ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 数日後。
 俺たちは、明を誘って郊外の静かな丘へとやってきた。
 福佐山都市から南に少し離れた、誰も来ない小高い場所。遠くに川と森が見える、風通しの良いところだ。

 そこに、純子の墓を建てた。
 白い石を削り、みんなで手をかけた。墓標には、彼女が生きた証――〈浄化の射手〉の名と、あの矢じりを。

 風が吹き、草がそよぐ。

「お前が望んでた穏やかな場所って、こういうとこだったかもな」
 明が、手を合わせたまま呟いた。

 しばらく、誰も口を開かなかった。

「なあ……これから、どうする?」
 俺が口を開くと、明がぽつりと答えた。

「俺は、『浪花の村』に行こうと思う」
 ふいに、懐かしい名前が出てきた。

「銀蔵じいちゃんのとこか?」

「ああ。あのじいさん、なんか気が合うんだよな。どうせなら弟子入りして、家建てて、畑でも耕して、ほのぼの暮らしってやつをやってみたい」
 そう言って、明は笑った。

「えー! 明が畑? 似合わなすぎる!」
 沙耶が笑い、有紗もくすくすと肩を揺らした。

「わたしと沙耶は……うん、王都にいこうかなって。旅の資金も稼いだし、今度こそ、ゆっくりスイーツ巡りしたいの」
 有紗は少し照れたように言った。

「ホテルに泊まって! 朝はパンケーキ! 昼はタルトと紅茶! 夜は夜景とプリンパフェ!」
 沙耶が両手を広げて叫ぶと、誰もがくすっと笑った。

 平和に生きたい。
 そう願える余裕が、今の俺たちにはある――でも。

「……俺は、もうちょっとだけ冒険者を続けるよ。最後にすることがある」
 言葉にすると、思ったより静かな声だった。けれど、心の奥では何かが強く脈打っていた。

 みんなの視線が、俺に集まった。

「純子と約束したんだ。両親の仇――ウニみたいな魔獣を倒すときは、一緒に行くって」
 声が少しだけ震える。でも、ちゃんと前を向いて言えた。

 有紗が、そっと口元に手を当てる。沙耶の瞳も、わずかに潤んでいた。
 風が吹き抜ける中で、俺の声だけが残る。

「あいつが死んでも、約束は残ってる。だから……南の海辺、『姫の宮都市』に行くつもりだ。その魔獣を倒さないと、純子が笑ってくれない気がするんだ」

 静かに、明が目を細めた。

「お前、純子とそんな約束してたんだ」

「約束って言っても、帰り道で、あいつが仇を討ちたいって言ったとき、俺が勝手に、同行するって言っただけだけどな」
 自嘲気味に笑う。でもその笑いの奥には、胸を刺す痛みがあった。

「そっか……」
 明がゆっくりと立ち上がる。その目に、いつもの無鉄砲さではなく、静かな火が灯っていた。

「じゃあよ! 俺も『姫の宮都市』に付いて行くぜ」
 唐突な言葉に、少し驚いた。

「俺も、あいつの代わりにかたき討ちしてやりたいしな。『浪花の村』に行くのはその後でいいしな」

「ウニ型魔獣くらい俺一人で倒せるよ」
 つい、強がって返してしまう。

「そういうことじゃねえ。気持ちの問題だから」
 明の声は、ぶっきらぼうで、でもどこまでも真っ直ぐだった。
「俺が純子のために、ウニ型を倒してやりてーんだ」

 その言葉に、胸の奥が熱くなった。
 明なりの弔い方。こいつはそういうやつだ。

 有紗が、一歩前に出た。目を伏せながらも、しっかりとした声で言う。

「……私たちも一緒に行きたいけど、邪魔になるといけないから、おとなしくしとくわ」
 その声ににじむ、押し殺した感情。

「王都にも来てね! スイーツ食べ放題連れてってあげるから!」
 沙耶が明るく笑ってくれたのが、救いだった。

「わたしも……待ってるから」
 有紗がぽつりとそう言った時、その声にはささやかな祈りのような響きがあった。

 それぞれの道。それぞれの約束。
 俺たちはひとつの丘で、静かにそれを確認し合った。

 誰も涙は見せなかったけれど、みんながそれぞれの形で、純子に別れを告げていた。

 振り返れば、白い墓石と、風に揺れる草たち。
 墓標の影は、少しだけ伸びていた。

 純子の墓に背を向けて歩き出すと、そよ風が後ろから背中を押した気がした。


 福佐山冒険者ギルドは、昼下がりでもにぎわっていた。
 剣や弓を背負った冒険者たちの声、報酬を受け取る笑い声、依頼板を見上げる視線――そのどれもが、いつもと変わらない日常の風景だ。

 けれど、俺と明にとっては、今日が節目だった。

「……これで、正式に解散ってことになるな」

 カウンターで〈フォーカス〉の登録を解除する書類に、俺は署名を入れた。
 明も、腕を組んだまま無言で横に立っていたが、係の受付嬢に促されると渋々ペンを取った。

「名前書くだけで終わりってのも、味気ねぇな」

 そう言いつつも、明の筆跡はいつもより丁寧だった。
 書類を受け取った受付嬢の礼子さんが、少しだけ寂しそうに言った。

「〈フォーカス〉の皆さんは、良い依頼をたくさんこなしてくださいました。ご苦労様でした。卓郎さんのSランク、明さん、有紗さん、沙耶さんのAランクは個人ランクとして保存されてますので新しいパーティ参加時には有効です。勿論、個人での依頼受注もできますよ」

「ありがとうございました」

 深く頭を下げると、背中が少しだけ軽くなった気がした。

 解散の手続きを終えた俺と明は、すぐに依頼板へ向かった。
 目的地は〈姫の宮都市〉。ただ歩いていくだけでは情報も集まらないし、金もへる。どうせなら、護衛任務でも受けて、商隊の馬車に便乗して移動するのが一番だ。

「お、これとかどうだ。南行きの商隊の護衛。出発は明日で、報酬はひとり1日1万ゴルド食事つき。悪くねぇぞ」

 明が指差したのは、ひときわ大きな紙だった。
 出発地は福佐山、目的地は海沿いの〈姫の宮都市〉。途中で数都市に寄る、五日間の護衛旅程。

「確かに悪くないな。目的地もばっちりだし、途中で数都市に寄るのも観光気分で楽しいかもしれない」

 すぐにその依頼を引き受け、ギルドの受付で登録を済ませる。
 出発は明朝。集合場所は南門前の広場だという。

 翌朝。
 街の南門前にある広場には、すでにいくつもの荷車が並び、商人たちが慌ただしく荷物を積み込んでいた。

 護衛として雇われた冒険者も、俺たち以外に数人。皆それなりに装備が整っていて、経験者と見て間違いない。

「おう、あんたらが新しい護衛か?」

 リーダー格らしい、腹の出た中年の商人が話しかけてきた。
 服の袖に小さな羊の刺繍がある。南部でよく見かける絹商の印だ。

「はい、福佐山ギルドから来ました。卓郎と――」

「明だ。炎属性の斬撃が得意だ」

「……そういう自己紹介いらねえだろ」

 思わずツッコミを入れると、商人は笑った。

「はは、若いのに元気でいい。ま、騒ぎさえ起こさなきゃ、腕が立つ方がありがたい。姫の宮都市まで、よろしく頼むぞ」

 馬車に荷物を積み終えると、護衛たちはそれぞれの持ち場についた。
 俺たちは最後尾の馬車――絹と果実を積んだ荷車の護衛に回された。

「さあて、いよいよ出発だな」
 明が剣の柄を軽く叩きながら言う。
 俺はうなずいた。

「発進の合図、誰もしてくれねぇのな」

 商隊は静かに、南への道を走り出す。
 



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