ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 ――王都北門前。

 辻馬車乗り場は、早朝から荷物と人でごった返していた。木製の車輪がきしむ音、馬の鼻息、御者の掛け声――すべてが旅の始まりを告げている。
 俺たちは指定された荷馬車に荷物を積み込み、藁を敷いた荷台に腰を下ろした。
 俺だけ空を飛んで行き、《ブリュンの村》で『霧避けの石』を買い、さらに飛んで《霧深き森》の入り口あたりを調べてから、王都に残した3人のもとに戻って、その後4人で瞬間転移というのが効率的だ。だが、3人を王都に残していくのも不安だし、皆で旅するのも経験になるし楽しい。

「二日で《ブリュンの村》だってさ。歩くよりずっと楽だな!」
 カイが満面の笑みを浮かべる。

「楽だけど……尻は痛くなるぞ」
 俺の言葉に、カイは「そんなの余裕!」と胸を張る。

 やがて御者が鞭を軽く鳴らし、馬車はぎしぎしと揺れながら動き出した。王都の城壁が少しずつ遠ざかり、代わりに広がるのは金色の麦畑と緩やかな丘陵。

「こうやって座ってると、森に行く実感がないわね」
 アリアが小さく笑う。
「着いたら嫌でも実感するわ」
 リーナが淡々と返し、わずかに空気が引き締まる。

「ねえ、その《霧深き森》って……ほんとに危ないの?」
 カイが不安そうに訊く。
「噂じゃ、迷った旅人を森が丸ごと飲み込むって話だ」
 俺が冗談半分に言うと、カイは目を丸くする。
「ちょ、やめてよ! 夜眠れなくなる!」
「じゃあ夜はテントの外で見張りでもする?」
「……やっぱ寝る」

 そんなやり取りの途中、空を横切る影に気づいた。黒い嘴の大きなカラス。  
 アリアの目が鋭くなる。

「あれは、《黒嘴カラス》だ。本来は森の奥にしかいないはず」 
 俺は荷物の位置を確かめ、少し背筋を伸ばす。
「ちょっと異常だな。森に何かあったのかもしれない」

 馬車の車輪は規則正しく土を踏みしめ、揺れに合わせて会話も揺れる。
 緊張と、軽い笑いと、少しの不安を抱えたまま、その後も俺たちは《ブリュンの村》へ向かって進んでいった。

 ――《ブリュンの村》まで、あと半日の道程。

 昼下がりの陽光が柔らかく麦畑を照らし、馬車は緩やかに揺れながら進んでいた。だが――ふと、風が止んだ。
 馬の耳がぴくりと動き、次の瞬間、伏せるように耳を倒す。鼻から荒い息が漏れ、車輪の軋む音よりもその呼吸音が耳につく。
 御者が怪訝そうに手綱を締めた。

「……なんだ?」
 俺が顔を上げると、東の空の地平が揺れて見えた。最初は蜃気楼のように思ったが――違う。
 黒い点が一つ、二つ、そして雪崩のように増え、やがて空を覆い尽くす。

「違う、雲じゃない! 全部……カラスだ!」
 アリアの声が馬車の中で跳ね返る。
 黒光りする嘴、血のように赤い双眸――《黒嘴カラス》だ。しかも群れの密度が異常に高い。羽ばたきの重低音が地面を震わせる。

「まずい! 御者さん、馬車を止めろ!」
 俺は荷台から飛び降りる。砂埃が靴を包み、耳の奥で鼓動が早まるのが分かる。リーナもほとんど同時に降り立ち、杖を構えた。

「カイ、アリア! 中で伏せてろ!」
「は、はい!」
 アリアがカイの肩を押し、二人は馬車の奥へ潜り込む。

 空気が急激に冷たくなる。群れは矢のような隊列で降下し、嘴を突き出して一直線に襲いかかってきた。
 羽ばたきの風圧が頬を打ち、腐敗した肉のような獣臭が鼻を刺す。

「リーナ、右を頼む!」
「了解!」

 俺は剣を抜き、柄に魔力を流し込む。刀身の周囲に細かい気流が集まり、ヒュゥゥと鋭い音を立てる。
「――《ウィンドカッター》!」

 放たれた風刃が先頭のカラスを5羽まとめて両断。黒い羽根が舞い、切断された肉が土に落ち、湿った音を立てた。

 リーナも間髪入れず詠唱。
「《ウィンドカッター》!」
 右側から迫った群れが三日月形の風刃に飲まれ、悲鳴を上げる間もなく地面に叩きつけられる。

「まだ来るぞ!」
「上だ!」
 影が覆い被さり、太陽が遮られる。見上げれば、群れの半分が旋回し、高速で急降下を始めていた。

「――《ウィンドカッター》!」
「――《ウィンドカッター》!」

 俺とリーナの詠唱が重なり、風刃が交差。斬撃の軌跡が空に白く残り、切り裂かれた羽根が雪のように降る。
 だが、数はまだ減らない。

「数が多すぎる……!」
 リーナの頬に血の飛沫がかかる。

「なら、まとめて切り刻む!」
 俺は両足を踏ん張り、両手を突き出す。
「――《ウィンドカッター》! 《ウィンドカッター》! 《ウィンドカッター》!」

 連射された風刃が連鎖的に群れを引き裂き、乾いた悲鳴と羽音が混じって轟く。羽毛が渦を巻き、土と血の匂いが鼻を突いた。

 やがて、半数近くが地面に沈み、残った数羽が高く舞い上がって森の方角へ消えた。

「……逃げたか?」
「いや、様子を見てるだけだ。だが……五十以上は落としたな」
 俺は剣を下ろし、肩で息をしながら、地面に散らばる黒い死骸を見回す。

 御者が恐る恐る顔を出す。
「た、助かった……馬が怯えて動けなくなるところでしたよ」

「少し休ませてから出発しよう。その間に……」
 俺は百点カードのスキル、『買い取り』で死骸を回収し始める。羽根を払うと、刃の跡がまだ温かく、血が滴った。
 魔獣は多少の金になる。捨てるには惜しいのだ。それにこのままでは、馬が怖がって歩き始めない。

 回収を終え、俺は馬車の横に腰を下ろし、空を睨む。
 リーナも隣に立ち、同じ方向を見たまま呟く。
「……《霧深き森》、本当に何かが起きてるかもしれないな」

「だいじょうぶですかねえ?」

「Sランク冒険者がついてるんだぜ」
 俺のどや顔に、リーナが小さく微笑む。

「そうですね。……心配しただけ、損しました。卓郎さんと一緒でよかった」
 俺の右手に捕まるリーナに、俺の頬が少し赤くなる。押し付けられてますけど。

 カイとアリアが馬車の中から顔を出し、慌ててリーナが俺から離れた。背を向け髪を直すリーナ。

「さて、そろそろ乗り込むか」

 二人はテレを隠すように馬車に乗り込んだ。
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