ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 ダルフェリアを出発して、もう三日目。

 日の光が差し込む街道の先に、ようやく目的地――青い海に抱かれた港町『姫の宮都市』の輪郭が見えてきた。

「おっ……見えてきたな」

 明が馬車の荷台から身を乗り出し、嬉しそうに声を上げた。

「これが……姫の宮都市」

 俺もそっと隣に並び、目を細めた。

 街は大きな入り江に面していて、白い石造りの家々が段々に重なり、海風に揺れる旗がいくつもたなびいていた。港にはいくつもの帆船が停泊しており、魚市場らしき建物からは威勢のいい声が響いている。

「潮の匂いがするな。久しぶりだ、こういうの」

 明が腕を組んで満足げにうなずく。

 ダルフェリアを出発し、特に問題もなく、道中は順調だった。
 魔物も、野盗も出なかった。
 明の派手な剣が光ったからかもしれない。

「お前のせいで、途中の小動物まで逃げてったぞ」

「ちょっと火が出ただけだって。威嚇だよ、威嚇!」

 馬車の御者が笑いながら「ここから下り坂だ」と声をかける。姫の宮都市の石畳へ、馬車はギシギシと音を立てて進んでいく。

 商隊の荷馬車が、港町の中心部にある大きな商館の前で止まった。

 白い壁に青い屋根、広々とした石畳の前庭。
 門扉の上には「銀海商会」の紋章が掲げられており、すでに数名の荷受け人が慌ただしく動き回っていた。

「ふぅ……ここが終点か」

 俺は背中の汗をぬぐいながら、荷台から飛び降りる。

「いやー、何も起きないと逆に疲れるな。張り合いがねぇっていうか」

 明も伸びをしながら降りてきて、首を回す。
 その横で、胡堂がどっかと腰を下ろした。

「無事に終わって何よりだ。おまえらが来てから、妙に空気が緊張してたが、こうして無事に着いたんだ。上出来上出来」

「……おまえ、初日に荷台で寝落ちして馬に蹴られかけてただろ」

 京二が呆れ顔で胡堂を指差すと、今度は武八が声を上げて笑った。

「ははは、あの時の顔、今でも思い出し笑いできるぞ。胡堂、目ん玉ひっくり返ってたからな!」

「うるせぇ、寝不足だったんだよ! 俺だって夜は見回りしてたんだからな!」

「見回り中に寝てたんだよなぁ……」

 軽口を叩きながらも、三人の表情は和やかだった。
 半ばコンビ芸のような連携の取れた三人組だ。

 それに比べて、ギルド経由で合流した二人――剛志と重蔵は、雰囲気が違った。

「……あんたら、すごかったね。流石SランクとAランク」

 剛志が明るく話しかけ、俺と明に視線を送る。

「お互い、大怪我もなしに終わって良かったよ」
 重蔵も軽く顎を動かしてうなずいた。

 それぞれの武具を確認しながら、彼らは手早く身支度を整えていく。

「さて、俺たちはこのまま港の方へ戻る。次の仕事があるんでな」
 重蔵が軽く手を上げた。
「俺らはまた、どこかの護衛で会うかもな。そんときゃよろしく頼むぜ、Sランクのお兄ちゃんよ」

「名前で呼べよ……」

 思わず苦笑すると、明が肩を叩いてきた。
「ま、悪くない旅だったな。おつかれさん、みんな!」

 それぞれが手を振ったり、軽口を交わしたりして、自然な流れで別れは済んだ。

「……さて、明」

「ん?」

「こっちはこれからが本番だ。まずは、ウニ退治の調査、情報収集。――港か、漁師か、浜辺の神殿あたりを調べるか……」

「おう。腹ごしらえもしつつ、な」

「やっぱりそこか」

 笑いながら、俺たちは街の中心へと向かって歩き出した。
 港町の喧騒が、ゆっくりと二人を包み込んでいく。

 港町の中心街には、観光客や商人、地元の人々が入り交じるにぎやかな通りが続いていた。焼き魚の香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

「見ろよ卓郎! あの屋台、貝焼いてる!」

「こっちは……串カツ?」

 明が鼻を利かせて、片っ端から屋台を覗いていく。たしかに、どこもかしこも美味そうだった。

 二人で海鮮串と焼きイカを買って、海沿いの石段に腰掛ける。

「……潮風、すごいな」

「うん。でも悪くない」

 目の前には、きらきらと光る海と、港に出入りする船。その向こうに、静かに広がる水平線。

「……純子、こんな景色を見てたんだな」

 ふいに呟いた俺に、明は答えなかった。ただ静かに、串のイカを噛み締めていた。

「この街、意外と広いし、漁師の話とか聞き込みしてみよう。ウニ型魔獣の情報、集めるには地元のやつの話が一番だろ」

「ああ、そうだな」

 商隊の任務は終わった。けれど、これからが本当の目的。

 純子の家族の、無念を晴らし純子に代わってかたき討ちをするため、俺と明の二人調査が、本格的に始まった。


 浜辺には、風と波の音しかなかった。――両親が命を落としたのは、ちょうどこのあたりだ。漁港の防波堤から外れた岩場。潮が引くと、海藻の絡まる岩の隙間があらわになる。今はまだ満ちていて、静かな波間に時折、銀色の魚が跳ねていた。

「……ここか」

 俺は海の方を見つめながら呟いた。

 明は、腰に手を当てて頷いた。

「間違いない。村の記録にも残ってた。今だ討伐されていない、通称『殻喰いカラクイ』って魔物、最近何度か目撃されてたらしい。漁師が仕留めようとしたけど、逆に襲われたって話だ」

「ウニ型って聞いてたけど……殻喰い、か」

 潮の匂いが風に乗って鼻をかすめる。平和そうな海に見える。けれど、この奥に奴がいるなら、油断はできない。

 明と二人、岩場へと歩を進める。

 海水に濡れた岩がぬるりと滑る。慎重に足を運びながら、目を凝らす。岩陰、波打ち際、そして――

 ズズ……ッ!

 低い振動のような音が、足元から伝わってきた。

「来たか……!」

 海面が、盛り上がった。泡とともに、異形の殻が浮上する。

 まるで鋼鉄のような硬質の殻。無数の黒い棘。真っ黒なウニが、巨大になって海中から這い上がってくる。棘の先が、わずかに赤く光っていた。

「殻喰い……!」

 明が叫ぶ。

 魔物はその巨体を揺らしながら、ゆっくりと前進してきた。足はない。殻の内側から触手のような肢を突き出し、岩を這ってくる。棘の一本一本が武器だ。過去に純子の両親を貫いたという、その凶器。

「来いよ……クソウニ野郎が!」

 明が剣を抜く。紅蓮のミスリルブレードが火を灯す。〈フレイムバスター〉の炎が、剣先に宿る。

 俺も剣を構えた。

 この一撃が、純子のための償いになるかは分からない。でも――やるしかない。

「いくぞ、明!」

「おうとも!」

 海辺の決戦が、始まろうとしていた。

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