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しおりを挟む祠を出ると、俺たちはその足で村を出発した。
息を切らしながら山道を駆け下り、薄明かりの中、街道を必死に走る。俺たちの足音と、ざらついた不安だけが耳に残った。
「一刻も早く……!」
明が先頭を切って走りながら叫ぶ。
「封印が完全に解けたら、あの村だけじゃすまないわ!」
純子も額に汗を滲ませながら続けた。
有紗と沙耶は後ろで支え合いながら、それでも歯を食いしばってついてくる。みんな疲労困憊だったが、誰一人として立ち止まる者はいなかった。
ようやく福佐山都市の城門が見えたころには、朝日が街を赤く染め始めていた。
ギルドの扉を勢いよく押し開けた。
カウンターには、ちょうど礼子がいた。俺たちの顔を見るなり、眉を跳ね上げる。
「……どうしたの? まだ調査の日程、数日あるはずじゃ――」
「軽部村で異常事態が発生した!」
俺は息を整える間もなく声を張った。
「封印されてた何かが動き出してる。祠の地下に、魔物……いや、瘴気の塊みたいな何かがあって、それが村人たちを取り込んでるんだ!」
言い終えると同時に、礼子の顔が強張る。奥にいたベテランの職員たちも立ち上がった。
「詳細を全部話して」
礼子の声は冷静だったが、その目には緊張が走っていた。
俺たちは順を追って、村で見たもの、聞いたもの、そして最後に祠で起きたことを伝えた。
「……封印札が剥がれ始めているってことは、封印の魔力が限界を迎えてる。これは放置できない」
礼子はすぐさま後ろのスタッフに指示を飛ばす。
「緊急等級、Cランク以上の討伐部隊を招集! 魔術師ギルドと教会にも連絡! 祠の構造図と過去の記録も今すぐ洗って!」
俺たちの後ろには、他の冒険者たちがざわめきながら集まり始めていた。まだEランクの俺たちに、こんな大ごとが持ち込まれるとは誰も想像していなかったらしい。
「……ありがとう、よく戻ってきてくれたわ」
礼子が俺たちに静かに言った。
「君たちはすでに、Eランクとして十分な働きをしてるわ」
その言葉に、仲間たちはほっとしたような顔で見つめ合った。
けれど、安心している暇はなかった。
――あの村で、何かが目覚めようとしている。
俺たちはその始まりを見たにすぎない。次は……あれを止める番だ。だが、それをできる実力は自分達にないことは分かっていた。
5人は互いに見つめ合う。初めに口を開いたのは純子だった。
「私達にできることはやったわ。あとは強い人達に任せましょう」
「そりゃ、分かるけどよー。ただちょっと気になるじゃねーの?」
「そうそう、私心配で胸がザワザワしっぱなし」
「あれ、どうやってやっつけるのかな? 私達じゃ何にもできないよね?」
「封印……しなおすのかな? でも完全に復活してたらどうするんだろうね?」
俺の言葉を最後に、全員が黙り込む。考えていたことは同じ。あれは、おそらく物理攻撃が無効な幽霊的な何かじゃないかと。
俺たちの沈黙に反してギルドの動きはあわただしい。
魔術師ギルドと教会に行くのだろう使者が、バタバタと駆け出していく。掲示板には緊急クエストが張り出され、Cランク以上の冒険者による討伐部隊が招集されていく。
「任せるしかないでしょ。多分私達じゃ、攻撃手段がないんじゃない?」
「俺の、フレイムバスターでもだめかな?」
「明のフレイムバスターなら少しは効くかも?」
有紗と沙耶が顔を見合わせる。
「明だけで、討伐部隊に参加したいって言っても、募集はCランク以上だよ」
「まあ、俺も今は疲れ切ってるから、早く帰って寝たいけどよ」
「今日はこれで解散して家で、ゆっくり休みましょう。また明日ここに集合して依頼を探すかするのでいいわよね?」
俺も明も頷いたがーー
「ねえ、純子。私達、なんだか怖いから、この後一緒にいない?」
有紗と沙耶は純子に懇願の眼差しを送る。
「いいわよ。じゃあ着替えとか取りに行くのを付き合って」
「うん。もちろんだわ」
「そんじゃあ、今日はこれで解散だな。俺も早く帰って眠りたいぜ。流石に夜通し歩くのきつかったからな」
明の顔にも身体にも疲れの色が滲んでいる。それはメンバー全員に言えることだった。
「明日の朝、またここに集合ってことで、解散ね。明、それじゃあまた」
純子達が手を振ってから帰り出す。明も続いてギルドの玄関を出る。女子3人は純子の家に行くのだろう。明だけが別方向だ。俺は曲がり角まで一緒に歩いてそこで別れる。
女子3人は何事もなかったかのようにキャラキャラ話していた。不安がないというのだろうか? いや、不安を無理に隠しているのだろう。もう自分達にできることなんてないのだから。
光魔法は使えれば、あの化け物に攻撃が通じるのだろうか?
あれは、霊的な何か、悪霊? ゴーストとかレイスとか? あるいはよく知らない何かそういうものだと直感したが、それが当たっているかは定かではない。
俺は浮かない顔で黙り込んでいた。そして曲がり角で別れを告げた。そして家に帰るとベッドに倒れ込むように身を投げ朝までぐっすり眠り込んだ。
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