不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜

白銀一騎

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〜兄弟の絆〜

レンとカイトの誓い

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 エナジーとレンはアルサンバサラと対峙した。

性懲しょうこりもなく現れやがって! 再びこの俺がお前を封印してやる!」

 エナジーは刀を構えると大声で叫んだ。

『フン! それはこっちのセリフだ! やっとあのときの借りを返すことができる。貴様に封印された屈辱を忘れたことはなかったぞ!』

「何度やっても同じこ……と?」

 そこまで喋ってエネジーは止まった。レンは不思議に思ってエナジーを見るとアルサンバサラからいつの間にか一本の紐のようなものが伸びているのに気づいた。その紐はエナジーの顔のスレスレに飛んできたようで、エナジーはかなりショックを受けているように見えた。

『どうした? まさか剣聖エナジーほどの剣豪けんごうが攻撃されたことも気づかなかったと言うんじゃないだろうな?』

 アルサンバサラはそう言うとその紐はまるで意志があるように縮んでアルサンバサラに戻っていった。その紐のような物体はアルサンバサラの体から触手しょくしゅのように不気味に伸びていた。

「それは? なんだ?」

『これか? これはお前を倒すためだけに開発した俺の武器だよ』

 アルサンバサラはそう言うと自身の体から無数の触手を出してきた。その瞬間、エナジーは刀を構えて叫んだ。

「気をつけろレン! あの触手は危険だぞ!」

 エナジーの叫び声にレンは大剣を構えて答えた。

「ああ、わかってる。心配するな!」

 レンの答えにエナジーは苦笑いで返した。つい最近まで剣技で自分には遠く及ばないと感じていたが、今ではレンが隣にいると頼もしく感じている自分に驚いた。自分はこれまで星の数ほど弟子を育ててきたが、これほど頼もしい弟子は居なかった。

(やれる。レンとだったらこの困難も打ち勝つことができる)

 エナジーはそう確信するとアルサンバサラに飛び込んでいった。

 ◇

 アルサンバサラとの戦いは熾烈しれつを極めた。阿修羅あしゅらのような体から何本もの触手を出して攻撃してくる。数え切れないほどの触手がエナジーとレンに襲いかかってきた。二人はその攻撃を懸命に弾き返していたが、段々と二人に疲れが見えてきた。

「クソ! このままではそのうちやられてしまうぞ!」

「これ以上近づくのは難しいな」

「どうにか奴に近づいて本体に攻撃をしないと」

 アルサンバサラの激しい触手攻撃に翻弄ほんろうされてしまい、二人は徐々にイライラを募らせた。

『グアッハッハーーー!! どうした? エナジーほどの剣豪が私の攻撃を防ぐだけで精一杯じゃないかーー?』

「グッ! き、貴様~~!!」

『お前に敗れた日から私はお前を倒すことだけを考えてきた。お前は魔法が使えないことを掴んだ私は物理攻撃を強化し続けて、そして究極の攻撃の形がこれだ! この無数の触手たちに阻まれていては私に攻撃を当てることもできないだろう』

 エナジーは周りを見渡したが、魔法を使えそうな者が居ないことに気づいた。唯一魔法が使えそうなエルフは倒れている。それに気づいたアルサンバサラはニヤリと笑うと再び高笑いをした。

『グアッハッハ~~~!! 残念だったなエナジー! この場で唯一私に魔法で攻撃できるエルフはそこで倒れている雷帝らいていのカイトだけだ! まあ、そのカイトも兄のマルクス同様にこの私がすぐに殺してやる!! グアッハッハ~~~』

 アルサンバサラは勝ち誇ったように高笑いをすると、再び大量の触手を体から出してレンとエナジーに向けて一斉に攻撃してきた。

『これで終わりだ死ねーーー!!』

 おびただしい数の触手がレンとエナジーに襲いかかった。

「ファイアーーストームーー!!」

『ドガーーーンーーー!』

 大きな爆発音とともに触手が一掃された。

 レンとエナジーが何が起こったのかわからないといった顔をしていると、目の前の爆風の中から褐色の肌をしたエルフの女性が現れた。それは怒りに震えるメルーサの姿だった。

「お前は誰だ?」

 エナジーがメルーサに声をかけるとメルーサはすごい剣幕けんまくでエナジーに詰め寄った。

「あの化け物の言ったことは本当か!!」

「な、なんだ?」

「あいつがマルクスを殺したと言ったことは本当なのか!!」

「本当だ! メルーサ!」

 メルーサが振り返るとルディーの姿が目に入った。

「お、お前は、ルディー……」

 メルーサはルディーの顔を見ると悲しような顔をした。

「あいつにマルクスは殺された」

 ルディーがそう言うとメルーサは下を向いたまま黙った。彼女の顔から小さなしずくが地面に落ちるのを見た。メルーサは肩を震わせながら怒りに震えていた。自分の命を救ってくれたマルクスを、この世で一番好意を寄せていたエルフをこの怪物に奪われたことが許せなかった。メルーサはゆっくりと自分が使える攻撃魔法の中で一番強力な魔法の詠唱えいしょうを始めた。彼女は詠唱を終えるとアルサンバサラを睨みつけた。

「怪物め! 煉獄の炎でこの世から消してやる!!」

「やめろ! 俺たちではあいつに敵わない!」

 ルディーが叫ぶのと同時にアルサンバサラの触手がものすごいスピードでメルーサに襲いかかるのが見えた。

(だめだ! 間に合わない!)

 ルディーがそう思った瞬間、誰かがメルーサをかばうようにおおいかぶさった。

『ドスッ!』

 アルサンバサラの触手はその者を貫いた。

「エナジー!!」

 レンはすぐにエナジーの体を貫いた触手を大剣で切り倒した。そのままゆっくりと倒れこんだエナジーをメルーサが受け止めた。

「どうして? 私を助けたの?」

「すべてのエルフを救うのがおれの役目だからかな?」

 レンはすぐにエナジーに駆け寄ると手を握った。

「ど、どうしてこんなことに……」

「レン、俺はここまでだ……」

「う、嘘だろ。俺一人であの怪物を倒すことはできないぞ!」

「あ、安心しろ……こ、これをお前にやる……」

 そう言うとエナジーの手が青白く輝き出した。

「こ、これは?」

「祝福の魔法だ……、これで一定時間身体能力が倍増する。お、俺が唯一使える魔法だ」

 そう言うとエナジーはレンの頭に手を置くとレンの体が青白く輝き出した。レンは自分の力がどんどん湧いてくるのを感じた。疲労が消えて五感が鋭くなる感覚が蘇ってきた。

「レン、これであいつを……アルサンバサラを倒して愛しいティアラを絶対に守るんだ。大丈夫だ、お前ならやれる……」

「エナジー、わかったよ」

 エナジーはレンの返事を聞くと掴んだ腕に力を込めた。

(こいつを信じてよかった)

 その時、アルサンバサラから触手がものすごいスピードで飛んできた。

『シュー! スパッ、スパッ』

『ドサッ!』

 飛んできた触手は切られて地面に転がった。

「長話してる暇はないぞ! 早くけが人を運ぶんだ!」

 ダンテは叫ぶと刀を構えた。アルサンバサラが放った触手をダンテが防いでくれたが、幸い飛んできた触手が一本だけだったので、かろうじて防げたに過ぎない。次に大量の触手で攻撃されたらひとたまりもない。それは触手を切ったときにはっきりとわかった。一本切るだけで精一杯なのに、あのレンとエナジーという剣士たちの技量は計り知れない。

『そんなことはさせない!! これで皆殺しにしてやる!!』

 アルサンバサラはそう叫ぶと触手を大量に体から引っ張り出した。

『死ね!!』

 大量の触手がエナジーたちに向かって伸びてきた瞬間、轟音とともに目の前が光った。あまりの眩しさにその場にいた誰もが思わず目を閉じた。徐々に視界が見えるようになったときには大量の触手は跡形もなく消えていて、そこにはカイトが立っていた。

「早くそのけが人をロザリアさんのところに」

「カイト? もう魔力は回復したのか?」

 ルディーが話しかけるとカイトは笑いながら答えた。

「ああ、あそこにいるロザリアさんに回復してもらった。早くその人もロザリアさんに回復してもらえば助かるかもしれない」

 ルディーはカイトの指を指した方向を見た。一人の年配の女性がいるのがわかった。

(あの人が……ロザリア……)

 ルディーは振り返るとカイトを見た、頼もしく育った後ろ姿に一瞬マルクスの面影が見えたような気がした。

「カイト! 俺のかわりにマルクスのかたきを頼んだぞ!!」

 ルディーはそう言うとすぐにエナジーを肩に担いで女性のもとに連れていった。

 カイトはアルサンバサラを睨んだ。

(この化け物に兄さんが殺されたのか)

 カイトは自分が冷静なことに驚いた。怒る気持ちは確かにあるが、何故か心は穏やかだった。体からは魔力が溢れ力がみなぎっている。そんなカイトの隣に大剣を肩に担いだレンが立った。

「あんたは逃げないのか?」

「俺は剣聖だ、これまで一度も敵に背を見せたことはない」

「そうか? あんた名前は?」

「俺はレン、剣聖のレンだ。お前は?」

「俺はギルティークラウンのカイト」

 レンはカイトの言葉を聞いて大剣を構えた。

「そうか、カイト二人でティアラを守るぞ!」

「ああ、俺たち二人でティアラを守ろう!」

 レンとカイトは二人でティアラを守るためにアルサンバサラに戦いを挑んだ。
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