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完結おまけ:もしもあの時(9.話のif話)~ifだけどifじゃない説~
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ミツマがはっと目を覚ますと、朝日に白み始めた窓の外が見えた。背には人の体温を感じる。更には、全身を凄まじい倦怠感が覆い、主に下腹部が疼痛を訴えかけてくる。
(………何だ、これ、まったく動けん)
腹の上に乗った腕も重たかったが、そんな事よりも何よりも怠くてたまらなかった。なんなら一週間ずっと昼夜訓練をした時でさえ、目を覚ましたのにここまで怠いという事はなかった。
(えーまじかよ。娼館の人々は毎朝こんなんなの? もしそうなら何で殿下が来んの嬉しいの? 金? それとももしかして翌日はこんなんなるから休めるとかそういう事? 良いなぁ俺も休みたい。てか、本当にこれでどうやって仕事すれば良いんだろうか…何かもう忍び足で歩く事すら無理そうなんだけど)
動きたくとも動けず、寝台の上でつらつらと考えていると、腹の上にあった手に引き寄せられる。
「っ…!」
項に唇が這った事にも驚いたが、何より腰のあたりに当たる感触に愕然とした。
(え、嘘だろ? なんで………あ、絶倫だからか)
抱き寄せた手がするりと体に沿って下りるのを感じて慌てて静止する。
「ぁめてくたさ…」
自分で声を出して、その掠れ具合に驚く。喉が渇いている感覚はあったが、潰れているとは思っていなかった。
「ちょっと待ってろ」
わずかに掠れていたが、ミツマに比べれば大した事はない声でリーグクラットは言うと、寝台を下りて水を取りに向かった。
何とか上体を起こして水を受け取り、一口飲んだら止まらなくなって、飲み干した。もう一杯要るかと訊かれるが、首を横に振って断る。
少し考えるようにして、リーグクラットはもう一杯水を注いで、寝台脇の棚に置いた。
(どうしよう。いや、まあ、とにかく朝になったんだ、指輪の効果を教えてもらおう)
寝台の縁に座ったリーグクラットに、指輪についての質問をしようとミツマが口を開きかけた時、二人はほぼ同時にその異変に気付いた。扉の向こう、廊下の遠くが騒がしいのだ。しかも、徐々に騒ぎは大きくなっている。騒ぎの中心が誰であるのかは、扉の直ぐ側に来ていた時に知れた、リーグクラットの側近が王妃陛下と叫ぶ声がしたからだ。
その声にミツマは慌てたが、上体を起こしているのが精一杯で、到底立てそうにもなかった。
一方のリーグクラットは縁に座ったまま、扉に視線を向ける。
「入るわよクラット!」
リーグクラットの返事を待たずに、扉が開く。朝からきっちりと装いを整えた王妃、リーグクラットにとっては母親であるシィレーナが立っていた。彼女は素早く室内を見回し、寝台を観察して、すたすたと息子へ歩み寄る。
「貴方、高殿組に手を出したわね」
「出してませんよ」
高殿組とは上級下男の別称である。
シィレーナは、王位継承に興味の無いリーグクラットが外で遊んでいる事には寛容だ。だが、そういう後腐れの無い割り切った遊びなら寛恕するが、悶着を生む未来しか予想できない貴族子弟との関係となれば口うるさく成らざるを得ない。
「よくもまぁぬけぬけと。この服とそこの子が動かぬ証拠よ! 大人しく認めなさい!」
「確かに手は出しましたよ。でもその服は彼のではないし、高殿組でもないですよ」
「あら、そうなの?」
「隠密ですし」
(何でバラしたぁ!?)
「隠密?」
「この一年俺の離宮に住んでたんです」
(何言ってんだこいつもう本当に何なんだよ!?)
「あら、あらあらあら。まさかクラットに同棲している恋人が居たなんて」
(は?)
「嫌だわ、そういう事は早く言ってくれなきゃ。城に住まわせてるって事はそういうつもりなのでしょう? 娘の方が嬉しかったけど、息子が増えたって別に嫌なわけじゃないんだから、ちゃんと言ってよね」
「ああ」
(え? 何? 何の話がされてんの)
「ふふ、嫌だわ、私ったら、若い人の邪魔しちゃってるわよね。もう帰るわね」
(え? 待って? 何か凄く駄目な勘違いをされてる気がするからちょっと一回ちゃんと話し合いましょう?)
早朝から元気かつ自分中心なシィレーナは、ミツマが引き止める間も無くにこにことした笑顔で部屋を去っていった。
屋根裏に潜伏していた隠密が同棲相手なら、普通に同じ城内で寝起きしている使用人達は愛人かなにかだろう、とミツマは考えたが、その考えを誰に披露することもできない。
(何でこんな…)
対象者の家族に伴侶認定までされて、果たして隠密という職業は成り立つものなのか。少なくともリーグクラットの行動報告は以前と同じように上げながら、ミツマは諦念の境地にいた。
新しい息子嬉しいわ、と笑うシィレーナ。
君が新しい弟か、と受け入れる笑みなカシオニア。
少なくともキョートウ国王家の認識において、ミツマはもう隠密ではないようだ。
数日後、ノキバの頭から文が届く。
『おめでとう』
要約するとそう書いてあった。炙り出しだと信じて灰になるまで炙ったが、内容は変わらなかった。
□just kidding
(………何だ、これ、まったく動けん)
腹の上に乗った腕も重たかったが、そんな事よりも何よりも怠くてたまらなかった。なんなら一週間ずっと昼夜訓練をした時でさえ、目を覚ましたのにここまで怠いという事はなかった。
(えーまじかよ。娼館の人々は毎朝こんなんなの? もしそうなら何で殿下が来んの嬉しいの? 金? それとももしかして翌日はこんなんなるから休めるとかそういう事? 良いなぁ俺も休みたい。てか、本当にこれでどうやって仕事すれば良いんだろうか…何かもう忍び足で歩く事すら無理そうなんだけど)
動きたくとも動けず、寝台の上でつらつらと考えていると、腹の上にあった手に引き寄せられる。
「っ…!」
項に唇が這った事にも驚いたが、何より腰のあたりに当たる感触に愕然とした。
(え、嘘だろ? なんで………あ、絶倫だからか)
抱き寄せた手がするりと体に沿って下りるのを感じて慌てて静止する。
「ぁめてくたさ…」
自分で声を出して、その掠れ具合に驚く。喉が渇いている感覚はあったが、潰れているとは思っていなかった。
「ちょっと待ってろ」
わずかに掠れていたが、ミツマに比べれば大した事はない声でリーグクラットは言うと、寝台を下りて水を取りに向かった。
何とか上体を起こして水を受け取り、一口飲んだら止まらなくなって、飲み干した。もう一杯要るかと訊かれるが、首を横に振って断る。
少し考えるようにして、リーグクラットはもう一杯水を注いで、寝台脇の棚に置いた。
(どうしよう。いや、まあ、とにかく朝になったんだ、指輪の効果を教えてもらおう)
寝台の縁に座ったリーグクラットに、指輪についての質問をしようとミツマが口を開きかけた時、二人はほぼ同時にその異変に気付いた。扉の向こう、廊下の遠くが騒がしいのだ。しかも、徐々に騒ぎは大きくなっている。騒ぎの中心が誰であるのかは、扉の直ぐ側に来ていた時に知れた、リーグクラットの側近が王妃陛下と叫ぶ声がしたからだ。
その声にミツマは慌てたが、上体を起こしているのが精一杯で、到底立てそうにもなかった。
一方のリーグクラットは縁に座ったまま、扉に視線を向ける。
「入るわよクラット!」
リーグクラットの返事を待たずに、扉が開く。朝からきっちりと装いを整えた王妃、リーグクラットにとっては母親であるシィレーナが立っていた。彼女は素早く室内を見回し、寝台を観察して、すたすたと息子へ歩み寄る。
「貴方、高殿組に手を出したわね」
「出してませんよ」
高殿組とは上級下男の別称である。
シィレーナは、王位継承に興味の無いリーグクラットが外で遊んでいる事には寛容だ。だが、そういう後腐れの無い割り切った遊びなら寛恕するが、悶着を生む未来しか予想できない貴族子弟との関係となれば口うるさく成らざるを得ない。
「よくもまぁぬけぬけと。この服とそこの子が動かぬ証拠よ! 大人しく認めなさい!」
「確かに手は出しましたよ。でもその服は彼のではないし、高殿組でもないですよ」
「あら、そうなの?」
「隠密ですし」
(何でバラしたぁ!?)
「隠密?」
「この一年俺の離宮に住んでたんです」
(何言ってんだこいつもう本当に何なんだよ!?)
「あら、あらあらあら。まさかクラットに同棲している恋人が居たなんて」
(は?)
「嫌だわ、そういう事は早く言ってくれなきゃ。城に住まわせてるって事はそういうつもりなのでしょう? 娘の方が嬉しかったけど、息子が増えたって別に嫌なわけじゃないんだから、ちゃんと言ってよね」
「ああ」
(え? 何? 何の話がされてんの)
「ふふ、嫌だわ、私ったら、若い人の邪魔しちゃってるわよね。もう帰るわね」
(え? 待って? 何か凄く駄目な勘違いをされてる気がするからちょっと一回ちゃんと話し合いましょう?)
早朝から元気かつ自分中心なシィレーナは、ミツマが引き止める間も無くにこにことした笑顔で部屋を去っていった。
屋根裏に潜伏していた隠密が同棲相手なら、普通に同じ城内で寝起きしている使用人達は愛人かなにかだろう、とミツマは考えたが、その考えを誰に披露することもできない。
(何でこんな…)
対象者の家族に伴侶認定までされて、果たして隠密という職業は成り立つものなのか。少なくともリーグクラットの行動報告は以前と同じように上げながら、ミツマは諦念の境地にいた。
新しい息子嬉しいわ、と笑うシィレーナ。
君が新しい弟か、と受け入れる笑みなカシオニア。
少なくともキョートウ国王家の認識において、ミツマはもう隠密ではないようだ。
数日後、ノキバの頭から文が届く。
『おめでとう』
要約するとそう書いてあった。炙り出しだと信じて灰になるまで炙ったが、内容は変わらなかった。
□just kidding
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