257 / 265
253
しおりを挟む――王都中央大通り。
ギルドを出て数分も歩けば、両脇に並ぶ商店の看板がひしめき合い、道行く人々の声と馬車の車輪音が混じり合う。
その一角に、古びた木製の看板に『地図屋モルガン』と書かれた小さな店があった。
「ここでいいかな」
俺は店の古びた看板を見上げながらつぶやく。……店は小さいが、本屋ではなく、地図屋と看板を出すくらいだから大丈夫だろう。
リーナも、俺のつぶやきに頷いている。
俺が扉を押すと、カランカランと鈴の音。中には、地図や古文書が所狭しと並び、紙とインクの匂いが漂っている。
「いらっしゃい」
奥から、丸眼鏡をかけた初老の男が現れた。白髪を後ろで束ね、インクで汚れた指先をしている。
「北方の《ブリュンの村》と、その先の《霧深き森》の位置を知りたい」
俺が用件を告げると、男は「ほぅ」と目を細めた。
「珍しいね。《霧深き森》って危ないんじゃなかったか? 怖い魔獣も出るって噂だし、あそこに行きたがる物好きは少ないよ。地図を出そうか?」
物好きいうな! 好きでそんなとこ行くわけじゃないんだよ。……とは口にださず。
「お願いします」
モルガンは長い引き出しから羊皮紙の地図を取り出し、カウンターに広げた。
「ほら、ここが王都だ。北に街道を三日、ここで分かれ道。東に行けば交易町《ラナグ》、西に進むと《ブリュンの村》に着く」
「意外と近い……いや、歩きなら近くないか」
カイが地図を覗き込みながら呟く。
「馬車なら二日、徒歩なら四日は見なきゃいけないな。だが問題は、その先だ」
地図屋のモルガンは指先でさらに北方を示す。そこは灰色のインクでぼんやり塗りつぶされていた。
「これが《霧深き森》。霧が晴れた記録は数えるほどしかない。方角を見失うだけでなく、地形が変わると報告する者も多い」
「やっぱりあの男の話は本当だったんだな……」
俺は小声で呟き、さらに情報確認。
「そうそう。《ブリュンの村》には『霧避けの石』を売る連中がいるらしいが?」
「ああ、あれは村の外ではめったに手に入らん。高い上に数も少ない。あんたら、金は持ってるか?」
「カイの食費を削ればなんとか……」
俺が冗談を言うと、カイがむっとした顔で振り返る。
「ひどっ! 俺、そんなに食ってないし!」
「さっき屋台で串三本追加したやつが言うな」
「だって美味しかったんだもん!」
アリアがくすっと笑い、リーナは肩をすくめた。
「まあ、笑ってるうちはいい。森に入れば笑えなくなるかもしれん」
地図屋のモルガンが真面目な声で言い、地図を丁寧に丸めて革筒に収めてくれた。
「道中の目印や水場の位置も記してある。あんたらが本気で行く気なら、これを持っていけ。……無事に帰ってこいよ」
「いくらだ?」
「金貨1枚(1万ゴルド)」
「高いな」
「地図は高い物なんだよ」
知ってる。
「はいよ」
俺は金貨を差し出し、地図を受け取ると、念のために聞いてみる。
「《ルシアの里》ってしってるか?」
「いや、知らん。俺も地図を見るのが趣味だから、いろんな地名を知ってるつもりだが、《ルシアの里》は、見たことないな」
だろうと思った。まあ、仕方がないな。地図に載ってたら、もうそれは『隠れ里』ではなくなってる。
地図を受け取った俺たちは、店を出るとき自然と顔を見合わせた。
「……次は食料の買い出しだな」
「うん。美味しいのが良いな。そして《ブリュンの村》へ。《ブリュンの村》では、美味しいものは期待できないよね」
「カイは、遠足気分だな」
「いいじゃない。カイは、育ち盛りなんだから」
リーナが俺に抗議する。
「わるい、わるい。ちょっとした冗談だ」
「どうでも良いけど、早くいきましょうよ」
アリアの瞳には、強い決意が宿っている。
そして俺たちは、王都中央市場へ向けて歩き出した。
――王都中央市場。
北門へ向かう前に、俺たちは食料を揃えるため市場に寄った。
屋根付きの通りには干し肉や乾パン、干し果物、香辛料の山が並び、店主たちの威勢のいい声が飛び交っている。
「はいはい! 保存食ならウチが一番だよ! 三か月はカビ一つ生えない干し肉だ!」
「こっちは二か月で十分だろ。代わりに安いぞ!」
「……こういうとき、どっちを選ぶべきなんだ?」
俺が呟くと、すかさずリーナが真顔で答える。
「もちろん三か月。森の中で食料が尽きるのは死活問題だもの」
「でも、高いでしょ? ほら、こっちの干し肉はちょっと塩気強めだけど安いし……」
カイが手に取った干し肉は、色がちょっと黒い。
「それ、明らかに古いでしょ」
リーナの冷ややかな視線が突き刺さり、カイは慌てて棚に戻す。
実際のところ、ストレージに収納できるので、保存時間は関係がない。ストレージ内は異空間なため時間が止まっているのだ。だが、今は訓練も兼ねているので、そのことは言わない。それに新鮮なものの方が、美味しいに違いない。
「干し果物も買おうよ!」
アリアが指差したのは、黄金色に乾いた甘い匂いの果物。
「糖分は大事だからな……でもこれ、金貨一枚って書いてあるぞ」
「た、高っ!」
カイが悲鳴を上げる。
「まあ……特別な果物だし、疲労回復に効くって噂だよ。少しだけ買おうか」
リーナが冷静に袋入りを三つほど選ぶ。
「パンはどうする?」
「じゃあ硬焼きの保存パンだな。……おお、これ、石みたいに固い」
「カイ、それはかじったら歯が欠けるやつだから。スープに浸して食べるんだよ」
「そっか……ちょっとガッカリ。違うのにしよー」
俺は会計前に、全員が選んだ物をざっと確認する。干し肉、保存パン、干し果物、塩、スパイス、干し野菜。
「よし、これだけあれば十日は持つな」
「十日って……森の探索にそんなかかるの?」
「かからないに越したことはないけど、備えは多めにだ」
「お兄さん、おまけで乾燥ハーブ入れとくよ。湯に入れれば香りもいいし虫除けにもなる」
店主の好意で袋がひとつ増える。
「ありがとうございます」
荷物を分担して背負いながら、俺たちは北門へ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった
雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。
天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。
だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。
鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。
一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。
朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。
悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。
目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる