不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

文字の大きさ
37 / 117
〜lovin’ you〜

天霧霊歌

しおりを挟む
 その日の夜、私は夢を見た。

 夢の中の私は、まだ若かりし頃の母の膝枕で眠っていた。

 私は何故かランドセルを背負っていた。

 小学校の入学式を明日に控えて学校に行けるのが嬉しくて、買ったばかりのランドセルを背負って走り回りそのまま疲れて寝てしまった事を思い出した。

 懐かしい当時の思い出が浮かび上がった。

 母は眠っている私の背中をポンポンと優しくなでながら歌っていた。

 それは母が小さい頃によく歌ってくれていた歌だった。確か天霧霊歌あまぎりれいかという歌だった。

 私が小さい時に住んでいた地域に天霧山あまぎりさんという山があってそこにちなんだ歌だった。

 天霧霊歌の内容は死んでしまった母親が死んだ後も子供を思い、天霧山からずっと見守っている。そんな悲しい歌だった。かなり古い歌で私が住んでいた一部の地域でしか歌われていないためこの歌を歌える人は母以外聞いたことがなかった。

 小学校の時、友達に聞いても誰もこの歌を歌える者はおろか、知る者すらいなかった。

 母の歌声がゆっくりと優しく春のそよ風とともに聞こえてきた。

「雨霧山に霧が懸かると……♪、貴方が見えない……♪、私の心と同じように雨が降るーー♪」

「雨霧山の霧が晴れると……♪、ここから貴方がよく見える……♪、私の心と同じように晴れた青空が広がるーー♪」
 

 私は夢から覚めた。目には涙の跡があった。眠りながら泣いていたようだった。久しぶりに母に会えた気がして懐かしい思い出で心がいっぱいになっていた。

(なぜこんな夢を見たのだろう?)

 おそらく昨日、旅立った家族を見て母に会いたいと思ったからだろう。夢から覚めて寂しい気持ちになった。

 その時、隣の部屋から何かが聞こえてきた。その声はよく聞くとメロディーを奏でているようで誰かが歌っているようだった。

 その歌詞を聞いた時、私は心臓が飛び出しそうになるぐらい驚いた。その歌は紛れもなく天霧霊歌だった。

 まだ夢の中なのか?、そう思ってほっぺたをつねった。痛い、思わず声に出た。

(夢じゃない! 誰かが歌っている!)

 私はすぐにベッドから飛び起きると歌声のする方へ向かっていた。歌声はティムがいる部屋から聞こえてきた。

(歌っているのは母だ!)

 私は確信した。その時なぜそう思ったのか自分でも分からなかったが、間違いないと確信すると、いつの間にか涙が溢れ出した。優しかった母の面影が心を埋めてゆく、私は天霧霊歌の歌詞を一緒に歌いながらゆっくりとティムの部屋に入った。

「「心が沈んだ日にはいつでも近くにいるからね~~♪、天霧山を見てごらん~~♪、私はいつでも貴方のそばにいるからね~~~♪」」

 部屋に入ると先程見た夢のように眠っているティムの背中を優しく撫でながらロザリアが歌っていた。ロザリアは歌っている私の顔を見て驚いていた。

「お……お母さん…………」

「あ……貴方は? 咲子!? 咲子なのね!?」

 私はロザリアに飛びついた。ロザリアは私を力いっぱい抱きしめた。

「お母さん! お母さん! お母さん! お母さん! 会いたかった! 会いたかったよ!!」

「うん! うん! うん! うん! 私もよ! お母さんも会いたかったよーー!!」

 二人で号泣しながら叫んでいたら、ティムがびっくりして起きて目を丸くしてこちらを見ていたが、気にすること無く前世の親子は抱き合って再会を喜んだ。

「ごめんね。寂しい思いにさせちゃって! 死んでしまって……離れてしまって……ごめんね……」

 母は泣きながら謝ってきた。

「うぅ……、でも会えたよ……、また……お母さんに会えることができたよ…………」

 私はしばらくの間、嗚咽で何も言うことができなかった。

 どれぐらい時間が経っただろうか。母に抱かれたまま母の匂いや母の変わらない手のぬくもりをひたすら懐かしく感じていると次第に心が落ち着いた。

「お母さん私ね、お母さんのような人を助けることができるようにいっぱい勉強して製薬会社に就職したんだよ」

 私は中学から今までの母の知らないであろう自分のことを全部話した。これまで会えなかった思い出を取り戻そうという思いと、また母が居なくなってしまうのではないか?という思いが合わさって必死で母と話した。

 母も自分のこれまでの生い立ちを話してくれた。それによると母も私と同じように前世の記憶があるままこの世界に転生したようだった。前世での知識を使って人助けをしているうちに私と同じように聖女様と呼ばれるようになったようだった。そこで知り合った剣聖エナジーとこの砦に住んでいたところ、子供たちを助けてほしいとアスペルド教団に頼まれて困っていたところに私が来てくれたということだった。

 母と話に夢中になっていると、レンとクリスとアルフレッドが部屋に入ってきた。

 クリスは私と母が夢中で楽しく話しているところを見て不思議そうな顔をしていた。

「どうしたの? 二人共そんなに仲が良かったっけ?」

「ああ……。みんなに紹介するね。この人は私の母親です」

 三人に母を紹介した。

「あれ? ティアラの母親は今、クロノスの町にいるんじゃないのか? それに見た目がぜんぜん違うじゃないか?」

 レンは私がおかしくなったのかと心配しながら聞いてきた。

「あ……、この人は私の前世の母親なの……この説明じゃわからないよね」

 私がそう言うとアルフレッドはさも分かったような素振りを見せた。

「ま……まあティアラがそう言うんならそうなんだろう。……ん? 何だよお前たちはまだわからないのか? 鈍い奴らだな」

 アルフレッドは勝ち誇ったように二人に言った。多分一番わかっていないのは彼だろう。

 私がこの砦にきて久々に笑っている顔をみて三人とも安堵したのかみんなで笑いあった。

 一通りみんなで笑いあったところでクリスが私達に言った。

「それじゃそろそろガンドールに向けて出発しよう」

「「そうだな」」

 私は母を見て、お母さんも一緒に来てくれるでしょ?、と心配になって聞いてみた。

 母は私を抱きしめると頭を優しく撫でてくれた。

「当たり前でしょ! 咲子の成長が見れないことがお母さんの心残りだったんだから! これから咲子の成長が見れるんだもの、もう二度と離れたりするもんか!」

 母の言葉を聞いて私は嬉しくなって抱きついた母の胸で号泣した。

 私達は回復した子供たちと一緒にガンドールに向けて出発した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】異世界リメイク日和〜おじいさん村で第二の人生はじめます〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
ファンタジー
壊れた椅子も、傷ついた心も。 手を動かせば、もう一度やり直せる。 ——おじいさん村で始まる、“優しさ”を紡ぐ異世界スローライフ。 不器用な鍛冶師と転生ヒロインが、手仕事で未来をリメイクしていく癒しの日々。 今日も風の吹く丘で、桜は“ここで生きていく”。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...