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第01章 最低な始まり

10 怒りを胸に……心穏やかに

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 言い知れない怒りを胸に村長宅を飛び出した俺は、まっすぐある家に向かった。
 その家とは、俺が3年前まで暮らしていた忌々しい記憶しかない家だ。
 場所がわかるのかというと、忌々しいことにわかる。なにせ、実際に自分が住んでいた場所だからだ。

 そんなわけでやって来た懐かしくも忌々しい家。
 当然だが3年たっても全く変わっていない。
 俺はノックするわけでも、扉の取っ手に手をかけるわけでもなく、ドゴッっと身体強化をして扉をけ破った。

「??!!!!」

 今現在夕飯時ということもあり、クソ一家はそろっていた。
 そして、今俺が扉をけ破ったことで、何だとこっちを見てきている。

「な、なっ、なんだ、お前は?」

 男がそういってきた。
 まぁ、いきなり自宅のドアがけ破られたら、そういう反応になるよな。
 だが、こいつらがしたことを考えれば、このぐらいは許されるだろう。

「……両親の仇……」

 俺はそれだけを言うと、”収納”から刀を一振り取り出した。
 これは、先日俺を売ったあのクソ野郎の腕を斬り飛ばしたものだ。
 実際、刀にはあの野郎の血が付いている。
 拭き忘れてたな。まぁ、いいや。
 特にこの刀がどうなろうと、これが終われば捨てるつもりだったために、どうでもいい。
 それより、取り出したるこの刀をどうするかというと、突然出てきた刀におびえる男の右腕を切り上げる。

「うぎゃぁぁぁあ!!!!」
「あなたぁ!」
「とうちゃん」

 突然、腕を斬られて痛がる男と青ざめる女と子供、それを見つつ俺は返す刀で女の左腕を切り下げた。

「ぎゃぁぁああ!!!!!!」
「かあちゃんっ!!」

 騒がしいことこの上ない。そんな騒がしい2人を冷めた目で見ていた俺だったが、さすがにこのままだとこいつらが死んでしまう、というわけで、仕方なしに”ヒール”をかけた。

「ぐっ、な、何を……」

 痛みの引いた男が必死に俺をにらみつけたが、俺は意に介さず、今度はまた刀を振り上げる。

「なっ、まさか、待てっ!」
「!!」

 俺の刀が向いている方を見て男と女が驚愕した。
 というのも、俺の刀が向いている先にはこいつらの子供、確か俺よりは年下だったあのクソ野郎の弟だ。
 確かに、元日本人であり、一般人でもあった俺としては子供を斬るなんて基本したくない。
 しかし、それこそがこいつらの償いとなると思っている。

「まてっ、俺たちはどうなってもいい、だから、子供、子供だけは……」

 必死に懇願してくる男、だが、その言葉はかえって俺の逆鱗に触れた。

「子供だけは、だとっ、てめぇ、俺にしたことを忘れたとは言わせねぇぞ。お前は、今のこいつより幼かった俺に何をした? 毎日馬車馬のようにこき使い、飯がない時だってしょっちゅう、おかげで見やがれ、俺のこの体をよぉ」

 俺は基本常に冷静で穏やかな人間で前世では通っていた。だが、今俺は完全にブチぎれていた。
 といっても、理性まではプッツンしてないけどな。
 だから、今こうして頭の中では冷静だ。
 しかし、怒りは収まらない。

「なにっ、はっ、まさか、まさか、お前はっ!」
「そ、そんな!」

 奴らは今更ながらに俺の正体に気が付いたようだが、遅い。

 俺は一呼吸をすると、振り上げた刀を振り下ろす。

「うわぁぁぁぁぁ!!!!……いたいよ~!!」

 刀を振り下ろしたことで子供の右腕はとんだ。
 子供に罪はない、俺もその考えには賛成だ。でも、それはあくまで親が罪を犯し、それを子供にまで問うのはどうかってことだ。
 だが、この子供は生まれながらに俺という自分より下に見ていいがあった。そして、それを当然の如く受け入れ、当たり前のように両親や兄と同じようにしていた。
 確かに、こいつは自分が何をしていたのかなんてわからないだろう。
 そういう教育をした親の責任であり、ある意味ではこいつには罪はないかもしれない。
 でも、俺は実際に被害にあった。
 だったら、国の法律に従い、罰を受けるべきかというとそうはいかない。
 というか、この国の法律なんて知らないし、そもそもこんな小さな農村で起きた虐待に、国が動くとは思えない。
 となると、俺が自ら復讐しても誰も文句は言わねぇはずだ。

「ギック! お、お前ぇ~」

 俺が考え込んでいると、男が怒りをあらわにとびかかってきた。
 それを見た俺は身体強化をしたままにしていたこともあり、あっさりとよけ、そのついでにやつの左足を奪う。

「ぎゃぁぁぁ!!」

 さて、次だな。
 俺の怒りはまだ終わっていない。
 それを証明するように、魔法を行使。
 行使した魔法は風魔法の”トルネード”、文字通り竜巻を発生させる魔法となる。
 それにより、俺とクソ一家を中心に竜巻が発生した。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁぁあ!」

 なんの舞ぶれもなく発生した竜巻にクソ一家が悲鳴を上げる。うるせぇな。

 そうして、時が経ち竜巻が収まると、そこにはもはや何もなかった。
 そう、俺は忌々しい記憶しかない、このクソ一家の家を家財道具などを含めて全て粉みじんに吹き飛ばしたんだ。
 ふぅ、ちょっと、すっきりしたな。

「な、なにこれ、ス、スニル?」

 すっきりとしていると、背後から声がかかった。
 声の主は、ポリー、どうやら、突然とびだした俺を追いかけつつ、先ほどの竜巻を目撃し駆けつけてきたようだ。
 というか、ポリー以外にも村人が集まってきた。

「スニル、これは、いったい、どうしたことだ?」

 そこに村長もやって来た。

「復讐を果たした。それより、聞き忘れてたけど、俺の家ってどうなっているんだ。あと、2人の墓? とかは?」

 ちょうどよく村長が来たことで、聞き忘れていた俺の実家のことを聞いた。

「そ、そうか、いや、そうだな。ああ、家だったな。うん、それならポリー、案内してやってくれ。いつもノニスと行っているだろう」
「えっ、あ、う、うん、えっ、あの、うん、わかった」

 俺が簡潔に復讐と言ったことで、村長もポリーもほぼ無理やり納得したようだ。
 そして、俺の家だが、どうやらポリーとノニスがよく何かをしに行っているらしい。

「それと、2人は一族の墓に埋葬してある。それも、ポリーならわかるだろう」
「うん、たぶん、あれだよね。えっと、それじゃ、先にお墓にいこっか」
「ああ、頼む」

 こうして、俺はまずポリーに両親の墓に案内されることとなった。


 てくてくと、歩くこと少し、ポリーに案内されたのは村はずれだった。

「ここよ、ここは、うちの村の人たちが一族に分けられて埋葬されているの。それで、スニルの一族は、えっと、これよ」

 そういわれて、墓を見てみると、そこには確かにミリアとヒュリックの名が刻まれていた。
 そういえば、今思ったけど、この世界って識字率が良いんだな。こんな小さな農村でも文字の読み書きができるんだな。

「あっ、もしかして、スニルって文字読めるの」
「んっ、ああ、読めるけど」
「そっか、私も村長の孫だから、教わってるけど、スニルは、ほら……」
 
 確かに、俺は虐待されていた。そう考えると文字が読めるのはおかしいだろう。

「まぁ、ちょっとね。ところで、ポリーはってことは、他の人たちは?」
「人にもよるかな、ほら、冒険者になるって人は文字を読めなきゃいけないから、おじいちゃんから教わるんだけど、それ以外の人は覚える必要がないから」
「なるほどね」
 
 どうやら、識字率はそれほど高くはないようだ。
 んで、なぜ文字が読めるのはかはぐらかしたが、俺の過去を聞いていたポリーはちょっと気まずそうにしていた。
 それから、俺は両親の墓に向かって手を合わせる。

「?」

 俺が合掌している姿に首をかしげているが、ポリーは黙っていてくれた。

(父さん、母さん、ただいま、まぁ、俺には残念ながら2人の記憶はないし、前世の記憶を取り戻した俺は、もう別の人間かもしれない。でも、帰って来たよ。これまで、結構つらいことも多かったけど、これからは楽しくやっていくよ)

 両親に挨拶を終えた俺はその場を立ち上がる。

「終わった?」
「ああ、まぁな、そういえば、掃除とかポリーがしてくれていたのか、ありがとう」
「ううん、私はお母さんと一緒にやっていただけだから」

 一族の墓はきれいに掃除されていることや、ポリーがすぐに案内できたことから、そう考えて一応お礼を言ってみた。
 そうしたら、ポリーが照れながらそういった。

「それじゃ、次はお家だね」
「ああ」

 ということで、今度は実家へ行くこととなった。



 っで、その実家だけど、それは村の東側の端にポツンと建った小さな家だった。

「ここよ。ここも私とお母さんでよくお掃除していたから、あっ、でも、中の物はいじってないから、そのままになってるから」
「そうか、ありがと」

 それから、俺は実家の中に入っていった。

 これが俺の実家か、中に入った俺がみたものは、なんとも普通の家だった。
 入ってすぐにあるのはダイニングテーブルと椅子が3脚、その1つには大きなクッションが乗っていた。
 多分、あれに俺が座っていたんだな。
 それと、近くにあるキッチンには鍋がおいてあり、テーブルの上には食器が3つそれぞれ並んでいた。
 当時のまま、ということは、母さんはご飯を作っている最中とかで、慌てて出かけたんだろうか。
 その時の状況が見えた気がして、何となく目頭が熱くなった。

「じゃぁ、スニル。私は帰るね」
「ああ、悪いな」
「ううん、あっ、ご飯はどうするの」

 ここで、ポリーがそう聞いてくるが、ああ、そういえば今飯時だったな。

「ああっと、そうだな。適当に食うよ」

 俺の”収納”の魔法の中には奴隷商からかっぱらった食料がまだ残っている。
 夕飯はそれを適当に食うことにする。

「だったら、うちに来て、お母さんもスニルの分も用意していると思うし」
「いや、だが……」

 突然やって来た俺の分まで飯を作るって、さすがに悪い。

「大丈夫よ。1人分ぐらい問題ないから。ということで、待ってるから、ちゃんと来てね」

 ポリーはそういうとさっさと家に帰っていった。

「俺の返事を聞かずに言っちまったな。まぁ、ありがたいことだし、もらいに行くとするか」

 ということで、その後俺は家の中を見て周り、その後ポリーの言う通り村長宅に再び訪れ夕飯をごちそうになった後、また、実家に戻ってきた。



「はぁ、久しぶりにうまいまともな飯を食ったなぁ」

 俺がいままで食ってきたのは、残飯をはじめ冷めたまずい飯、そして、奴隷商からかっぱらったこれまたあまりうまくない物と、森で獲った果物類ばかり、前世ではそれなりに自炊していたから、何とか食ってたけどな。
 そう考えると、人が作ったものを食うのって、前世で考えてもかなり久しぶりだよな。
 前世では外食を全くしなかったことを考えると、若いころ両親と暮らしていたころ以来だな。

 さて、そんな過去を考えたところで仕方ないな。
 それにしても、ほんといい家だよな。
 なんていうか、あったかいし、落ち着くな。

 俺はそのままテーブルに突っ伏し、いつの間にか眠りについていた。
 もちろん、俺が座っている場所は、クッションがあった椅子、つまりかつての俺が座っていたと思われる場所だ。
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