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憂いなく、好き勝手に過ごし、姉に会える時を心待ちにしていたアンネリザは、妹が脳天気に笑う顔に涙を浮かべて駆け寄るシレーナを見て、心底申し訳無いと思っていた。父母や他の姉達にも、勿論心配をかけているという思いはあったのだが、一番歳が近く両親よりも一緒に居る時間の多かった姉に対しては一入なのだ。それに、シレーナは今回の一連に対して深い自責の念を持っていると知っている。
「レナ姉様」
アンネリザはシレーナが悪いとは全く思っていないし、両親も自分達に負うべき責任があると考えているのだが、シレーナにとっては、自分がはっきりしなかったせいで妹にその尻拭いをさせてしまい、その上今の状況に追い込んでしまったと思えるのだ。そんな姉の思考がよく解るので、アンネリザとしては直接会って自分は大丈夫だと話をしたかった。
(陛下のおかげでちゃんとお話できるわ)
そもそも、まだ十五歳のアンネリザがレンフロと見合いをすることになった事の発端の話だ。
見合い騒動が始まった時、アケチ伯は二十二歳になるシレーナに見合いをしてみるかと勧めた。王后の座を狙っていた、というよりは、結婚の意志はあるようだが良い相手が見つからないでいるらしい娘に王都へ行く口実を作ってあげよう、くらいの腹積もりだった。
(王都でしばらく過ごせば、シレーナの器量であればきっといい相手に巡り合うだろう)
他の娘達がそうだった様に、きっとシレーナは出会いの場さえあれば良い相手を見つけるだろう、そういう楽観的な父親の思惑を感じつつ、シレーナは見合いをする事を了承した。
だが、アンネリザはすぐに気が付いた。見合いを了承してからというもの、シレーナが日に日に暗く沈んでいくのだ。心配になり、必死に言葉を尽くして問い詰めると、シレーナには思いを寄せる相手が居ることが解った。
もっとも、それはどこの誰なのか、名前も解らない騎士の男性で、シレーナの一方的な一目惚れなのだった。一年近くその人を探しているが、結局その一度きりで会うことができず、諦めよう他の相手を探そう、と見合いを了承したが、結局思いは募るばかりでどんどん気持ちが沈んでいるのだった。
「どうして相談してくれなかったのですか!」
叫んだアンネリザの行動は早かった。父母に見合いは自分が代わりに行くことを告げ、持てる人脈を全て使って一週間でその騎士を見つけ出したのだった。というか、シレーナが誰にも相談できずに一人で探そうとしていたから見つけられなかっただけで、逃亡犯でもなんでもなく、騎士なのだ、人手を使って探せないはずもない。
そうしてアンネリザによって出会った二人は、互いに一目惚れし合っていた事が判明し、あっというまに結婚が決まったのだった。
「ほら、ね。私は全然大丈夫ですよ。むしろ最近は色々面白いというか、愉快に日々を過ごしております」
めいっぱい気持ちが伝わるようにと抱き締め合ってから、身を離して姉の前で一回転して見せる。ぐっと手を広げ、腕を伸ばし、のびのびと過ごしている事を伝える。
シレーナは、アンネリザの心底楽しそうな様子と、疲れの滲むコレトーの顔を見て、ようやく安堵の笑みを浮かべるのだった。
「そう、そうなのね。良かったわ、本当に」
「はい。もう全然御心配には及びませんよ。私は楽しくてしかたがない位です」
客間で嬉しそうに語らいを始めた互いの主人を微笑ましく見つめる侍従達は、同じような笑顔を浮かべて見守っていた。
しばらく過ごしていると、アンネリザが思い出したようにヴァリシャに向かって口を開く。
「そういえば、風丸達は、どこに?」
「棟裏の山羊達の所にお邪魔しています。花丸も連れてきましたよ」
「そう、じゃあ、そろそろ時間だし裏に行こうかしら。レナ姉様は、こちらにいらっしゃいますか? お疲れでしょう?」
「そうしたいけど…陛下にご挨拶しないと」
「では、陛下にご挨拶なさってから、こちらでお休みになっていれば良いかと。下までいらっしゃる手はずですから」
「え?」
「私の方で馬場に出て行くのは色々手続きが面倒らしいので、陛下が此処へ偶々いらっしゃって、偶々見かけた立派な馬と騎手を見て、馬場でもう少し見たい、とおっしゃる手筈になっております」
シレーナは、妹の見慣れたはずのドヤ顔に、初めて気が遠くなる思いがした。我知らず傾いた体を、そっとヴァリシャが支えてくれなければ、倒れていたかもしれない。
「アン………」
呼びかけたが、二の句は継げなかった。
本当にずっと気を揉んでいたのだ、思わず新婚の家を火事で失いかけるほど心配していた。夫に、挨拶回りは気にしなくていいから一度実家に戻るか、と声をかけられたほどだ。それでも、当のアンネリザが送り出してくれたのだから、信頼して自分の生活を続けようと決意を新たにし、なんとか過ごしていた。その内に無事アンネリザが帰ってきたと聞き、ヴァリシャに頼んでアケチ家へ様子伺いに行ってもらった。その頃には、もう普通に生活できるようになり、夫との時間を楽しめるようになっていた。
ところが、きっとアンネリザの『私、大役を見事果たしてまいりました。どうぞ褒めてくださいな』という内容の手紙でも持ち帰るだろう、そう思っていたヴァリシャが、何故かアケチ家の不測の事態を告げる父の文を携えて帰って来たのだ。
ヴァリシャに訊いても、父の文を読んでも、解るのは、よく解らないがアンネリザが王城召喚された、という事だけだった。
とにもかくにも細かな事情を知りたい、と夫の後押しも受けてアリエーナの元を訪れ、なんとかアンネリザとやりとりができるようになったと喜んでいたら。何故か自宅に招くような気軽な調子で、妹から城内へ招かれたのだ。
(ああもう、本当に…)
アンネリザは王城にいてもアンネリザだった。
そう痛感すると共に、安堵とも諦念ともつかないもしかしたら羨望にも似た感情が渦巻く中、それでも笑顔の妹を見れば、ただただ喜ばしいという思いが優っていくのだから不思議なものだ。
今回、シレーナの来訪には、妹のアンネリザに会うため、という事の他にもう一つ目的があった。レンフロに、ヴァリシャの馬と馬術を披露することだ。陛下にヴァリシャとその馬達の話をしたら是非見てみたいと仰っていた、と文に書かれており、手続きは任せて、との話を進めた妹の要請に従って馬を伴って会いに来たのだ。
侍従が馬術を披露するのが目的なら、主人は一緒にいるものだが。建前上、目的が後付けのものであるのなら、その場にシレーナが居なくても不敬にはならない。
(正直、アンネリザがこの調子で陛下と話をしているとこなど見てしまったら、自分で自分が卒倒する姿が想像できてしまう)
今日先程までの積み重なった心労もある。きっともうこれ以上は自分が持たない、とシレーナは考える。
「では、私はこちらに居ることにします。ヴァリシャ、お願いね」
「畏まりました」
しかたがない、という笑みで告げたシレーナに傍らの侍従は微笑みながら頷く。
こうしてシレーナは、マツとナナリと共に水仙の棟に残ることになった。
今後の手筈は以下の通りである。
棟の裏で馬を見ている所にレンフロがやってきて、挨拶をする。立派な馬を気に入ったレンフロが、馬場で駆ける様を見てみたいと言う。馬の主であるヴァリシャと主筋に当たるアンネリザを伴って馬場へ向かう。馬術を披露し解散する。
この一連について、アンネリザには特に裏の意味など無い。純粋にヴァリシャと馬達の自慢をした結果、レンフロが興味を示し、折りよくシレーナが王都に来ていることを知ったので、じゃあ是非引き合わせましょうそうしましょう、となったのだ。
「ふふふ、久しぶりの乗馬だわ」
まぁ強いて言うなら、最近山羊にも馬にも乗っていなかったので、ここらで楽しく体を動かしたい、という欲望がなくもなかったが。
昨日の夜から乗馬をするしない攻防を繰り広げていたコレトーは、もはや諦め顔で、ただアンネリザの後をついていくだけだ。陛下とのやり取りもだいたい聞いているコレトーは、もうアンネリザの実情がバレても良いや、と思い始めているというか、バレたらまずいの基準がおかしくなりつつあった。
「久しぶりね、風丸、月丸、花丸!」
アンネリザが笑顔で柵に駆け寄ると、元々近くに居た馬達は呼ばれた名を理解しているため、ゆっくりと近付いてきた。
小型の山羊用の柵では全く意味をなしていないのがわかる堂々たる体高は、この中で最も長身のヴァリシャすら超えている。三頭とも美しい星芦毛だ。ちなみに、サッカイ州と隣のミツラン州の一部では、~丸という名付けは牝馬、~号という名付けは牡馬という習慣がある。
「久しぶりね風丸」
全体に濃い灰色で更に濃い鬣と逆に薄い尾を持つ風丸は、笑顔のアンネリザが首を撫でるのを好きにさせつつも、心持ちその黒い目には、はぁやれやれ相変わらずうるさい小娘だわね、という気配があった。
「ちょっと、花丸、もうっ解ったわ、ちゃんと撫でるから」
風丸を撫でていると、横で前足を使って地面をかいていた花丸が、ついにアンネリザの腕を鼻先で突く。全体に白みの強い灰色の毛と斑な鬣と尾を持つ花丸はこの三頭の中では最も若いし、人に構われるのが大好きである。
一方、花丸からもっと撫でろと要求を受けるため、アンネリザが構えずにいるが、一向に気した様子が無いのが月丸である。全体が濃い灰色なのは風丸に似ているが、鬣と尾はほぼ黒だ。
そんな馬達との久しぶりの触れ合いを堪能していると、三頭が揃って同じ方を向いた。しばらくして、人の耳にもそのざわめきが届き始める。
「え? なにあの集団…」
思わずアンネリザが呟いた。
正面から水仙の棟の裏に出るには、水仙の棟と黒椿の棟を繋ぐ渡り廊下の下から来るのが最も速い、集団は例に漏れずそこから現れたのだが。予想以上に人が多い。あまりにも多い。
先頭を歩くレンフロと、そのお付の方々まではアンネリザの想定の範囲であるが、その後にぞろぞろと美しいドレスが続いていたのだ。
「レナ姉様」
アンネリザはシレーナが悪いとは全く思っていないし、両親も自分達に負うべき責任があると考えているのだが、シレーナにとっては、自分がはっきりしなかったせいで妹にその尻拭いをさせてしまい、その上今の状況に追い込んでしまったと思えるのだ。そんな姉の思考がよく解るので、アンネリザとしては直接会って自分は大丈夫だと話をしたかった。
(陛下のおかげでちゃんとお話できるわ)
そもそも、まだ十五歳のアンネリザがレンフロと見合いをすることになった事の発端の話だ。
見合い騒動が始まった時、アケチ伯は二十二歳になるシレーナに見合いをしてみるかと勧めた。王后の座を狙っていた、というよりは、結婚の意志はあるようだが良い相手が見つからないでいるらしい娘に王都へ行く口実を作ってあげよう、くらいの腹積もりだった。
(王都でしばらく過ごせば、シレーナの器量であればきっといい相手に巡り合うだろう)
他の娘達がそうだった様に、きっとシレーナは出会いの場さえあれば良い相手を見つけるだろう、そういう楽観的な父親の思惑を感じつつ、シレーナは見合いをする事を了承した。
だが、アンネリザはすぐに気が付いた。見合いを了承してからというもの、シレーナが日に日に暗く沈んでいくのだ。心配になり、必死に言葉を尽くして問い詰めると、シレーナには思いを寄せる相手が居ることが解った。
もっとも、それはどこの誰なのか、名前も解らない騎士の男性で、シレーナの一方的な一目惚れなのだった。一年近くその人を探しているが、結局その一度きりで会うことができず、諦めよう他の相手を探そう、と見合いを了承したが、結局思いは募るばかりでどんどん気持ちが沈んでいるのだった。
「どうして相談してくれなかったのですか!」
叫んだアンネリザの行動は早かった。父母に見合いは自分が代わりに行くことを告げ、持てる人脈を全て使って一週間でその騎士を見つけ出したのだった。というか、シレーナが誰にも相談できずに一人で探そうとしていたから見つけられなかっただけで、逃亡犯でもなんでもなく、騎士なのだ、人手を使って探せないはずもない。
そうしてアンネリザによって出会った二人は、互いに一目惚れし合っていた事が判明し、あっというまに結婚が決まったのだった。
「ほら、ね。私は全然大丈夫ですよ。むしろ最近は色々面白いというか、愉快に日々を過ごしております」
めいっぱい気持ちが伝わるようにと抱き締め合ってから、身を離して姉の前で一回転して見せる。ぐっと手を広げ、腕を伸ばし、のびのびと過ごしている事を伝える。
シレーナは、アンネリザの心底楽しそうな様子と、疲れの滲むコレトーの顔を見て、ようやく安堵の笑みを浮かべるのだった。
「そう、そうなのね。良かったわ、本当に」
「はい。もう全然御心配には及びませんよ。私は楽しくてしかたがない位です」
客間で嬉しそうに語らいを始めた互いの主人を微笑ましく見つめる侍従達は、同じような笑顔を浮かべて見守っていた。
しばらく過ごしていると、アンネリザが思い出したようにヴァリシャに向かって口を開く。
「そういえば、風丸達は、どこに?」
「棟裏の山羊達の所にお邪魔しています。花丸も連れてきましたよ」
「そう、じゃあ、そろそろ時間だし裏に行こうかしら。レナ姉様は、こちらにいらっしゃいますか? お疲れでしょう?」
「そうしたいけど…陛下にご挨拶しないと」
「では、陛下にご挨拶なさってから、こちらでお休みになっていれば良いかと。下までいらっしゃる手はずですから」
「え?」
「私の方で馬場に出て行くのは色々手続きが面倒らしいので、陛下が此処へ偶々いらっしゃって、偶々見かけた立派な馬と騎手を見て、馬場でもう少し見たい、とおっしゃる手筈になっております」
シレーナは、妹の見慣れたはずのドヤ顔に、初めて気が遠くなる思いがした。我知らず傾いた体を、そっとヴァリシャが支えてくれなければ、倒れていたかもしれない。
「アン………」
呼びかけたが、二の句は継げなかった。
本当にずっと気を揉んでいたのだ、思わず新婚の家を火事で失いかけるほど心配していた。夫に、挨拶回りは気にしなくていいから一度実家に戻るか、と声をかけられたほどだ。それでも、当のアンネリザが送り出してくれたのだから、信頼して自分の生活を続けようと決意を新たにし、なんとか過ごしていた。その内に無事アンネリザが帰ってきたと聞き、ヴァリシャに頼んでアケチ家へ様子伺いに行ってもらった。その頃には、もう普通に生活できるようになり、夫との時間を楽しめるようになっていた。
ところが、きっとアンネリザの『私、大役を見事果たしてまいりました。どうぞ褒めてくださいな』という内容の手紙でも持ち帰るだろう、そう思っていたヴァリシャが、何故かアケチ家の不測の事態を告げる父の文を携えて帰って来たのだ。
ヴァリシャに訊いても、父の文を読んでも、解るのは、よく解らないがアンネリザが王城召喚された、という事だけだった。
とにもかくにも細かな事情を知りたい、と夫の後押しも受けてアリエーナの元を訪れ、なんとかアンネリザとやりとりができるようになったと喜んでいたら。何故か自宅に招くような気軽な調子で、妹から城内へ招かれたのだ。
(ああもう、本当に…)
アンネリザは王城にいてもアンネリザだった。
そう痛感すると共に、安堵とも諦念ともつかないもしかしたら羨望にも似た感情が渦巻く中、それでも笑顔の妹を見れば、ただただ喜ばしいという思いが優っていくのだから不思議なものだ。
今回、シレーナの来訪には、妹のアンネリザに会うため、という事の他にもう一つ目的があった。レンフロに、ヴァリシャの馬と馬術を披露することだ。陛下にヴァリシャとその馬達の話をしたら是非見てみたいと仰っていた、と文に書かれており、手続きは任せて、との話を進めた妹の要請に従って馬を伴って会いに来たのだ。
侍従が馬術を披露するのが目的なら、主人は一緒にいるものだが。建前上、目的が後付けのものであるのなら、その場にシレーナが居なくても不敬にはならない。
(正直、アンネリザがこの調子で陛下と話をしているとこなど見てしまったら、自分で自分が卒倒する姿が想像できてしまう)
今日先程までの積み重なった心労もある。きっともうこれ以上は自分が持たない、とシレーナは考える。
「では、私はこちらに居ることにします。ヴァリシャ、お願いね」
「畏まりました」
しかたがない、という笑みで告げたシレーナに傍らの侍従は微笑みながら頷く。
こうしてシレーナは、マツとナナリと共に水仙の棟に残ることになった。
今後の手筈は以下の通りである。
棟の裏で馬を見ている所にレンフロがやってきて、挨拶をする。立派な馬を気に入ったレンフロが、馬場で駆ける様を見てみたいと言う。馬の主であるヴァリシャと主筋に当たるアンネリザを伴って馬場へ向かう。馬術を披露し解散する。
この一連について、アンネリザには特に裏の意味など無い。純粋にヴァリシャと馬達の自慢をした結果、レンフロが興味を示し、折りよくシレーナが王都に来ていることを知ったので、じゃあ是非引き合わせましょうそうしましょう、となったのだ。
「ふふふ、久しぶりの乗馬だわ」
まぁ強いて言うなら、最近山羊にも馬にも乗っていなかったので、ここらで楽しく体を動かしたい、という欲望がなくもなかったが。
昨日の夜から乗馬をするしない攻防を繰り広げていたコレトーは、もはや諦め顔で、ただアンネリザの後をついていくだけだ。陛下とのやり取りもだいたい聞いているコレトーは、もうアンネリザの実情がバレても良いや、と思い始めているというか、バレたらまずいの基準がおかしくなりつつあった。
「久しぶりね、風丸、月丸、花丸!」
アンネリザが笑顔で柵に駆け寄ると、元々近くに居た馬達は呼ばれた名を理解しているため、ゆっくりと近付いてきた。
小型の山羊用の柵では全く意味をなしていないのがわかる堂々たる体高は、この中で最も長身のヴァリシャすら超えている。三頭とも美しい星芦毛だ。ちなみに、サッカイ州と隣のミツラン州の一部では、~丸という名付けは牝馬、~号という名付けは牡馬という習慣がある。
「久しぶりね風丸」
全体に濃い灰色で更に濃い鬣と逆に薄い尾を持つ風丸は、笑顔のアンネリザが首を撫でるのを好きにさせつつも、心持ちその黒い目には、はぁやれやれ相変わらずうるさい小娘だわね、という気配があった。
「ちょっと、花丸、もうっ解ったわ、ちゃんと撫でるから」
風丸を撫でていると、横で前足を使って地面をかいていた花丸が、ついにアンネリザの腕を鼻先で突く。全体に白みの強い灰色の毛と斑な鬣と尾を持つ花丸はこの三頭の中では最も若いし、人に構われるのが大好きである。
一方、花丸からもっと撫でろと要求を受けるため、アンネリザが構えずにいるが、一向に気した様子が無いのが月丸である。全体が濃い灰色なのは風丸に似ているが、鬣と尾はほぼ黒だ。
そんな馬達との久しぶりの触れ合いを堪能していると、三頭が揃って同じ方を向いた。しばらくして、人の耳にもそのざわめきが届き始める。
「え? なにあの集団…」
思わずアンネリザが呟いた。
正面から水仙の棟の裏に出るには、水仙の棟と黒椿の棟を繋ぐ渡り廊下の下から来るのが最も速い、集団は例に漏れずそこから現れたのだが。予想以上に人が多い。あまりにも多い。
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