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しおりを挟む『北野村』は、村とも言えぬような地域で、森の間に民家が離れて点在するいわば開拓地と言ってもよい村である。諭吉という名を覚えているだろうか。そう、卓郎たちが以前、依頼で諭吉の畑に出没する猪型魔獣の家族を討伐したあの北野村である。
あれから3年、森を切り開いて作った諭吉の畑同様、卓郎(18歳)もこの北野村で森を切り開き畑を作って静かに暮らしていた。畑のすぐ横まで木々が迫っていて、広い農地の片隅に、小さな木造の家と納屋がポツンと立っている。
この3年間、卓郎は森を切り開き畑を増やし、出没する魔獣を狩ったりしながらのんびりと生きてきた。
「うーん。この足跡は猪型魔獣かな。うちのキャベツを食いに来てるみたい?」
卓郎は畑に付いた足跡と食われたキャベツを眺めながらつぶやいた。
「あー! ここ、柵が壊れてる。ここから入ってきたんだな」
卓郎は納屋に戻ると柵を修理する用意を抱えて往復する。そして黙々と柵の修理を始めるのだった。
コンコンと木を打ち付ける音が静かな森に響き渡る。
「これで良し……と」
額の汗を拭き、振り返ると隣の諭吉さんがこちらに歩いてくるのが目に入る。諭吉さんは、卓郎の農業の師匠であり、一番近くの隣人(畑が大きいのでそこそこ離れている)である。
「おーい。卓郎くーん!」
「諭吉さん、こんにちは?」
「『お取り寄せ』してくれんかのう?」
「何を取り寄せたいんですか?」
近くに来た諭吉さんがすまなそうに頭を搔く。
「畑に肥料を撒こうと思って『スーパー油粕・骨粉入り6-7-4』の20キロ入り10袋頼んでよいかの?」
「えーと、一袋4300ゴルドみたいですけど、それでいいです?」
「ああ、値段はそんなもんじゃろう。それをお願いしたい」
「じゃあ、いつものように、諭吉さんの畑に行ってから『お取り寄せ』しますね。柵の修理も丁度終わったところなんですぐ行きます。先に行っててください」
「あいよ!」
卓郎は修理道具を抱え納屋に、諭吉はもと来た道を引き返す。
納屋に着いた卓郎は道具をしまいながら、思った。
(うちも分も、肥料かっておこう)
「『お取り寄せ』……『スーパー油粕・骨粉入り6-7-4』の20キロ入り10袋……ポチっとな……と」
足元に10袋の肥料が積みあがった。卓郎は、いつも諭吉と同じように肥料をあげることにしている。そうすることで諭吉の農業経験を参考にしているのだ。それ以外にも農業スキル、『キャベツの気持ち』、『トマトの母さん』、『なすの隣人』、『きゅうりの恋人』などなど、百点ポイントで色々なスキルを覚えて参考にしている。
「さて、急ごう」
卓郎は、すぐに諭吉のあとを追った。諭吉にはすぐに追いつく。
「うちの畑に、今日、猪型魔獣の足跡があったんですよ」
「柵を修理しとったようじゃが、そいつにこわされたのか?」
「たぶん、そうだと思います」
「だとすると、わしの畑に来るのもすぐじゃのう」
「じゃー、狩っちゃったほうが良いですかね?」
「卓郎くんが、狩ってくれるなら助かるのう。もと冒険者の卓郎くんなら簡単なんじゃろう?」
けっこう、面倒なんだよなあ……と思いながら卓郎は答える。
「たぶん簡単だと思います」
「いつも、助かるよ。卓郎くんが来てくれてから、ギルドに払うお金が節約になってるんじゃ」
卓郎は、今まで何度も害獣狩りをおこなってきた。俺にとって、このあたりに出没する魔獣など、危ないということはない。
「役に立てて、嬉しいです。諭吉さんには、いつもいろいろ教わってますしね。こんなことで恩返しになるなら、楽なもんです」
諭吉の畑に着くと、早速『お取り寄せ』をすると、納屋の中に『スーパー油粕・骨粉入り6-7-4』が10袋積みあがった。
「狩りだけじゃなく、『お取り寄せ』も役に立ってるよ。買いに街まで出なくて済むから、ほんとに卓郎くんがここに引っ越してきてくれて嬉しいぞい」
「いえいえ、ポイント稼がせてもらって、かえってこっちが喜んでます」
「ところで卓郎くん、ついでにもうひとつ、『お取り寄せ』して欲しいもんがあるんじゃが、いいかのう?」
「はい。かまいませんよ」
「うむ。じゃあ、お弁当をお願いしたい。卓郎くんの分もおごったるけえ」
「いつも、すみません。では僕の肩に手をおいて、……リストを見てみましょう」
諭吉さんは俺の肩に手を置くと弁当リストを目で追った。
「おう、これこれ。最近、歯が弱ってきてのう。このハンバーグという奴が好きなのじゃ。デミグラハンバーグ弁当を一つ注文したい」
「はい分かりました。780ゴルドですね」
俺は、出てきたデミグラハンバーグ弁当を諭吉さんに手渡した。
「合わせて43780ゴルドじゃな。はいこれ」
差し出された金を受け取り踵を返す。
「じゃあ、早速魔獣を狩りに行ってみますよ。また柵を壊されたくはないですからねー」
「頼んだよ。わしの畑に来そうな魔獣もついでに狩ってきておくれ」
「はーい。この辺の魔獣は狩っておきますから、たぶんそれで大丈夫だと思います」
俺は、自分の畑に引き返し、久しぶりにストレージから精錬銀のミスリルソードを取り出し刀身の輝きを眺めて美しいと思った。
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