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しおりを挟む商隊の出発を前に、南門の広場にある簡易詰所に護衛メンバーが集められた。
荷車はすでに並び終わり、商人たちは最後の確認に忙しそうだが、こっちはこれから顔合わせ。これが済んでやっと正式に護衛として稼働、というわけだ。
「……七人か。わりと多いな」
明がそう呟く横で、俺は周囲を軽く見渡した。
まず、詰所の一角で腰掛けていたのは――背中に一本の大太刀を背負った男。髪は後ろで束ねており、動き一つなく目を閉じて座っている。
剣士の構えを自然と身体に染み込ませたようなその雰囲気は、並の冒険者じゃ出せない。
「あれが……胡堂だな。聞いたことあるぞ。元Aランク冒険者で、昔は〈紅刃の五人衆〉ってパーティにいたらしい」
「……なんだよその中二病くせえ名前」
「本人の命名じゃないらしいけどな。まあ腕は本物って話だ」
その胡堂の隣には、二人の中年男が立っていた。どちらもがっしりとした体格で、実戦慣れした動きをしている。
一人は槍を背負った長身の男、京二。鋭い目つきに、腕組みをしたまま壁にもたれている姿が、どこか警戒心をにじませていた。
もう一人は、武八。無精ひげの剣士で、胡堂と違ってリラックスした態度を崩さない。
「はーい、そろったな? んじゃ、自己紹介といこうか」
仕切りを始めたのは、商隊側の護衛統括らしい初老の男だった。
旅装に手甲、明らかに冒険者出身。ギルド印の入った帳面を片手に、我々を順番に見ていく。
「まず、こちらの重鎮。胡堂さんは元Aランク剣士、いまはうちの商隊専属。道中の判断役もお願いしてる」
「…………」
胡堂は、ほんのわずかに目を開け、軽く会釈しただけだった。
「次、京二さん。元Bランクの槍使い。実働経験豊富で、馬車の護衛配置にも詳しい」
「トラブルは早期解決が一番。遅れたら金にならんからな」
そう言って、京二は我々を一瞥した。視線が鋭い。
「武八さん。剣士。気性は荒いが腕は確かで、胡堂さんとは古い付き合い」
「荒くねーよ。気さくって言え。ま、気が合えば一杯くらい奢ってやるよ、坊主たち」
明が「坊主言うな」とぼそっとつぶやいたが、武八はそれに気づいたふうもなかった。
「で、今回臨時で雇ったのが――この四人。まずはSランク、卓郎くん。評価はギルド保証つき」
「……卓郎です。よろしくお願いします」
名乗った瞬間、場に微かなざわめきが走った。
胡堂の目が、わずかに開かれるのが見えた。
「次、Aランクの明くん。炎の剣を扱うタイプらしい」
「俺の剣は灼熱の牙を宿す。ま、そのへんは見てのお楽しみだ。よろしくな」
「……厨二病は健在か」と俺は小声で突っ込んでおいた。
「Cランクの剛志(ごうし)。剣士」
「……どうも、精一杯頑張ります」
剛志は緊張しきった面持ちで深く頭を下げた。
「そしてもう一人、同じくCランク、重蔵(じゅうぞう)。槍使いで、旅経験はそれなりにある。商隊との連携も慣れてるらしい」
「よろしく」
重蔵は淡々とそう言ったが、視線の端で他の実力者をちらちらと意識しているようだった。
全員の紹介が終わり、統括の男が手を叩いた。
「よし、臨時雇いの者は常勤の三人の指示に従ってくれ。胡堂さん頼みます。……あとは実際に動きながら連携覚えてくれ。道中、魔獣の目撃も出てるが、基本は盗賊よけと見張りが仕事だ。くれぐれも勝手な行動はすんなよ」
それぞれが短く頷くと、馬車の出発準備が整ったという声が外から届いた。
詰所を出ると、荷馬車の列がゆっくりと南門を通過し始めていた。
常勤の三人――胡堂、京二、武八――は、すでに馬にまたがり、隊列の先頭と両翼に位置している。いずれも年季の入った旅装で、馬上の姿に無駄がない。やはり彼らが主力であり、我々臨時組はあくまで補助という扱いなのだろう。
臨時の四人は、馬車に分乗する形で配置された。俺と明は二台目の荷馬車に、剛志と重蔵はその後ろの三台目に乗っている。いずれの荷馬車も座席があるわけではないが、積荷の隙間を利用すれば、ある程度は姿勢を保てる。
「……なんかこう、護衛って感じしねえな。ちょっと旅してるだけっていうか」
明が、荷車の後部から外を見つつぼやいた。
「まあ、まだ出発したばかりだしな。警戒はこれからってことだろ」
俺は腰を浮かせて視界を確保しながら、前方の様子をうかがった。胡堂は沈黙したまま、馬をゆっくりと歩かせ、まるで空気の流れすら読んでいるようだった。
馬車のきしむ音と、蹄のリズムが続く中――後ろの三台目から、剛志の声が飛んできた。
「あ、あのっ……卓郎さん!」
声をかけられた俺が振り向くと、剛志は緊張した面持ちで荷車の縁から身を乗り出していた。
「えっと……その、初めまして! 剛志と申します。ご一緒できて光栄です!」
「ああ、こっちこそ。よろしく、剛志さん」
「い、いえ、さん付けなんて……俺、まだまだで。Cランクですし、足引っ張らないようにします!」
どうやら緊張と興奮が入り混じってるらしい。目がきょろきょろしてるし、腰も浮いて落ち着かない。
「力まずにいきましょう。盗賊除けがメインって話ですし、俺たちは、余計な動きをしない方が助かる場面もあるかもです。最初は商人の安全と、視界の確保を意識してれば十分じゃないですか?」
「……は、はいっ! ありがとうございます!」
大声だったためか、横で聞いていた重蔵がちらりと視線を向けた。
重蔵は俺たちより年上だが、必要以上に出しゃばらない。荷台の端に座り、左右の道を時折確認しつつ、黙々と職務をこなしていた。無言だが、旅慣れしたその落ち着きは信頼できそうだ。
列は南の丘陵地帯へと差しかかり、周囲の景色も開けてきた。道の両脇には背の低い潅木と草原が広がり、所々で風に揺れている。
そのときだった。
「前方、丘の上。鳥の飛び立ちに異常あり」
先頭の胡堂が静かに告げた声が、全体に伝えられた。
「確認する。列を崩すな。騒ぐなよ」
すぐさま京二が応じ、馬の腹を軽く蹴って前に出る。彼の鋭い目が、遠くの丘陵を射抜くように捉えている。
「……数は少数、恐らく魔獣。〈黒刺狼〉か? 警戒はしておいた方がいいな」
「おう、来るようなら先手取るぞ。馬車が狙われたら終いだ」
武八がそう言いながら、剣の柄に手をかける。口調は軽いが、目は一瞬たりとも油断していない。
俺も腰を浮かせ、視線を前へ送る。確かに、丘の向こうから黒い影がいくつか――四つ、いや五つ。素早く、無音で移動してくる気配があった。
〈黒刺狼〉……牙に毒があるって聞いたことがある。数も中途半端に多い。
「うん。油断は禁物だ」
俺は剣の柄に手を添えながら、周囲の様子を確認した。
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