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しおりを挟む明の炎剣がうなりを上げ、〈死語を語る者〉の胴体に斬りかかる。
ズンッ!
だが、その一撃は、影のような身体をすり抜けた。
「なっ……効いてねぇ!?」
「影だから、物理が通りにくいんだわ!」
純子が弓を引き絞り、炎の矢(火魔法付与)を放つ。炎の矢は一直線に〈死語を語る者〉の仮面を射抜く――だが、それすらも靄の中へ吸い込まれた。
「魔法も通りにくい……!? ただの影じゃない。呪詛の加護を受けてるんだ!」
俺も地面の魔法陣を睨みつけた。
「でも、呼吸するように脈打ってる……これ、まだ何かを維持してるんじゃないの?」
有紗が指摘する。
「たぶん、あの魔法陣が〈死語を語る者〉に力を与えてるんだ!」
明が叫ぶ。
「じゃあ、あの魔法陣を止めれば……!」
沙耶が「信徒の矢筒」から光の矢を取り出し、狙いを定めた。
「待ってて、俺が、先にあいつを引きつける!」
俺は駆け出し、完全見切りを発動する。
――視界が冴えわたる。
〈死語を語る者〉の鎌がうねるように迫るが、俺はそれを寸前でかわし、刀身で反撃する。
ギィィン!
今度は、わずかに斬撃が手応えを伝えてきた。
「……通った?」
俺はそのまま、仲間に指示を飛ばす。
「今のうちに、魔法陣を狙って! 攻撃が通じる今しかない!」
「いっけえええっ!!」
沙耶の光矢が閃き、魔法陣の中心部へ突き刺さる。直後、光が走り、紋様が軋むような音を立てて砕け始めた。
「崩れてる……! 効いてる!」
有紗も連射で支援し、次々に光矢が命中する。
その瞬間、〈死語を語る者〉が苦悶のように呻き声を上げた。
「――■■■……イ、語……ルナ……」
それはまさに、呪いのような死語。聞いた者の心に直接語りかけ、蝕む声。
「耳を塞げ! 言葉に意味があるタイプだ、下手すると意識を持っていかれる!」
ロメオが叫び、明が舌打ちする。
「だったら、声が出せねぇくらい、ぶっ飛ばしてやるよォォッ!!」
〈フレイムバスター〉の炎が一気に爆ぜる。
「いいぞ ! 明。かなり効いてる」
俺も〈死語を語る者〉に追いうちをかけた。
「セラフレイム!」
ミスリルの剣が青白い光を放ち、あたりをまばゆい光に包みこむ。
バリンッ!!
その斬撃が、仮面に直撃した瞬間――仮面が砕け、〈死語を語る者〉の影が悲鳴のように消え去った。
「……終わった?」
沙耶が矢を下ろす。
「……今のは、先遣隊みたいなもんかもな」
明が剣を肩に担ぎながら言う。
静寂が戻った断崖の底。だが、まだ魔法陣の残滓は青く灯っていた。
その中心に、ぽっかりと空いた穴。崖の下にさらに続く、地下への道が口を開けていた。
「……ここが《古代王朝『ルドゥス』の最後の砦、『ルドゥス廃城』》に続いてるのか」
ロメオが呟いた。
崖の底の裂け目の奥にのぞいている古代遺跡の一部と思われる地下道は、冷たい空気と魔力の残滓が満ちていた。
俺たちは慎重に石造りの階段を降りていく。松明代わりにロメオが持つ〈照明水晶〉が、青白く周囲を照らしていた。
「……すごい。ここ、完全に人工の構造物だよ」
有紗が壁の装飾に目を奪われながら呟く。精緻な彫刻、崩れかけた柱、そして魔法陣の破片。
「古代ルドゥス王朝の技術……この回廊自体が儀式場だった可能性が高い。おそらく、魔力を一点に集めるための構造だ」
ロメオが壁をなぞり、満足げに唸る。
「記録によれば、この回廊の終点に、王家専用の〈転移門〉があったはずだ。つまり……」
「つまり、ここを抜けた先に、転移魔法陣があるってことだよね?」
沙耶が問うと、ロメオは頷いた。
たどり着いた先に、確かにそれはあった。
巨大な石造りの間。その中心に、すでに魔力を失った魔法陣が刻まれていた。周囲には砕けた石碑や倒壊した柱。だが、その遺構にはどこか荘厳な気配が残っていた。
「……転移魔法陣跡、間違いない」
ロメオが膝をついて、石床を調べる。
「でも、動かないよね? これ」
明が剣の柄を肩に預けて言う。
「通常の魔力では起動しない。古代王家の鍵、あるいは……強い魔力刺激が必要だ」
ロメオが言いながら、俺に視線を投げる。
俺のMPの表示は?/?。最近これは測定不能という意味だと思っている。
「……やってみるよ」
魔法陣に手をかざし、魔力を流すと俺の手に光が宿る。魔法陣が青白く発光する。風が巻き起こり、空間が揺らぐ。
――そして、パァンッ、と音を立てて、魔法陣の中央に黒い裂け目が生まれた。
「これが……転移口!」
ロメオが叫び、俺たちは瞬時に身構えた。
「行きましょう。『青き天の封印』が待ってる」
純子の言葉に皆が頷き、一歩、裂け目へと踏み出した。
次の瞬間俺たちは別の魔法陣の中央に立っていた。
灰色の空の下、重い沈黙、焼けたような鉄と埃の匂い。そこは、かつて王都だった場所。だが、今はただの廃墟――〈ルドゥス廃城〉。
「……すごい。まるで世界が止まったみたい」
有紗が口元を押さえる。
崩れた城壁、傾いた塔、剥き出しの石骨。そして城の正面に残る、巨大な門《蒼穹の門》――その奥に、未だ封印された領域が広がっている。
「この空、瘴気じゃないけど……なんか、妙に重いな」
明が顔をしかめる。
「魔法による防御結界が崩壊して、自然に浸食されてる。封印が弱まってる証拠だよ」
ロメオが静かに言った。
その時――風が吹いた。
風に乗って、かすかな声が聞こえる。否、『語り』のような、古の言霊。
「……またか。今度は、何が眠ってる?」
俺は剣を構えた。
『青き天の封印』――封印が破れれば、人ならざる存在が再び目覚める。
そしてそれを止めるのが、俺たちの役目だ。
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