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第4章:改めまして
3.アンセラの決意
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頭が痛い。
アンセラはそう感じて、右のこめかみの辺りを指で押した。
彼女は今、密かにオークラント家の帳簿を見ている。姉が居なくなってから、見事に赤字続きの帳簿だ。リブラ王国では領地を治める権限を持つものであっても簡単に税を引き上げるような真似はできない。つまり、父は月々増える赤字を全て借金で賄っていた。
(とんでもない額だわ)
会頭でないとはいえ、あくまでオークラント家が所有する商会であるキュリオス商会の業績が好調だからだろう、返される事もないのに借金は増え続けているようだ。
(このままだとキュリオス商会を手放す事になる…)
多くの場合浪費で家を傾ける貴族は、金貸しが貸してくれるものが無尽蔵に自分に与えられる好意だと勘違いしている事が多い。
なまじ、金銭が無い、という状態が普通だったアンセラは、金貸しが権威や好意に由来して貸してくれる事などないと理解していた。元々命じれば誰かが動き、頼めば聞いて貰える事が当たり前に近い貴族とは全く認識が異なる。
そのため、彼等の狙いは直ぐに知れた。
(抑制されていた反動かしら…このままでは後二年…いえ、一年ともたないかもしれない)
手は打ち始めたばかりで、まだ成果らしい成果は挙げられていない。
帳簿を元あった位置に戻して、アンセラはもう少し出来る事をしようと一階へ向かった。が、具体的な行動に移る前に、肩を怒らせ足音高く近付いて来る父に呼び止められてしまう。
「どういうつもりだ!」
「何の事ですか?」
悲しいかな、近頃、この怒声にも慣れてきてしまった。もう、怒鳴られたくらいで萎縮する事はない。
「勝手に私が買ったものを買い戻させたそうだな!」
「まぁ…!?」
父の言葉にアンセラは大げさに目を見開いた。その反応を見て、伯爵はやはりか、と勢い付けて言葉を続ける。
「リグセントが」
「やっぱり! 話に聞いていた通りですね! なんて強欲な商人なんでしょう!」
が、すぐにアンセラはその言葉を遮った。普段の彼女は父親の言葉を遮るような真似はしない、その珍しい行動と言葉の内容に、伯爵は思わず言葉を止める。
「何を…」
「こちらに来てください!」
アンセラは父を先導して、物置へ連れてきた。
「リグセントはお父様が先日お買い求めになった磁器を私が売りに来た、と言いませんでしたか?」
「その通りだ」
「それは嘘です! その磁器であれば、このように、しっかりと保管してあります!」
アンセラが開けた箱の中には、確かに先日伯爵が買った異国情緒溢れる磁器の皿がセット全て揃った状態で納められていた。
アンセラはそう感じて、右のこめかみの辺りを指で押した。
彼女は今、密かにオークラント家の帳簿を見ている。姉が居なくなってから、見事に赤字続きの帳簿だ。リブラ王国では領地を治める権限を持つものであっても簡単に税を引き上げるような真似はできない。つまり、父は月々増える赤字を全て借金で賄っていた。
(とんでもない額だわ)
会頭でないとはいえ、あくまでオークラント家が所有する商会であるキュリオス商会の業績が好調だからだろう、返される事もないのに借金は増え続けているようだ。
(このままだとキュリオス商会を手放す事になる…)
多くの場合浪費で家を傾ける貴族は、金貸しが貸してくれるものが無尽蔵に自分に与えられる好意だと勘違いしている事が多い。
なまじ、金銭が無い、という状態が普通だったアンセラは、金貸しが権威や好意に由来して貸してくれる事などないと理解していた。元々命じれば誰かが動き、頼めば聞いて貰える事が当たり前に近い貴族とは全く認識が異なる。
そのため、彼等の狙いは直ぐに知れた。
(抑制されていた反動かしら…このままでは後二年…いえ、一年ともたないかもしれない)
手は打ち始めたばかりで、まだ成果らしい成果は挙げられていない。
帳簿を元あった位置に戻して、アンセラはもう少し出来る事をしようと一階へ向かった。が、具体的な行動に移る前に、肩を怒らせ足音高く近付いて来る父に呼び止められてしまう。
「どういうつもりだ!」
「何の事ですか?」
悲しいかな、近頃、この怒声にも慣れてきてしまった。もう、怒鳴られたくらいで萎縮する事はない。
「勝手に私が買ったものを買い戻させたそうだな!」
「まぁ…!?」
父の言葉にアンセラは大げさに目を見開いた。その反応を見て、伯爵はやはりか、と勢い付けて言葉を続ける。
「リグセントが」
「やっぱり! 話に聞いていた通りですね! なんて強欲な商人なんでしょう!」
が、すぐにアンセラはその言葉を遮った。普段の彼女は父親の言葉を遮るような真似はしない、その珍しい行動と言葉の内容に、伯爵は思わず言葉を止める。
「何を…」
「こちらに来てください!」
アンセラは父を先導して、物置へ連れてきた。
「リグセントはお父様が先日お買い求めになった磁器を私が売りに来た、と言いませんでしたか?」
「その通りだ」
「それは嘘です! その磁器であれば、このように、しっかりと保管してあります!」
アンセラが開けた箱の中には、確かに先日伯爵が買った異国情緒溢れる磁器の皿がセット全て揃った状態で納められていた。
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