不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜lovin’ you〜

砦の悲劇

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 私は討論会を無事に終えることができて久しぶりにホットしていた。これでようやく今日から、ぐっすり眠れるだろうと思っていた。

 プレッシャーのあまりここ数日間、眠れない日々が続いていたため、心から休まる夜は久しぶりだった。

 私はプレッシャーに開放された嬉しさから自室でくつろいでいると『コンコン』とドアをノックする音がした。恐る恐るドアに近づいてゆっくりドアを開けるとレンとクリスとアルフレッドの三人が立っていた。

「ん!? どうしたの?」

「「「ティアラお疲れ様、頑張ったご褒美にこれをあげるよ」」」

 三人はそれぞれ花束とプレゼントをくれた。

 私の両手はあっという間に抱えきれない量の花束とプレゼントでいっぱいになった。

「三人ともありがとう!」

 すごく嬉しかった。ホッとした気持ちと嬉しい気持ちで気がつくと目から涙が出ていた。

「よく頑張ったね」

 クリスが優しく頭をなでてくれた。

「泣くなよ。これくらい当然だ」

 レンは涙を拭いてくれた。

「泣き顔もかわいいね♡」

 アルフレッドは頬をなでてくれた。冗談でも嬉しかった。

「み……みんなのおかげだよ……ありがとう」

「「「ティアラが頑張ったからだよ!」」」

 三人に慰めてもらってすごく嬉しかった。

「そんなことよりも部屋に入れてくれよ。良いもの持ってきたんだ、一緒に飲もうぜ!」

 アルフレッドが紅茶の入ったポットを持って私に見せた。

「お茶菓子もあるからね」

 クリスがお菓子の箱を持っていた。

「うん! 入って!」

 三人を部屋に招き入れて今日のことをみんなで語り合った。あんなに眠かったのに夢中で話していたら深夜になっていた。

「ティアラも疲れているだろうから、そろそろおいとましようか」

 クリスが言うとレンもアルフレッドも、そうだなもう遅いし続きは明日話そうか、と言って帰ろうとした時、誰かがドアをノックした。

 三人は急に神妙な顔つきになりドアを見た。

「誰だ? こんな時間に?」

 レンは立ち上がるとドアに近づいて静かにドアを開けた。そこには若い夫婦が立っていた。

「こんな時間に何の用だ?」

「や……夜分遅くに、す……すみません。ティアラ様に、聖女様にお願いしたいことがあります」

「お願いだと? もう夜も遅い! 明日に出直してくれ!」

 レンはドアを閉めようとしたが、夫婦は必死で食い下がった。

「ま……待ってください! お願いします! 今しかないんです。私達にはもう時間がありません! こ……子供たちが……」

「子供!!」

 私は夫婦から子供という単語が聞こえた瞬間に反応した。

「レン。その方たちを部屋に入れてあげて!」

「え? で……でも……」

「お願い!」

 私はこのガンドールの町に来て町のどこにも子供がいないことを不思議に思っていた。理由が知りたかったので、この夫婦であれば事情を知っていると思った。

 レンは渋々若い夫婦を部屋に入れた。若い夫婦は部屋に入るとすぐに私の前に駆け寄るとひざまずいた。

「お願いです、聖女様! 私達の子供を助けてください」

「一体何があったんですか?」

「はい、私達の子供は。というかこのガンドールの町の子供たちは皆、砦に幽閉されているんです」

「え? 幽閉? なぜそんなことを?」

「疫病です」

「疫病? ペストのこと」

「はい。ティアラ様がおっしゃっていたペスト菌に侵されている子供たちは皆、砦に隔離されて死を待つのみとなっています」

「な……何でそんなひどいことを……」

「最初は疫病になった子供だけを隔離していましたが、アスペルド教団は子供たち全員を助けるために全員にお祈りをすると言って砦に集めてしまいました。私達もそれで子供は助かると信じていましたが、砦に入って無事に帰ってくる子供は一人もいませんでした」

 私はそこまで聞いてアスペルド教団の愚行に腹が立って叫んだ。

「そんなバカなこと! それじゃペスト菌が子供全員に広がってしまう!」

 夫婦は私の言葉を聞くと涙を流しながら私にすがりついてきた。

「お願いですティアラ様、息子をどうか助けてください! お願いします!」

「砦はどこにありますか? 今すぐ案内してください!」

「あ……ありがとうございます! この御恩は一生忘れません」

 私が夫婦に付いて行ことすると三人はびっくりした表情で私を見た。

「こ……これから行くのか? 日が出て明るくならないと馬車は出せないぞ?」

「徒歩で行くわ」

「この暗い中夜道を進むのは無理だ、危険すぎる。もう少し待って明るくなってから出発しよう」

 アルフレッドが私の身を案じて言ってくれているのは痛いほど感じていたが、私はその制止を振り切った。

「今この瞬間に亡くなる命があるかもしれないの、明日の光を見れないまま亡くなる命があるかもしれない、私はそれを救いたい。今すぐ出発して、一人でも多くの子供の命を救いたいの!」

 そう言うと鞄にありったけのペスト菌の抗体を詰め込んで廊下に出た。夫婦の案内で廊下をあるき出した時、前方に二人の知らない男か立っているのが見えた。

 二人の男は人をバカにするような口調で話しかけてきた。

「なんだ? 夜逃げでもするのか?」

「!? 違います。急いでいるのでそこをどいてください」

 私達はこの礼儀知らずな男たちの横を通り抜けようとした時、二人の男は私達の前方を塞ぐように邪魔してきた。男の顔を見ると一人は昨日の昼間に私をバカにしてきたエルフの男だった。もうひとりは年配の背の高いガッシリした体格の男だった。おそらく耳が尖っていたのでこの男もエルフのようだった。

「どうして? 邪魔してくるの?」

「質問に答えろ! どこに行くんだ?」

 エルフの男は私の腕をつかもうと手を伸ばしてきたが、レンが素早く男の伸びてくる腕を払い除けた。

「怪我したくなければそこをどけ!」

 レンはそう言うと男に掴みかかろうとしていたので、私はここで騒ぎを起こされると砦に行くことが難しくなると思い男に訳を話した。

「砦に行って子供たちを助けるのよ」

「はあ? 砦に行くのか? こんな時間に? プッ……ハハハーーー」

 エルフの男はそう言うと大笑いした。本当にこの男は綺麗な顔をしているのに嫌な男だと心底思った。

「訳は話したからそこをどいて!」

 私達はそう言うと二人のエルフの横を通り過ぎて先を急いだ。

「待て!」

 エルフの男の声が聞こえてきたが、これ以上この者たちと関わりたくないと思ったので、無視して廊下を早足で歩いていると、二人のエルフは物凄いスピードで私達の前に飛んできて再度前方を塞いできた。

「まだ何かあるの!? 砦に行く理由は話したでしょ! これ以上私達の邪魔しないで!」

 そう言うと私達は再びエルフの横を通り抜けようとした。

「我々の飛空艇で砦に連れて行ってやるよ」

 エルフの男はそう言ってきた。

「? 飛空艇だと? やっぱりお前たちはギルディアの民か?」

 アルフレッドがエルフ達に言うと、エルフはアルフレッドを見て、あんたはアークガルドの王子だったな、と言った。 

「それでどうする? こんな夜中にお前たちの馬車は使えんだろ。ここから歩いて砦にいくとなると五時間は掛かるが、我々の飛空艇であれば三十分もあれば到着できるぞ」

「本当に? それならお願いします」

 私は早く砦に着きたかったので即答したが、アルフレッドは近くによってきて私の耳元でエルフに聞こえない声でボソボソ何か言ってきた。

「待て、気をつけろ。ギルディアの連中は今ルーン大国という人間の国と戦争していると聞いたことがある。あまりこいつらを信用するのは危険だ」

「フフフ……、全部聞こえてるぞ。アルフレッドとか言ったな、確かにお前の言う通り我々は今ルーン大国と戦争中だ。で? どうする? 俺たちは日々何人もの人間を殺しているぞ、同じ人間として俺たちを信用できないか?」

 男はそう言って私を脅してきたが、私は一刻も早く砦に行きたかったので、再び即答した。

「いいえ。お願いします。私達を飛空艇に乗せて砦に連れて行ってください」

「フフフ……、良い度胸だ。俺に付いてこい」

 私達はギルディアの飛空艇という空飛ぶ飛行船に乗って砦に向かった。
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