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アンネリザが王城を去ったその夜。
レンフロは、自室で霊炎の幻灯を前に苦心していた。
聖宝紛失、今となっては建築王が意図的に隠し部屋に置いたと思われるが、以降。基本的に聖宝の管理は、王族の目が届かないところでは行わない、という決まりが出来ていた。そして、本日中には都合がつかず、明日収蔵する運びとなったため、国王であるレンフロが霊炎の幻灯を管理することになったのだ。
そして、管理と言っても、ただ置いておくだけのつもりだったのが、ふと思いついてしまったのだ。精霊王の力が強く出ている自分にならば、霊炎の幻灯が使用できるかもしれない、と。なので、寝室にまで持ち込んで、一人向き合っているのだが。
(思いついてはみたものの…何一つ解らないな)
残されている資料には、聖宝の外観的な特徴を細かく記したものしかない。別の聖宝ならば、効果というか用途について書かれた資料もあるのだが、霊炎の幻灯にはそれも無い。使用方法も使用目的も不明である。
単純に持ち手を握ってみたり、光る部分に触れてみたり、光を見つめて強まれとか弱まれと念じてみたり、自身が思いつける限りの事は試してみたが、霊炎の幻灯には何の変化も見られない。
(姫ならば…何か、他にも思いつくのだろうか)
炎を閉じ込めた石の話を読んだと言っていた言葉や、あれもこれもと思いつくアンネリザの姿を思い起こしながら、レンフロは笑みを浮かべた。自分では思いつかない事を、何か言い出すのではないかと考えたら、思わず笑っていたのだ。
「ん?」
そうして霊炎の幻灯から意識を逸らした刹那、青白かったはずの光が色を変えた。虹のような光が渦を巻くように動き、形を変え、アンネリザを映し出す。
(姫…?)
こちらを覗き込むようなアンネリザの姿に、思わず目を見つめ返した。そろそろとこちらに手を伸ばす様に反射的に手を伸ばしたが、互いの指は石の表面に触れるだけだ。
(これは、何だ?)
その後、喜色満面のアンネリザがくるくると回りだす。その背後には、石造りの狭い空間が映っていた。
(まさか…姫が幻灯を見つけた時の姿か?)
楽しそうなアンネリザと共に見える背景は、話を聞いてハツフサと共に調べた隠し部屋から続く通路によく似ている。
レンフロが考えている間も、石の中では得意気な様子のアンネリザがあちこちを照らして回り、ついに梯子を見つけていた。
(本当に、楽しそうだな)
音は聞こえないが、歌でも口ずさんでいるような気楽な様子で梯子を下り、先へ先へと進んでいく。好意という受け取り方で片付けて良い事だとは思えていなかったのだが、こうして見ていると、アンネリザは本当に嬉しそうだった。
(人が近付くと、その人物の行動を記録するのだろうか…)
その不思議な映像は、始めの内は霊炎の幻灯からアンネリザに向かう視点で映っているようだった。だが、見ていると、時折視点が移っている。例えば、アンネリザが奥を見ようと翳すようにすると、アンネリザの姿ではなく、翳した先が映るのだ。
(幻灯が登場する伝承は、精霊王が湖底の神殿で祈祷されたというものと後は何だったか…)
光も届かぬ湖底の神殿に明かりを灯し、祈りを捧げたという伝承は、アイデル王国にとっては重要な話なのだが。如何せん、霊炎の幻灯については光源としての役割以外何も解らない。他にも霊炎の幻灯が登場する話はあるが、尽くが火を灯せない場所でも明かりとして重宝したというような話ばかりなのだ。
今目の前で起きているような現象が記載されている伝承は何処にもない。
(まぁ、伝承があったところで、使用方法が解らないとな)
レンフロは相変わらずアンネリザが暗い道を歩く様が映っている霊炎の幻灯を持ち上げて、念じてみたり振ってみる。だが、映っているものが変化する事も消えてしまう事もなかった。
映っているアンネリザは足を踏み外し階段に気付いたところだ。
(カレンス神話にあった姫の話は、父母の危難を予知したという話だったな。精霊王も大きな天災を予知し対策を取ることがあったらしいし。誰かが危機を感じた事が解っても、それでは手遅れだろうな)
予知ではなくアンネリザの危機を感じ取った事を思い出しながら、レンフロはぼんやりと手のひらを見つめる。事前に危機を知る事ができれば、対策を立てる事、避ける事はできるかもしれない。だが、へだたりのある場所で危難に際している相手に出来る事は少ない。
しばらく思案に耽っていたレンフロだが、結局ままならないな、と溜息を吐いた。軽く首を振って再び視線を霊炎の幻灯に向ける。
「っ!」
慌てて寝台の掛布の中へ霊炎の幻灯を押し込んだ。
いつの間にかアンネリザは水仙の棟へ戻っていた。つまり、部屋で着替えをしていた場面へと移っていたのだ。
(まずい、どうすれば止まるんだ、消さないと)
レンフロの焦りが届いた結果の作用なのかは解らないが、掛布の中で霊炎の幻灯がその光を強くした。
(何故光が強く…いや、今退けるわけには、姫が着替えている間は確か侍従殿と話をしていた間だ…大した時間ではなかったと思うが…いや、そもそもどうやったら止められるのかが解っていないとまた映るのではないのか………)
レンフロがあまりに慣れない状況に固まって冷や汗をかいている間に、霊炎の幻灯の光は落ち着いていた。
(時間は、大分過ぎた…大丈夫だ。大丈夫)
その事に気付いたレンフロは、時間が経ったために霊炎の幻灯が元に戻ったのではないかと考えた。もしそうでなかったとしても、着替えは終わっているはずだと結論して、そっと掛布をめくる。
「……………」
そこには、仄かに光るアンネリザの健やかな寝顔があった。いったいどういう力であるのか、水晶の中だけで映っていたはずが、いつの間にか光の粒子が等身大のアンネリザを形作っているのだ。
(どうすれば…)
自分の寝台で眠るアンネリザという目の前の状況が上手く飲み込めないまま時は過ぎ、レンフロが霊炎の幻灯を布で包む事に思い至ったのは、夜も大分更けた頃だった。
レンフロは、自室で霊炎の幻灯を前に苦心していた。
聖宝紛失、今となっては建築王が意図的に隠し部屋に置いたと思われるが、以降。基本的に聖宝の管理は、王族の目が届かないところでは行わない、という決まりが出来ていた。そして、本日中には都合がつかず、明日収蔵する運びとなったため、国王であるレンフロが霊炎の幻灯を管理することになったのだ。
そして、管理と言っても、ただ置いておくだけのつもりだったのが、ふと思いついてしまったのだ。精霊王の力が強く出ている自分にならば、霊炎の幻灯が使用できるかもしれない、と。なので、寝室にまで持ち込んで、一人向き合っているのだが。
(思いついてはみたものの…何一つ解らないな)
残されている資料には、聖宝の外観的な特徴を細かく記したものしかない。別の聖宝ならば、効果というか用途について書かれた資料もあるのだが、霊炎の幻灯にはそれも無い。使用方法も使用目的も不明である。
単純に持ち手を握ってみたり、光る部分に触れてみたり、光を見つめて強まれとか弱まれと念じてみたり、自身が思いつける限りの事は試してみたが、霊炎の幻灯には何の変化も見られない。
(姫ならば…何か、他にも思いつくのだろうか)
炎を閉じ込めた石の話を読んだと言っていた言葉や、あれもこれもと思いつくアンネリザの姿を思い起こしながら、レンフロは笑みを浮かべた。自分では思いつかない事を、何か言い出すのではないかと考えたら、思わず笑っていたのだ。
「ん?」
そうして霊炎の幻灯から意識を逸らした刹那、青白かったはずの光が色を変えた。虹のような光が渦を巻くように動き、形を変え、アンネリザを映し出す。
(姫…?)
こちらを覗き込むようなアンネリザの姿に、思わず目を見つめ返した。そろそろとこちらに手を伸ばす様に反射的に手を伸ばしたが、互いの指は石の表面に触れるだけだ。
(これは、何だ?)
その後、喜色満面のアンネリザがくるくると回りだす。その背後には、石造りの狭い空間が映っていた。
(まさか…姫が幻灯を見つけた時の姿か?)
楽しそうなアンネリザと共に見える背景は、話を聞いてハツフサと共に調べた隠し部屋から続く通路によく似ている。
レンフロが考えている間も、石の中では得意気な様子のアンネリザがあちこちを照らして回り、ついに梯子を見つけていた。
(本当に、楽しそうだな)
音は聞こえないが、歌でも口ずさんでいるような気楽な様子で梯子を下り、先へ先へと進んでいく。好意という受け取り方で片付けて良い事だとは思えていなかったのだが、こうして見ていると、アンネリザは本当に嬉しそうだった。
(人が近付くと、その人物の行動を記録するのだろうか…)
その不思議な映像は、始めの内は霊炎の幻灯からアンネリザに向かう視点で映っているようだった。だが、見ていると、時折視点が移っている。例えば、アンネリザが奥を見ようと翳すようにすると、アンネリザの姿ではなく、翳した先が映るのだ。
(幻灯が登場する伝承は、精霊王が湖底の神殿で祈祷されたというものと後は何だったか…)
光も届かぬ湖底の神殿に明かりを灯し、祈りを捧げたという伝承は、アイデル王国にとっては重要な話なのだが。如何せん、霊炎の幻灯については光源としての役割以外何も解らない。他にも霊炎の幻灯が登場する話はあるが、尽くが火を灯せない場所でも明かりとして重宝したというような話ばかりなのだ。
今目の前で起きているような現象が記載されている伝承は何処にもない。
(まぁ、伝承があったところで、使用方法が解らないとな)
レンフロは相変わらずアンネリザが暗い道を歩く様が映っている霊炎の幻灯を持ち上げて、念じてみたり振ってみる。だが、映っているものが変化する事も消えてしまう事もなかった。
映っているアンネリザは足を踏み外し階段に気付いたところだ。
(カレンス神話にあった姫の話は、父母の危難を予知したという話だったな。精霊王も大きな天災を予知し対策を取ることがあったらしいし。誰かが危機を感じた事が解っても、それでは手遅れだろうな)
予知ではなくアンネリザの危機を感じ取った事を思い出しながら、レンフロはぼんやりと手のひらを見つめる。事前に危機を知る事ができれば、対策を立てる事、避ける事はできるかもしれない。だが、へだたりのある場所で危難に際している相手に出来る事は少ない。
しばらく思案に耽っていたレンフロだが、結局ままならないな、と溜息を吐いた。軽く首を振って再び視線を霊炎の幻灯に向ける。
「っ!」
慌てて寝台の掛布の中へ霊炎の幻灯を押し込んだ。
いつの間にかアンネリザは水仙の棟へ戻っていた。つまり、部屋で着替えをしていた場面へと移っていたのだ。
(まずい、どうすれば止まるんだ、消さないと)
レンフロの焦りが届いた結果の作用なのかは解らないが、掛布の中で霊炎の幻灯がその光を強くした。
(何故光が強く…いや、今退けるわけには、姫が着替えている間は確か侍従殿と話をしていた間だ…大した時間ではなかったと思うが…いや、そもそもどうやったら止められるのかが解っていないとまた映るのではないのか………)
レンフロがあまりに慣れない状況に固まって冷や汗をかいている間に、霊炎の幻灯の光は落ち着いていた。
(時間は、大分過ぎた…大丈夫だ。大丈夫)
その事に気付いたレンフロは、時間が経ったために霊炎の幻灯が元に戻ったのではないかと考えた。もしそうでなかったとしても、着替えは終わっているはずだと結論して、そっと掛布をめくる。
「……………」
そこには、仄かに光るアンネリザの健やかな寝顔があった。いったいどういう力であるのか、水晶の中だけで映っていたはずが、いつの間にか光の粒子が等身大のアンネリザを形作っているのだ。
(どうすれば…)
自分の寝台で眠るアンネリザという目の前の状況が上手く飲み込めないまま時は過ぎ、レンフロが霊炎の幻灯を布で包む事に思い至ったのは、夜も大分更けた頃だった。
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