165 / 265
164
しおりを挟む《黒岩の洞》の闇の奥へと進みながら、俺たちは二階層を超え三階へと慎重に歩を進めていった。最初の襲撃をしのいだ後も、敵の気配は途切れない。むしろ──徐々に濃くなってきている。
「気を抜かないで。第二波、来るわ」
純子が矢をつがえ、岩陰を睨みつける。
「前方、また三体……いや、四体」
沙耶が〈遠見〉で索敵し、緊迫した声をあげる。
そして──
──グオッ、グアアアァァッ!!
再び咆哮が洞窟に響いた。
今度の敵は、最初よりもわずかに体格が小さいが、敏捷性が高く、動きに無駄がない。
「こいつら、最初のとは違う……“ハンターオーガ”か」
明が剣を構えながら唸る。
「速いだけじゃない、連携してる!?」
有紗が冷静に観察しながら支援矢を放つ。
〈一矢両断〉がオーガの足を貫き、動きを鈍らせる。そこへ、俺が剣で追撃し、明が逆サイドから斬撃を叩き込む。
──ガシュッ! グワアアア!
「動きに慣れてきたら、数で押してきたってわけか……!」
戦闘を終えたころには、周囲の空間に瘴気が濃く立ち込めていた。
「……やばい、少し酔いそう。長期戦には向かないな、ここ」
純子が口をおさえながらながら言う。
その後も、幾度となく襲い来るオーガたちを撃退し続けた。
ハンター型、腕力特化型、石投げ用の武器を手にした遠距離型――
それぞれに応じた連携を取りながら、俺たちは敵の波をくぐり抜けていった。
そして──五階層。
「……静かになった?」
沙耶がぽつりと呟いた。
確かに、敵の気配がすっと途切れた。耳をすませても、あの唸り声も、足音も、もう聞こえない。
代わりに──
ドゥン……ドゥゥン……ドゥゥゥゥン……
低く、地を這うような音が、地の底から響いてくる。
「……来るな」
俺は息を呑む。
「何かが、こっちを待ってる」
「たっくん。気配……一体だけ。でも、桁違い。今までのオーガとは、全然違う」
沙耶の声が震えていた。
その瞬間、通路の先がわずかに揺れ、闇の中から、重い足音とともに“それ”が姿を現した。
──ズゥン。ズゥン……。
天井ぎりぎりに迫る巨体。
鈍く光る灰金色の装甲に、禍々しい赤い紋様。斧と盾を備え、まるで軍団の司令官のような風格を放つ存在。
「……ようやく出てきやがったか。あれが……ボスだな」
明が目を細め、低く笑う。
「オーガロード。これまでの個体は全部、こいつの手駒だったってわけか」
俺はミスリルソードにそっと触れながら、視線を外さない。
そしてそのとき、オーガロードが口を開いた。
「愚かな……ヒトよ。何故、眠りを妨げる」
低く、地鳴りのような声だった。洞窟の壁という壁に響き渡り、まるで空間そのものがその言葉に震えているようだった。
「……喋った!?」
「なに、こいつ……!」
「……まさか、知性持ちの魔物か……?」
重く沈んだ気配が一気に広間を満たしていく。オーガロードはゆっくりとその巨体を起こし、大斧を構えた。瞳の奥には、はっきりとした意志が宿っている。
「我が名は──ギゼル=ドゥ=ヴァス。この地の守り手にして、オーガの王。……死を、覚悟せよ」
ギゼルの体から噴き上がった禍々しい魔力が紅と黒の渦となり、広間を呑み込む。地面がうねり、岩壁が軋み、空気が熱と圧で震えた。
「全員、構えろ!!」
咆哮とともに、オーガロード“ギゼル=ドゥ=ヴァス”が大斧を振り上げた。
「俺がバフをかける!」
俺は咄嗟に前へ出た。全身を巡る魔力を解放する。
「発動──〈鉄壁〉!〈俊足〉!〈剛力〉!」
魔法陣が足元に広がり、仲間たちの身体がまばゆい光に包まれていく。防御力が高まり、脚力が跳ね上がり、筋力が爆発的に増幅される。短い時間だけの超強化だ。
「敵にデバフをかける! 〈鈍足〉!」
ギゼルの巨体がわずかに硬直し、動きが鈍る。だが、その眼光には一切の揺らぎがない。
「ぬるい……貴様ら如きが、この我を……!」
ギゼルが轟音とともに突進してくる。壁のような巨体が、まるで弾丸のような加速力で距離を詰める。
「くっ……〈完全見切り〉!」
視界が研ぎ澄まされ、斧の軌道が光の線として浮かび上がる。身体が自然と横に跳び、回避。その勢いを利用して、ミスリルソードを振り抜いた。
「喰らえ、〈断空輪〉!」
空間を裂くような鋭い斬撃が飛び、ギゼルの肩口を切り裂く。だが──
「──浅いッ!」
ギゼルは体を無理矢理ひねり、背中の盾を回転させるように叩きつけてきた。防御の構えなど無意味な一撃。
「〈鋼壁斬〉ッ!」
咄嗟に剣を逆手にし、盾を切り裂く斬撃を叩き込む。衝撃音が金属を揺らし、ギゼルの攻撃をわずかに逸らした。
背後から、明の叫びが飛ぶ。
「いまだッ! 〈フレイムバスター〉ッ!!」
紅蓮の炎が刀身を包み、振り下ろされる。直撃。爆炎がギゼルの左腕を焼いた。
すかさず──
「いっけぇぇええ!」
「〈一矢両断〉!」
「まとめて浄化ぁああ!」
純子、有紗、沙耶の三人の〈信徒の矢筒〉から、灼光をまとう矢が一斉に放たれる。矢の雨が鋭く、精密にギゼルの胴体へ突き刺さり、魔力を削ぎ落としていく。
「──効いている、でもまだ立ってる……!」
ギゼルは息を荒くしながら、邪気を噴き上げる。
「我が名はギゼル=ドゥ=ヴァス……! 我を退けしは、いまだ誰も……おらぬッ!!」
その身体が、さらに膨れ上がった。筋肉が爆発するように膨張し、魔力の嵐が舞い上がった。
10
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる