ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 日はさらに傾き、草原の色が黄金に染まり始める。

 胡堂の指示のもと、馬車隊は隊列を組み直して移動を再開していた。誰もが言葉少なで、先ほどのあれの影を、胸のどこかに引きずっている。

 俺も、例外じゃなかった。

(……灰色の霧、人の形……魔族とも、霊体ともつかない)

 そんな存在を、あんな近くで見かけたのは初めてだった。

「卓郎」

 明が声をかけてきた。馬車の横を歩きながら、鋭い目をしている。

「一応聞くけど、あれってさ……あの〈呪詛の谷〉で出てきたヤバいやつと、似てた?」

 その問いに、俺は少しだけ考えてから、静かに首を横に振る。

「似てはいた。でも、違う。もっと……狙ってた」

「狙ってた?」

「あれは俺たちを試すみたいに、あえて見せた。そういう風に感じたんだ」

 明は眉をしかめた。彼の剣の柄を握る手が、微かに強くなる。

「面倒なことになりそうだな。こういう時って、だいたい面倒なんだよなぁ……」

「うん、俺もそんな気がする」

 馬車の前方、胡堂が手を上げて制止の合図を出した。全体がぴたりと止まる。

「前方に人影だ!」

 緊張が一気に走る。

 京二が、息を切らしながら叫んだ。

「街道脇に、倒れてる女がいます! 一人、意識なし! 服装は……旅人か、いや、冒険者かもしれません!」

「罠か?」

 胡堂が即座に問い返す。京二は首を横に振った。

「……わかりません。でも、周囲に敵の気配は――少なくとも、今のところは――」

 俺が前に出た。

「俺が行きます」

「一人で行くな。明、お前も行け。護衛は二人以上が基本だ」

「りょーかい」

 明が剣を抜きながら横に並ぶ。

 俺たちは馬車を離れ、京二の案内で街道を少し外れた丘の斜面を登っていった。

 ――女が草むらに倒れ伏していた。白と青を基調とした冒険者風の軽装。髪は銀に近い淡灰色、年の頃は……十六、七か。

 全身が傷だらけで、呼吸は浅く、今にも止まりそうなほど。

「回復魔法、使うぞ」

 俺は迷わず「ヒール」を詠唱した。

 掌に集まる淡い光が、彼女の体を包む。途端に、傷口が収縮し、出血が収まっていく。

 明が周囲を警戒しながら問う。

「どうだ、持ち直すか?」

「……なんとか。けど、意識はまだ戻らない」

 俺は彼女を抱えて商隊戻った。

「女を保護しました」

「どうだ、助かりそうか?」
 胡堂が即座に近づいてきて女の様子を確かめる。
「ヒールをかけたのか? 傷はほぼ治っているようだが……この裂け方、狼型魔獣にやられたのかもしれん」

「命に別状はないと思います。あと、あたりに敵や魔獣の気配はありませんでした。何が有ったのかは、意識を取り戻してから本人に聞くしかないかと」

「まあ、もうすぐ野営の準備に入らなくちゃならないしな。馬車に乗れ。安全なところまで急ごう」

 商隊の馬車がまた動き始める。野営に適した見晴らしのいい草原に馬車が到着した時には女は意識を取り戻していたようだ。女は商人たちが介抱していたので、俺のところまでは彼女の情報は降りてはこなかったが。

  商隊の馬車が輪を描くように並べられ、中央では男たちが手際よく焚き火の準備を進めていた。火打石が火花を散らし、やがて細く乾いた薪に火が灯る。煙が風に流れて、淡く夜の帳(とばり)に溶けていった。

 荷を下ろした馬たちが鼻を鳴らし、草を食む音があたりに広がる。明と俺は薪を運び、剛志と重蔵は水袋を点検していた。胡堂たち3人は、遠巻きに周囲を警戒している。

「……やっぱり魔物の気配はしないな。ここで一夜を過ごす分には問題なさそうだ」

 そう呟いた俺に、明がやや退屈そうに返す。

「まあ、緊張感ねーのも、それはそれでつまらんけどな」

「変なフラグたてるなよ」

「はいはい」

 火の近くに座った剛志が、小声で囁く。
「ねえ、あの女の人……意識、戻ったんだよね?」

「ああ。胡堂さんが言ってたけど、まだ話せる状態じゃないらしいぜ。混乱してるって」と明。

 剛志が火の上に鍋を吊るしながら、不安げに続けた。
「変な病気とか……じゃないよね? 瘴気にあたってた、とか……」

「ヒールはちゃんと効いた。少なくとも、毒や呪いの類いはなかったはずだ。あのときの様子を見る限りは、だけど……」
 俺の言葉に、皆が静かになる。火のはぜる音だけが耳に残った。

 やがて、胡堂が戻ってきた。焚き火の向こう、柔らかな光に照らされたその表情は、ほんのわずかに険しかった。

「今、軽く様子を見てきた。女は名乗ってないが……言葉は通じた。混乱してるが、敵意は感じられなかったよ。だが――何かから逃げてきたとは、はっきり言った」

「逃げてきた……?」

「追われていたってことか?」

 胡堂は火を見つめたまま、低く言った。
「霧の中から来た者たちに襲われたと、そんなふうに呟いてた。詳しいことは明日、もう少し落ち着いてから聞こう」

 俺たちは顔を見合わせた。丘の上に立っていた魔族とも、霊体ともつかない灰色の霧の事を思い浮かべているのは俺だけではないだろう。あれに襲われて、逃げてきたというのだろうか。

 霧――それは、瘴気と同じ意味を持つ単語として、幾度も耳にしてきたものだった。

 風が吹いた。
 火の粉が空に舞い上がり、夜空の星と交じり合う。
 この草原の静けさが、ほんの僅かに――不自然に感じられたのは、そのせいだろうか。



 

 

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