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しおりを挟む準備を整えた純子たち3人は、また木の上に陣取った。矢の数は十分である。
俺と明も木の根元に隠れて次の獲物が来るのを待つ。
森の中に静寂が戻る。
さっきの戦闘が嘘のように、木々のざわめきと鳥の声だけが耳に届く。だが、空気には確かに気配があった。
――また来る。
そう確信して、俺たちは息を潜める。風の流れがわずかに変わり、土の匂いにまじって、獣臭が漂ってきた。
「……明、来るわよ」
「分かってる」
明の手がロングソードの柄を強く握る。俺もショートソードを握りしめる。
――カサリ。
茂みが揺れた。現れたのは、さっきよりもさらに大きなブラックウルフ……いや、違う。全身に黒紫の紋様が浮かび、赤い目がギラついている。
「進化種……!」
その名も【ブラックウルフ・ヴェノム】。毒性を持つ牙と、通常よりも高い身体能力を誇る危険種だ。こいつが群れのリーダーか。
「3時方向、3体確認。ヴェノムを含めて……計6体!」
木の上から沙耶の声が飛ぶ。
「来るわよ、準備して!」
有紗と沙耶もすでに弓を構えている。俺たちも木の根元から飛び出した。
「あの大きいやつは俺がやる! お前は周りの奴を頼む!」
「明! 毒持ちだぞ! 気をつけろ!」
「大丈夫だ! 任せろ!」
叫んで走り出す明。ヴェノムの注意が明に向いた。狙い通りだ。
「こっちだ、毒犬!」
明が挑発すると、ヴェノムが牙をむいて突っ込んでくる。俺は走りまわって残りのブラックウルフを切り倒していく。1匹……2匹……3匹!
純子たちの矢がヴェノムの動きをけん制する。ヴェノムはその矢をことごとく躱した。だがバランスは崩していた。
「明っ、今よ!!」
「そこだぁぁっ!」
明の剣が、純子の叫びと同時にヴェノムの背中に襲いかかる。しかし、ヴェノムは素早く体をひねり、致命傷を避けた。
「チッ……固ぇな、こいつ!」
「でも動きにクセがある! もう一度!」
明が距離を取る。俺はねらいを変えてショートソードを一閃する。ヴェノムの鼻先を叩き、注意は俺に移った。
「狙って! ヴェノムを倒して群れ全体を崩すのよ!」
純子の指示で、三本の矢がヴェノムを狙って飛来する。
一本が右前脚に命中!
「チャンス!」
今度こそ――!
俺は、斬撃を叩き込もうとするが、バランスを崩しながらもそれを躱すヴェノム。そこに明が横から全力の一撃を叩き込む。
「せぇぇぇいっ!!」
ガキンッ!!
明の剣がヴェノムの首元を斬り裂き、呻き声を上げたところに――
「いっけえええー!」
沙耶の矢が、ヴェノムの赤い右目を正確に貫通した。
「やった……!」
俺と明が同時に息を吐く。ヴェノムの巨体が、地響きを立てて崩れ落ちた。
残りの個体たちも、主を失って慌てて逃げ出していく。
「全体撃退、完了!」
純子の明るい声が、木の上から響いた。
「毒持ちだったけど、誰も噛まれてないよね?」
「うん、大丈夫! わたし、さっきから一歩も動いてないもん!」
沙耶が無邪気に笑う。
「油断しないで。毒の爪で引っかかれてるかもしれない。後でチェックしよう」
有紗の冷静な一言に、全員がうなずいた。
戦いは終わった。 でも今は――
「よし。かなり高く売れるぞ、これ」
「今日はこのくらいで帰りましょう」
「やったー! これで今夜は焼き肉三昧だねっ!」
沙耶がぴょんと跳ねながら笑った。
俺は『買い取り』をして回った。
今日はかなりの金額になると思っていたが、買い取り合計は290万ゴルドであった。
すげー金額……てことは?
俺はステータスボードを確かめる。
百点ポイント461、銅級、冒険者レベルF、力の一撃
ステータス、HP:130/130 攻撃力:139 防御力:130
速度:173 知力:116 器用:130、
……461ポイント?
あ! これやベー。
ちょっとポイント貯まりすぎ。
どうしよう。……速度と攻撃力と防御力と。……HPも大事だし。何かスキルを覚えるか?
俺は悩んだ末にステータスを平均的に上げることにした。
まずすべてを70づつ挙げて……まだ41ポイント余ってる。
……やっぱりスピードが大事だよね?
残り41はスピードに……っと。
百点ポイント0、銅級、冒険者レベルF、力の一撃
ステータス、HP:200/200 攻撃力:209 防御力:200
速度:284 知力:186 器用:200、
俺はポイントをすすッと割り振って皆のほうを振り返った。
「どうしたんだよ。卓郎! いったいいくらになったんだ」
「うん。290万ゴルドだ」
「5人だから一人……純子、いくらだ?」
「え! 何、明」
「今日は290万ゴルドだと」
「え! ……てことは一人58万ゴルドってこと?」
「えー、なになに? 今日はすっごい稼いだのよねー」
驚く純子を見て有紗が口をはさむ。
「それがね、有紗ちゃん。今日全部で290万ゴルドなんだってー」
「へー、じゃあ一人58万ゴル……ドでいいんだよね?」
「だよね?」
「そうか58万ゴルドか!」
計算のできない明もその金額の多さが分かったのか分からないのか? 額面は分かったようで納得の声を上げた。
「ギルドに戻って依頼完了の報告しよか?」
お金をみんなに手渡すと、明は5枚の大金貨などを見つめて不思議そうな顔をしてから財布にしまった。ちなみに大金貨1枚は10万ゴルド(金貨10枚)である。
「なんだか最近金持ちになって来たな」
「私も冒険者ってこんなに稼ぎが良いとは思わなかったわ」
「私達新人だから分からないけど、きっと普通はこんなじゃないと思うわよ」
「うん。絶対このパーティ、凄いんだと思う」
「まあ、俺の経験じゃあ大金貨1枚稼ぐことだって滅多になかったぜ」
「明って、Eランクパーティだったんでしょ?」
「まあ、俺の実力はもっと上だと思うけどな」
「はいはい。ギルドの評価は貢献度も大事だからね」
ギルドへの帰り道、大金をゲットした仲間達の話は弾んだ。
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