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が、
「ちなみにこれは魔石の上に金鍍金を施した魔道具だ」
と、あっさり決意を崩壊させる情報がもたらされた。
背後の男に肘鉄をかましたかったが、力が入らない体制であるため実行には移せなかった。心中でぼこぼこに殴りつける事で溜飲を下げる他ない。
「どういった効果があると思う?」
ミツマがどういう勘違いをし生唾を飲んだのか、解っているのだろう。始終楽しそうな声音に殺意が沸くが、状況的に生殺与奪の権を握っているのはリーグクラットの方である。敵意を向けていると認識されないよう、平常心という言葉を呪文のように心中で唱えつつ、考える。
冷静になれば、王侯貴族が魔石を一見それとは解らないようにして身に着ける事はよくある話だ。魔道具が持ち込めないような場でも、指輪程度の装飾品の場合は目溢しされる事もある。
魔石は単純に大きければ大きいほど力が強い。いちおう品質も関係するが、単純な石の状態ではなく、加工品になっているものは大きさがそのまま強さと考えて差し支えない。つまり、目の前の指輪には、指輪程度の魔法しか無いはずだ。
であれば、それほど用途は多くない。
害意や敵意、緊張を強いる状況から装着者本人を保護する精神力向上。あるいは致死毒を口にしてしまった際に、かろうじて一命は取り留める程度の解毒。あるいは武闘派である事を考慮し、日常的に身体に負荷をかけるタイプの呪術的使用。
(図案や作りに古さがある…相続されている品だとしたら一時利用で消滅する効果とは考え難い。若殿様に特化した効果でも、無いだろうな…そもそも、俺が此処に引きずり出された件と指輪が関係有るとは言われていないが…関係有るのか? それとも単に攪乱されてる?)
質問された事をわざわざ考える義理は無いのだが、状況の主導権を握っているのがリーグクラットの方であるため、ある程度迎合しようと真面目に考えてみる。先程の様にからかわれているだけかもしれないので、なるべく冷静に、範囲を狭めないように常識的な部分から埋めていくよう努める。
(確かこの指輪は若殿様が最近着け始めたやつだ)
ミツマがリーグクラットを観察しておよそ一年。この指輪を見るようになったのは八日ほど前からだ。
(…王妃と見えた後からだな、やはり相続品か)
王妃とは、リーグクラットの実母であり、現国王の正妃にして従姉妹である。当然のように彼女の持ち物もその全てが梅をモチーフとしている。ただ、彼女の細い指のどれに嵌めても抜け落ちてしまいそうな大きさの指輪だ、国王からの品を動きやすい王妃が届けに来た、とも考えられる。
(相続してまで使う効果。汎用性が有り、大きさから考えて男系が相続する、ある程度の年齢になって渡され、この若殿様が律儀に身に着ける、その効果)
観察を始める前評判でも、第二王子のがさつさは聞いていたが、観察してよく解った事がある。リーグクラットという男は全く噂通りの人物だった。それは、よく言えば裏表が無いという事だ。ちなみに王侯貴族でありながら裏表が無いなど、悪口以外の何ものでもない。
王としての資質の全ては第一王子に遺伝され、残った部分が第二王子に遺伝したと言われる彼は、幼い頃から剣を好み、成長した今では一軍の長に与えられる将軍位を持っている。もっとも、実際の軍は持っていないが。
これは、そんな彼が毎日きちんと身に着けている指輪という事だ。
「…強壮?」
彼の通常の一日は、朝から剣術の稽古をし、昼前から夕前までには軍部で訓練に参加、その後大概は酒場に赴き、娼館に寄って帰ってくる、というものだ。今日は軍部に行かず謁見を行っていたが。
「はは、強壮か。悪くないが、俺にはそんな効果は必要無いな」
笑って返された言葉に、ミツマも心中で頷く。
確かに、リーグクラットに強壮など不要だろう。娼館の立ち並ぶ辺りでは、既に絶倫王子の二つ名で通っているのだから。毎日朝から阿呆みたいに体を動かしているのに夜中まで一切疲れた顔を見る事がない。
「少し、とっかかりをやろう。直接の効果ではないが、お前を俺の元に引き寄せたのはこの指輪だ」
意地の悪い囁きに頭を殴られたような衝撃を覚える。
指輪程度の魔石が人間を転移させるとは、少々信じ難いからだ。通常の転移装置は、大人用の棺桶ほどの大きさの魔石を必要とする。もっともそれは、指向性のある転移を可能にするための装置を作るなら、という事だ。
(直接の効果ではないとわざわざ言ったからには、俺が此処に引きずり出されたのは副作用だ)
副作用とは、小さな魔石に込められた本来の効果を発動させる段階で副次的に起こる効果だ。
人間転移のような本来強大な魔石を必要とする魔法を副作用で引き起こす魔法として、よく知られているのは、毒物排除だろう。害意あり毒物を所有した人間が装着者に近付くと、強制的に装着者を害せない範囲まで遠ざけられるのだ。
(これは引き寄せた…排除系ではない。というか、俺は情報収集が目的に過ぎないから、別に若殿様に害意は無い)
隠密と一口に言っても、その仕事の内容は多岐に渡る。オールマイティに熟す隠密の申し子のような人材もいるにはいるが、そんな人物はいわゆる百年に一度のなんちゃらである。ミツマなどは、情報収集のみをその仕事としている。
今の収集対象は、勿論、リーグクラットだ。彼の為人や行動を観察して本国に送るのが仕事である。暗殺は仕事の範疇外であるし、その能力も持ち合わせていない。
(殺意を覚えたとしたらむしろ今だし…解んねぇな全然)
残念ながら、他人を引き寄せる副作用がある魔法はミツマの知識には無かった。
「全く解りませんんっ?!」
素直に全面降伏を告げると、言い終わらぬ内に寝台へ引き倒された。体制が変わる隙に逃げ出す事など全くできず、あっと言う間に両手を拘束され、腹の上に跨られた。真正面からリーグクラットの顔を見返す事となり、自分の顔も見られている事実に悔恨が沸く。本国に逃げ帰る予定だったが、これで再度任務に就く目も失くなった。
「良いな。好みの顔だ」
にやりとした笑みと共に告げられた言葉に、心臓が早鐘を打つのに顔からは血の気が退くという異常な反応が引き起こされる。
「ちなみにこれは魔石の上に金鍍金を施した魔道具だ」
と、あっさり決意を崩壊させる情報がもたらされた。
背後の男に肘鉄をかましたかったが、力が入らない体制であるため実行には移せなかった。心中でぼこぼこに殴りつける事で溜飲を下げる他ない。
「どういった効果があると思う?」
ミツマがどういう勘違いをし生唾を飲んだのか、解っているのだろう。始終楽しそうな声音に殺意が沸くが、状況的に生殺与奪の権を握っているのはリーグクラットの方である。敵意を向けていると認識されないよう、平常心という言葉を呪文のように心中で唱えつつ、考える。
冷静になれば、王侯貴族が魔石を一見それとは解らないようにして身に着ける事はよくある話だ。魔道具が持ち込めないような場でも、指輪程度の装飾品の場合は目溢しされる事もある。
魔石は単純に大きければ大きいほど力が強い。いちおう品質も関係するが、単純な石の状態ではなく、加工品になっているものは大きさがそのまま強さと考えて差し支えない。つまり、目の前の指輪には、指輪程度の魔法しか無いはずだ。
であれば、それほど用途は多くない。
害意や敵意、緊張を強いる状況から装着者本人を保護する精神力向上。あるいは致死毒を口にしてしまった際に、かろうじて一命は取り留める程度の解毒。あるいは武闘派である事を考慮し、日常的に身体に負荷をかけるタイプの呪術的使用。
(図案や作りに古さがある…相続されている品だとしたら一時利用で消滅する効果とは考え難い。若殿様に特化した効果でも、無いだろうな…そもそも、俺が此処に引きずり出された件と指輪が関係有るとは言われていないが…関係有るのか? それとも単に攪乱されてる?)
質問された事をわざわざ考える義理は無いのだが、状況の主導権を握っているのがリーグクラットの方であるため、ある程度迎合しようと真面目に考えてみる。先程の様にからかわれているだけかもしれないので、なるべく冷静に、範囲を狭めないように常識的な部分から埋めていくよう努める。
(確かこの指輪は若殿様が最近着け始めたやつだ)
ミツマがリーグクラットを観察しておよそ一年。この指輪を見るようになったのは八日ほど前からだ。
(…王妃と見えた後からだな、やはり相続品か)
王妃とは、リーグクラットの実母であり、現国王の正妃にして従姉妹である。当然のように彼女の持ち物もその全てが梅をモチーフとしている。ただ、彼女の細い指のどれに嵌めても抜け落ちてしまいそうな大きさの指輪だ、国王からの品を動きやすい王妃が届けに来た、とも考えられる。
(相続してまで使う効果。汎用性が有り、大きさから考えて男系が相続する、ある程度の年齢になって渡され、この若殿様が律儀に身に着ける、その効果)
観察を始める前評判でも、第二王子のがさつさは聞いていたが、観察してよく解った事がある。リーグクラットという男は全く噂通りの人物だった。それは、よく言えば裏表が無いという事だ。ちなみに王侯貴族でありながら裏表が無いなど、悪口以外の何ものでもない。
王としての資質の全ては第一王子に遺伝され、残った部分が第二王子に遺伝したと言われる彼は、幼い頃から剣を好み、成長した今では一軍の長に与えられる将軍位を持っている。もっとも、実際の軍は持っていないが。
これは、そんな彼が毎日きちんと身に着けている指輪という事だ。
「…強壮?」
彼の通常の一日は、朝から剣術の稽古をし、昼前から夕前までには軍部で訓練に参加、その後大概は酒場に赴き、娼館に寄って帰ってくる、というものだ。今日は軍部に行かず謁見を行っていたが。
「はは、強壮か。悪くないが、俺にはそんな効果は必要無いな」
笑って返された言葉に、ミツマも心中で頷く。
確かに、リーグクラットに強壮など不要だろう。娼館の立ち並ぶ辺りでは、既に絶倫王子の二つ名で通っているのだから。毎日朝から阿呆みたいに体を動かしているのに夜中まで一切疲れた顔を見る事がない。
「少し、とっかかりをやろう。直接の効果ではないが、お前を俺の元に引き寄せたのはこの指輪だ」
意地の悪い囁きに頭を殴られたような衝撃を覚える。
指輪程度の魔石が人間を転移させるとは、少々信じ難いからだ。通常の転移装置は、大人用の棺桶ほどの大きさの魔石を必要とする。もっともそれは、指向性のある転移を可能にするための装置を作るなら、という事だ。
(直接の効果ではないとわざわざ言ったからには、俺が此処に引きずり出されたのは副作用だ)
副作用とは、小さな魔石に込められた本来の効果を発動させる段階で副次的に起こる効果だ。
人間転移のような本来強大な魔石を必要とする魔法を副作用で引き起こす魔法として、よく知られているのは、毒物排除だろう。害意あり毒物を所有した人間が装着者に近付くと、強制的に装着者を害せない範囲まで遠ざけられるのだ。
(これは引き寄せた…排除系ではない。というか、俺は情報収集が目的に過ぎないから、別に若殿様に害意は無い)
隠密と一口に言っても、その仕事の内容は多岐に渡る。オールマイティに熟す隠密の申し子のような人材もいるにはいるが、そんな人物はいわゆる百年に一度のなんちゃらである。ミツマなどは、情報収集のみをその仕事としている。
今の収集対象は、勿論、リーグクラットだ。彼の為人や行動を観察して本国に送るのが仕事である。暗殺は仕事の範疇外であるし、その能力も持ち合わせていない。
(殺意を覚えたとしたらむしろ今だし…解んねぇな全然)
残念ながら、他人を引き寄せる副作用がある魔法はミツマの知識には無かった。
「全く解りませんんっ?!」
素直に全面降伏を告げると、言い終わらぬ内に寝台へ引き倒された。体制が変わる隙に逃げ出す事など全くできず、あっと言う間に両手を拘束され、腹の上に跨られた。真正面からリーグクラットの顔を見返す事となり、自分の顔も見られている事実に悔恨が沸く。本国に逃げ帰る予定だったが、これで再度任務に就く目も失くなった。
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