ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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「Sランク! ちょっと行って狩ってこい!」
 先頭の胡堂から、突然、俺に指示が飛んだ。

 俺はすくっと立ち上がり手を天にかざす。

「スカイリッパー(空中から一直線に風の刃を降らせる広域攻撃魔法)!!」

 俺の声が風に乗り、空へと響き渡った瞬間――天高く、空間がざわめいた。

 上空に、無数の緑がかった魔法陣が展開される。重なり合い、螺旋を描きながら輝きを増していくその中心から、鋭い風の刃が一気に地上へと降り注いだ。

 ――シュバァアアアアッッ!!

 空気が裂ける轟音。広範囲にわたって、鋭利な風の束が雷鳴のように地面を引き裂いた。草原の中を疾走していた〈黒刺狼〉たちは、避ける間もなく切り裂かれ、叫びすらも届かないまま、倒れ伏していく。

 一頭、二頭……三頭……風の収まるころには、五体の〈黒刺狼〉が動かなくなっていた。

 俺は静かに腰を下ろし、荷車の上に座り直す。

「討伐完了。五体全部やっつけたよ」

 淡々と告げると、馬を走らせて戻ってきた胡堂が、口の端をほんの少しだけ持ち上げた。

「……早ぇな。あっという間だ」

「えっ、い、今の魔法……広域、即発、しかも全弾命中……!?」
 後ろの剛志が言葉を失っている。荷車の上で硬直したように俺を見つめ、目を見開いていた。
「は、はは……やっぱSランクって、Sランクなんですね……」

 明が後ろからひょいと顔を出し、ニヤニヤ笑っていた。

「おーおー、爽快だったなあ!」

 俺は肩をすくめて笑い返した。

 馬車隊はそのまま再び前進を開始。胡堂は一言、「警戒は続ける。気を抜くな」と言い残して再び前に戻った。

 ただ、剛志の目だけは――まだ俺を見たまま、固まっていた。……いや、少し震えてすらいるように見える。

(……やっぱ、Sランクって浮くんだよな……)

 そんなことを思いながら、俺は腰の剣を軽く撫でた。

 次は、もう少し普通っぽくやってみるか――そんなことを考えつつ、俺は再び荷台に体を預けた。

「魔獣の素材を回収しろ!」
 商人の声がとび、胡堂たち三人が馬を走らせ回収に向かった。勿論臨時雇いの四人もその後を走って追う。荷馬車はその間停車した。

 草原に横たわる〈黒刺狼〉の死骸は五体。風の刃に切り裂かれた傷は深く、美しくさえあるほどに均一だった。

 胡堂が先頭で馬を降り、手早く一体の個体を検分する。

「……牙と皮は使える。内臓は潰れてるが、肝もギリギリいけるな。早めに解体しろ」

「おーよ。武八、手伝えや」

「へいへい、俺は皮剥ぎ職人じゃねぇんだけどな」

 武八と京二がそれぞれの狼に取りかかり、器用にナイフを使い始める。慣れた手つきだ。

 俺と明、それに剛志と重蔵も遅れて駆けつけた。すぐに胡堂がこちらを振り向く。

「卓郎、おまえは見てろ。明は補助。残り二人、手を出せるなら一体ずつ回収だ。できないなら覚えろ」

「了解」

 明が軽く返事しつつ、血に染まった京二の手元を見て頷く。

「なあ卓郎、今の魔法のあとにこれやるって、わりと地味だよな……いや、必要なのはわかってるけどさ」

「護衛ってのは、派手な戦闘だけじゃないってことだね」

 俺がそう言うと、明は「お前が言うと説得力あるわ」と苦笑いした。

 その横では、剛志が黙々と作業を進めていた。動きに無駄はなく、脚の腱を切り離す手つきも慣れたものだ。派手さはないが、確実で、丁寧だ。

「……牙は、こいつで抜くか」

 腰の小型ペンチを取り出し、根元を支えながら慎重に角度を定める。少し力を加えると、乾いた音を立てて牙が抜けた。

「よし、一本目……っと」

 剛志はそれを布に包みながら、ふと隣で作業する重蔵に視線を送る。

「そっちは、もう二本抜いたんすね。早いっす」

「慣れだな。おまえも悪くない動きだ」

 重蔵は手を止めずにそう言った。褒めるというより、事実を述べたといった口ぶりだったが、剛志は小さく笑った。

「……ありがとうございます」

 作業に戻る剛志の背には、先ほどの卓郎の魔法に見せた動揺の影はなかった。素材回収という地味な任務でも、自分の役目を全うする――そんな静かな覚悟がにじんでいた。

(悪くないな、このチーム)

 そう思いながら、俺はしゃがみ込み、胡堂の解体作業を静かに見守る。Cランク以上の冒険者は魔獣の価値を戦いだけでなく、素材としてどう扱うかまで知っている。

 日が少し傾き始めたころ、魔獣の素材回収がひと段落し、馬車隊は短い休憩を取ることになった。

 俺は荷車の上で空を見上げながら、胡堂に声をかけた。

「黒刺狼、ここまで来るのは珍しいんじゃないですか?」

 胡堂は草の上に腰を下ろし、口にしていた干し肉をかみ砕く。

「……そうだな。通常はもっと北に生息してる。これだけの群れが南下してるってのは、何かに追われた可能性があるかもしれん」

「魔獣を追い払うような存在って、たとえば……」

「でかい奴だ。もしくは、異常気象。あるいは――瘴気だな」

 言葉の最後に、微かに緊張が走った。

 瘴気。あの呪詛の谷で感じた、生命を削るようなあの気配。それがまた広がりつつあるとすれば、のんびり旅してる場合じゃない。

「……嫌な予感がするな」

 俺がそう呟くと、明がぽんと俺の肩を叩いてきた。

「でもまあ、今は腹ごしらえだろ」

 俺はふっと笑い、再び空を見上げる。

 ――と、そのとき。遠く、風が違和感を伝えてきた。

(……風が逆流してる?)

 ほんの一瞬、周囲の空気がざわめいた。草の波が、ある一点を中心に逆巻くように揺れ動く。

 俺は立ち上がり、目を凝らす。

 遠く、丘の向こうに……何かが、立っていた。

 それは――人の形をしていた。が、風景に溶け込むような異質さを持っていた。透明のようでいて、確かな存在感。全身が灰色の霧のように揺らいでいる。

「……誰か、あれ見えてる?」

 俺が言うと、胡堂が立ち上がり、目を細めた。

「……あれは……魔族か?」

 次の瞬間、そのそれが、すぅっと地面を滑るように姿を消した。

 空気が止まる。

「警戒態勢! 馬を囲め! 休憩中止だ、すぐ出発する!」

 胡堂の怒鳴り声が響き、全員が素早く動き出す。馬の手綱を握り直す者、武器を構える者。俺も剣を腰に差し直した。

 あれは――偶然じゃない。何かが、確実にこっちを見ていた。

 明が、少し遅れて俺の隣に来る。

「……卓郎。今の、見たやつ……なんなんだ?」

「わからない」

 俺は、風を読みながら静かに答えた。

 馬車が再び動き出し、草原を抜ける旅が再開された。
 風は、どこか不吉な旋律を含みながら、俺たちの行く先をなぞるように吹き抜けていった。


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