ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 馬車は再びぎしぎしと音を立てながら動き出した。
 御者はまだ緊張気味で、時おり空を見上げている。

「……僕、今日からカラス嫌いになりそう」
 カイが大げさに肩を落とす。

「今日から?」
 リーナがからかうようにカイを見つめる。
 ……正直におっしゃい。

「……いや、前から好きじゃなかったけど、今日で決定的になったよ」
 カイが俺の方をちらっと見る。
「だけど、卓郎さんもリーナさんも、すごいね。あの中で外に出る勇気、僕にはなかったなー」

「勇気っていうか、男には、やらなきゃならない時もあるのさ」
「わたし、女ですけど?」

「まあ、リーナの場合は、ただの命知らずってやつだけどな。無謀過ぎる」

「あー! ひどーい! 無謀って言った!」
 リーナが頬を膨らませ、俺をポコポ叩いて抗議をする。
「わたしは、わたしは、一生懸命卓郎さんに付いていったんですー!」

「あはははは! リーナがいて助かったよ!」

「そうでしょう? わたし、頑張ったんですからー!」

「わるい、わるい! リーナならカラスに負けるはずないのは知ってたよ。今のは冗談、冗談だよ!」

「もー! 卓郎さんのいじわるー!」

 そんな二人をよそに、アリアは膝の上で小さな布包みを広げ、《黒嘴カラス》の羽根を一本手に取っていた。
「この羽根……魔力がまだ残ってる。普通は死ねばすぐ消えるのに」

「じゃあ、やっぱり森で何かあったってことか」
 俺が聞くと、アリアは小さく頷く。

「そういえば……あの森の方角、空気が重そうだね」
 リーナが窓の外をじっと見たまま言った。

「重い?」
「霧じゃない……もっとこう、押しつけられるみたいな気配。普通の森じゃない感じ?」

 カイが、笑おうとして笑えずに肩をすくめる。
「なんか怖い話やめようよ。夜寝られなくなる」

「昼間から寝そうなやつが何言ってる」
「僕は、移動中は寝る派なんだもん!」

 御者がちらっと振り返った。
「みなさん……森に入るのは、あまりお勧めしませんよ」
「聞きたいけど、どうせ不安になる話でしょう?」
 カイが言うと、御者は苦笑いした。

「最近、村の周りでも獣の姿が見えなくなって……代わりに、森の方から鳥や魔獣が出てくるんです」

「獣がいなくなる……ああ、食物連鎖が崩れてる」
 アリアが小声で呟いた。

 俺はふと空を見上げた。
 雲ひとつないはずの青空――だが、東の端に、ごく薄い灰色の筋が揺れているのが見える。

「……あれが、森の霧か?」
「かも。でも、普通の霧じゃなさそうだね」
 リーナの声が妙に低かった。

 カイが頬をひきつらせ、わざと明るく言う。
「な、な、なーんだ、でも、大丈夫だよ。ほら、無謀な二人がついてるし!」

「あのね、無謀って褒め言葉じゃないからな」

「違うの?」
「違う」

 そんな軽口を交わしながらも、馬車の中には言葉にならない緊張が少しずつ満ちていった。

 陽は少し傾き、金色だった麦畑の色がオレンジに染まりはじめていた。
 馬車は丘を越え、ゆるやかな下り道へと差しかかる。

「あとどれくらいで村に着くんです?」
 俺が御者に尋ねると、返ってきたのは間の抜けたほど静かな声だった。
「……一刻ほどです。ですが……」
 御者は言いかけて、口をつぐんだ。

「ですが?」
 カイが眉をひそめる。
「いや……気のせいかもしれません」

 馬の歩みが、いつの間にかゆっくりになっていた。
 御者が鞭を入れようとしても、馬は耳を後ろに伏せ、嫌がるように足を止める。

「おかしいな……道の真ん中に、何か……」
 御者の声に、俺たちは荷台の端から顔を出した。

 夕焼け色の道の先――そこに、何十羽もの《黒嘴カラス》が群れを成していた。
 まるで誰かを待つかのように、道の真ん中で整列している。

「……ねえ、あれ、普通じゃないよね?」
 アリアの声がわずかに震える。

「普通じゃないどころか……気味悪すぎ」
 リーナが呟く。
「羽根の色、さっきのより黒い……光を吸い込んでるみたい」

 アリアが短く息をのむ。
「……全部、魔力を帯びてる。しかも、同じ方向を見てる」

「同じ方向?」
「――私たちの方」

 群れの一番前のカラスが、ゆっくりと翼を広げた。
 空気が冷たくなる。

「卓郎さん」
 リーナが俺の横に立つ。

 俺は、剣に手をかけて、しかしまだ抜かない。
「どうする? さっきの奴と同じなら蹴散らすのは訳ないけど……戦う前に、あいつらが何をするつもりか見てみるか?」

 俺が答えた途端、カラスたちは一斉に首をかしげた。
 その動きは奇妙に揃っていて――まるで人間の合図のようだった。こいつら、そこそこ知能がありそうだな。しかも、なんだか統率が取れてる。例外的に、つまらなそうにさぼっているのもいるけど。

 そして、次の瞬間。
 群れは翼を広げることなく、地面を跳ねるようにしてこちらへ迫ってきた。
 羽音ではなく、足音だけが、ぞぞぞっと近づいてくる。なんだかキモイ。

「やっぱり普通じゃないっ!」
 カイが悲鳴をあげる。まあ、子供には怖いわなあ。

「おい御者! 馬を回せ!」
「は、はいっ!」

 御者が慌てて手綱を引くが、馬は動かない。
 前方から迫る黒い群れと、冷たい夕暮れの空気――馬車はまるで罠にはまったかのように、そこで立ち止まってしまった。馬も怖がっているらしい。やっぱり、こいつらを蹴散らすか?

 カラスたちは、俺たちとの距離を五メートルほど残したところで、ぴたりと止まった。
 ほーう、良い勘してる。それ以上近づいたら、俺の剣が振られるとこだったぜ。命拾いしたな、カラスくんたち。

 赤い瞳が、夕陽に反射して妖しく光る。
 その光景は、まるで門兵が侵入者を見定めるようだった。

「……動かない」
 カイがごくりと唾を飲む。

「いや、動けないのよ」
 アリアが小さく首を振る。
「何かに縛られてる……まるで命令を待ってるみたい」

 ……俺の殺気を感じて、間合いに入れないでいるんじゃないのか?

「命令?」
 リーナが眉をひそめた瞬間、群れの奥の一羽が低く鳴いた。
 その声を合図に、カラスたちは道の両脇へと一斉に散っていく。

「……行かせてくれるつもり、か」
 俺は剣から手を離す。
「御者、今のうちに行け」

「は、はいっ!」
 御者が鞭を鳴らすと、馬はおそるおそる足を踏み出した。
 カラスたちは道の両脇でじっとこちらを見つめたまま――まるで見送るかのように、微動だにしなかった。

「なんだよ、これ……」
 カイが座席に沈み込み、肩をすくめる。
「ぼく、なんか変な儀式に参加させられた気分」

「儀式というより……通行許可?」
 アリアの声が低く響く。
「森に関わる何かが、私たちを通している?」

 まあ、そうかもしれないし、そうでないかもしれなけどね。

 リーナが荷台から外を見やり、目を細める。
「でも、なんで私たちを? 普通、森の魔物なら村に入らせたくないはずじゃ……」

「それが分かれば苦労しないさ」
 俺はため息をつく。
「とりあえず、村に着いたら宿を取って……情報集めだ」

 馬車は再びぎしぎしと進み、丘の向こうに小さな灯りが見え始めた。
 それが《ブリュンの村》だった。

 だが――近づくにつれ、異様さが増していく。
 家々から漏れる灯りは少なく、夕食時だというのに人の気配がない。
 道端の井戸には蓋がされ、干してあるはずの洗濯物も見当たらない。

「……なんか、静かすぎない?」
 カイが声をひそめる。

「村っていうより、廃墟みたい」
 リーナの表情が険しくなる。

「おかしいな……二日前にここを通った時は、もっと人がいたはずなのに」
 御者が小さく呟いた。

 やがて馬車は村の広場に到着する。
 中央の大きな樹の下――そこに、老人がひとり、背中を丸めて座っていた。
 だが、その視線は俺たちを見ていない。

 まるで――何か、遠くを見つめているようだった。
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