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真剣なコレトーの顔に、何かあったのかと考えたが、更に考えてみれば彼はいつもこんな顔だと思い直す。
「なぁに? もしかしてお父様まだ何か言ってるの?」
アンネリザは自分の先程までの行動を鑑みて、質問した。
「いえ、旦那様ではなく。国王陛下からの王城召喚を告げる使者が参っています」
もっとも、侍従の返答は思いがけない。それどころか、晴天の霹靂もかくやという衝撃だ。真面目な顔に、冗談や嘘ではないのだと解る。いや、そもそもコレトーはアンネリザに嘘は吐かない。様々な疑問が脳内を駆け巡り、その上で一つの結論を導き出す。光り輝くその結論は、アンネリザの最も望む希望。
「結婚式が決まったのね!」
椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がったアンネリザとは違い、コレトーの表情は変わらない。
「いえ、召喚の内容までは。とにかく本人以外は親書を受け取れませんので、急ぎ応接間へお願いいたします」
「勿論よ! やっぱり、陛下は律儀な方ね、私を結婚式に呼んで下さったのよ! ここまできたらガラス板も夢ではないかも知れないわ!」
「式への参加ということは有るかもしれませんが、ガラス板の夢はお捨てになった方が賢明かと」
「あら、そうかしら、夢はいつだって己を高めるものだわ、ちょっと手の届かないくらいを夢見るべきよ」
「いえ、式への参加も十分高望みですし、お嬢様のその夢は法すれすれというか、常識外れですから、流石に…」
生首の観察を高みの夢に設定する人生についても言いたいことは山ほどあるのだが、そちらに対する言葉はそっと飲み込み、現実的な指摘をしておく。コレトーとしては、結婚式の招待という部分も時期的に早過ぎるので違うだろうと考えていた。そもそも律儀な国王のすることなら、まずアケチ家家長である旦那様に親書が届き、その上でアンネリザへも伴っての招待という形をとるはずだろう。
冷静なコレトーの指摘に対し、舞い上がっているアンネリザの心はへこたれない。
「あら、コレトーが思っているよりもずっとお心の広い方よ、陛下は」
むしろ舞い上がり過ぎて口が滑っている。
にこにこと笑み崩れたアンネリザの顔に、コレトーは眉を寄せた。
「………お嬢様、もしかして、舞踏会の際の事でご報告頂けていない事があるのでは?」
露骨に、しまった、という顔を晒してから、引きつった笑顔で誤魔化そうとする。
「別に、特別言わなきゃいけないことなんて無いわ。ただ、陛下はお優しい方だったという話をしているだけじゃない」
このままではまずいという思いがアンネリザの歩調を速める。
その表情にも態度にも、明らかに何か隠していると見取って、コレトーも負けじと歩調が上がる。
「いえ、ですから、そう断言なさる根拠をですね」
「根拠なんてそんなもの、会話をすれば解るものよそんなことは。陛下は実にお優しい方だったわ。なんというか、そう、気遣いができて律儀で、相手を慮る生真面目な方で、素晴らしい君主よ。下への配慮のできる上というのは、お父様が仰っていた通り、見習うべき点の多い人物ね。突出した傑物というのではないのよ。当然にするべきことを出来ている見本というか、実に立派な方だと、私は感じたわ。誠実で、聡明で、公平で、えー…」
アンネリザの語彙力が尽きた。
「具体的にどんな会話をなさったんです?」
「具体的って、別に、どんな会話も何もないわよ…あらいけないもう応接間だわ! 仕様がないわね、黙らなくては」
「………」
コレトーの視線は刺さるが、舞踏会での会話を具体的に話したら、確実に怒られる事が解っている。というか、怒られるだけならまだ良いが、父が卒倒しそうな気がするので、口が裂けても言うわけにはいかない。絶対に具体的には言わないと決心しているのだ。
事実応接間もすぐ側である。ただ、きちんとした扉を付けてある応接間内にそう易々と話し声は届かないものだが。
扉の前に立つ家人に頷き、中へ入室を告げてもらう。返事の後で開かれた扉から静々と歩み入ると、下座にいた父がさっと立ち上がって招いてくれる。上座に居た使者らしい男性も立ち上がって迎えてくれているので、父の傍らに着いたところで精一杯優雅に礼をとる。
使者へ名乗ると、王城召喚の使者であることが告げられ、詳しい内容を記した文を渡された。なお返答を持ち帰る必要があるため、近くの宿に泊まっているらしい。
「可及的速やかにご返答いただきたく」
「もちろんでございます」
背後からのプレッシャーを無視して、使者とのやり取りは定形通りで簡単に済んだ。
が、その後が大変である。
まず文の内容を確認しようとするアンネリザに対して、父、母、姉、更には姪達まで寄って集って舞踏会の場で何があったかを質問してくるため、文を開く事ができない。彼女は一先ずその場を逃走することにした。
自室に鍵をかけて篭るが、これは第一段階にすぎない。スペアキーが有る以上開けられるのは時間の問題だということは、よく解っている。なので、手早く靴とスカートを履き替えると、寝室の窓に足をかけた。窓から庭へと抜け出すのだ。
(文を確認してから内容を伝えればそれで良いわよね。全く皆してわちゃわちゃと、私に慎ましくとか一体どの口が言うのかしら。あ、急がないと)
居室からガチャガチャと音が聞こえているが、大事なところなので、慎重に窓枠から足を下ろす。ここで足を滑らせると地面まですとんと落下してしまう。
(背が伸びると体が重くなるけれど、その分足が着き易くなるから良いわね)
窓枠に上半身を乗せた状態で足を伸ばし、つま先に当たった出っ張りに足をかけた。両足の半分ほどが乗った状態で、そっと窓を閉める。次は、窓枠にかけた腕で体を支えて、もう一段下の出っ張りに足を乗せにかかった。更に、窓枠に手でぶら下がって、出っ張りを伝って少し横へ移動する。最後は勢いをつけて一歩分先、一階の庇に飛び乗った。
(よし)
踵の無い靴に履き替えたし、スカートを庭師のズボンにも着替えている。その動作は実に手馴れたもので、危なげなくある。
彼女の寝室の真下は、いわゆる納戸のような物で、荷物を運び込むために庇が広く作られている。だが、高い位置にあるため、庇から直接飛び降りることはできない。もっとも偶にこのルートを使うため、庇には梯子を常備していたりする。ただ、今回は庇横に積み上げられている木箱を足場にして降りた。
(レッタの花嫁修業で荷物を出し入れしてるのでしょうね。ちょうど良かったわ)
無事地面に着地すると、遠回りにはなるが身を隠しつつ移動するため木の陰を伝って屋敷の裏山への道を行く。
(まぁ、ゆっくり中を確認する時間が稼げれば良いのだし、この辺で)
直線で屋敷に向かえば十分ほどの所で立ち止まった。風はだいぶ涼しくなったが、木漏れ日はまだそれなりの熱を持っている。陽のあたる乾いた芝の上に座り込んで、舞踏会の招待状が入っていたのと同じ質素で丁寧な作りの文箱を開けた。香りに変化はなかったが、中には王紋の藍の封蝋がされた白い巻紙が入っている。
少しだけうきうきと上がっていた肩が下がった。
(まぁ、式の招待状じゃあ、時期が早いわよね。薄々解ってたけど…実際目の当たりにするとちょっとつまらないわね)
式典などの招待状である場合、先の舞踏会のように、カード状の招待状を封筒に入れるのが普通である。
結婚式の招待状ではなかったが、期待すると同時に、違うだろうという思いも持っていたので、落ち込みはしない。だが、そうなると内容の想像が付かないため、さっさと封蝋を解いて巻紙を開いた。折り目がつかないように巻いていたようだが、分量の長い文ではない。
(署名は前と同じ手跡ね。祐筆じゃなくて陛下の直筆だったのかしら、それともこれも祐筆? どっちにしろやっぱり美しいわね、羨ましいことだわ)
アンネリザは気を抜くと文字が右上がりになり、角張ってしまう書き癖がある。どちらかというと男性的な印象を与える事になるため常に気を付けて文字を書いているのだが、もし目の前の字ほど美しければ、気を抜いても男性らしいとも女性らしいとも言われず美しい字として褒められるだろう。
まず、文末の署名を確認し、頭から読み始めた。
(ん?)
内容がうまく飲み込めず、八回ほど読み返していると、呆れ顔のコレトーに発見される。他人を呼びますよという彼を、無言で引き止めて押し付けるように親書を渡した。
「なんですか?」
「いいから、読んで」
無表情で視線を合わせようとせずに親書を押し付けてくるアンネリザに、舞踏会のカード以上の不安を掻き立てられつつ震える手で親書を確認する。主人同様に何度か読み返し、記載内容を暗唱できそうなほどになってしまった。
「あの、お嬢様…」
こんな親書が届く理由は解らない。だが、届く要因に思い当たる節はある。キリキリと胃が痛んだ気がするが、そっと溜息で誤魔化して、アンネリザを見つめた。
「決して怒りませんから、舞踏会の日に何があったのか、本当に包み隠さずお話し願えませんか?」
その言葉にアンネリザもさすがに深々と頷く。
「そうね、コレトー…私も、もっと早く貴方には話しておけば良かったと後悔しているわ」
要約すると親書には、許嫁候補として王城に入って欲しい、という旨が記されていた。
「でもね、言っても多分なんでこうなったのかはコレトーにも解らないと思うわよ」
アンネリザは初めて、なんだか良く解らないけれど笑ってしまうという体験をする。
話を聞いたコレトーも、結局、何故主人が『許嫁候補』などというものに選出されたのか理解できなかった。何度か、約束を反故にして怒鳴ろうかと思うほどの失態しかやらかしていないのだ。
「いったい…王城で何が………」
「解らないわよ。でも、さすがに使者まで立っているのに手違いって事は、ないわよね?」
「むしろ手違いであって欲しいところですが…とにかく、旦那様にお伝えしましょう。準備もありますし。急がねばならないでしょうから」
痛みに耐えられなくなって胃を手で押さえながらも、コレトーはアンネリザに屋敷へ戻るよう促す。
アンネリザも、否やもなく頷いて足取り重く屋敷へ向かった。
ちなみに、その親書の内容を聞いた父母は卒倒し、タータミーナ一家は絶句。幼い姪の二人だけが、嬉しそうにはしゃいだのだった。
「なぁに? もしかしてお父様まだ何か言ってるの?」
アンネリザは自分の先程までの行動を鑑みて、質問した。
「いえ、旦那様ではなく。国王陛下からの王城召喚を告げる使者が参っています」
もっとも、侍従の返答は思いがけない。それどころか、晴天の霹靂もかくやという衝撃だ。真面目な顔に、冗談や嘘ではないのだと解る。いや、そもそもコレトーはアンネリザに嘘は吐かない。様々な疑問が脳内を駆け巡り、その上で一つの結論を導き出す。光り輝くその結論は、アンネリザの最も望む希望。
「結婚式が決まったのね!」
椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がったアンネリザとは違い、コレトーの表情は変わらない。
「いえ、召喚の内容までは。とにかく本人以外は親書を受け取れませんので、急ぎ応接間へお願いいたします」
「勿論よ! やっぱり、陛下は律儀な方ね、私を結婚式に呼んで下さったのよ! ここまできたらガラス板も夢ではないかも知れないわ!」
「式への参加ということは有るかもしれませんが、ガラス板の夢はお捨てになった方が賢明かと」
「あら、そうかしら、夢はいつだって己を高めるものだわ、ちょっと手の届かないくらいを夢見るべきよ」
「いえ、式への参加も十分高望みですし、お嬢様のその夢は法すれすれというか、常識外れですから、流石に…」
生首の観察を高みの夢に設定する人生についても言いたいことは山ほどあるのだが、そちらに対する言葉はそっと飲み込み、現実的な指摘をしておく。コレトーとしては、結婚式の招待という部分も時期的に早過ぎるので違うだろうと考えていた。そもそも律儀な国王のすることなら、まずアケチ家家長である旦那様に親書が届き、その上でアンネリザへも伴っての招待という形をとるはずだろう。
冷静なコレトーの指摘に対し、舞い上がっているアンネリザの心はへこたれない。
「あら、コレトーが思っているよりもずっとお心の広い方よ、陛下は」
むしろ舞い上がり過ぎて口が滑っている。
にこにこと笑み崩れたアンネリザの顔に、コレトーは眉を寄せた。
「………お嬢様、もしかして、舞踏会の際の事でご報告頂けていない事があるのでは?」
露骨に、しまった、という顔を晒してから、引きつった笑顔で誤魔化そうとする。
「別に、特別言わなきゃいけないことなんて無いわ。ただ、陛下はお優しい方だったという話をしているだけじゃない」
このままではまずいという思いがアンネリザの歩調を速める。
その表情にも態度にも、明らかに何か隠していると見取って、コレトーも負けじと歩調が上がる。
「いえ、ですから、そう断言なさる根拠をですね」
「根拠なんてそんなもの、会話をすれば解るものよそんなことは。陛下は実にお優しい方だったわ。なんというか、そう、気遣いができて律儀で、相手を慮る生真面目な方で、素晴らしい君主よ。下への配慮のできる上というのは、お父様が仰っていた通り、見習うべき点の多い人物ね。突出した傑物というのではないのよ。当然にするべきことを出来ている見本というか、実に立派な方だと、私は感じたわ。誠実で、聡明で、公平で、えー…」
アンネリザの語彙力が尽きた。
「具体的にどんな会話をなさったんです?」
「具体的って、別に、どんな会話も何もないわよ…あらいけないもう応接間だわ! 仕様がないわね、黙らなくては」
「………」
コレトーの視線は刺さるが、舞踏会での会話を具体的に話したら、確実に怒られる事が解っている。というか、怒られるだけならまだ良いが、父が卒倒しそうな気がするので、口が裂けても言うわけにはいかない。絶対に具体的には言わないと決心しているのだ。
事実応接間もすぐ側である。ただ、きちんとした扉を付けてある応接間内にそう易々と話し声は届かないものだが。
扉の前に立つ家人に頷き、中へ入室を告げてもらう。返事の後で開かれた扉から静々と歩み入ると、下座にいた父がさっと立ち上がって招いてくれる。上座に居た使者らしい男性も立ち上がって迎えてくれているので、父の傍らに着いたところで精一杯優雅に礼をとる。
使者へ名乗ると、王城召喚の使者であることが告げられ、詳しい内容を記した文を渡された。なお返答を持ち帰る必要があるため、近くの宿に泊まっているらしい。
「可及的速やかにご返答いただきたく」
「もちろんでございます」
背後からのプレッシャーを無視して、使者とのやり取りは定形通りで簡単に済んだ。
が、その後が大変である。
まず文の内容を確認しようとするアンネリザに対して、父、母、姉、更には姪達まで寄って集って舞踏会の場で何があったかを質問してくるため、文を開く事ができない。彼女は一先ずその場を逃走することにした。
自室に鍵をかけて篭るが、これは第一段階にすぎない。スペアキーが有る以上開けられるのは時間の問題だということは、よく解っている。なので、手早く靴とスカートを履き替えると、寝室の窓に足をかけた。窓から庭へと抜け出すのだ。
(文を確認してから内容を伝えればそれで良いわよね。全く皆してわちゃわちゃと、私に慎ましくとか一体どの口が言うのかしら。あ、急がないと)
居室からガチャガチャと音が聞こえているが、大事なところなので、慎重に窓枠から足を下ろす。ここで足を滑らせると地面まですとんと落下してしまう。
(背が伸びると体が重くなるけれど、その分足が着き易くなるから良いわね)
窓枠に上半身を乗せた状態で足を伸ばし、つま先に当たった出っ張りに足をかけた。両足の半分ほどが乗った状態で、そっと窓を閉める。次は、窓枠にかけた腕で体を支えて、もう一段下の出っ張りに足を乗せにかかった。更に、窓枠に手でぶら下がって、出っ張りを伝って少し横へ移動する。最後は勢いをつけて一歩分先、一階の庇に飛び乗った。
(よし)
踵の無い靴に履き替えたし、スカートを庭師のズボンにも着替えている。その動作は実に手馴れたもので、危なげなくある。
彼女の寝室の真下は、いわゆる納戸のような物で、荷物を運び込むために庇が広く作られている。だが、高い位置にあるため、庇から直接飛び降りることはできない。もっとも偶にこのルートを使うため、庇には梯子を常備していたりする。ただ、今回は庇横に積み上げられている木箱を足場にして降りた。
(レッタの花嫁修業で荷物を出し入れしてるのでしょうね。ちょうど良かったわ)
無事地面に着地すると、遠回りにはなるが身を隠しつつ移動するため木の陰を伝って屋敷の裏山への道を行く。
(まぁ、ゆっくり中を確認する時間が稼げれば良いのだし、この辺で)
直線で屋敷に向かえば十分ほどの所で立ち止まった。風はだいぶ涼しくなったが、木漏れ日はまだそれなりの熱を持っている。陽のあたる乾いた芝の上に座り込んで、舞踏会の招待状が入っていたのと同じ質素で丁寧な作りの文箱を開けた。香りに変化はなかったが、中には王紋の藍の封蝋がされた白い巻紙が入っている。
少しだけうきうきと上がっていた肩が下がった。
(まぁ、式の招待状じゃあ、時期が早いわよね。薄々解ってたけど…実際目の当たりにするとちょっとつまらないわね)
式典などの招待状である場合、先の舞踏会のように、カード状の招待状を封筒に入れるのが普通である。
結婚式の招待状ではなかったが、期待すると同時に、違うだろうという思いも持っていたので、落ち込みはしない。だが、そうなると内容の想像が付かないため、さっさと封蝋を解いて巻紙を開いた。折り目がつかないように巻いていたようだが、分量の長い文ではない。
(署名は前と同じ手跡ね。祐筆じゃなくて陛下の直筆だったのかしら、それともこれも祐筆? どっちにしろやっぱり美しいわね、羨ましいことだわ)
アンネリザは気を抜くと文字が右上がりになり、角張ってしまう書き癖がある。どちらかというと男性的な印象を与える事になるため常に気を付けて文字を書いているのだが、もし目の前の字ほど美しければ、気を抜いても男性らしいとも女性らしいとも言われず美しい字として褒められるだろう。
まず、文末の署名を確認し、頭から読み始めた。
(ん?)
内容がうまく飲み込めず、八回ほど読み返していると、呆れ顔のコレトーに発見される。他人を呼びますよという彼を、無言で引き止めて押し付けるように親書を渡した。
「なんですか?」
「いいから、読んで」
無表情で視線を合わせようとせずに親書を押し付けてくるアンネリザに、舞踏会のカード以上の不安を掻き立てられつつ震える手で親書を確認する。主人同様に何度か読み返し、記載内容を暗唱できそうなほどになってしまった。
「あの、お嬢様…」
こんな親書が届く理由は解らない。だが、届く要因に思い当たる節はある。キリキリと胃が痛んだ気がするが、そっと溜息で誤魔化して、アンネリザを見つめた。
「決して怒りませんから、舞踏会の日に何があったのか、本当に包み隠さずお話し願えませんか?」
その言葉にアンネリザもさすがに深々と頷く。
「そうね、コレトー…私も、もっと早く貴方には話しておけば良かったと後悔しているわ」
要約すると親書には、許嫁候補として王城に入って欲しい、という旨が記されていた。
「でもね、言っても多分なんでこうなったのかはコレトーにも解らないと思うわよ」
アンネリザは初めて、なんだか良く解らないけれど笑ってしまうという体験をする。
話を聞いたコレトーも、結局、何故主人が『許嫁候補』などというものに選出されたのか理解できなかった。何度か、約束を反故にして怒鳴ろうかと思うほどの失態しかやらかしていないのだ。
「いったい…王城で何が………」
「解らないわよ。でも、さすがに使者まで立っているのに手違いって事は、ないわよね?」
「むしろ手違いであって欲しいところですが…とにかく、旦那様にお伝えしましょう。準備もありますし。急がねばならないでしょうから」
痛みに耐えられなくなって胃を手で押さえながらも、コレトーはアンネリザに屋敷へ戻るよう促す。
アンネリザも、否やもなく頷いて足取り重く屋敷へ向かった。
ちなみに、その親書の内容を聞いた父母は卒倒し、タータミーナ一家は絶句。幼い姪の二人だけが、嬉しそうにはしゃいだのだった。
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