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しおりを挟む翌日、冒険者ギルドの掲示板の前。俺たち5人は、南と北の二方向の狩場から締め出されたと知って、全員が一斉に顔をしかめた。
どうやら、上位ギルドのパーティが長期の討伐依頼に入ってしまったらしい。一般のEランク以下の冒険者では立ち入りが制限される。
「ったく、もっと強けりゃなあ……」
ぼやく明に、純子が腕を組んでため息をついた。
「仕方ないわよ。危険な魔物や変異種が出てるんだから」
有紗が掲示板に近づき、依頼票を一枚一枚確かめながら呟く。
「東か西か……良い依頼はないかしら」
そのとき、明の視線がピタリと俺の腰元に吸い寄せられた。
「――ん? おい卓郎、それ……」
明がぐいっと俺に近づいて、腰のロングソードをまじまじと見つめる。
「ちょ、近い近い!」
「いやいやいや! 何その剣! なんかキラキラしてるし、やたら軽そうだし……お前、いつの間にそんなの持ってた!?」
明がガン見しながら騒ぐもんだから、他のメンバーもぞろぞろと集まってきた。
「……ミスリル?」と純子が眉をひそめる。
「本物っぽいね」と有紗がさらりと呟く。
「ふっふっふ……気づいちゃったか。これこそ、昨夜の俺の大英断の結晶……! 中古良品ミスリル製ロングソード、70万ゴルド様だ!」
「安っ!?」
「それ、本物なの?」
「ウッソくさ!」
全員の声が揃って跳ね上がった。さすがにギルド内の他の冒険者たちも一部が振り返る。
「ちょ、ちょっと待って、すぐ折れちゃったらどうするの!? 盾役ちゃんとできなくない」と沙耶が動揺している。
「大丈夫、大丈夫。ミスリルって、魔力を流せば斬れ味も強度もアップするすごいやつなんだよ」
「あんた魔力なんて持ってるの?」
「……試してみたけど、俺、魔力あるっぽい。試しにやってみたんだけど剣が光ってくるんだよね」
そう言って剣を抜き、刀身を軽く振って見せる。ミスリルの刃が、光を受けてわずかに青白く輝く。
「マジかよ。すっげー! 俺にもやらせて?」
「いいよ。やってみれば?」
俺は明に剣をわたす。明が魔力を流そうとしてみると僅かに光が増したようなきがする。
「卓郎ほど光らないけど、でも……」
沙耶が首を傾げながら明を覗き込む。
「それに試してないけどヒールが使えるかもしれない。……もう俺、物理も魔法もいける系男子……!」
「なにそれ、うっそくさ!」と純子が即座に吐き捨てた。
沙耶だけが楽しそうに笑いながら拍手してくれる。
「かっこいい~! その剣が光るたびに、卓郎くんも少しだけ輝いて見えるよっ!」(実際は輝いていない)
「少しだけってなんだ少しだけって!」
「でもまあ、これで戦力アップなのは確かよね」と有紗が真面目な顔で頷く。
「じゃあ、今までより少し難しい依頼でも探してみましょうか」
有紗が掲示板の下の段に目を留めた。
「……あった。これ、どうかしら?」
彼女が引き抜いた依頼票を全員の前に広げる。
『Dランク依頼:大橋村周辺に出没する狼型魔物の群れ討伐。推定個体数30匹以上。村の子供が負傷、至急の対応求む。報酬 50万ゴルド+討伐数ボーナス(素材の所有権)あり』
Eランクパーティは、Dランクの依頼にチャレンジできる。3回連続でDランクチャレンジに成功すれば、Dランクに昇格できるのだ。ただチャレンジ失敗すれば違約金を取られる。
「おおっ、いいじゃん! チャレンジ、チャレンジ。やりごたえありそう!」と明が即食いつく。
「30匹って……結構多いわよ? しかも群れで動くなら連携もあるかも」と純子が眉をしかめる。
「でも、Dランクにしては報酬も良いし、今の人数と装備ならいけるかも」と有紗。
沙耶が元気に拳を握る。
「卓郎くんの剣もあるし、なんとかなるなる! 狼型ってモフモフしてて可愛いしねっ!」
「いや、可愛いとかじゃなくて牙と爪がガチだからな!?」
「ま、危なくなったら私は真っ先に逃げるけどね!」と純子。
「逃げないで!? 盾役に全責任がのしかかるから!」
「じゃ、決まりね。準備して向かいましょう」と有紗が依頼票を持って受付嬢の礼子のカウンターへ。
こうして、俺たちは西の大橋村へ向かうことになった。
ギルドを出発して半日ほど。俺たちは緩やかな下り坂の街道を進み、やがて道は森沿いへと入っていった。
空は晴れていて、木々の間から差し込む陽光が道端の草を照らしている。鳥のさえずりと、仲間たちの軽口が混じるこの雰囲気は、なんだか遠足みたいだ。
「村まであと一時間くらいかしら。早めに着けそうね」と、有紗が手持ちの地図を確認して言った。
「道も悪くないし、これなら昼過ぎには現地入りできるな」
俺が応じると、明が前を歩きながらポツリと呟いた。
「でもよ……狼型魔物が30匹以上って、冷静に考えてヤバくないか? 範囲攻撃とかあったら楽なのにな……」
「爆薬付きの矢なら、『お取り寄せ』にあったわよね。卓郎お願いできる?」と純子が思い出すように言った。
「わかった。今やるよ。1本で1千ゴルドだね。爆風範囲、半径5メートルだって」
「どうする。一人1っ本ずつ3本買っておこうか?」
「いいんじゃない」
「わたしも良いと思うよ。必要ならまた卓郎に出してもらえばいいんでしょ?」
「うん。その時は、急いで出すよ。大丈夫だと思う」
「じゃあ俺が敵をその範囲に集めるからさ、一発ドカンと頼むぜ! すっげえの見せてくれよ!」
「集めるのは任せたわ。集まったところで三人で一斉攻撃よ」
純子たちが楽しそうに微笑む。
「……ちょっと待って、それってまさか、俺たちごと爆破する気じゃないよね?」
「二人ならちゃんと逃げれるわよ! たぶん!」
「たぶんって何だよたぶんって! 確信持って言えよ。命かかってるんだから!」
「大丈夫だって、明も卓郎も運動神経いいし、避けられるって!」
「ふざけてんのか!? 避けられるかどうかじゃねーぜ! 避けれるタイミングで撃ってくれよ」
後ろで沙耶が、くすくすと笑いながら口を挟む。
「でも三人で爆発させたら、なんか派手でカッコよさそう~♪ ……って、避けきれなかったらドカーンだけどねっ!」
「沙耶まで!?」
明が顔を赤らめながら怒鳴るけど、どこか楽しそうだ。みんなが笑い合う中、俺はそっと腰のミスリルソードに手を添える。
(……とはいえ、油断は禁物だ。俺の剣も、ちゃんと使いこなせないと……)
初のDランク依頼、しかも数の多い相手。仲間のテンションは高いけど、心のどこかで全員が緊張しているのがわかる。
それでも、こうやって仲間と笑いながら進めるっていうのは、悪くない。
俺たちは、西の大橋村へ向けて、軽快な足取りで進み続けた。
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