148 / 265
148
しおりを挟む王都グランティア・東区の小さな酒場「風の止まり木」ーー貸切の夜
「Sランク、おめでとう卓郎!!」
「そして! 俺たちAランクもなー!!」
木製のカップが高らかにぶつかり合い、泡立つジュースや微発泡ワインがこぼれそうになる。
テーブルの上には、ギルドの厨房から取り寄せたローストチキン、山盛りのポテト、焼きたてのパン、野菜のグリルに、果実をふんだんに使ったデザートまで並んでいた。
それらすべてが、今日この場にいる5人――
卓郎(Sランク)
明、純子、有紗、沙耶(Aランク)
――が、晴れて「Aランクパーティ〈フォーカス〉」として公式認定されたお祝いの品だ。
「ま、俺の新スキル、『灼輪斬』があったから当然だけどな」
ドヤ顔で語る明に、純子がすかさずフォークを向ける。
「一回黙ってくれない? 新スキルを身につけたのは、あんただけじゃないんだから。せっかくの料理が不味くなる」
「ちょ、フォーク向けんな! 俺の肉が!」
「ほら喧嘩しないのー」
沙耶が両者の間に飛び込んで、明の皿からチキンをかすめ取った。
「あっ! 今の俺の一番いいやつ!」
「お祝いなんだから、みんな仲良く分け合おうよ~。ね、有紗お姉ちゃん?」
「うん。……今日は、『フォーカス』が、Sランクになった日だもん。ね?」
穏やかな声と、どこか照れくさそうな笑み。
卓郎はカップを持ったまま、思わず肩をすくめた。
「うん、そうだよね」
沙耶がコクリとうなずき、純子がグラスを持ち直して言った。
「それじゃ、もう一度。今度はちゃんと5人全員で」
「……いいね」
卓郎が立ち上がる。明も有紗も、席から身を乗り出して――
「Aランク昇格、おめでとう〈フォーカス〉!」
「Sランク昇格、おめでとう卓郎!」
「Aランク昇格、おめでとう皆!」
「「「「かんぱーいっ!!!」」」」
誰もが笑っていた。
笑い声が一段落した頃、ふと明が立ち上がった。
「……そうだ。今日のために用意したもんがある」
「え? 明がプレゼントとか珍し……」
「言わせんなっ!」
耳まで真っ赤にしながら、明が無造作に机の上に何かを放る。
それは、小さな5つの布袋だった。沙耶が開けると、中から出てきたのは──
「これ……炎の護符?」
「ああ。俺の剣を修理してくれたじいさんのとこで見つけたやつ。
火精霊の加護があるらしいぜ。ま、気休め程度だが……お守り代わりにな」
火精霊の石は、手のひらに収まるほどのサイズで、ほのかに温かい。
「ありがとう、明!」
今度は純子が鞄から包みを取り出して差し出す。
「はい、これ」
中には、手作りと思われる革製の矢筒ストラップ。
サイドには小さな銀のプレートが取り付けられており、そこには刻まれていた。
『Focus』──五人の始まりに
「5人おそろいだよ。ギルドの職人さんに彫ってもらった。……文句は受け付けないからね」
「「「……ありがとう、純子。大切にするよ」」」
「わたしたちからも、あるよ!」
今度は双子の姉妹、有紗と沙耶が一緒に包みを差し出してきた。
「すっごく悩んだんだよー」
中には、手編みの青いマフラーが入っていた。
柔らかな布地には、星の模様と、中央にみんなのイニシャルが縫い込まれている。
「……これ、二人で作ったの?」
「うん。これから寒くなるし、遠征にも連れてってくれたら嬉しいなって」
「もちろんだよ。……これ、つけて歩くよ」
俺は、思わずその場で巻いてみせると、沙耶が「おーっ!」と歓声を上げ、有紗が頬を赤く染める。
その様子に純子がむっとして、「巻き方雑!」とツッコミを入れる。
そして──
「実は、俺からも……みんなに渡したいものがあるんだ」
卓郎が照れくさそうに、背中の荷物袋からそれぞれに丁寧に包んだ小箱を取り出す。
「Sランクになれたのは、みんながいてくれたから。だから……感謝の印」
渡された箱をそれぞれが開けていく。
中に入っていたのは、名前入りのタグプレートだった。
金属製の小さな板に、それぞれの名前と、〈フォーカス〉の紋章が刻まれている。
「これは……! すごっ! 本物の認可タグじゃん!」
「冒険者が特注で使うやつだ……お金かかったでしょ?」
「いや、金は余ってるし、たいしたことないよ。それに、これは俺のわがままだ。みんなに、ちゃんと“仲間”って伝えたかったから」
実際、ワイバーン狩りで稼いだ金が2億ゴルド以上貯まっていた。金のことを考えることはなくなっていたのだ。
明が口の端を吊り上げて、ニヤリと笑う。
「へっ、やるじゃねぇか……ま、悪くねぇ」
純子はふっと目を伏せ、そっとタグを胸ポケットへ。
「……ありがと。ちゃんと、毎日つける」
沙耶がタグを掲げて、くるくる回す。
「このキラキラ感、テンション上がる~!」
「わたしも、大切にするね。……ありがとう、卓郎くん」
マフラーのぬくもりと、タグの重み。
それは、5人の絆を繋ぐものだった。
「よし……じゃあ、改めて!」
「「「「〈フォーカス〉に、栄光あれ!」」」」
「……と、ちょっとかっこつけすぎた?」
「「「かっこいいよ!」」」
――そんな時間が過ぎ、夜も更けて。
「卓郎、ちょっと来いよ」と明。
二人、庭の縁台に並んで座る。
「……俺、たぶんこれからも突っ走ると思う。でも、お前が横にいてくれるなら、きっと折れずに行ける気がすんだ」
明らかに不器用な告白。でも、戦友としての信頼がこもっている。
「俺も、お前がいてくれると安心だよ」
「そうか? じゃあ次も、一緒に最前線ってことで」
拳を軽く突き出し、拳をぶつけ合う。
「ねぇ、卓郎」と純子。
「私、ずっと“弓だけじゃ届かないもの”があるって思ってた。でもさ、卓郎と組んでみて、それでも戦えるって思えた」
目を伏せながら、そっと言葉を紡ぐ。
「……だからこれからも、私の“届かないところ”を、支えてくれる?」
その問いに、卓郎は真剣な顔で頷いた。
「もちろん。俺の剣は、君の矢と一緒にある」
その言葉に、純子は頬をほんのり染めた。
最後は、有紗と沙耶がふたり一緒に庭のベンチで、卓郎を挟む形で座る。
「ねえ卓郎くん、これからもずっと5人でいたいなって思うの。私たち……フォーカスでいられて、すごく幸せだから」
有紗の優しい声に、沙耶も寄りかかってくる。
「うんっ! 次の冒険も、その次も、もっとすっごいとこ行こうね!」
その小さな願いが、まるで星に向けた祈りのようだった。
「……ああ。みんなで、もっと遠くまで行こう」
卓郎はそう約束しながら、空を見上げた。
風がそっとマフラーを揺らし、ランタンの火が瞬いた。
「次の依頼は何にしようかな」
「Aランクの依頼って少ないよね」
「そうだな。あまり無いようなら、ダンジョン攻略でもしてみるかい?」
「ダンジョンかー? そういえば行ったことなかったね」
「……ああ。〈フォーカス〉ならダンジョン攻略パーティとして名を残せると思うよ」
5人の手が、自然と重なった。それは、絆を繋ぐ円になる。この夜、新たなの伝説が、静かに始まろうとしていた。
10
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる