ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 午後の陽が傾き始めたころ、俺たちは湖へと足を踏み入れた。

 水面は鏡のように静かで、まるで時間が止まったかのような景色だった。風もなく、鳥のさえずりさえない。

「……音が、消えてる」

 有紗がぽつりとつぶやいた。

「魔力の濃度が変わってる。これ、自然じゃない」

 純子が指先に触れた空気を感じ取るようにして言う。確かに、ピリッと肌を刺すような感覚がある。魔物の気配――それも、ただの獣じゃない。

「……水面、見て。歪んでる」

 沙耶の指さした先、湖の一角に、わずかに波紋が揺れていた。けれど風はない。鳥も飛んでいない。

 まるで、誰かがそこにいるかのような揺れだった。

「明、飛び込むなよ?」

 俺が釘を刺すと、

「……わかってるよ。今日は泳ぎに来たわけじゃないからな」

 と、珍しく慎重にうなずく。

 俺たちは湖畔を回りながら、痕跡を探した。岩陰には靴の跡。折れた草には、うっすらと粘性のある液体が残っていた。

「これ……水に似てるけど、水じゃない」

 有紗が指先ですくった液体を調べる。

「これは、単体の魔獣じゃない。群体の可能性があるわ」

「群体!?」

 明が目を見開いた。

「つまり、あの影は一体じゃないってことよ。周囲の水そのものが、奴らの一部かもしれないってこと」

 純子は喉を鳴らし、湖を見やった。

「……夜までに、準備を整えましょう。完全に暗くなる前に、迎撃陣を敷くのよ」

 俺たちは、正体不明な魔物に対して迎撃陣を敷いて夜を待った。



 月が雲に隠れ、村の灯火が心細く揺れる。空気はひどく冷たく、湖面は黒い鏡のように静まり返っていた。

 ――そのときだった。

「っ……来た!」

 昼間に設置しておいた警報鈴が、小さく、だがはっきりと「チリン」と鳴る。その音に、俺たちの全身が一斉に緊張した。

 湖の中央、ゆらり、と水面が揺れる。

 ――人の形をして、それは立ち上がる。

 いや、人ではない。形だけを模した何かだ。輪郭は水が波打つように揺れ、顔のような部分には、目の代わりに赤い光点がふたつ浮かんでいた。そして、それが一体、二体……いや、五、六……もっとだ。闇に紛れて、数えきれないほどの影が湖面を這い出してくる。

「くるわよ!  配置について!」

 純子が短く叫び、矢筒を背負って走る。その声に、有紗と沙耶もすぐ反応し、高台や木の上へと跳ね上がった。俺と明は前線に立ち、剣を構えて影を睨みつける。

「精神干渉がくるわょ!  心を保って!」

 有紗の声が、警告のように響いた。直後――

 脳内に、声が流れ込んできた。

 『キミは……誰?』『キミは……なぜ剣を持つ?』『なぜ、戦うの?』

 それは囁きのような、夢の中のような声だった。誰かの記憶を覗き込み、それを引きずり出そうとするような気味の悪さがあった。

 足元が、ぐらりと揺れる錯覚。頭の中で遠い記憶がざわめき出す。
 
 けれど――

「うるせえぇぇぇっ!!」

 明が吼え、剣を大きく振るった。刃に炎がまとわりつき、赤々と燃え上がる。

「『フレイムバスター』ッ!」

 炎の一閃が影の一体を焼き裂き、爆ぜるように水飛沫となる。だが、それは一瞬で形を取り戻した。

「効いてる!  でも回復が速い……!」

 純子の矢が、今度は一体の胸部に正確に突き刺さる。矢は水をすり抜けることなく、影の中心にある青い光を打ち抜いた。

「ギィィィ……ッ!!」

 金属をこすり合わせたような異音とともに、その影は崩れ、霧となって散る。

「弱点がある、水の中に核があるのよ!」

「了解っ!」

 俺は呼吸を整え、剣に魔力を込める。刃が青白く光り出し、空気が震える。

「『斬光断』!」
 剣から閃光を放ち、一直線上の敵すべてを高速で切り裂く光属性の中距離技。

 風のごとく踏み込み、一閃。剣が影の身体を引き裂くと、透明な水のなかに、淡く輝く宝石のような核が姿を現す。

「今だ、沙耶!」

「任せてっ!」

 沙耶の矢が空を舞い、月明かりを切り裂いてコアを貫いた。影は小さく悲鳴を上げるような音を立て、崩れ落ちる。

「……2体目、3体目、撃破!」

 だが、次の瞬間――湖の奥から、再び水の影がぞろぞろと這い出してくる。

「マジかよ! どんどん増えているぞ!」

 明が叫ぶ。湖は、まるで無尽蔵の影の製造工場のようだった。

「こいつら、夜に活性化するタイプだ! 時間との勝負になるぞ!」

 俺は奥歯を噛み締め、両手に魔力を集中させる。

「ファイアバレット! ファイアバレット! ファイアバレット! ファイアバレット! ファイアバレット! ファイアバレット!」

 無数の炎の弾丸が、宙を走り、影たちの体を次々に焼き裂いていく。が、また立ち上がる。

「むやみに撃っても数を減らすのは無理だわ、コアを狙い撃って!」

 純子、有紗、沙耶の三人がそれぞれの視点から矢を放ち、空を切り裂く。次々と光が走り、影たちは断末魔のような悲鳴を上げながら霧へと戻っていく。

 俺と明は、その霧の中をかきわけるようにして戦い続けた。

 刃と炎、矢と魔力が交錯し――そして、ついに。

 すべての影が消えた。

 俺たちは、湖を見下ろす高台に立ち、深く息をついた。

 足元が重い。肩も腕も、ズキズキと痛む。けれど、誰ひとり倒れることなく――全員、生きてここにいる。

 月が再び顔を出し、湖面を銀色に照らす。もう、そこに影の姿はなかった。

「……やっぱり、俺たち。強くなってるよな」

 明が、濡れた前髪をかき上げながら言った。顔には笑みが浮かんでいるけれど、その目には、確かな疲労と達成感が宿っていた。

「あれがBランクの敵……Aランクに片足突っ込んでたわよね」

 純子が矢をしまいながら言い、有紗もうなずく。

「精神干渉と自律再生……どれかひとつでも対処を誤ってたら、たぶん誰か死んでた」

「でも、誰も死ななかった!」

 沙耶が胸を張って言い、ふふんと笑った。

 そうだ。俺たちは、やり遂げた。

 確かに『フォーカス』は、チームとして成長していた。






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