屋番号のポストにカギを入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...