不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜兄弟の絆〜

忍び寄る影②

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 私はただ呆然と目の前で奇っ怪な姿のカイトを凝視していた。

 カイトは家に帰ってくるなり私の前で土下座していた。

 この世界にも人に何か頼むときは土下座をするのかと少し感心した。

「このとおりお願いします!」

「どうしたの? 一体何があったの?」

「俺の部下の家族を助けてほしい」

 私はカイトからロイ一家の事を聞いた。症状を聞く限りペストで間違いないだろうと思ったが、詳しく症状の確認が必要だった。

 幸い私は肌身は出さず小さいバッグを持っていた。バックの中にペスト菌の抗体の入った容器が四本あった。これを投与すれば助かるかもしれない。

「早く案内して!」

「ほ……本当に良いのか?」

「当たり前でしょ! すぐに案内して、その家族を助けるわ!」

「あ……ありがとう!!」

 私は急いでそのままの格好で家から出ようとして、カイトに呼び止められた。

「ちょ……、ちょっとまってくれ! そのままの格好で外に出るのはまずい。……これを……」

 カイトは申し訳無さそうに近くにあったフードを渡してきた。

「あ……そ……そうね」

 カイトからもらったフードを深々とかぶると耳が隠れた。

 私達は急いでロイの家に行った。

 ◇

 ロイの家に入るとカイトの言っていた通り、家族四人全員が高熱にうなされてベッドで寝ていた。

「最初に症状が出たのはロイさんでいいのね?」

「ああ、そうだ」

 私はロイさんの鼠径部そけいぶを確認した。すると思って通りリンパが黒く腫れていた。

(間違いない。ペストの症状だ!)

 鞄からペスト菌の抗体を取り出すとロイに投与しようとして思いとどまった。

「どうした?」

 カイトは抗体の入った容器を持ったまま固まっている私を不思議そうに見ていた。

「この抗体がエルフに有効なのかわからないの……」

「どういうことだ?」

「この抗体は人間に有効なのは証明されているけど、エルフにも有効かは打ってみないとわからないの」

「どうすればいい?」

「家族の誰かに投与してしばらく様子を見守るしか無いわ」

「もし効き目が無かった場合はどうなるんだ?」

「そのままペストの症状が改善せずに死んでしまうか、あるいは拒否反応が出てペストで死ぬよりも早くに亡くなるかもしれない」

 私達がベッド脇でどうするか考えているとベッドで苦しそうにしていたロイが何かを伝えたいのかこちらを見ていた。

 ロイの口に耳を近づけると弱々しい声が聞こえてきた。

「お……、俺に……それを……う……打ってくれ……」

 弱々しい声ではあるが、彼の瞳はまっすぐにこちらを見て覚悟を決めた目をしていた。

「もしかすると死んでしまうかもしれないんだぞ」

 カイトが念の為に聞いてくれたが、ロイの意思は変わらなかった。

「は……、早くしてくれ……、このままでは……こ……子供たちが……た……たのむ……」

「分かったわ!」

 私はそう言うとロイの腕を掴むとペスト菌の抗体を投与した。ロイはその様子を見届けるとありがとう、と言って気を失った。

「ほ……本当にこれで助かるのか?」

「わからない……。でもロイさんの容態が良くなったのを確認したらすぐに子供たちと奥さんにも投与できるように準備しましょう」

「わ……分かった」

 カイトはロイの手を取ると、お前にかかっているからな、と言うと強く手を握った。

 私はロイの看病をカイトに託して奥さんと子供の看病をした。もしロイの容態が良くなるよりも早くこの三人が悪くなるようなら抗体を打つしかなくなるからだった。でも三人共まだ鼠径部そけいぶのリンパの腫れは無かったので、そこが救いだった。

 その状態から随分時間が経過した時だった。三人を看病しているとカイトが部屋に入ってきた。

「ロイの熱が下がってきた」

 私はすぐにロイのベッドに行った。ロイの額に手を置くと少し熱が下がっていた。表情もここに来たときはあんなに苦しそうにしていたが、少し楽になったのかすやすやと安らかな表情で眠っていた。

 ロイの鼠径部を確認するとリンパの腫れも引いていた。

「やった! この抗体はエルフにも効き目がある!」

「なに? 本当か? ロイは助かるのか?」

「ええ。大丈夫よ、早く家族みんなに投与しましょう」

 抗体の効果を確認したので、すぐに他の家族にも薬を投与した。

「これでもう大丈夫だわ」

 家族全員に投与し終えるといきなりカイトに抱きつかれた。

「ありがとうティアラ。俺の仲間を救ってくれて本当にありがとう」

「え? え……え。あ……あの……」

 リアクションに困っていると我に返ったのかすぐに抱きついていた手を離した。

「ご……ごめん。つい…その……嬉しくなって……」

「え……ええ。大丈夫です……」

 お互い赤い顔をしながらうろたえていたが、少し間をおいてカイトが再び聞いてきた。

「あ……あの……」

 カイトはなぜか申し訳無さそうにしていた。

「ん? どうしたの?」

「もう……その……病気の薬は無いんだよな……」

「え……ええ。緊急用に鞄に入れていただけだからもう無いわ」

「そ……そうか……」

「どうしたの?」

「いや……じ……実は……」

 カイトからロイの家族以外にも同じ様な症状になっている者が二人居ることを聞かされた。

「すぐに行くから案内して!」

「え? で……でも…、もう薬は無いんだろ?」

「ここにあるわ!」

 私はそう言うと自分の胸に手を置いた。

「え? お前が?」

「ええ。私の体の中にも抗体はあるの。私の血液を使えば病気を治せるわ」

「そ……そんなことしたらお前はどうなるんだ?」

「大丈夫よ。二人ぐらいならなんとかなるわ」

「ほ……本当か! 助けることができるのか?」

「ええ。早く連れて行って」

「わ……分かった。すぐに行こう!」

 私達はロイと同じ症状が出ているマチルダとセナの家に向かった。
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