ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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サイドストーリー『純子 思い出の海と誓い』

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「やった! ハマグリ、また見つけたー!」

 純子の声が海風に乗って響いた。夏の日差しがきらきらと水面を跳ね、砂浜の上では小さな波が白く泡立っていた。

 潮が引いた岩場の隙間にしゃがみこみ、純子は小さなバケツに貝を放り込んだ。バケツの中では、すでに数個のハマグリやアサリが転がっている。

「お母さーん、見て見て! これ、大きいよ!」

「本当ね、さすが純子。今日の潮干狩り名人だわ」

 母が笑って拍手をしてくれた。やさしくて、穏やかな声。純子は胸が誇らしくなった。

 父は少し離れたところで潮溜まりを覗き込みながら、なにやら小さく叫んだ。

「おーい! こっちにはヤドカリがいっぱいいるぞ! 純子、見に来い!」

 走っていくと、岩の陰に小さなヤドカリが十匹以上、ぞろぞろと動いていた。

「わー、かわいい……!」

 純子は目を輝かせ、ひとつだけそっと手に取った。

「持って帰って育てたいな……」

「だめだぞ、これはここに住んでるんだからな」

 父の手がそっと純子の頭をなでた。


 昼近くになり、家族三人は大きなシートを広げて、お弁当を広げる。母の手作りおにぎり、唐揚げ、冷やしたゼリー。

「ねえ、来年もここに来ようね!」

「来年だけじゃないわ。毎年恒例にしましょう」

 海の音、笑い声、飛び跳ねるカモメ。母の笑顔。父の冗談。

 おやつにスイカを食べ、種を飛ばして競争した。

 父が突然、「貝を一番多く拾った人に、アイスを奢る」と言い出して、三人で競争になった。

 純子は意地になって、夢中で貝を探した。バケツがいっぱいになって、歓声を上げた。

 海辺に腰を下ろし、三人並んで水平線を見つめた。赤く染まる夕陽。

「……ずっと、こうしていられたらいいのに」

 純子がぽつりと呟いた言葉に、母と父は笑って頷いた。

 ――そのときだった。

 海の向こうから、ずるり……と、不気味な音が聞こえた。

 波間から現れたそれは、遠目でウニのように見えた。だが近づけば、それは明らかに、普通の生き物ではなかった。全長20~30メートル。見た目はウニのようだったが大きさがまるで違ったのである。

 赤黒い棘がうねるように動き、球体の殻は鋼鉄のような鈍い光を放っていた。まるで巨大な船のように、ザザーという音と波とともに近づいてくる。

「じ、純子……走って!」

 父が声を荒げた。

 純子は動けなかった。〈殻喰いカラクイ〉――それは後にそう呼ばれる魔獣だった。魔力を含んだ棘が、一閃。近くの岩を一瞬で粉砕した。

 母が純子の腕をつかみ、押し倒すようにして庇った。

「かあさ──」

 叫ぶ声の前に、赤い光が炸裂した。棘が母の背を貫いた。

 父が剣を引き抜いて駆け寄るも、鋼の殻がはじき返した。次の瞬間、棘が父の腹を貫いた。

 純子は砂に倒れ、何もできず、声も出せなかった。母と父の血が砂に滲んで広がっていった。

 「なんだあれは!? 魔獣か!?」「子供が、やられてるぞ!」

 叫び声が飛び交い、浜辺にいた人々がざわめき立った。近くにいた漁師たちが、手にしていた銛や漁具を構えて駆けつける。ひとりの中年の冒険者風の男が、腰から短剣を抜いて叫んだ。

 「子供を守れ! あいつを海に戻せ!」

 〈殻喰い〉がゆっくりと殻を開き、無数の赤い棘をうごめかせる。その一本が、飛び出すように浜辺を薙いだ。漁師の一人がその場に転がり、血を吐いた。

 「魔力を帯びてる……! 気をつけろ!」

 冒険者が棘の動きを読み、砂を巻き上げて接近する。後方から矢が飛んだ。浜辺にいた若い狩人が放ったものだ。矢は〈殻喰い〉の棘の根元に突き刺さり、赤い液が一瞬だけにじむ。

 「効いてるぞ! 押し返せ!」

 戦いは混沌だった。誰もが、目の前の理不尽な暴力を、ただ押し返そうとしていた。

 純子のそばを、冒険者が駆け抜ける。盾を構えて棘の一撃を受け止め、砂にずぶりと膝を突いたが、その身体で純子の前を遮っていた。

 「動けるか、嬢ちゃん……! ……くそ、早く誰か、回復を──!」

 誰かが叫び、誰かが倒れ、誰かが血を流していた。

 やがて──

 〈殻喰い〉はうねる棘を収めると、まるで満足したかのように海へと身を翻した。唸るような低音を残しながら、満ち始めた潮に乗って、波間へと姿を消していった。

 残されたのは、二人の亡骸と、バケツの中の貝だった。

 ──さっきまで、あんなに楽しかったのに。
 ──ついさっきまで、家族みんなで笑ってたのに。

 純子は、動けなかった。足が震え、喉が引きつって、声が出なかった。

 母の手はもう温かくなかった。父の腕は、もう動かなかった。

 じわじわと染み広がる赤い砂の中で、純子はただ、拳を震わせた。目の奥が熱く、視界がにじむ。

 「……いやだ……やだよ……お父さん……お母さん……」

 涙と嗚咽が止まらなかった。けれど、その奥から、別の熱いものがこみあげてくる。

 恐ろしくて、悲しくて、苦しくて……それでも、それ以上に、悔しかった。

 「……なんで……なんで……!」

 小さな拳を握りしめた。力なんて、何もない。けれど、それでも。

 血で濡れた砂を睨みつけ、ぐしゃぐしゃな顔で唇を噛みしめながら、彼女は小さな声で、けれど確かな声でつぶやいた。

 「……ぜったいに……あいつを……ゆるさない……!」

 声はかすれていたけれど、それは確かに彼女の心から出た言葉だった。

 その日を境に、純子の時間の一部は止まった。
 けれど、もうひとつ――別の歯車が、音を立てて動き始めた。

 それは、幼い少女にはあまりにも重い、復讐という名の歯車だった。


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