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しおりを挟む翌朝、王都グランティアの宿『旅人の羽根亭』。俺たちは食堂の丸テーブルに集まり、朝食を食べながら次なる冒険の相談をしていた。
「それで、次の候補は二つだね」
俺は地図を広げながら、話を切り出した。
「《ウツロ森の裂け目》……と、《黒岩の洞》。どっちも、まだ本格的な調査は進んでない未踏ダンジョンだ」
「《ウツロ森》って、森の奥にあるデカい地割れの中で、 幻獣とか古代獣が出るって噂があるんでしょう。私、幻獣とか興味あるんだけど」
沙耶が肉を咥えながら、興味ありげに前のめりになる。
「でも情報が少なすぎる。潜った記録も断片的で、途中で消息を絶った冒険者もいるとか……」
有紗が心配そうに眉を寄せる。
「その点、《黒岩の洞》の方は、最近になって魔物の目撃が増えてるんでしょう。特にオーガ系。大型個体が複数棲みついてるって。探索隊は基本、二階層までで引き返してる」
純子が冷静に情報を補足した。
「オーガって聞くと怖いだろうけど……、二階層までは地形も把握できてるから、《ウツロ森》より情報はあるんじゃないか? まあ、俺てきにはオーガとやり合うのは、楽しみなんだけどな」
明がパンをかじりながら肉に手をのばす。
「うん。危険度の高い《ウツロ森》に行く前に、《黒岩の洞》で戦力や連携の確認をしておくっていうのも、悪くないかも」
俺がそう言うと、明が大きく頷いた。
「だろう。いきなり幻獣相手ってのも面白そうだけど……地形もわからねぇってのはさすがに準備不足だ。まずは《黒岩》で一狩りやって、調子見て森に行くってのが現実的だぜ」
「賛成」
純子がすぐに同意し、
「私も。《黒岩》なら、薬剤も使い分けしやすいし……何より湿気に弱い魔物も多いはずだから、戦術に幅が出そう」
有紗も続いた。
「じゃあ決まりだね!」
沙耶がぱんっと手を打った。
「《黒岩の洞》に潜って、次は《ウツロ森》だね! たっくん、準備はバッチリ?」
「もちろん」
俺は笑ってうなずいた。
「でも、油断しないでね。オーガが複数ってのは、さすがに危険だわ」
純子が眉根を寄せて俺を見る。
「ヤバいからこそ、面白いんだろ? 俺たちならやれるさ」
明の笑みに、自然と皆の気が引き締まる。
全員の準備が整ったのを確認し、〈ポータルシフト〉で転移するために、俺たちは宿の裏庭に移動する。
〈ポータルシフト〉は一度行ったところなら、転移することができる魔法である。運のいいことに俺は昔、荷物持ちとして《黒岩の洞》に行ったことがあったのだ。
「よし、それじゃあ……《黒岩の洞》へ行こう。座標は確認済み。みんな、俺に触れて!」
「きたな、転移魔法!」
明が興奮気味に俺の肩に手を置く。
「何度体験しても不思議な感覚なのよね、これ」
純子は口元を押さえながら、軽く緊張している様子だ。
「転移先が変な場所じゃないことを祈るよ」
有紗が少し不安そうに呟き、
「だいじょーぶだよー、有紗お姉ちゃん! たっくん、その辺、抜かりないって」
沙耶は笑いながら、俺の背中にぴょんと飛びついてきた。
「ふふ、任せて。座標は《黒岩の洞》入口近くの平地にピンポイント設定済み……いくよ!」
魔力を練り上げ、〈ポータルシフト〉を発動する。
「――〈ポータルシフト〉」
空間が一瞬ねじれ、次の瞬間には一帯の景色が大きく変わった。
目の前にそびえるのは、ごつごつとした岩肌の山。その中腹、黒くぽっかりと口を開けた《黒岩の洞》。噂通り、周囲にはどこか淀んだ空気が漂い、地面もところどころぬかるんでいる。
「うわ、ジメッとしてる……湿気すごいね」
沙耶が額をぬぐいながら言った。
「空気も濃い。これ、油断すると体力持ってかれるな」
明が剣の柄を握りしめ、緊張を高める。
「見通しも悪いし……燐光弾を用意しておいた方がよさそう」
純子が矢筒から小さな光玉を取り出す。
「薬剤も湿気対応に調合しなおしてあるよ。中では使い切りでいこう」
有紗が腰のポーチを叩いて微笑む。
俺は魔力を込めて前方1メートルに〈ライト〉を灯し、入り口を照らした。じわじわと洞窟の奥から、湿った風と共に生臭い獣の匂いが流れてくる。
「この匂い……間違いない。魔物が近いな」
俺が呟くと、明がにやっと笑った。
「よし、狩りの始まりだな」
「慎重に行こう。情報が少ないぶん、先行は俺と明で。弓組は距離を保って援護、沙耶は後方で遠見頼む」
「了解!」
全員が声を揃えた。
そうして俺たちは、《黒岩の洞》の闇の中へと、一歩ずつ足を踏み入れていく。 《黒岩の洞》内部は想像以上に入り組んでいた。天井から滴る水滴の音が反響し、不規則に曲がる通路は視界を何度も遮る。
「これ、マップが無いと完全に迷うやつだね……」
沙耶が〈遠見〉で索敵しながら、軽く舌を巻いた。
「でも、前方三十メートル……いる」
ぴたりと足を止め、彼女が指さした先は、微かに獣の気配が漂う横穴だった。
「来るぞ。でかいぞ……三体。オーガ系、間違いねえ」
明が剣を抜き、ゆっくりと低く構えた。
その直後だった。
──グオオオオオッ!!
咆哮とともに、黒岩の影から飛び出してきたのは、体高二メートルを超える灰緑色の巨躯。棍棒を振りかざし、まるで壁を崩すような勢いで襲いかかってくる!
「明、右側を任せた!」
俺は咄嗟に剣を抜きながら、明に強化魔法をかける。
「任されたァァッ!!」
明が雄叫びとともに突っ込む。〈フレイムバスター〉が発動し、紅蓮の刃がオーガの棍棒と激突する。
――ギィィイン!!
「弓班、援護! 火矢を照準、狙いは目か喉元!」
俺の指示に、
「了解! ──〈一矢両断〉!」
純子の放った矢が風を裂き、オーガの右目に直撃した。
グワァアアッ!!
「今よ、有紗!」
「〈一矢両断〉、いきます!」
続けざまに有紗が放った矢が左肩を貫く。火薬の細工で起爆し、炎が一瞬その身を包む。
沙耶は後方から、視界の死角にいたもう一体を指し示す。
「三体目、左の柱の影に回ってる! あれ、こっちに来るよっ!」
「俺が抑える!」
俺は素早くダッシュして〈完全見切り〉を展開。時間制限は三十秒。
――ザシュッ!
飛びかかってきた三体目の棍棒を寸前で見切り、足を払って体勢を崩す。
そのすきを見逃さず、明が渾身の斬撃〈斬鉄〉で頭上から真っ二つに断ち割った。
「よっしゃあああ! 三体撃破ぁぁ!!」
明が満足げに笑い、剣を肩に担ぐ。
「でも……あの突入の速さ、完全に待ち伏せだったよね」
純子が警戒を解かずにあたりを見回す。
「……うん。ここはオーガの群れが住み着いているのかもしれない。今のはまるで守備兵の対応みたいだ」
俺も同意する。
「この洞窟、なにか、もっと奥に……いる」
嫌な予感が背筋を走る。その時、地下の奥から、不気味な重低音が響いた。
――ドゥン……ドゥゥン……ドゥゥゥゥン……
「今の音……なに? 足音……?」
「大型か、もしくは……別種の個体?」
「行こう」
俺たちは再び構えを取り、深く深く、《黒岩の洞》の奥へと進んでいった――。
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