不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜兄弟の絆〜

マルクスの称号

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 グラナダの町の南にヒロタ川という川が流れていて、その対岸にルーン大国が広がっている。マルクスとメル―サはグラナダに進行してくるルーン大国の兵士を迎え撃つためにヒロタ川に向かっていた。グラナダの南門が見えた時、ルーン大国の兵士が門から侵入しようとしているのが見えた。その時、マルクスの目の前に一組の家族が映った。逃げ遅れたのだろう必死でこちらに向かってきていた。

 ルーン大国の兵士たちはその家族を捕まえようと追いかけている。マルクスは呪文を唱えると電撃の魔法をルーンの兵士に向けて放った。

「メギドーー!!」

 兵士は電撃に打たれて気絶した。マルクスは浮遊魔法を唱えるとルーンの兵士の前に立ちはだかり家族の盾となった。

「早く! ここから離れるんだ!」

 逃げ遅れた家族に言うと、家族はありがとうございます、と言って通り過ぎた。

「かなりの数の兵士がヒロタ川を渡っているな」

「本当にこの数と戦うのか?」

「グラナダを侵略しようとする者は容赦しない」

「どうするつもりだ?」

「どうにかこの兵士たちをヒロタ川の向こうに追いやることができれば良いのだが」

「なにか策があるのか?」

「ああ、とっておきの魔法がある」

「わかった、と言ってもこれだけの人数を二人で相手にするのは流石に厳しいな」

「どうして、俺を見捨てなかった」

「ふん! 私もギルティークラウンの端くれだ! 自国の民を守って死ぬなら本望だ!」

「良い心意気だな、でも絶対に死ぬなよ」

 マルクスはそう言うと魔力を右手に集中させた。右手が光り輝くとやがて光は実態を持って光り輝く剣になった。

「お、お前それは……、まさか? ファルマソード?」

「ああ、よく知っているな」

「そんな! 防御不能の魔法の剣だろ! 超上級魔法だぞ。お前は一体何者なんだ?」

「まあそんなことは今はどうでもいい、突っ込むぞ!!」

「ああ。あとでじっくりと聞かせてもらうからな!」

 そう言うとマルクスたちはルーン大国の兵士に突っ込んだ。

 ◇

「おい、ルディー。あいつ死んだかな?」

「ふん! あいつが死のうが、俺たちには関係ない。運が悪かっただけだ」

「ははは、お前は本当に悪いやつだな」

 ルディーたちは一足先にボルダーの宿舎に帰っていた。

 ルディーたちはマルクスを罠にはめた。居もしない仲間が取り残されたと言ったらマルクスはすぐに助けに行くと言って、敵のど真ん中に単身突っ込んで行った。

 ルディーの思惑では、助けに行かず諦めると思っていたが、あいつは違った。仲間を助けるために当たり前のように一人で助けに行った。その行動がルディーは少し気にかかった。

 これまでいろいろな上官を見てきたが、あんな奴は初めてだった。ピンチになると真っ先に逃げ出す奴らばかりだった、身分が上のハイエルフはなおさら決まって逃げ出した。

(畜生! なんであいつのことが頭から離れないんだ?)

 ルディーはそんなマルクスのことが頭から離れなかった。

 ルディーがイライラをつのらせていると、一人の兵士が慌てた様子でボルダーの宿舎に入ってきた。

「おい! 大変だ! ルーン大国の大軍がグラナダに攻め入っているらしいぞ!!」

「なに? それで状況は?」

「それが、グラナダに撤退命令が出ているらしい」

「なんだと!! 俺の母親は動けないんだぞ!」

「…………」

 その場に居た全員が息を飲んだ。ルディーの母親がメトシェラという病気になっていて動けないことを全員、知っていたからだった。

「軍の奴ら、俺の母親を見殺しにする気か!!」

「どうする? ルディー?」

「お前たちはここに居てくれ、俺は母親を助けに行く!」

「無理だ! 何百という大軍だぞ、撤退命令が出てるから味方のギルティーは誰も居ないんだぞ」

「うるせーーーー!!」

 ルディーは制止しようとした仲間を殴り飛ばした。

「悪いな。無駄でも俺にとっては大事な家族なんだ、助けに行かないと」

 ルディーはそれだけを言い残すとグラナダに急いで向かった。

 ◇

「クソ! ルーンの奴ら次々と来やがって!!」

「ハァ、ハァ……、クソ! これじゃきりがない!」

 マルクスとメル―サは二人だけでルーン大国の大軍に立ち向かっていた。倒しても倒してもルーン大国の兵士はヒロタ川を渡ってグラナダに進行してくる。

 段々と二人の体力が限界に近づいて来たその時、大量の弓矢がメル―サに降り注いでくるのが見えた。咄嗟にマルクスはメル―サをかばうように飛んでくる弓矢をファルマソードで叩き落としたが、一本の矢を落としそこねて、その矢は運悪くマルクスの右腕に刺さった。

「ウッ! クソ!」

 右腕に激痛が走り魔力が削がれファルマソードが消えてしまった。

「マルクス! 大丈夫か?」

「ああ、これぐらい大したこと無い」

 マルクスは再び右腕に魔力を集めようとしたが、あまりの激痛で魔力が集まらない。

「クソ! ここまでか」

 仕方がないのでルーンの兵士が落とした剣を持って戦ったが、防御不能の魔法の剣の効果がなくなり、弱体化した二人は徐々にルーンの兵士に取り囲まれていった。

「おい、もうとっておきを使うしか無いんじゃないか?」

「こ、この状況で使うのは被害が多くなるが、仕方がない」

 マルクスはそう言うなり呪文を唱え始めた時、横から誰かが近づいてきた。

「オリャ―!! 退け!」

 声の主はルディーだった。ルディーはマルクスを見て驚いた表情をした。

「あんた? 生きてたのか?」

「お前は、ルディーか?」

「なぜここに居るんだ? 撤退命令が出ているんじゃないのかよ?」

「この町を守るのが俺の役目だ!」

「あんたまさか? 俺の母親のことを……」

「今はゆっくり話してる場合じゃない!」

「ああ。そのようだな」

 ルディーが参戦してくれたおかげで、二人はまた息を吹き返したようにルーン大国の兵士を倒していき少しずつルーン大国側の攻撃も緩やかになっていたが、相変わらず次々とヒロタ川を渡ってくる兵士の数は多い。あと少しというところで三人に疲れが見え始めた。

「畜生! あと少しなのに」

 マルクスが弱音を吐いた時、丘の上から声が聞こえてきた。

「おーい! ルディー!!」

 三人が丘の上を見るとギルティアの軍勢が立っていた。

「お前ら! 遅えぞ!」

 ルディーが叫んだ。どうやらルディーの仲間がボルダーにいた兵士を引き連れてきてくれたようだった。

「メル―サ隊長ーーーー!!」

 グラナダの町からもギルティー大軍がこちらに走って来るのが見えた。

「お前たち撤退したんじゃないのか?」

「民間人を安全な場所まで護衛していました」

「俺達がメル―サ隊長を残して行けるはずないでしょ!」

 あっという間にグラナダの南門の周囲はギルティー達でいっぱいになった。

「よし! お前達! 今度はこっちの番だ! 一斉に攻撃しろーーー!!」

 ルーン大国の兵士たちはボルダーにいた精鋭のギルティー達になすすべなく徐々にヒロタ川の向こうに撤退していった。

「よし、これでとっておきの魔法ができる。お前達、川からできるだけ離れろ!」

 マルクスはそう叫ぶとヒロタ川に入っていった。膝まで浸かったところでで立ち止まると呪文を唱え始めた。

(何をするつもりだ?)

 メル―サが不思議に思っていると川の中央に巨大な魔法陣が5個並んで現れた。やがて魔法陣の中の水がぐるぐると回転を始めると、どんどん早くなり渦は竜巻のように上に登っていき5本の水柱となったかと思うとやがてその一つ一つがドラゴンを形成した。

「こ、これは? オルトロスか? 水属性最強の召喚獣を、しかも五体も……」

 メルーサは突如目の前に現れたオルトロスに驚愕した。

(こいつを召喚できるのは、勇者の称号を手にする者だけのはず……、マルクスはもしかして……勇者?)

 目の前に現れたオルトロスに驚いたルーン大国の兵士たちは撤退するしかなかった。撤退する兵士たちが、口々にイスリの悪魔がでたと叫んでいるのを、ルディーは不思議に思って聞いていた。
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