34 / 265
34
しおりを挟む
翌朝。
俺たちは、討伐証明となる部位・ラビバグの角32を袋に詰め(それ以外の肉や皮は『買い取り』にだした)、馬車で街へ戻った。村人たちは見送りに出てくれて、なかには焼きたてのパンや果物を手渡してくれる人もいた。
「これ、お礼にって……」
子どもが小さな花束をくれたときは、さすがの明も言葉に詰まってたな。
ギルドに到着すると、朝の受付カウンターにはいつものように礼子さんが立っていた。
「おかえりなさい、卓郎くんたち。ええと……山本村のラビバグ討伐の件ね?」
「はい。討伐証明、これです。全部で……32体分」
俺が袋を差し出すと、彼女は手慣れた動きで確認を始めた。
「ええと……確認よし、はいっ、32体分で16万ゴルド。お疲れさまでした」
「やったー! 今回はちゃんとした報酬だ!」
沙耶が両手をあげてはしゃぐ。
「ちゃんと分配するからね、ほら」
俺は3万2千ゴルド(『買い取り』分25万6千ゴルドは、昨日すでに分配済。百点ポイント45未使用)を一人ずつに渡しながら、ふと視線を上げた。
――ギルド内の空気が、少し重い。
冒険者たちがざわついている。その中心では、血まみれのマントを羽織った男が、受付の奥でギルドマスターと何か話していた。
礼子さんも、表情を引き締める。
「……ああ、ごめん。純子ちゃんたち、この後ちょっと時間ある?」
「え、ええっと、まぁ、はい」
返事をした純子に、礼子さんは静かに言った。
「北部の村――山本村よりさらに奥、軽部村ってところがあるの。そこが昨夜、まるごと沈黙したのよ」
俺たち全員の背筋がぞっとした。
「沈黙……って?」
純子が眉をひそめる。
「誰とも連絡が取れない。使いの子どもが、村が静かすぎて怖くなって途中で引き返してきたらしいのよ。ラビバグどころじゃない、ってわけ」
昨日の夜の戦いのあと、俺たちはすっかり気を抜いていたけれど、何かが……もっと大きな何かが、動いているようだ。
「とりあえず、今は軽部村に調査隊が向かってるけど……場合によってはあなた達にも頼むかも」
礼子さんの声は、静かだけど真剣だった。
「……わかりました」
純子が頷く。
「――あ、そうそう。純子ちゃんたち、ひとつお知らせがあるの」
俺たちが振り向くと、礼子さんは少し誇らしげに微笑んだ。
「今回のラビバグ討伐、それから山本村の人たちからの評判も加味されて……正式に、Eランクへの昇格が決まったわ。おめでとう!」
「えっ、マジで!? 良いことだけど、俺だけEランク据え置き?」
明が思わず声を上げる。
「仕方ないでしょ。元々Eランクなんだから」
沙耶は手を叩いて喜び、有紗は微笑みを浮かべた。
「……やっとスタートラインって感じかな」
純子が小さく呟いたのを聞きながら、俺は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
「ありがとう、礼子さん。……これからも、頑張ります」
ラビバグだけで終わりじゃない。この世界、なんだか急に風向きが変わってきているような気がしていた。
「昼飯を、昇格祝いを兼ねてパーッとやろうぜ!」
明の提案で昼食は、昼からの宴会となった。
翌朝、ギルドに顔を出すと、受付カウンターの前には見慣れない重装備の男たちが集まっていた。剣や槍の柄に手を添えたまま、ピリピリとした緊張感が漂っている。
「……あれ、あの人たちって」
沙耶が小声で尋ねると、有紗が頷く。
「多分、上位ランクの冒険者たち。雰囲気が違うもの」
そんな中、礼子さんが俺たちに気づき、手を挙げて呼んだ。
「卓郎くんたち、ちょうどよかった。こっちに来て」
案内されたのは、ギルドの奥にある作戦室。普段は使われない場所で、長い地図の広げられたテーブルの前に、ギルドマスターが座っていた。
白髪混じりの顎髭を撫でながら、俺たちに視線を向ける。
「――君たちが、ラビバグを退けた新Eランクの新人か。ふむ、悪くない」
「はい。……それで、今日はなんのご用でしょうか?」
俺が尋ねると、マスターは指で地図の一点を示した。
「軽部村だ。昨日話した通り、連絡が途絶えている。昨夜、先発隊を送り込んだが、いまだに戻ってこない」
ギルドマスターの言葉に、場の空気がさらに緊張する。
「このままだと、あの村も……」
有紗が不安げに呟いた。
マスターは頷き、俺たちをじっと見つめた。
「本来、新Eランクの君たちに任せるような案件ではない。だが、君たちは『最初の目』になれる。情報を持ち帰るだけでいい。村に入って様子を確認してくれ」
「討伐じゃないんですね?」
純子が確認すると、マスターは静かに答えた。
「ああ。敵が何かもまだ分からない現状だ。戦うなとは言わんが、むしろ戦わずに必ず情報を持ち帰ってきてほしい。危険な任務かもしれん。頼めるか?」
俺は一度、仲間たちを見た。
明はいつものようにニヤリと笑い、純子は腕を組んでうなずく。有紗と沙耶も、緊張の中に決意を秘めて頷いた。
「……はい。行きます。俺たちでできる範囲で、やります」
マスターはふっと微笑んだ。
「いい返事だ。装備と準備を整えたら、今日の午後には出発してくれ。あとは――幸運を祈る」
俺たちは、討伐証明となる部位・ラビバグの角32を袋に詰め(それ以外の肉や皮は『買い取り』にだした)、馬車で街へ戻った。村人たちは見送りに出てくれて、なかには焼きたてのパンや果物を手渡してくれる人もいた。
「これ、お礼にって……」
子どもが小さな花束をくれたときは、さすがの明も言葉に詰まってたな。
ギルドに到着すると、朝の受付カウンターにはいつものように礼子さんが立っていた。
「おかえりなさい、卓郎くんたち。ええと……山本村のラビバグ討伐の件ね?」
「はい。討伐証明、これです。全部で……32体分」
俺が袋を差し出すと、彼女は手慣れた動きで確認を始めた。
「ええと……確認よし、はいっ、32体分で16万ゴルド。お疲れさまでした」
「やったー! 今回はちゃんとした報酬だ!」
沙耶が両手をあげてはしゃぐ。
「ちゃんと分配するからね、ほら」
俺は3万2千ゴルド(『買い取り』分25万6千ゴルドは、昨日すでに分配済。百点ポイント45未使用)を一人ずつに渡しながら、ふと視線を上げた。
――ギルド内の空気が、少し重い。
冒険者たちがざわついている。その中心では、血まみれのマントを羽織った男が、受付の奥でギルドマスターと何か話していた。
礼子さんも、表情を引き締める。
「……ああ、ごめん。純子ちゃんたち、この後ちょっと時間ある?」
「え、ええっと、まぁ、はい」
返事をした純子に、礼子さんは静かに言った。
「北部の村――山本村よりさらに奥、軽部村ってところがあるの。そこが昨夜、まるごと沈黙したのよ」
俺たち全員の背筋がぞっとした。
「沈黙……って?」
純子が眉をひそめる。
「誰とも連絡が取れない。使いの子どもが、村が静かすぎて怖くなって途中で引き返してきたらしいのよ。ラビバグどころじゃない、ってわけ」
昨日の夜の戦いのあと、俺たちはすっかり気を抜いていたけれど、何かが……もっと大きな何かが、動いているようだ。
「とりあえず、今は軽部村に調査隊が向かってるけど……場合によってはあなた達にも頼むかも」
礼子さんの声は、静かだけど真剣だった。
「……わかりました」
純子が頷く。
「――あ、そうそう。純子ちゃんたち、ひとつお知らせがあるの」
俺たちが振り向くと、礼子さんは少し誇らしげに微笑んだ。
「今回のラビバグ討伐、それから山本村の人たちからの評判も加味されて……正式に、Eランクへの昇格が決まったわ。おめでとう!」
「えっ、マジで!? 良いことだけど、俺だけEランク据え置き?」
明が思わず声を上げる。
「仕方ないでしょ。元々Eランクなんだから」
沙耶は手を叩いて喜び、有紗は微笑みを浮かべた。
「……やっとスタートラインって感じかな」
純子が小さく呟いたのを聞きながら、俺は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。
「ありがとう、礼子さん。……これからも、頑張ります」
ラビバグだけで終わりじゃない。この世界、なんだか急に風向きが変わってきているような気がしていた。
「昼飯を、昇格祝いを兼ねてパーッとやろうぜ!」
明の提案で昼食は、昼からの宴会となった。
翌朝、ギルドに顔を出すと、受付カウンターの前には見慣れない重装備の男たちが集まっていた。剣や槍の柄に手を添えたまま、ピリピリとした緊張感が漂っている。
「……あれ、あの人たちって」
沙耶が小声で尋ねると、有紗が頷く。
「多分、上位ランクの冒険者たち。雰囲気が違うもの」
そんな中、礼子さんが俺たちに気づき、手を挙げて呼んだ。
「卓郎くんたち、ちょうどよかった。こっちに来て」
案内されたのは、ギルドの奥にある作戦室。普段は使われない場所で、長い地図の広げられたテーブルの前に、ギルドマスターが座っていた。
白髪混じりの顎髭を撫でながら、俺たちに視線を向ける。
「――君たちが、ラビバグを退けた新Eランクの新人か。ふむ、悪くない」
「はい。……それで、今日はなんのご用でしょうか?」
俺が尋ねると、マスターは指で地図の一点を示した。
「軽部村だ。昨日話した通り、連絡が途絶えている。昨夜、先発隊を送り込んだが、いまだに戻ってこない」
ギルドマスターの言葉に、場の空気がさらに緊張する。
「このままだと、あの村も……」
有紗が不安げに呟いた。
マスターは頷き、俺たちをじっと見つめた。
「本来、新Eランクの君たちに任せるような案件ではない。だが、君たちは『最初の目』になれる。情報を持ち帰るだけでいい。村に入って様子を確認してくれ」
「討伐じゃないんですね?」
純子が確認すると、マスターは静かに答えた。
「ああ。敵が何かもまだ分からない現状だ。戦うなとは言わんが、むしろ戦わずに必ず情報を持ち帰ってきてほしい。危険な任務かもしれん。頼めるか?」
俺は一度、仲間たちを見た。
明はいつものようにニヤリと笑い、純子は腕を組んでうなずく。有紗と沙耶も、緊張の中に決意を秘めて頷いた。
「……はい。行きます。俺たちでできる範囲で、やります」
マスターはふっと微笑んだ。
「いい返事だ。装備と準備を整えたら、今日の午後には出発してくれ。あとは――幸運を祈る」
73
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる